Web3登場で「ゲームタイトル同士の境界線」がなくなる?Thirdverse・伴哲に聞く、ゲーム・エンタメ領域に起こる変化
「世界を変える」「いや、詐欺ばかりだ」——。Web3に対して、さまざまな議論が飛び交う背景の一つには、Web3の実態が掴みきれていないことにあるのではないだろうか。
そこで、すでにWeb3の概念や技術を用いたコンテンツが登場し始めているゲーム・エンタメ分野に注目。ゲーム・エンタメ分野はWeb3で何が変わるのか、Web3界隈の先陣を切る、ThirdverseのCOO 伴さんに話を聞いた。
例えば、ゲームタイトル同士の境界線がなくなる
——まずはじめに、長らくPlayStation事業でゲームプロデューサーとして活躍されてきた伴さんがThirdverseのCOOへと転身されたのは、どのような背景からでしょうか?
僕はもともとソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に長く勤めてきた人間で、2016年ごろにはPlayStation VRのゲーム開発にも携わりました。
その頃からVRメタバースへの情熱は抱き続けていたのですが、同時に「現在(2016年当時)のハードウェアではすぐには実現できない」という肌感も持っていました。
この技術は確実に“来る”。いずれスタンダードになっていくだろう。
でも、今じゃない。今、VRメタバースを実現するには、いろいろなものが追いつかない——。
Thirdverse CEOである國光と出会ったのは、SIEからGoogleに転職後しばらく経ってからの頃でした。VRへの思いを捨てきれず、いつか時が来たら再チャレンジしようと誓っていたところへ、「一緒にやらないか」と声を掛けられたんです。
彼はメタバースやWeb3がバズワードになるずっと前から、「この技術こそが世界を変えるんだ」と確信して、この道で戦ってきた人。そんな彼から「VRメタバースとWeb3の未来を一緒に作ろうぜ」と誘われたものですから、これはすごいチャンスだなと思って飛び込みました。
——実際、Web3の登場は、ゲームのプレイ体験をどう変えると思いますか?
のっけから予防線を張るようで恐縮ですが、Web3の世界は驚くようなスピードで変化しており、確かなことは何も言えないというのが正直なところです(笑)
今のWeb3は、短期スパンで「こんなこともできるんじゃないか」「いや、だめだな」と世界中のチャレンジャーたちが試行錯誤をしているような状況。だから、ここで語ったことも、記事が出る頃には「はぁ? 今さら〇〇?」なんて内容になっているかもしれません。以降の話は、それを踏まえて聞いてください。
僕は、Web3はゲームの常識を変えると信じています。
ゲームに馴染みのない方にも取っつきやすい例を挙げるなら、ゲームを超えて唯一性や資産性を保ったままアバターやアイテムを別のゲームに引き継ぐことが可能になる、と言えば分かりやすいでしょうか。
他にも、伝説のプレイヤーからアイテムを引き継ぐ、なんてのもいい。例えば、あるゲームの有名古参プレイヤーが引退する際に、そのプレイヤーの輝かしい戦歴が刻まれた武器(NFT)をワールドのどこかに隠しちゃう。
その上で、「この世の全てをそこに置いてきた」(漫画『ONE PIECE』の名ゼリフ)じゃないですけど、“見つけた者に伝説を引き継がせる”とかね。しかもその伝説の武器を、唯一性を証明したまま他のゲームに持ち込むことができるとどうでしょう。あるメタバースの中で生まれた伝説が、他のメタバースにも伝播されるとかワクワクしませんか?
このように、NFTの特徴を生かせば、ゲームの世界には新たな世界観や価値観が生まれていくと考えています。しかも、既存のゲームと違ってブロックチェーンゲームにはまだ「正解」がない。どのようなシステムがユーザーに認められ、スタンダードになっていくのかは誰にも読めない。だからこそ挑戦のしがいがある、面白い領域なんですよ。
次世代のエンタメとして普及させるにはまだ課題だらけ
——とはいえ、Web3ゲーム(ブロックチェーンゲーム)がどこまで普及していくかは未知数です。Web3の現在地について伴さんはどう捉えていますか。
「Web3」や「メタバース」という言葉がバズワードになったのは、ここ1年くらいのことです。
「メタバース」というワードの火付け役となったのは、なんといってもFacebook社の「Meta」への改名(21年10月末)。旧Facebookのようなテック・ジャイアントが「これからの時代、うちの会社はこっちの(メタバース領域)方向へ行くんだ」と示したことは大きなうねりを呼びました。
「Web3」の広がりに関しては、21年に記録的な大ヒットをしたブロックチェーンゲーム『Axie Infinity』の存在が大きかったですね。このゲームによって「Play to Earn」という概念が一気に広がりました。
もうすでに『Axie Infinity』のブームは過ぎてしまいましたが、当時は私たちもかなり研究しました。その後、毎月のように世界中でWeb3に関する新たな動きやサービスが出てきました。
そして、Web3コンテンツは淘汰のサイクルがとてつもなく早い。例えば、ブロックチェーンゲームとして『Axie Infinity』以降に大きなムーブメントを巻き起こした『STEPN(ステップン)』は、「Move to Earn」という新たな概念を広めました。
ところがAxieやSTEPNのような規模にまで拡大したプロジェクトでさえ、きっかけ1つで経済圏が不安定化してしまいました。この記事が出る頃にはまた状況が変わっているかもしれませんし、本当に先が読めないんですよ。
ただ、ユーザーコミュニティーも様々なプロジェクトの盛衰をあらゆる角度から研究し尽くしている訳で、予測不可能な状況の中でもどれだけの事前準備ができるか、また日々起こる事象に対応し切れるかが明暗を分けると感じています。
また、「** to Earn」というフレーズが浸透していることからも分かる通り、今のブロックチェーンゲームを楽しんでいるのは、純粋にゲームを楽しみたい人というよりも、投機的な目的を強く持って遊んでいる人が多い印象です。
『STEPN』が一番盛り上がっていた時期は、ゲームに必要なNFTを1つ購入するだけでも数十万円かかってしまうほどでした。遊び方も一般的なゲームとは違っていて、「こういうふうにプレイするとより効率よく稼げる」という自分なりの「戦略」をゲーム外コミュニティでの情報交換とすることが凄く盛り上がっていました。
これはこれでアリだけれども、一般の人々が考える「ゲーム」とは違った状況になっているのも事実。ブロックチェーンゲームへの参入障壁を下げ、より広くエンタメとして普及させるためには、乗り越えるべき壁がまだまだあります。
——具体的には、どのような壁でしょうか。
ゲームに限らないところで言えば、まずはWeb3関連事業に関する法律・税務・会計のルール整備ですね。このあたりが整わなければスピード感をもって事業を進めることが難しいです。
規制改革も含めてある程度自由にチャレンジできる環境を業界として協力して整えていくことで、次の「スタンダード」になりうるWeb3プロジェクトが日本から生まれやすくなると思います。
あとは、ゲームへの実使用に耐えるブロックチェーンを開発することです。既存のブロックチェーンはトランザクションに時間が掛かったり、ガス代(取引手数料のようなもの)が高騰するタイミングがあったりと、ユーザー体験としてとてもスムーズであるとは言えません。ブロックチェーンゲーム開発者たちの間でも、このUX課題はよく取り上げられています。
そこを解決しようとしているのが、僕たちThirdverseも初期からバリデーターとして参画しているゲーム特化型ブロックチェーン『Oasys』です。
Oasysは、ゲームに特化したブロックチェーンで、ユーザーに対して取引手数料の無料化と取引処理の高速化を実現することで、快適なゲームプレイ環境を提供することを掲げています。
国内外の大手ゲーム会社も続々参画を発表し、いま最も注目を浴びている日本発プロジェクトですが、そんな彼らとの協業を通して、それぞれのプロジェクトがそれぞれのフィールドで世界へ向けて戦っていきながら、業界一丸となって環境整備・知見の蓄積を進めることの大切さを感じています。
新しい市場だからこそ課題は多いですが、自分たちの一挙手一投足が、プロジェクトの垣根を超えた大きな何かに影響していくタイミングでもある、というのはこの業界の面白さの一つだと思います。
飛び込むなら、猛者と渡り合う覚悟を
——Web3の世界に参入すべきかどうか、態度を決めかねているエンジニアも多いはずです。悩める若者にアドバイスするとしたら。
せっかくの盛り上がりに冷や水を浴びせるようなことを言うかもしれないけれども、これまでにも、「世の中を変える!」と言われてきた技術ってたくさんあったと思うんですね。
ロボティクス、データ分析、AIなどなど、Web3の直前にも「世の中を変える」とブームになってきた技術はたくさんあった。そのたびに、流行りに乗っかりたい人がたくさん参入してきました。
でも、その中から本当にムーブメントを起こしてきたのはどういう人かというと、世間の流行りがどう変わろうと「自分はロボティクスの力を信じている」「AIこそが世界を変える」と、ずっとコミットし続けている人なんです。
Web3にしたって、同じこと。國光のように、世間が「これからはWeb3だ」と言い始めるはるか前からブロックチェーンに着目し、本気で取り組み、世界で勝とうとしている人間がゴロゴロいます。
そんな場に「Web3が流行ってるらしいから、一儲けしてみようかな」なんて半端な覚悟でお邪魔しても、同じ土俵には上がれません。
だから、Web3にコミットしたいのであれば、「たとえWeb3がバズワードでなくなろうが関係ない、自分がこの技術で世界を変えるんだ」という覚悟を持って参入してほしい。
逆に言えば、その覚悟さえあるのならば、Web3という海をどこまでも自由に泳ぎ回っていけるはず。限られた人生、新しいマーケットの誕生に立ち会える、なんなら自分でマーケットをつくり出せる機会なんて人生の中でそうそう多くありません。
飛び込むのか、眺めるだけなのか。決めるのは皆さん自身です。
>>>Thirdverseにご興味のある方はぜひ採用HPもご覧ください
https://www.thirdverse.io/ja/careers.html
文/夏野かおる 撮影/赤松洋太、 取材・編集/玉城智子(編集部)
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