その後を決める、いいスタートダッシュ
エンジニア転職「運命の入社1カ月」転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月目の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?
その後を決める、いいスタートダッシュ
エンジニア転職「運命の入社1カ月」転職後1カ月は「先輩に教わる、業務に慣れる」だけの時期? その後の仕事、キャリアを充実させるカギは、実はこの時期の“受け身姿勢じゃない”過ごし方にあるかもしれない。そこで各企業のトッププレーヤーやEMたちへの取材を通して「入社1カ月目の過ごし方」を徹底調査。“その後”を左右する、いいスタートダッシュの切り方とは?
世界に名だたるIT企業が並び、各国から優れたエンジニアが集まってくるシリコンバレー。世界トップクラスの環境で、転職したばかりのエンジニアには何が求められ、彼らはどのようにスタートダッシュを切っているのだろうか。
そこで話を聞いたのは、2006年にアメリカに渡って以来、米系大企業・スタートアップで活躍し、現在はLinkedIn米国本社でシニアプロダクトマネージャーを務める曽根原春樹さん。
長きに渡りシリコンバレーの大企業やスタートアップで、数々の優秀なエンジニアと働いてきた経験を持つ曽根原さんから見た、入社後の運命を決める「1カ月」のいい過ごし方とは――。
曽根原 春樹さん (@Haruki_Sonehara)
在シリコンバレー16年以上となり、現地大企業・スタートアップのプロダクトマネジメントをB2B・B2Cの双方で経験。現在は世界最大のビジネスSNS、LinkedIn社のSenior Product Manager。7000人以上が受講するUdemyでのPM講座の配信、「プロダクトマネジメントのすべて」の著者の一人としてPM啓蒙活動も展開。顧問として日本の大企業やスタートアップ企業もサポート中
――曽根原さん自身は大企業とスタートアップ、BtoB、BtoC系企業と転職を経験されていますが、入社後の1カ月間にはどんなことに気を付けてきましたか?
僕の場合はプロダクトマネージャーという立場で、プロダクトに関わるステークホルダーを知っておく必要があるので、なるべく早くいろんな人とコミュニケーションを取るように意識していました。
例えば、Smule(ソーシャルカラオケアプリ)に転職した際には、PMチームだけでなく、エンジニアリングサイド、さらにエンジニアリングといってもクライアントとサーバーサイド、ミュージックエンジニア……というように、さまざまな領域の方の人となりや、仕事の進め方、得意領域などの話を聞いてまわっていましたね。
エンジニアの中には「コミュニケーションに時間を取られるのは嫌だ」という人もいるかもしれませんが、転職直後にそんなことは言ってられません。
自分のことを理解してもらい、関わるメンバーを理解することは、その後の自分の仕事に大きな影響を及ぼしますから、何よりも優先順位は高いはずです。
そして僕の場合は、はじめのうちに「一緒に働きやすそうな人が入ってきたな」と思わせる方が得だよな、という考えでした。
――「一緒に働きやすそう」と思わせるために、どんなコミュニケーションを取るといいでしょうか。
雑談ベースで話しかけて、相手の話を聞きながら自己開示していくだけで「お、面白そうな奴だな」と感じてもらえると思いますよ。シリコンバレー企業は、ご飯やお茶を無料で提供してくれるところが多いので、気軽にランチやコーヒーに誘いやすいですしね。
あとはグループでランチをしている人たちの中に「初めまして。最近入社しました」とか言いながら入っていっても、みんなウェルカムな雰囲気なんです。
そうやって雑談をしながら、誰がどんな仕事をしているのかを把握していきます。
もしもっと深く聞きたいことがあれば、別途1on1を設定してもいいでしょう。入社直後であれば、相手も良好な関係を築きたいと思ってくれていますから、断られることはまずないはずです。
――グループに自分から入っていくのは、少しハードルが高そうな気もしますね……!
「その後の仕事を楽に、スムーズにするための行動」と思えば、そうでもないのでは?
というのも、僕はプロダクトマネージャーとして駆け出しの頃、誰にどうアプローチしていいのか分からず二の足を踏んでしまった経験があるんです。後から考えれば、事前に「仕事をスムーズに進める上で、社内の誰を知っておけばいいか」を気にしておくべきでした。
大きな組織であればキーパーソンを知っておくこと、スタートアップのような小さな組織であれば、全員と一度は話をするくらいの意識を持っておいて損はない、というのが僕の持論です。
――シリコンバレーでは、転職後の入社1カ月という期間はどのように捉えられているのでしょうか。日本企業との違いは感じられますか?
シリコンバレーでは転職した人に対して、「deliver quick wins(素早い勝利/成果をもたらす)」「low hanging fruits(手の届くところに実っている果実)」というキーワードがよく挙がります。つまり、「比較的簡単に達成できる成果を早めに上げろ」ということですね。
その会社が大企業かスタートアップかで異なる部分もありますが、共通して言えるのは、「自分が価値ある存在だと、いかに周りに早く理解してもらうか」が重要であること。
会社側がなぜ中途社員を採用するかといえば、現状のプロジェクトメンバーでは手が足りなかったり、技能が不足していたりするからですよね。特にアメリカでは、この「なぜ採用するのか」が明確に問われるので、「そのポジションに求められている価値を発揮できるのか」がシビアに見られる傾向があります。
だからこそ、早く「価値がある」とアピールしなければ死活問題だ、という意識はあると思います。
――「価値」というのは、具体的にどんなことで示せるのでしょう。
例えば、中途社員は新しくそのチームに入っていくわけですから、まだ外部の視点を持っています。その視点から見て、おかしいなと思うところや、もっと生産性が上がるだろうと思うところを指摘して、チームに貢献する。そういった「早くできる、小さな価値」を積み重ねることが信頼につながります。
ただここで注意すべきは、何か意見を言う前に「会社のことをよく知る」フェーズも大事だということです。
チームにはどんな人がいて、どんなことを考えているか。意思決定がどのように行われていて、他のチームとの連携はどうなっているか。これを無視して、自分の価値観だけで「これはおかしい」と指摘しても、かえって組織に混乱をもたらしかねませんから。
――新人だからこそできるチーム貢献ですが、注意は必要ですね。その他、自身の早期立ち上がりのために、シリコンバレーのエンジニアがしていることがあれば、教えてください。
入社当初の期間は、成長のための「地図(ゴール)」をしっかり描いておく必要があることでしょうか。この「地図」は、マネージャーや上長とのすり合わせも重要で、もしマネージャーが明示してくれないのであれば、自分から聞いて確認すべき項目です。
シリコンバレーでは新しく入ってくる人に対して、成長するための期間を「30・60・90日」という数字で見ることが多いです。
30日目には何ができているといいのか、60日目はどこまでが求められるのか。入社から3カ月を一区切りとして、ひと月ごとにどの程度のゴールを目指すかをきちんと組み立てておくんです。
もちろん、ポジションによってはすぐに成果を出すことは難しいですが、分かりやすく「自分の価値」を表す指標になると思いますね。
早期立ち上がりのために、最初のうちは、それらを達成していくことを目標にするといいのではないでしょうか。
――ゴールとマイルストーンを明確化することが大切だ、と。
はい。ただアメリカの企業ではほとんどの場合、新しく入ってきた人向けのオンボーディング・プログラムがしっかりと用意されています。例えば、最初の3日はこの会社の成り立ちや文化、思想を勉強して、次の1週間は社内の意思決定システムを勉強して、エンジニアであれば簡単なバグフィックスしながら開発プロセスを学ぶ……というように。
それを一通り終えれば、自然とその会社の一員として自律的に貢献できるようになっているんです。
――非常にシステマティックですね。
そこは日米で大きく違うところだと思います。
というのも、アメリカはローコンテクスト・カルチャー、つまりさまざまな文化のバックグラウンドを持った人たちが集まっているので、会社の仕組みをちゃんと言語化しておかないと、それぞれが勝手に解釈してしまって収拾がつかなくなってしまう。
その点、日本はハイコンテクスト・カルチャー。同質性が高いので、良くも悪くも「あうん」の呼吸で理解し合える。だから上司も「みなまで言わせるな」となるのですが、これは多様化の時代にだんだん上手く機能しなくなっているような気がします。何より新しく入ってきた中途社員にも不親切なので、ここは徐々に変わってくるのかなと思いますけどね。
――これから転職する「若手エンジニア」が、特に大事にすべきことを教えてください。
一番伝えたいのは、「謙虚さを持ち、質問することを恐れないでほしい」ということです。
若いうちは学ぶこと、経験を積むことが何よりも大切。そのためには「自分が知らないこと」を認識するのが最初の一歩です。そして、知らないことを恥ずかしがらず他人に聞いて、吸収するという姿勢で臨むのがいいと思います。
それはもちろん、自分のためであると同時に、いずれ会社のためとなり、そのプロダクトを使うユーザーのためにつながりますから。
「アメリカ人は自分勝手で自己主張が強い」といったステレオタイプがあると思いますが、実際シリコンバレーで働いている優秀なエンジニアを見ていると、そんな人はほとんどいません。みんな謙虚で、学ぶ姿勢を持っているんですよ。
彼らのように「謙虚に学ぶ」姿勢があれば、新しいチームにも受け入れてもらいやすいでしょうし、成果も出しやすくなると思います。
――若手に限らず、その姿勢は持っておきたいですね。
はい。そしてもう一つ、先ほどの繰り返しにもなりますが、やっぱり「社内外で誰を知っているか」は、仕事を進める上ですごく重要。というのも、人とのつながりというのは、その会社を辞めた後も残るものだからです。
LinkedInの個人プロフィールには「レコメンデーション」という項目があるのですが、そこには例えば僕とかつて一緒に働いた人が、僕のここが良かったという推薦の言葉を書いてくれるんです。それが次の転職などでも生きてきますし、人を知っていればいるほど、何か迷った時に「この話はこの人に聞いてみよう」と臨機応変に対応することもできるわけですから。
そういう人とのつながりを広げながら仕事をできるかというのは、転職直後のみならず、エンジニアとして長く働いていく上でも大きな資産となるはずです。
取材・文/高田秀樹 編集/大室倫子
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