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【実例】ベンチャー急拡大期の「マネージャー不足しがち問題」への打ち手とは? Chatwork×エムスリー CTO対談

【PR】 働き方

スタートアップやベンチャーにとって、事業やサービスが拡大していくのはうれしいこと。ただ、成長企業と言われる伸び盛りの企業には、大概の場合、拡大の波は緩やかではなく“急に”やって来る。

そんな急拡大、あるいは急激な変化がやってきたときに、会社とサービスの成長をしなやかに支えられる開発組織をつくるために必要なことは何か。

国内利用者数No.1の中小企業向けビジネスチャット『Chatwork』を提供するChatworkのCTO春日重俊さんと、医療従事者を対象とした医療ポータルサイト『m3.com』をはじめ、多彩なサービスで国内外の医療変革に挑戦しているエムスリーのCTO山崎聡さんに、急拡大期に浮上した組織の課題とその解決策を聞いた。

Chatwork

Chatwork株式会社 執行役員CTO兼プロダクト本部長
春日重俊さん※写真左

明治大学経営学部を卒業後、電通国際情報サービスに入社、大手企業の基幹会計システム導入の経験を積んだ。その後リクルートに入社、新規事業の業務に従事し、組織マネジメント・サービス企画・BPRなどに携わり、2016年1月にChatworkに開発本部長として入社。19年3月に執行役員兼開発本部長に就任。20年からCTO就任
エムスリー株式会社 執行役員 CTO/VPoP
山崎 聡さん(@yamamuteking)※写真右

大学院博士課程中退後、ベンチャー企業、フリーランスを経て、2006年、臨床研究を手掛けるメビックスに入社。09年、メビックスのエムスリーグループ入り以降、エムスリーグループ内で主にプロダクトマネジメントを担当する。18年からエムスリーの執行役員。20年4月からはエンジニアリンググループに加えて、ネイティブアプリ企画部門のマルチデバイスプラットフォームグループと全プロダクトのデザインを推進するデザイングループも統括。20年10月より初代CDO(最高デザイン責任者)に就任。22年4月より現職

CTOの一人マネジメントが成長のボトルネックに

——はじめに、Chatwork、エムスリーの両社にとって、サービスの拡大期はいつでしたか?

Chatwork

春日:『Chatwork』のユーザー数が急拡大する契機となったのは、やはりコロナ禍です。

働き方改革の文脈で、コロナ以前からリモートワークへの関心は高まっていました。ただ、普及のスピードはだいぶスローペースだったので、社内ではビジネスメールからビジネスチャットツールへ市場環境が変わるまで「あと10年はかかるんじゃないか」という見方が優勢でした。

ところがコロナ禍に入り、テレワークを導入する会社が急増することに。DXも加速しました。ビジネスに限れば、追い風と呼べる状況でした。急増したニーズに応えるべく従業員も1年で約100名増えて、今や300名を超す勢いです。まさに「急拡大」でした。

Chatwork

参照:Chatwork 2022年9月の会社説明資料

Chatwork

参照:Chatwork 2022年9月の会社説明資料

山崎:医療関連サービスを展開するエムスリーもまた、コロナ禍における需要増を経験しました。

これまで医療業界はまだまだDXが遅れていると指摘されてきたのですが、コロナ禍で、製薬企業が医療機関に足を運べなくなり、そうも言っていられなくなったんです。

Chatwork

山崎:もともと製薬企業と医師を結ぶ事業を展開していましたから、業界各所から「何とかできないか」と相談が多く寄せられ、応えていくうちに受注額は2.5倍にも拡大。医療情報サイト『m3.com』へのアクセスも大幅に増加していました。

Chatworkさんと同じく、コロナ禍で世界中がDXされていく中で、自分たちの手掛けている事業がいかに世の中に必要とされているかを実感しました。

Chatwork

参照:エムスリー2021年1月の会社説明資料

——「急拡大」を迎え、両社の開発組織が直面した壁にはどのようなものがありましたか?

Chatwork

春日:何よりも苦労したのはマネジメント人材の不足です。

2016年頃のサービス成長期は、エンジニアもまだ30名程度しかいませんでした。だから、マネジメントを担う人間は僕一人しかいなくて、“気合い”でマネジメントしていたんです(笑)

ただ、事業や組織が大きくなるにつれ、そんな組織のあり方がボトルネックになる場面も増えてきた。情報や権限が特定の人間に偏りがちになりますし、そもそもマネジメントする人がいないと組織がスケールしないですからね。

コロナ前にはSREポジションを設け、インフラの安定化を図ったり、職種ごとにマネージャーを配置するなど、ボトルネックの影響を抑えるための改善を図ってはいました。

ただ、コロナによる需要増、それに伴う組織の急拡大に対応するためには、より根本的な改革をしなければケイパビリティー(組織としての能力)を損なってしまうという危機感がありましたね。

Chatwork

山崎:われわれも同じような課題にぶつかりました。

エムスリーが最初の拡大期だった15〜16年頃は、当時CTOを務めていたBrian Hooperの下に、2名のチームリーダーとその他のエンジニアがフラットに並ぶ組織構造でした。VPoEや、中間管理職が多くいなかったため、だんだん組織全体に目が届かなくなったように思います。まさに春日さんがおっしゃったような課題に直面しました。

成長期を支えるキーパーソンを生み、育てる基盤づくりが鍵

——両社ともマネージャー不足からさまざまな課題が生じたと。それに対して、どのような手を打たれたのでしょう。

山崎:僕は17年にBrianが手掛けている役割からVPoE領域を引き継ぎ、組織強化に注力することにしたのですが、まずはエンジニアリンググループの意思決定機関として複数名のグループリーダーで共同運営するマネジメントチームを編成しました。

同時に、CTO一人での意思決定から、マネジメントチームによる意思決定へと舵を切りました。もともとエムスリーでは物事を決めるときに、最高意思決定機関である経営会議でさえ、役員を中心に編成されるマネジメントチームで意思決定する文化がありました。

そのため、役員個人がそれぞれ持つ決裁権限はわずか200万円です。200万円以上の決裁は、経営会議での承認が必要になります。これはプライム上場企業としては異例のシステムなのではないでしょうか。そのくらい「マネジメントチームで議論して決める」ことを重んじているのです。

僕はこの考え方が好きで、エンジニアリンググループにも取り入れるべきだと考えました。そこでHRBP(※)も巻き込み、マネジメントチームを編成することで複数人での意思決定ができる体制に変えたんです。

HRBP
「Human Resource Business Partner」の略。経営者や事業責任者のビジネスパートナーとしての視点から、組織の成長を促す「戦略人事のプロ」という位置づけ。主に、カルチャー醸成や、オンボーディング、組織の戦略策定と実行などの役割を担う

——Chatworkでは、どのような打ち手を取りましたか?

春日:新規メンバーの採用に関してはエムスリーさん同様、HRBPやDevHR(※)を設置することで組織的な課題や人事的な情報をシームレスに共有できるように体制を変えました。

一方、既存メンバーのマネジメントにおいては「エンジニアリングマネージャー(EM)に頼らない組織」へシフトさせました。

コロナ禍初期はサーバーサイド、フロント、モバイルアプリ……といった各職種ごとにEMが就いていたのですが、かつての僕がそうであったように、一人が多くのマネジメント職務を担うとボトルネックになりやすい。また、その人が離職や休職によって抜けたときのダメージも大きくなってしまいます。

このようなリスクを回避すべく、EMの職務を分解して権限委譲していきました。

DevHR
「Developer Human Resources」の略。エンジニアやデザイナーなど、専門性を持った組織の成果創出をバックアップする存在として、組織改善に集中的に取り組む役割を担う

Chatwork

春日:例えば上記の図のように、一般的にEMは「人」「プロジェクト」「技術」「プロダクト」のマネジメントを一手に担っている場合が多いと思います。

そこでChatworkでは、ピープルマネージャーやアーキテクトを開発チーム外に置き、権限を一部移譲することでEM一人あたりの負荷を軽減していきました。

同時に一人のピープルマネージャーが複数の開発チームをみる仕組みにし、「ピープルマネージャー一人 対 メンバー多数」ではなく、「ピープルマネージャー多数対メンバー多数」といった構図に変え、少しずつ開発組織全体の意識や能力、パフォーマンスの向上を図っていったのです。

Chatwork

春日:また、チームが自走できるよう、会社の戦略をしっかりと定義して伝えていく努力もしました。CTOである僕が一人で組織を見ていた頃は、“あうんの呼吸”でなんとかなっていた面がありましたが、急拡大後の組織に“呼吸”は通用しません。

定期的に時間をとって、「Chatworkは中小企業におけるビジネスチャットのNo.1を目指していく。ビジネスサイドに求められる動きはこれだ。また、プロダクトはこのレベルに達しているのが望ましい」と、ビジョンをブレークダウンして伝えていきました。

このプレゼンは地味に大変で、準備にも時間がかかるのですが(笑)、丁寧にコミュニケーションを続けていくうちにカルチャーが浸透し、マネジメントがしやすくなった実感を得られました。“呼吸”から“ステートメント(宣言)”への変化は、どこかでしておくべきですね。

山崎:そこは、主要プロダクトを中心に事業を展開しているChatworkさんならではのやり方かもしれませんね。

というのも、エムスリーはまったく逆の考え方をしているとも言えるんです。普段からステートメントにはほとんど頼らない。経営会議でも、議事録すら取りません(笑)

Chatwork

ーーそれはなぜですか?

山崎:記録が残ることで、「過去はこうだったから」と前言に縛られたくない、というのが大きいと思います。

「プロダクト/エンジニアリングとはかくあるべき」と定義してしまうことで、変化できない組織になるのが何よりも怖い。

春日:興味深いです。30もの事業を持つエムスリーさんだからこその考え方ですね。

山崎:そうですね。ただ、各社で考え方やり方が違うのはごく自然なことです。

春日:僕は常々、エンジニアリングチームの運営はプロスポーツチームのそれに近いと思っているんです。エムスリーさんがバスケチーム(5名)だとすれば、Chatworkはラグビー(15名)くらいの規模でやっているわけでしょう。競技が変わればメンバーの数が変わり、ルールや戦略もガラリと変わる。当然、理想とするマネジメント像は変わってくるはずだし、とるべきHowも異なってくるんですよね。

——組織の成長のためにマネジメント手法を変えたというお話が出ましたが、マネージャーの育成は一筋縄ではいきませんよね?

Chatwork

山崎:難しいですね。特にエンジニアリングマネージャーの育成は一苦労です。なぜかというと、テックリードとエンジニアリングマネージャーとでは、求められる資質が大きく異なっているから。

技術的に優れたエンジニアとして成長したからといって、同時にマネージャーの資質が得られるわけではありません。にも関わらず、エンジニアのキャリアのゴールには、マネージャーへの昇進が置かれがちです。

つまり、エンジニアのキャリアパスには“ねじれ”がある。その難しさを理解した上で、それでも組織を引っ張ってくれる人材をどう育てていくかが大切になります。

春日:組織を拡大させるには、物事を俯瞰で見られる人材が不可欠ですからね。

例えば、一時期のChatworkは縦割り組織のようになり、自分たちの担当範囲以外は気にかけない、閉じた組織になってきたと感じました。

みんなで一つのプロダクトを作り上げている意識が希薄になり、組織間のコンフリクトが発生するようになったんです。

その時、いわゆる技術的な課題ではなく、適応課題(※)について考えられる人材を増やし、リーダーおよび組織としてのレジリエンスを高めていくことが「しなやかな開発組織づくり」には不可欠なのだと痛感しました。

Chatwork

適応課題とは、『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』(英治出版)内で、「価値観や信念の違いを明らかにし、痛みや喪失を受け入れて新たな見方や考え方を見つけることで相手や自分、組織の行動を変えていかなければ解決しない課題」だとされている

山崎:拡大期は特に社内で衝突が起こりやすいですよね、エムスリーも同じです。そういう背景もあって、エムスリーは少数精鋭を徹底していて、1チームの人数は平均すればせいぜい5〜6名です。

60人いれば、12チームに分割するイメージです。それぞれのチームが別々のプロダクトを開発しているので、組織間での衝突も起こりにくい体制だと思います。

また、この体制のメリットはリーダー候補を同時に多数育成できることにあります。例えば60名のエンジニアがいたとして、10名ずつだと6チームしか作れません。

でも、5名ずつなら12チーム作ることができ、12名のリーダー候補が誕生することになる。

2倍の候補者がいれば、中には「より大きな視点で組織を見てみたい」と考える将来のVPoE候補も出てくるかもしれません。

もちろん、テックリードやインディビジュアルコントリビューターを目指す人がいても良い。多様な候補者が生まれることが最大のメリットです。

いわば、リーダー候補や高い専門性を備えたスペシャリストが育つ土壌こそ、急に訪れる拡大期にも、しなやかに対応できる組織づくりに不可欠なポイントです。

——合理的ですね。ただ、一つの会社で長く働いて裁量を大きくしていくようなキャリアパスより、外に出てさまざまなスキルを身に付けたいと考えるエンジニアも多い印象ですがいかがですか?

山崎:そうですね。エンジニアが離職するのは「この職場ではもうチャレンジすべきことがない」と感じたときだと思います。社内にチャレンジの余地があり、適切な報酬を支払っている限りは、この会社でもっと大きいことをやってみようと思ってもらえるかもしれません。

春日:「チャレンジの余地」は大切ですよね。それでいくと、Chatworkの離職率は同じ業態と比べても低水準だと思います。直近では会社全体で少し上昇している部分もあるので、経営陣として課題と捉えている部分もあり、開発組織に限らず改善の取り組みを実施しています。

Chatwork

春日:比較的低水準だった理由としては、まさに山崎さんがおっしゃった通りで、社内にチャレンジの余地があるからかなと。

例えば、ワンプロダクトである一方、その側面をより強固なものにし、圧倒的な存在になろうと全社員が切磋琢磨しています。

現在も準備を進め、25年から本格化させていく計画の「ビジネス版スーパーアプリとしてのプラットフォーム化」が実現すれば、中小企業のあらゆるビジネス起点となるツールとなり、エンジニアの仕事の領域や求められるスキルもより一層チャレンジングなものになるでしょう。

Chatwork

Chatworkの中期経営計画。24年までに中小企業という領域においてNo.1のビジネスチャットを目指し、25年以降はビジネス版スーパーアプリとしてプラットフォーム化していくという展望を発表している

春日:すでに国内最大級のビジネスチャット(※)というポジションなので、僕はよく、『Chatwork』の開発・運用は「山手線を走らせるようなもの」と表現しているんです。

つまり、大規模な人数を抱えても遅延なく動くのが当たり前で、働く人にとって仕事のインフラとなっているアプリ。そんなインフラを運用する経験は、なかなか他社では積めません。エンジニアとしての成長と組織の成長が良い形でリンクしているからこそ、やりがいを感じやすい環境なのかもしれません。

(※)ビジネスチャット国内利用者数No.1(Nielsen NetView 及びNielsen Mobile NetView Customized Report 2022年5月度調べ月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象はChatwork、Microsoft Teams、Slack、LINE WORKS、Skypeを含む47サービスをChatwork株式会社にて選定)

エンジニアの成長や挑戦を受け止められる組織づくりに注力

——両社の今後の展望は?

山崎:遅れていた医療業界のDXが加速的に進み始めている今、エムスリーができることはたくさんあると思っています。引き続き、多彩なプロダクトを投入し、医療業界の課題を貪欲に解決していきたいですね。

そのためにも、小規模な精鋭チームを中心とした体制を維持しながら20チーム、30チームと増やしていきたいです。

Chatwork

山崎:この体制はいわば、社内にスタートアップが何十社もあるようなもの。それぞれの事業フェーズもさまざまなので、仮にエンジニアが「思い切って0→1に携わりたい」「運用と事業スケールを学びたい」と思い立ったときに“社内転職”を促しやすいのです。

チャレンジの余地を残し続ければ、優秀なエンジニアの離職を抑えることにもつながるはずなので、今後もブレずにやっていきたいです。

春日:Chatworkは主要プロダクトで10年以上やってきたからこそ、その強みを引き続き伸ばしつつ、周辺プロダクト・0→1の新プロダクトの開発・M&AのPMIにも挑戦していきたいですね。

また、ビジネスチャットの特徴でもある「いつでも、どんな場所でも、やりたいことに集中できる働き方の提供」を、Chatwork自身が体現する組織になりたいと思っています。

Chatwork

春日:例えば、社員が地球上のどこに住んでいようと出社時と変わらないコミュニケーションで仕事が進められる……といった働き方を先駆者として示していく立場になる。そのために、自分たちの意識や組織、制度を柔軟に変化させながら、プロダクトの可能性を模索できる非常に面白いフェーズです。

自分たちのプロダクトを開発しながら社会課題にも向き合える。そんな環境にやりがいを感じる人がいればぜひとも一緒に働きたいですし、「Chatworkにいたなら、どこでもやっていける」と言われるくらいのエンジニアを育成できる組織体制を短期的にも、中長期的にも整備していけたらと思います。

Chatwork

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取材・文/夏野かおる 撮影/竹井俊晴 編集/玉城智子(編集部)

撮影場所:Chatwork 東京オフィス(WeWork 日比谷 FORT TOWER)

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