「クライアントからの要求にNOと言えない」「常駐先で頼れる人がいない」──。若手エンジニアの多くが、そんな悩みを抱えている。
全力で仕事に向き合うことは大切だが、長く働き続けていくのなら、自分の心を守りながら健やかに働く術も身に付けておきたいところ。
そこでエンジニアtype編集部は、 2022年8月に「現役経営者がうつ病になった話」というブログを公開したIT企業アクシア代表でトゥモローゲート社員の米村歩さんにインタビュー。
若手エンジニアが擦り減らずに仕事を続けていくための「心のセルフケア」について、三つのポイントを紹介しよう。
アクシア 代表取締役/トゥモローゲート メディア戦略室長
米村歩さん(@yonemura2006)
青山学院大学卒業後、システム開発会社に入社。その後フリーランスを経て、2006年にシステムの受託開発を行う株式会社アクシアを設立。既存のソフトウエアやサービスなどでカバーできない業務分野のWebシステム構築をはじめ、既存システムの保守・運用、サーバー構築までのトータルサービスを手掛ける。かつて同社では長時間労働が常態化していたが、2012年に残業ゼロを断行し、現在も継続中。有給消化率は100%。17年にホワイト企業アワード 労働時間削減部門 大賞を受賞。20年にはオフィスを廃止し、全社員完全リモートワーク化を実現。著書に『完全残業ゼロの働き方改革』(プチ・レトル)など
1. 困ったときは、ためらわずに「人の力を借りる」
ーー若手エンジニアが「擦り減らない働き方」を実践するために大切なことは何だと思いますか?
一つ目は、何か困ったことが発生したときに、自分一人でなんとかしようとしないこと。人を頼ることが上手な人は、メンタルダウンしにくいと思います。
自分のような経営者の立場であれば、クライアントから無茶な要求をされたとしても、「最終的には取引停止になっても仕方がない」という覚悟のもとで断ることが可能です。
しかし、若手エンジニアの多くは、まだそういう権限を持っていませんよね。ですから、困ったことがあったらすぐに上司に相談して、代わりに対応してもらうのがベストでしょう。
ーー問題が発生したらチームで対応を考えたり、お互いにフォローし合ったりできるのが会社のメリットですよね。
そうですね。「周りに迷惑を掛けたくない」と思って相談するのを躊躇してしまう人もいるかもしれませんが、それは考えすぎです。
同じ会社で働いている以上、困ったときはお互いさま。申し訳ないと思うのなら、次は相手が困っているときに助けてあげればいいんです。
後ろめたさを感じる必要はありません。常に感謝の気持ちさえ持っていれば、人の力を借りることは全く問題ないと思います。
ーーうまく人を頼ることで若手メンバーが元気でいてくれるなら、会社にとっても有益ですよね。
その通りです。また、問題を報告したらダメな奴だと思われるのでは……? と心配する人もいますが、それも大きな勘違い。トラブルや今困っていることをすぐに報告・相談してくれる人の方が、上司としては信頼できますね。
2.休日には「何もしない」「気ままに過ごす」時間も入れる
ーーその他、擦り減らずに働いていくために大切なことは?
ずっと頑張り続けないことですね。仕事に一生懸命になるのはすばらしいことですが、頑張るためにも休養をとることは欠かせません。
若いうちはカラダが元気なので、休みの日もつい予定をたくさん入れてしまいがちです。エンジニアであれば、休日を使って技術のことを学ぶこともあるでしょう。
ただ、これは僕がうつ病になった時に通った病院の先生に教えてもらったことなのですが、「何もしない」予定を入れるのも健康でいるためには大切なのだそうです。
たとえ「マッサージに行く」のでも、「〇時までに〇〇までマッサージに行かなきゃ」と思うだけで、人はストレスを感じて疲れてしまう。
旅行や趣味活動もそうで、予定をつめこんでスケジュールに追われてしまうと、かえってストレスが増えかねません。
ーーリフレッシュするためであっても、「やること」の予定を入れてしまうと、結果的に自分にプレッシャーがかかってしまうのですね。
そうなんです。自分もメンタル不調に陥った時、「リフレッシュしたい」「気分転換しなきゃ」という思いからプライベートで「週末に温泉に行く」などの予定でいっぱいにしてしまっていたんですよ。
でも、それでは心もカラダも実は休めていない。医師いわく、気の向くままに過ごす「何もしない時間」をスケジュールに入れると、しっかり休めるようになるのだそうです。
ですから、若手エンジニアの皆さんも、知らない間に疲労をためこみすぎないように、何も予定をいれず気ままに過ごす時間をぜひ設けてほしいと思います。
3. 不調を安易に放置しない&すぐ病院へ
ーー擦り減らずに働いていくコツ、他にはいかがでしょう?
自分の不調やちょっとした変化を見逃さないこと、放置しないことが大事だと思います。
若いうちは自分の不調をつい甘く見てしまいがちですが、知らず知らずのうちにそれが悪化して、仕事に支障が出ることも。ちょっとでも「おかしいぞ」と感じることがあれば、迷わず病院に行ってください。
私の場合は、うつ病を発症した時、以前であれば普通にできていたことがすごくつらくなったり、できなくなったりしました。
「心療内科は敷居が高い」と感じる人は多いかもしれませんが、体に少し痛みを感じたら病院に行くのと同じように、心療内科も早い段階で行くのがベストです。
病状が悪化してしまうと、それだけ回復に時間も労力も費やすことになり、結果的に仕事にも悪影響が出てしまいますから。
ーー不調を少しでも感じたら、職場でもすぐ相談すべきですか?
はい、もちろんです。不調があるとき、周囲のサポートによって救われるケースは多々あります。
ただ、自分の不調は自分にしか分からないので、ちゃんと言わなければ伝わりません。特にSESで働くエンジニアは、他の会社に常駐して働いているため、離れた場所にいる上司に察してもらうのは難しいですよね。
ですから、自分の不調に気づいたら、すぐ直属の上長に相談することが大事。普通の会社であれば、配置換えや業務量の見直しなど、何らかの配慮やサポートをしてもらえるはずです。
ーー上長に伝えたらどんな反応をされるのか心配で言い出せないという人もいそうですよね。
心配な気持ちは分かるのですが、そういう人は、今の状態が続いたらどうなるのかを想像してみてください。
うつ病が深刻になると、物忘れがひどくなるなど、普段簡単にできていたことができなくなってしまいます。そうなったときに、周囲の人はあなたを見て「仕事をサボってるのかな?」といらぬ誤解をしてしまうかもしれません。
自分の状況について周囲に伝えることは、自分のためだけでなく、一緒に働く人たちのためにもなるのです。難しいと感じるかもしれませんが、ぜひ伝える勇気を持ってほしいと思います。
ーー仕事の困りごとも、自分自身の困りごとも、一人で抱え込まないことが大事ですね。
はい。長く働き続けていくためには、自分を大切にすることが不可欠。そのために人の力を借りるのは、全員お互いさまなんです。そう考えてみると、明日からの仕事が今日よりも少し健やかなものになるのではないでしょうか。
取材・文/一本麻衣