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登大遊・落合陽一に7つの質問。最もけしからんエンジニアとは?【ECDWレポート】

働き方

4月13日から17日にかけてエンジニアtypeが開催したオンラインカンファレンス『ENGINEER キャリアデザインウィーク』(ECDW)。本イベントの基調講演に登壇したのは、登大遊さんと落合陽一さんのお二人。

前編の記事に引き続き、本記事ではセッション後半の参加者からの質疑応答パートの内容を、一部抜粋してご紹介しよう。

>>前編記事も合わせて読む

落合陽一、登大遊

登 大遊さん(写真左)
1984年兵庫県生まれ。2003年に筑波大学に入学。同年、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「未踏ソフトウェア創造事業 未踏ユース部門」に採択、開発した『SoftEther』で天才プログラマー/スーパークリエータ認定を受ける。17年、筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了。博士 (工学)。現在、IPAサイバー技術研究室長のほか、ソフトイーサ株式会社代表取締役、筑波大学産学連携准教授、NTT東日本特殊局員など、さまざまな顔を持つ
落合陽一さん(写真右)
メディアアーティスト。1987年生まれ、2010年IPA認定天才プログラマー/スーパークリエータ、15年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。17年より筑波大学准教授、20年より筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表など

「あらゆる現場はバカにできない」簡単そうに見えるものも意外に難しい

質問1:1000兆円あったら二人は何をする?

落合陽一、登大遊

登:まず、1000兆円ある時点で明らかに新たな政治が発生しているので、人からいろいろなことを言われて、結局使えないんじゃないかと思います。

落合:確かに、1000兆円使っても誰にも文句を言われない法律をつくるところから始めないとね。

登:1000兆円を使うときのボトルネックは時間。一生のうちにちゃんと頭で考えて使えるのは、せいぜい数百億円だと思います。それを超えると効率が低下してしまうのではないでしょうか。

落合:僕も感覚的にそう思います。数百億まではちゃんと使える自信がある。無限にお金があったらやりたいことはあるけど。

登:無限にお金があっても、使えるのは地球上の資源と人類の頭脳だけなので、それ以上には使えないですよね。

落合:無限に金を使うには、知的システムの更新に金を使いたいところですね。人口増加に耐え切れる資源を取れるように人類の生活圏を広げたり、再生性を上げたりしつつ、人類が今の50倍ぐらいいてもいいような世界設計にして、技術開発をしながら優秀な知能が育つのを応援したいな。

登:そもそもこの質問は、「独裁制を敷いたら何をするか?」という質問でもあると思います。少数の人が決めるのではなく、分散で価値判断するアルゴリズムを働かせた結果が民主主義だと思うので。

落合:確かに。現状ルールの変更は良いんじゃないですか。私は三権分立の効率がいいとは思っていなくて、独裁の効率がいいとも思っていない。他にいい仕組みがありそうだなと思います。

質問2:CやC#を書いている登さんにWebアプリケーションエンジニアはどう見えている? 簡単そうだと思いますか?

落合陽一、登大遊

登:いえいえ、最近仕方なくHTMLでJavaScriptを扱っているんですが、わけ分からないですね。簡単には見えないです。

Cなどでバーっとネイティブを書くのは簡単で、「これのどこが難しいんだろう」って思うんですけど、逆にWebの方はどうやって書いてるんだろうって思います。

多分、難しさの基準が一般的なWebエンジニアと自分のようなインフラエンジニアでは逆転しているんじゃないでしょうか。

ある有名なブラウザを書く人に関して、似たような話があります。その人はJavaScriptのインタープリターやジットをCで書いてるんですが、JavaScriptのインタープリターは書けてもJavaScriptは書けないと言うんですね。それと同じようなものじゃないかなと。

落合:そうですね。「どの現場にもそれぞれ違った辛さがあるから、あらゆる現場はバカにできない」というのが僕の人生の教訓です。

簡単そうに見えるものは意外に難しいし、難しそうに見えるものが意外に簡単だったりする。それは、その人がどの「ハードウェア最適化」を取っているかの話だと思います。

一流エンジニアは、エンジニアリングとは無関係な情報もインプットする

質問3:どんなスキルを持ったエンジニアを雇いたい?

落合陽一、登大遊

落合:僕は自分にないスキルを持っている人と働くのが好きです。

登:自分の価値観で言うと、頭の中で回路が形成されるには、エンジニアリング能力の対象範囲は広い方が良い。「C言語だけ」とかだとダメなんです。

エンジニアリングの共通要素として発生するのは、その仮想空間における抽象的なつながりの比喩を見つけて他の比喩と対比させ、他の有力な情報源をもとに自分の対象領域の問題解決を図ることです。

情報の入力源としては、政治や法律、哲学、数学といった、一見エンジニアリングとは無関係なものの方がいいんじゃないかと思います。

落合:見た目と思考のフレームワークを行ったり来たりできるということですね。

登:そういう方は、どこでも常に面白いことができるんじゃないかなと思います。

落合:僕はよく学生に変な質問をするんです。「君の目にレンズが付いているのはなぜだと思う?」「なんで人間サイドになると昆虫の複眼は機能しないの?」「なんで君の耳の毛は周波数分布を取ってるんだっけ?」「なぜ生物はニューラルネットワークを電気でやってるの?」というように。

そういう抽象的な質問から、「でもマンボウや電気うなぎって体から電気出しますよね、あれはどうなってるんですか」みたいな話が出てきたら面白いなと思っています。登さんの話ともつながる気がしますね。

質問4:子どもの頃に受けて良かったと思う教育は?

落合陽一、登大遊

登:中学校の頃、学校が業者に学内LAN工事の見積もりを依頼したら何百万円もかかることが分かって。その時に、先生が私に「業者の代わりに工事をやってみないか」と言ってくれたんですね。そのおかげで私は校内を配線して回ったり、スイッチやIPの勉強をさせてもらったりしました。

こういう経験をするには、物理的な広さのある場所や需要、やらないと大変な問題になるというプレッシャーが必要です。その組み合わせが、学校というインフラの中には発生していたと思います。

落合:確かに。意外かもしれないけど、うちの家族はみんな機械音痴で。初めてコンピューターを買ってもらった8歳の時に、ネットをつなぐためにひたすらサポートサービスに電話をかけていたんですが、あれは効きましたね。「お父さんお母さんいる?」と聞かれて、「いや、僕の方が分かります」というやり取りをしました。

登:プロバイダの人と電話越しに対話するのはものすごくいいことだと思います。今はそういう機会もあまりないじゃないですか。パッとつながってしまうので。

落合:人と対話しながら、どこにエラーがあるのかを考えたり、理解したりするのはいいですよね。

質問5:世界のエンジニアと比較して、日本のエンジニアに足りないものは?

落合陽一、登大遊

落合:足りないものなんてないと思いますよ。ジョブ型雇用のエンジニアの場合は、何がコミットメントなのかを意識的している人は多いですが、日本のフリーランスエンジニアもそうだと思います。

登:世界のエンジニア事情に精通しているわけではないですが……強いて言うなら、複雑なOSでプロトコルスタックやデータベースをつくる海外のエンジニアたちは、エンジニアリングの対象領域以外の複雑な部分を見つけて、暇な時間にリテラシーや教養を身に付けています。

先ほども言ったように、そういう難しい開発ができる源泉は、絶対にエンジニアリングとは別の領域にあると思うんです。日本のエンジニアの人たちも意識して学んでみるといいことがあるかもしれません。

「けしからん」を放っておくエンジニアが一番けしからん

質問6:最近“けしからん”と思ったことは?

落合陽一、登大遊

落合:デジタル庁ができた時に、デジタルの日を決めるというアナログな施策が通ったことかな。

日本人は上意下達で空気を読むから、祝祭を決めて毎度何かやらせないと忘れちゃうからね。交通安全週間の方がデジタルツールをつくるよりいいかもしれない。効果的だなと思いました。

登:今年の2月に『情熱大陸』(TBS)という番組に出てから、私の口癖の「けしからん」という言葉を楽しいものだと思ってくれる人が増えましたね。NTT東日本の社外の方も社内の方も含めて。それが一番、「けしからん」ことだと思います(笑)

質問7:エンジニアに伝えたいことは?

落合:僕はいつも学生に「世界観が重要」とアドバイスしています。

私自身は自然と、計算機、質量への承継って何だろうって思いながら生きているので、「それで全部記述できるかどうか?」という疑問が自然と湧いてくる。

なぜこの世界観は、このアナロジーとの対応関係が取れないんだ? と。皆さんもぜひ面白い世界観で生きていってください。ご自身の世界観を大切に。

登:けしからんことを見つけたら、ちゃんと奥深くまで解決しようとしてみてください。新たな発見はそういうところにあるものです。

けしからんことを見つけたら、それを放っておくのが、一番けしからんことです。

文/一本麻衣

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