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シルク・ドゥ・ソレイユ→MS→Web3起業家へ。デジタル資産管理『Webacy』に見る「Web3だから」実現できること【五十川舞香】

働き方

新たなインターネットの世界として、バズワード化したWeb3。日本国内ではまだまだ未知の部分も多く懐疑的な意見も多いが、実際のところどのような可能性を秘めたものなのだろうか。

サンフランシスコでWeb3サービス『Webacy』(ウェバシー)を開発・共同創業した五十川さんは、「Web3は使い道によっては、われわれの困りごとを一気に解決し、社会が一歩前進するようなサービスを生み出す可能性がある」と語る。

スタンフォード大学に入学後、シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーを経てMicrosoftエンジニアとして働くも1年で退社した五十川さんが、未踏の地であるWeb3の世界で起業した理由とは。

彼女のキャリア選択の軸、そして、Web3サービスの「作り手」側となった今、Web3の可能性をどう見ているのか話を聞いた。

五十川さん

Webacy CEO 五十川舞香(@maikaisogawa

5歳のときに父親の仕事で米国に移り住む。スタンフォード大学を休学し、2014~17年の約2年間シルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして活動。再びスタンフォード大へ戻り、学問とスタートアップ2社でのインターンを両立させる。卒業後はマイクロソフトへ入社。政府のサイバーセキュリティーのエンジニアとして社会人生活をスタートさせるも約1年で退社し、21年8月にWebacy(@mywebacy)を共同創業

パフォーマーとして2年活動。就職したMicrosoftは1年で辞めた

——五十川さんはいつ、どのようなきっかけでシルク・ドゥ・ソレイユ(以下、略称である「シルク」)のパフォーマーになったのですか?

私がシルクのパフォーマーになるチャンスを得たのは、スタンフォード大学に入学して3カ月目くらいのことでした。

アクロバット(競技)を始めたのは、中学生の時。当時は趣味のような位置づけで、まさか仕事になるなんて思っていませんでした。

シルクからオファーが来たのも、本当に偶然で。ちょうど私くらいの年齢・体格を備えた女性パフォーマーが必要になったそうで、棚ぼた的にチャンスが舞い込んだんです。

「こんな機会にめぐりあうことは、一生のうちで一度きりだろう」と感じ、大学は休学することにしました。アメリカの大学ではexploration(可能性の模索)のための休学はめずらしくないので、特にためらいはありませんでした。

——パフォーマー生活はいかがでしたか。

非常に充実していました。人気演目である『TOTEM』のメンバーとして世界中を飛び回りましたね。

初めに訪れたのは東京。そこから大阪、福岡、名古屋、仙台……と日本各地を回り、ロシアやヨーロッパにも行きました。長い時間をともに過ごしたメンバーは、もはや家族のような存在です。

isogawa

——非常に実りある時間だったのですね。パフォーマーを辞したのは、どのような心境の変化があったためでしょうか?

パフォーマーを2年で退いた理由は二つあります。一つは、単純に休学期間の終わりが近づいていたため。そしてもう一つは、パフォーマーとして一生を終えるビジョンが見えなかったためです。

シルクの仕事は華やかではありますが、サーカスである以上、身体的な危険は常につきまといます。緊張感のある毎日を過ごしながら、「これをあと10年、20年と続けられるだろうか」という不安がだんだんと大きくなっていきました。

それに、私は好奇心が旺盛なタイプで、大学に戻ってやりたいことがまだまだあったんです。

五十川さん

——前向きな選択だったと。大学に戻った後はどのようなことに取り組まれましたか。

日頃の学業に励むのはもちろん、スタートアップ2社でのインターンを経験しました。1社目はフィンテック領域、2社目はサイバーセキュリティー領域の会社です。

ここで得た知見をもとに、卒業後はMicrosoftに入社しました。あえて大手を選んだのは、単純に大手での働き方を知りたかったのと、コロナ禍で雇用が不安定になっていたためです。事実、Microsoftは非常に安定した会社で給与も高いので、働きやすい会社でした。

——しかし、最終的にはMicrosoftも辞めて、ご自身の会社を立ち上げられました。

はい。1年ほどで退社しました。理由は、正直に言うと業務内容があまり面白くなかったからです(笑)

私はサイバーセキュリティーの担当者として国家防衛のプロジェクトに携わっていたのですが、業務の性質上、変化が起きづらく停滞感が漂っていて……。

シルクのパフォーマーとして多くの人に笑顔を届けていた日々と比べると、自分の仕事がどのように役立っているのかを実感しづらい環境でした。良くも悪くも、自分の存在がちっぽけであることを思い知らされたんです。

もっと、私自身がワクワクしながら取り組めて、世の中にインパクトを与えるような仕事がしたい。『Webacy』の構想を練り始めたのは、そんなモヤモヤを感じていた頃でした。

数十億ドルにものぼる「永遠に失われた資産」

——Webacyのアイデアが湧いたのは?

isogawa

Webacy公式ホームページ

きっかけは身内の不幸でした。私のいとこが若くして世を去ってしまったんです。

それだけでも心が引き裂かれるようでしたが、同時に悩まされたのが、いとこの保有するデジタル資産の散逸でした。

私たちは今や多くの時間をオンライン上で過ごしています。ソーシャルメディアのアカウントはもちろん、人によっては暗号資産を保有している場合もありますが、これらを効率的に管理する方法はまだ存在しません。

社会の実態はとっくに変わっているのに、こと遺産の管理となると、紙の遺言書や伝統的な法律といった古い方法に基づいて処理するほかないのです。

その結果、ソーシャルメディアのアカウントは利用者が亡くなっても放置され、いわゆる”ghost” accounts(休眠アカウント)となってインターネットに残存する状況となりました。

暗号資産においては事態はよりややこしくなり、アクセスするための秘密鍵と指示書が残されていない限り資産を回収することは非常に困難です。

実際に、このようにして失われた資産は数十億ドル(日本円にして数千億円)にも上ると言われています。

本来、Web3の技術は非常に安全性が高く、セキュリティーも堅固です。しかしその堅牢さこそが、ユーザーやユーザーの相続人に不利益を与えることもあります。

その代表例が、アクセス不能(パスワードやシードフレーズを忘れる、ウォレットを紛失する)、ハッキング(フィッシング詐欺、チェーン自体の脆弱性、秘密鍵の流出など)、そして死後の遺産相続です。

Webacyのミッションは、皆さんのデジタルライフを守り、管理し、継承していくためのインフラを未来社会のために構築すること。

“Webacy is making a safer web3 for everyone.”(Webacyは、みんなのために、より安全なWeb3を作ります)が私たちのスローガンです。

——Webacyとは具体的にどんなサービスなのでしょうか。

Webacyをひとことで表すならば、条件付き譲渡のスマートコントラクト(一定の条件に基づいて資産へのアクセス権を移譲する仕組み)を提供するインフラです。

ユーザーが行うことはシンプルで、自分のウォレットとバックアップ用のセーフウォレットを登録し、プロテクションプラン(トラブルが起こった場合の処理方法)を設定しておくだけ。

悪質なウイルスに感染したり、詐欺に巻き込まれたりしても、ワンクリックですべての資産を安全なウォレットに移動させられます。仮想通貨やNFTを一つずつ移し替える手間がなくなるのです。

遺産相続においても、基本的な考え方は同じです。ただ、これについては「本当にその方が亡くなっているのか?」の判定など、少しややこしい仕組みが関係しますので、あとに譲りましょう。

——非常に高度なテクノロジーであるにもかかわらず、ユーザーに要求する行動はとてもシンプルなのですね。しかし、Webacy自体のパスワードを忘れてしまったり、Webacyがハッキングされて情報が漏えいしたりといったリスクはないのでしょうか?

まったくありません。なぜなら、Webacyはあくまでもインフラであり、Webacy自体が直接資産にアクセスしたり、取引をしたりすることは決してないように設計されているからです。

WebacyはMetamaskやCoinbase wallet、WalletConnectといった複数のウォレットサービスと連携しており、Webacyへのログインに使うのもこれらのサービスのアカウントです。

Webacy自体にはユーザーID/パスワードがないため、「Webacyのパスワードがわからないせいで、遺族が資産にアクセスできない」ような状況には陥りません。

また、Webacyがユーザーの資産のパスワードやシードフレーズ、秘密鍵を要求することもないため、「Webacyがハッキングされたせいで、すべての秘密鍵が流出してしまった」というようなトラブルも起こり得ないのです。

——安全性の高い仕組みですね。遺産相続の仕組みについて、くわしく教えていただけますか。

遺産相続の根幹にあるのは、パニックボタン(緊急通報用の機能)と同じ技術です。「completely decentralized, on-chain mechanism」の技術で、ユーザーのWeb3活動を監視し、非活性なアカウントになると資産へのアクセス許可を与える仕組みです。

つまり、あらかじめ相続人のウォレットを登録しておいて、一定の条件下、つまりユーザーが死亡した場合に、受益者がその資産を移動する許可をアクティベートするわけです。

その上で、遺産相続につきものの「相続割合」も指定できるところがWebacyの特徴です。

例えば「1ETHのうち、70%は兄に、30%は妹に」のような形ですね。なお、NFTの場合は分割ができないため、「誰に受け取らせるか」を指定することになります。

私たちはこれを「デジタル遺言」と呼んでいます。現在のところ相続人に指定できるのはウォレットを持っている人だけですが、いずれは高齢の両親や幼い子ども、Web3に詳しくないパートナーなど、ウォレットを持っていない人にも相続させられるよう仕組みを整える予定です。

扱いのややこしいデジタル資産の相続を簡便にすることで、遺族が故人をしのぶ手助けをしたいのです。

——実際にはユーザーが生きているにもかかわらず、不当に資産を「相続」されるようなトラブルは起こらないのでしょうか?

そのような不正アクセスを防ぐため、私たちはブロックチェーン上でのユーザーの活動をモニター(観測)するシステムを構築しました。

ユーザーがブロックチェーン上で何らかの活動(主に売買など)をしている限り、相続人が資産にアクセスすることはできません。

その一方で、ユーザーが12カ月間まったく活動しなくなると「死亡の可能性あり」と判定され(レッドフラグが立ち)、相続のプロセスが進みます。

——具体的には?

Webacyが12カ月間の休止期間を検知すると、まず2カ月の猶予期間が設けられます。

もしもユーザーが生きており、何らかの事情でウォレットにアクセスしていなかっただけの場合は、この期間にWebacyにアクセスすれば再びもとの状態に戻ります。

もしも本当に死亡していた場合は、2カ月の猶予期間後、正式に「deadman’s switch(ユーザー死亡後に動くシステム)」が作動し、相続人が資産にアクセスできるようになります。

——ただ、世の中には邪悪なことを考える人もいるのでは、などと心配になってしまいますが……。

それはWebacy、ひいてはWeb3に限らない問題だと思います。

Webacyは非常に高いセキュリティーと安全性の高いシステムを備えていますが、人間が使うものである以上、システムの設計ですべてのトラブルを防げるとは考えていません。

相続人との信頼関係もまた、強力なセキュリティーには欠かせない要素なのです。

道に迷ったら「与えるインパクトの大きさ」で決断

——「好奇心が無限大に広がっている」五十川さんは、目の前にいくつかキャリアの選択肢があるとき、どのような軸で進む道を選びますか。

私はいつも、「今の自分がもっとも大きなインパクトを与えるには、どのような場所に身を置くべきか」を軸に道を選んでいます。

シルクに入団した時も、Microsoftに入社した時も、Webacyを立ち上げた時もそうでした。「こっちのほうが、世界に大きなインパクトを残せる」と感じる道を選ぶことで、自然と高いパフォーマンスにもつながりました。

なおかつ、「もしも選択が間違っていても、It’s okay(大丈夫)。いつだって進路変更すれば良い」とも考えています。

人生において、無駄な経験なんてないはず。一見して関係がないように見えるシルクでの経験だって、実は「ピンチからのリカバリー精神」という形で、しっかりとWebacyに生きているんですよ。

五十川さん

——今後のビジョンや、Web3に期待することはありますか。

まずは何よりも事業面で成功したいです。Webacyは、好奇心が無限大な私が人生で初めて「すべてを賭けられる」と感じたプロダクト。

Webacyの開発と運営を通して世界にインパクトを与え、Web3の可能性を少しでも広げたいです。

パーソナルなところで言えば、尊敬する起業家やエンジニアたちのようになりたいとも考えています。

特に女性起業家や女性エンジニアの活躍には注目していますね。いつかは先達のように後進を支援し、導けるような存在になるのが夢です。

あらゆる新技術がそうであるように、Web3もまた、混乱や危険性をはらんだ存在であることは否定できません。

ただ、それを加味してなおWeb3には大きな可能性を感じますし、世界的にもこの流れは続くと思います。

例えばブラジルでは、仮想通貨を法的に認められた金融資産として扱うための法案が提出されるなど、積極的に評価する動きがみられます。

このまま世界全体に浸透していけば、かつてのクレジットカードがそうであったように、私たちの金融生活をガラリと変えるかもしれません。近い未来、Webacyがその一翼を担えればうれしいですね。

文/夏野かおる、編集/玉城智子、写真/Jason Wang

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