クックパッド株式会社
成田一生さん(@mirakui)
名古屋大学大学院を修了後、2008年にヤフー入社。Yahoo! メールのバックエンド開発に従事する。 10年にクックパッドに入社。サーバサイドのパフォーマンス改善や画像配信を担当後、インフラストラクチャー部部長や技術本部長などを務め、執行役CTOに就任。2023年1月からは『クックパッドマート』の開発に従事
“肩書き全捨て”で現場エンジニアになった成田一生が星北斗にCTOを引き継ぎ「コードを書く」に専念する理由【クックパッド】
毎日の料理を楽しみにする」というミッションのもと、料理レシピ投稿・検索サービス『クックパッド』や生鮮食品EC『クックパッドマート』などの事業を展開するクックパッドが、2023年1月にCTO交代を発表した。
新しくCTOに就任したのは、星北斗さん。2010年からアルバイトとしてクックパッドで働き始め、13年に新卒入社。セキュリティ、インフラ領域の保守運用、英国ブリストルの拠点での海外向けサービス開発などに取り組んできた生え抜きのエンジニアだ。
一方で、この6年間同社でCTOを務めた成田一生さんは、全ての経営・マネジメントポジションから退き、『クックパッドマート』の開発チームのいちメンバーとしてコードを書く仕事に取り組んでいくという。
CTO交代に踏み切った経緯、それぞれのキャリア選択の裏側にある思いとは? 新体制でリスタートを切る二人に話を聞いた。
クックパッド株式会社
CTO 兼 CISO 星 北斗さん(@kani_b)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、2013年4月クックパッド入社。セキュリティエンジニアとして活躍し、クックパッドJapan VP 兼 技術本部長、コーポレートエンジニアリング部 本部長を経て20年10月よりグローバル本社(イギリス、ブリストル)に出向。22年2月よりコーポレートエンジニアリング部 本部長 兼 ボイスサービス部 本部長を務め、2023年1月にCTO 兼 CISOに就任
新CTO抜擢の理由は、スター性と「守りと攻め」のバランス感覚
ーー今回、CTO交代を行うことになった理由は?
成田:僕がCTOに就任してから6年が経ったのですが、このタイミングで技術トップが世代交代をすることで、メンバーにも組織にも前向きな影響を与えられると考えました。
クックパッドが今後さらに成長していくためには、これまでの取り組みを継続していくだけでなく、今までやってきたことをひっくり返すような大胆な挑戦も必要になると考えています。
そう考えると、同じ人間がトップをやり続けることで安定を得られる面はあるものの、僕自身が組織のキャップになって限界をつくってしまうリスクも大きい。その状況は避けなければと考えていました。
ーー星さんに新CTOを任せることにしたのはなぜですか?
成田:名は体を表すと言いますが、スター性があるんですよね。
彼はとにかくチームを明るくできる人。星くんの周りには自然と人が寄ってくるし、技術的な相談もしやすい。人に壁をつくらないところは、抜擢の大きな理由です。
そして、エンジニアとしての「守りと攻めのバランス感覚」の良さもCTOを任せたいと思ったポイントですね。
彼はもともとセキュリティエンジニアでしたから、サービスを守るための保守的な考え方もできますが、新しいことにチャレンジしていく大胆さもある。慎重さと行動力、両方を備えている稀有な存在なんです。
ーーCTO交代は、いつ頃から決まっていたんですか?
成田:数年前から星くんに任せたいとは考えていました。
それで、次のCTOにはクックパッドを今以上にグローバルカンパニーに育てる仕事をしてもらいたかったので、星くんには2年前にイギリスのブリストルにある海外拠点に移ってもらい、海外向けのサービス開発をしてもらうようになったんです。
ーー成田さんから「CTOになってほしい」という意志を聞かされた時、星さんはどんなお気持ちでした?
星:実は、成田さんから「CTOになってくれ」とはっきり言われたことはないんです(笑)
でも、この会社に新卒入社して以来、成田さんと僕は組織的には上司と部下の関係。この10年、エンジニアとして視座を高める機会や成長のチャンスをたくさん与えてもらってきました。
なので、いつ「CTOをやってほしい」と言われても、自信を持って「はい」と言えるようなトレーニングをしてきたつもりです。その中で、今回こうしてCTOのポジションを会社から打診された時は、「ついにきたか」という感じでしたね。
アルバイトでクックパッドに入った僕にとっては、この会社のエンジニアの人たちは純粋に尊敬できる憧れの存在。だから、自分がそのすごい人たちのトップに立つとなって本当にやっていけるのか不安も正直感じました。
ただ今は、この先このすごい人たちと一緒に何ができるだろうというワクワク感が一番大きいです。
ーーこれからまず、何に取り組みますか?
星:今考えているのは大きく分けて二点。一つ目は、チームやプロジェクト規模の大小はあれど、一人でも多くのエンジニアにリーダー経験を積んでもらうこと。
多少スキルや経験がともなわずとも、実際にリーダーポジションをやってみることでその人の視点やスキルが伸びますから、そういう背伸びして取り組む仕事のチャンスを提供していきたいと思っています。
星:二つ目は、ユーザーの課題解決に使える技術を積極的に活用していくこと。
ここ数年で、機械学習、VR、AR、そしてネットワークやブラウザのOS機能など新しい技術がどんどん登場し、われわれエンジニアのもとにどんどん届くようになりました。
つまり、僕らのミッションである「毎日の料理を楽しみにする」上での課題を解決できる手段が増えているということ。その豊富な手段をみんなが存分にサービス改善に使っていける状態をつくりたいと思っています。
旧CTOは現場メンバーへ「エンジニアとしての能力を取り戻したい」
ーー成田さんは今後、『クックパッドマート』の開発現場でエンジニアとして働くそうですが、それはなぜ?
成田:2022年の末にCTO変わることが決まってて、それから「じゃあ僕はどうしようか」って考えたんですよね。
ーーCTOを辞めるということだけが決まっていたんですね。
成田:そうなんですよ。「CTOを辞めるってことは、会社も辞めるの?」って思った人もいるかもしれません。
でも、会社を辞めないことだけは僕の中で決まっていたから、じゃあどういうかたちでここに残れば組織に一番貢献できるのかと考えて。
成田:最終的に、会社がいま最も投資している『クックパッドマート』の現場でコードを書こうと決めました。というのも、僕自身、このサービスがこれからどれだけ成長できるかが会社の命運を分けると感じていて。
だからこそ、今僕がエンジニアとしてこのサービスに入ることでクックパッドのミッションをかなえることに近づけるなら、ぜひやりたいと思いました。
ーーそれと同時に各種マネジャーの肩書もすべて外す決断をしていますよね。その理由は?
成田:ちゃんとコードを書くことに集中したかったからです。
僕は今まで、マネジャーをやりながらコードを書くということをちゃんとはできなかったんです。どうしても組織や人の課題が頭の大半を締めてしまうので、バランスよくはできなかった。
だから今回は「100%開発に頭を使う」ことを久しぶりにやってみようと思って、ぜいたくなキャリアを選ばせていただきました。
ーーコードはずっと書きたかった?
成田:そうですね、少しくらい書くことはありましたけど、事業の中核になるような部分はコミットできませんでした。
そんな中、こうしてCTOとして皆さんに開発チームの取り組みを対外的に語ってきたわけですが、実際は自分が開発に携わってないものや、よく分かってない言語で作られたもののこととか、「聞いた話」で語ることが増えてきていました。
そしてそれが僕のコンプレックスにもなっていた。だから、自分はもう一度ここでエンジニアとしての能力を取り戻したい。
そして、自分がつくってきた環境の中でいちメンバーとして働いてみることで、クックパッドが本当に「エンジニアにとって最高の環境だ」と自信を持って言えるのか、確かめてみたいんです。
もしかすると、現場のメンバーはちょっとやりづらいと感じることもあるのかもしれませんが(笑)
星:いやいや、みんな歓迎していますし楽しみにしていますね。
これまでもマネジャーが現場のメンバーに戻るケースはありましたけど、CTOがいちメンバーに戻ることによって何が起きるんだろうってワクワクしてる人は多いと思います。
だから、成田さんには思い切り現場で暴れ回ってほしいです。
成田:はい。これまでCTOをやってきたからこそ、管理職とか、経営層であるとか、役職やレイヤーに関係なくリーダーシップは発揮できるし、会社経営に影響を与えられるということを強く実感しています。
だから正直、役職がどうとかは関係ない。現場からでも会社を動かしていけるぞってことを、背中で見せていけたらいいなと思いますね。
「見たい未来」をつくるためのシナリオ完成を目指し、いま何をすべきか選ぶ
ーーポジションの変更や専門領域など、お二人はこれまで自分のキャリアをどんな軸で選んできましたか?
成田:うーん、これまで「CTOになりたい」とか、マネジャーになってこのスキルを身に付けたいとか、そういう要素で自分のキャリアを考えたことはないですね。
星:僕もそう。役職とか、どの領域の人でいたいかという軸では自分のキャリアを考えていません。いつも考えているのは、「見たい未来をつくる」ために何をすべきかということだけ。
星:僕自身、料理が世界中で楽しくなっている状態をこの目で見てみたいと心底思っているから、その未来をなるべく早くつくるにはどうしたらいいかという視点でその時々で必要な選択をしてきました。
成田:キャリアって、どういうストーリーに乗っかるか、だと思うんですよ。
ーーストーリーですか?
成田:はい。自分はこのために生きている、だからこういう仕事をしている、それで何を果たしていきたいっていうのを、どういうストーリーに乗っけて語るかが「キャリア」なんじゃないかと思うんですね。
例えば、僕の場合はクックパッドという場所で、これから先もこの会社やプロダクトが世界中に影響を及ぼして、「毎日の料理を楽しくする」というミッションを成し遂げたい。
そのためにクックパッドの成長にコミットしたいし、僕がここにいたことによってそのミッションが成し遂げられましたという状態をつくりたい。これが、今の僕が働くシナリオ。
そのシナリオを完成させるためなら、その時々で、CTOやマネジャー、人事だってやる。こうじゃなきゃいけないという役割は決めず、常に柔軟でありたいとは思っています。
ーーそのシナリオ完成に向かう中で、今のベストな選択はエンジニアとしてコードを最前線で書くことだったと。
成田:はい。自分の柔軟性を保つためにも、いまは技術力を磨くことが大事だと考えました。
技術はユニバーサルなもので日本も海外も一緒。どこにでも持ち運びができるものですし、ちゃんと技術力があれば、解決できる課題が増えますから。
そうやって自分が見たい未来を自分の手でつくっていくための力を伸ばしていくことが、エンジニアがより良いキャリアを築くことにつながっていくのだと思いますね。
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太
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