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勝てるアイデアを生むために押さえたい六つの視点【連載:小城久美子】

働き方

『プロダクトマネジメントのすべて』小城久美子の

エンジニアのためのプロダクト開発

本連載では、プロダクト開発に携わるエンジニア読者向けに「成功につながるプロダクト開発」を実現するためのプロダクトマネジメントの基本の考え方や応用テクニックを、国内外の企業の優れたプロダクト開発の取組みを事例にとり、小城久美子さんがエンジニア向けに紹介・解説。明日からすぐに使える「いいプロダクト開発」をかなえるヒントを提供します。

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小城久美子(@ozyozyo

ソフトウェアエンジニア出身のプロダクトマネジャー。ミクシィ、LINEでソフトウェアエンジニア、スクラムマスターとして従事したのち、『LINE CLOVA』や『LUUP』などにプロダクトマネージャーとして携わる。そこでの学びを活かし、Tably社にてプロダクトマネジメント研修の講師、登壇などを実施。書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)共著者

第5回では、プロダクトを設計する際は機能ではなく、「どんな状態をつくりたいのか」を考えて設計する重要性をお話ししました。

ただ、頭で理解できても、いざ実践するとなると、ユーザーの解像度が低かったり、「次の状態」をどこに置くべきか検討できなかったりとかなり苦労をします。

ユーザーの解像度が低い場合は第3回の記事もご参考ください

「あるべきユーザーの状態」の仮説が立てられない場合は、新たな発想が必要です。一度全体を俯瞰して、プロダクトの仮説のミルフィーユのどの階層まで仮説を持てているのかを確認してみましょう。

仮説のミルフィーユ

今回はWhyの階層で新たな発想が必要なときを想定して、Coreと紐づく新たな仮説を立てる方法についてお話しします。

イノベーションには2種類ある

新たな発想を得るために私が多くを学んだのは書籍『イノベーションのジレンマ』『イノベーターのDNA』そして『ジョブ理論』です。全てクリステンセンが携わって書かれた書籍です。

クリステンセンはイノベーションには2種類あると言いました。これまでの製品を既存市場で改善し続ける「持続的イノベーション」と、これまでとは別の切り口で切った市場で競争する「破壊的イノベーション」です。

これらのイノベーションは性質が異なるので、イノベーションを生み出すプロセスも異なります。

koshiro

書籍『イノベーションへの解』より引用

1. 持続的イノベーション

持続的イノベーションとは、その名の通り今の延長線上での改善です。ユーザーとの対話によって継続的な成長をしていきます。

おそらく、今のロードマップでは勝てないことに気付いた方向けではありません。なぜなら、持続的イノベーションでは多くの場合、新規参入する企業に勝ち目はなく、既存企業が勝ちます。今勝てない方に必要なのは次に記載する「破壊的イノベーション」です。

\過剰品質に注意/
これは第5回でも紹介した図ですが、持続的イノベーションをするときには過剰品質に不必要なリソースを投下することがないように注意しましょう。

他社より高品質なプロダクトを作っているはずなのにユーザーに刺さらないときには、それはユーザーが求めていない品質を追求してしまっているのかもしれません。

koshiro

2. 破壊的イノベーション

破壊的イノベーションとは、新しい価値提案を実現するものです。新しい市場を生み出すものと、既存市場を大きく変えるものがあります。

例を挙げると、Netflixは破壊的イノベーションだといえるでしょう。Netflixは上場のわずか2年前である2000年初頭にブロックバスターに買収を打診して断られています。

その頃、アメリカのビデオレンタル市場を支配していたブロックバスターにとってNetflixは競合だと見なされていなかったのです。しかし、結果は皆さんご存知の通り、Netflixはビデオレンタル市場を破壊して新しい市場を生み出し、今やGAFAではなくFAANGだと言われるほどの企業になりました。

破壊的イノベーションを実施するためのヒントをいくつか紹介していきます。

a.「ユーザーがプロダクトを雇用する理由」を知る

今のロードマップで勝てないことに気付いたときも、まずは現状のプロダクトについて深堀りしましょう。そのプロダクトがなぜ使われているのかを明らかにするのは「ジョブ理論」です。

ジョブ理論の説明によく挙げられる例はとあるミルクシェイクです。そのミルクシェイクは「長時間運転して通勤する時間の暇つぶし&腹ごしらえ」という仕事をするために雇用されています。

だから、ミルクシェイクを改善するなら「より甘くする」とか「子どものおもちゃとセット販売する」のではなく、「ドライブスルーで買いやすい自動販売機の導入」であるという発想です。

こういった話をすると「そんなこと当然分かっている」とおっしゃる方がいます。しかし、このシンプルな「なぜプロダクトが雇用されているのか」という問いに正しく答え続けることに私はプロダクトをつくるリソースの大部分を使って良いと思っています。

書籍『ジョブ理論』を読まれていない方はぜひ一読することをお勧めします。

b. 競合ではなく、代替品を探す

今後の成長方針を考えるときに、競合と自社の機能をマッピングして足りていない機能を探すことがありますよね。もちろん、それが必要なときもありますが、競合に追随しているだけでは勝てる未来は近づきません。

この局面では競合ではなく自分たちが代替できるものを探しましょう。ユーザーにやりたいことがあるが、完了するまでに何らかの問題があるものです。

例えば、エクセルは万能ですが、請求書を管理するなら専用のSaaSを採用雇用したほうがずっとうまく進みます。

c. プロダクトではなく、プロセスを考える

プロダクトを改善するという考え方の延長線上ではプロダクトができることにアイデアが制限されてしまいます。

新しい価値を発想するときには、一度プロダクトに付随する制約を外し、ユーザーがやりたいことを完了するまでのプロセスから考えてみましょう。

ミルクシェイクを改善するために必要なのは車に乗って買いやすい自動販売機です。「ミルクシェイク」というプロダクト目線ではなく、ユーザーのカスタマージャーニーを書き出して見ることで新たなアイデアのヒントが見つかるかもしれません。

d. アイデアを既存ユーザーに評価させてはいけません

新たな価値を探索しにいくときに、既に今の価値で満足しているひとにアイデアを評価してもらってはいけません。

私はこれを「良さの定義が異なる」と呼びます。

もちろん、最終的には既存ユーザーも取り込んでいくことが望ましいですが、これまでとこれからではプロダクトの良さの定義が違うのです。

既に満足している既存ユーザーに評価されないアイデアだったとしても、アイデアを評価してくれる人を探しにいきましょう。

e. 持続的イノベーションと同じものさしで測らない

新しいアイデアを考えなければ勝てないときでも、プロダクトチームがやらなければいけないことは山積みです。ときに、新しいアイデアの仮説検証は、既に仮説が検証されていて確からしいアイデアと優先順位を争わなければいけないことがあります。

新しいアイデアは、まだユーザーが誰かも、どれだけユーザーに求められるかも分かりません。そのため、既存の機能と同じものさしで測ってしまうといつも優先順位が後回しになってしまいます。しかし、新しいアイデアを考えることの優先順位が本当に上がるときは、既存のプロダクトの負けが確定したときです。そうなる前にこそ、新しいことを考える時間をつくってください。

f. はやくマネタイズをする

新しいアイデアを形にしたとき、既存のプロダクトに比べて質が悪いためプライシングに及び腰になってしまうことがあります。

しかし、私が書籍『イノベーションへの解』の中で最も膝を打ったのは、先に目標とする財務目標を立てて、それに対して「どのような仮定の正しさが証明されれば、この目標が実現されるか?」を考えるということでした。

新しいアイデアこそ、早く仮説を検証することが必要です。お金を払ってでも使いたいと言われる深いインサイトに出会えていることを確認するためには、早くマネタイズを検討することで仮説が検証できる、という学びも共有させてください。

この記事を書き終えて

このロードマップでは競合に勝てない、と気付いたとき、肝が冷えます。

そんなプレッシャーを感じている状況で、発想力豊かに勝てるアイデアを出さなければいけない状況は本当にストレスです。

過去に新規事業創出のリードを担当していたとき、私は他のメンバーに「もうアイディエーションをしたくない!付箋をみるのが怖くなってきた!付箋恐怖症だ!」と叫ばれたことがあります。その頃の私は今よりもっと未熟で、アイデアを出すためにユーザーを観察することもせず頭の中にあるものだけからひねり出そうとしていました。

創造的であることはとてもむずかしいと感じます。そして、持続的なイノベーションと違ってそれがどれだけユーザーに求められるのかは「誰がユーザーなのか」から仮説検証しないと分からないため、チームで合意するのもむずかしいです。今回の記事がそんなむずかしい思いをしている人の背中を押すものとなれば幸いです。

参考文献

今回は私が多くを学ばせていただいた書籍をもとに執筆しました。

『イノベーションのジレンマ』(‎翔泳社)
『イノベーションへの解 Harvard business school press』(‎翔泳社)
『イノベーションの最終解』(翔泳社)
『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(日経BP)

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