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落合陽一も驚いた完成度の高さ。最優秀賞は「絶対に答えを教えない」家庭教師AIアプリ【ECDW2023 ChatGPTサービス開発ハッカソンレポ】

働き方

世間の話題を独占中のChatGPT。エンジニアたるもの、「使っているだけ」じゃもったいない! ということで、ECDW2023(※)では、ChatGPTを使ったサービス開発を行うハッカソンを6月24日(土)に開催。

審査員を務めたのは、メディアアーティストの落合陽一さんはじめ、Ruby生みの親であるまつもとゆきひろさん、競技プログラミングコンテストを主催するAtCoderで代表を務める高橋直大さん、ベンチャーキャピタルのYazawa VenturesでFounder兼CEOを務める矢澤 麻里子さんの4人。

総勢24名・8チームが参加し、アプリ、ゲームなどChatGPTを活用した各種サービス開発に挑戦した。

本記事ではイベントの様子と合わせて、最優秀賞・エンジニアtype賞を受賞した2チームの作品について紹介しよう。

(※)2023年6月21日(水)~25日(日)の5日間にわたり、エンジニアtypeが主催したテックカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2023』

「自由度が高すぎるChatGPT」をどう生かす?

ハッカソン当日は、審査員と参加者全員そろっての開会式からスタート。各審査員の自己紹介とともに、参加者へのエールが送られた。

落合さん

ここ数年でAIがだいぶ進化して、今では関数を呼び出すくらいのレベルでChatGPTが使えるようになっています。

だからこそ、どうやったら処理のばらつきを抑えこめるか、エラーを起こさないように作りこめるかがChatGPTをテーマにしたハッカソンでは重要。面白い作品が出てくるのを期待しています。

まつもとさん

人間と同等かそれ以上に、プログラミング言語も自然言語も扱えてしまうChatGPT。

そんなすごいものが出てくると新しい可能性も生まれそうですが、まだ出てきていない。今回のハッカソンでは、ChatGPTに人間の知恵を加えて、ブレークスルーにつながるようなプロダクトに出会えるとうれしいです。

高橋さん

ChatGPTは便利だし、世界を変えそうな雰囲気もあるけれど、現状はそうなっていません。それは『○○のために使うもの』といった前提を持つ一般的なITツールと比べて、自由度が高すぎるからだと感じています。

世の中の多くの人はChatGPTを使いこなせない側にいるので、このハッカソンではどういうふうにユーザーに提供していくのかを考える点がミソになってくるのかなと思います。

矢澤さん

VC界隈でもChatGPTやLLMの注目度は年々高まってきていますが、柔軟性が高いテクノロジーゆえに、事業やプロダクトになりきれていないものも多くあります。

それだけに、このハッカソンから事業化するような面白いプロダクトが生まれてくることを楽しみにしています。

審査員から寄せられた期待に、参加者も気を引き締めた様子だった。

今回のハッカソンの審査基準は三つ。

(1)イノベーション性
(2)事業としての成長可能性
(3)完成度(クオリティー)

(1)~(3)の三つの観点で審査員が評価し、最も総合評価が高いチームには「最優秀賞」。最もイノベーション性の評価が高いチームには「エンジニアtype」賞が贈られた。

当日参加したのは全8チーム。まずは提出された作品の概要は次の通りだ。

・地域の観光、不動産、災害情報が一元的に見れるプラットフォーム(チーム「Tech Girls」)
・コミュニケーション能力向上ゲーム(チーム「ミステリアス・コードナイツ」)
・学生/会社員向けプレゼンスライド生成サービス(チーム「チバブー」)
・GPT×VRを活用した、AIペットによる未来のSNS(チーム「VR IMAGINATORS」)
・議論や会議のトピック提案/アイデア出し/活性化促進ツール(チーム「ご注文は豆腐職人ですか?」)
・歴史的偉人AIと学ぶ英語学習ツール(チーム「プロメテウス」)
・賞金がもらえるAIチャット『ワードハンター』(チーム「チームりょうま」)
・勉強・宿題の質問投稿サイト『StudyPocket』(チーム「n次元ポケット」)

では、いよいよ入賞作品をご紹介していこう。

最優秀賞:勉強・宿題の質問投稿サイト『StudyPocket』

最優秀賞に輝いたのは、チーム「n次元ポケット」。開発したプロダクトは、家庭教師AIが回答してくれる勉強・宿題の質問投稿サイト『StudyPocket』だ。

「たった1日でここまでつくるとは、驚くべき完成度」、「生成AIやGPTを利用できるか否かが格差を助長する。そうした懸念へのアプローチもよかった」と全審査員が絶賛したプロダクトについて、開発者の一人・もっちさんは次のように説明した。

「『StudyPocket』は、生成AI技術を用いて、学習アシスタントAIが答えを教えることなく、生徒・ユーザーとともに考え方や解き方を導くことを目標としたアプリです。

宿題や勉強の相談という学生の明確なニーズに対して、チャットを通じて『考える力』『知的探究心』『批判的思考』を磨くための対話文脈の構築を目指しました」

ハッカソンイベントレポート

例えば「なぜ雲は白いのですか?」という質問に対し、一般的な対話型AIサービスでは、知識として回答結果をすぐに出力・提供しますが、「宿題ポケット」ではステップを踏んで生徒の宿題の質問に寄り添いながら、すぐに答えは教えずに、徐々にヒントを開示したり、分かりやすい例え話に置き換えたりして解説を行いながら、生徒自身が答えにたどり着くことを支援します(参照元

完成度もさることながら、審査員をうならせたのはその開発意図だ。

「世間では今、生成AIの活用の是非について議論されています。例えば、『宿題にAIを使わせるのはやめた方がいい、規制しよう』という声もありますが、おそらくリテラシーの高い人は規制されようとも、巧妙にAIを使いこなして学習を効率化するはずです。

現状、ChatGPTに代表される生成AIサービスは、誰もがうまく使えるものではありません。使用の是非よりも、一部の使える人だけが使いこなし、結果的に大きな格差が広がることの方が問題だと思っています。

さらに問題なのは、議論はされど誰も具体案を出していないこと。だから私たちは、このハッカソンを機に、手を動かして実装しようとなりました」(もっちさん)

ハッカソンイベントレポート

また、『StudyPocket』の特徴の一つとして「質問をRegenerate(再生成)することができる」点を挙げた。これは、自分が入力した質問をもとに新しい質問が再生成される機能だ。

「既存の文脈・質問と回答のセットをもとにした、類似または抽象化・具体化された異なる五つの質問トピックをランダムにその場で生成することが可能です」(もっちさん)

ハッカソンイベントレポート

「対話型AIを使ってみたけど、どう質問したら良いか分からない」「AIを使いこなしている人が、どんな切り口で質問しているのか知りたい」などのニーズに応える機能(参照元

収益化については、個人向けサブスクと教育機関向けSaaSで考えているという。

ハッカソンイベントレポート

発表内容を聞いた高橋さんは「生成AIと人間がどう関わるべきか。そのことを考えた上で、あるべき未来をちゃんと企画に落とし込んでいる点がすばらしい」とコメント。

まつもとさんは、「プレゼンテーションに使われたデモ動画を含め、ほぼ1日で開発したという開発スピードに驚いた。私自身、生産性は高い方だと自負していたが、私より何百倍も高くて感心しました」と称賛を送った。

エンジニアtype賞:賞金がもらえるAIチャット『ワードハンター』

続いて、最もイノベーション性が高く評価されたチームが選ばれるエンジニアtype賞に輝いたのは、チーム「りょうま」だ。

開発したプロダクトは、日替わりで出されるお題に対して答えると賞金がもらえるAIチャット『ワードハンター』。

LINEを通じて毎日配信される「あるフレーズ」を、AIに一言一句違わずに言わせることができたらクリアとなり、ポイントを獲得。貯めたポイントで賞金を獲得できるチャンスがもらえるという仕組みだ。

ハッカソンイベントレポート
ハッカソンイベントレポート

ハッカソン当日にデモ画面を見せてくれた際のお題は、「今日のフレーズ:206本」だった。

例えば、「200+6は?」あるいは「人間の骨の数は?」など、AIに「206本」と答えさせるための問題を入力する。

ユーザーは、AIが答えにたどり着けるよう問いを考えるわけだが、その試行錯誤を通じて自然と「プロンプトの出し方が学べる」のがコンセプトだ。

会話の数に利用制限を設け、課金型のプレミアム会員のみ利用を無制限とすることでマネタイズが検討されている。

ハッカソンイベントレポート

上記の例において、利益を得るには27人の課金ユーザー(月額400円)が必要で、アクティブユーザーのうち、課金ユーザーが3%を上回れば十分に収益化が見込める設計だ。

このマネタイズ方針について、落合さんは「収益性が議論されている点が非常によかった。課金ユーザーの見込みは3%と少ないが、その3%の人たちがコンバージョンしてくれるように設計すれば、たとえ課金ユーザーが多くなくとも収益が見込めると踏んでいる点が今時なつくりで好印象」とコメント。

矢澤さんは「このサービスを使う目的は、賞金を得るためなのか。プロンプトの出し方がうまくなるためなのか。どちらかに絞ってみるとよりプロダクトとして洗練されそうですね。プロンプト上達が目的なら、もう少し長い文章を打ち込めるようにするといいかも」とアドバイスを送った。

ハッカソンイベントレポート

上記QRコードからローンチ前のサービスをお試し利用できるほか、2023年9月1日に正式リリースを予定しているそうだ(『ワードハンター』公式Twitter

「明日にでもデプロイできてしまうレベル」審査員の驚きとともに閉幕

最後は、審査員からの講評をもってハッカソンを終了。4人の審査員は、「とてもレベルの高いハッカソンだった」と口をそろえ、参加者へ称賛の言葉を送った。

落合さん

短時間だったにも関わらず、優秀な作品ばかりで驚いた。今回はChatGPTでの開発でしたが、今後GPTの仕様が変わる可能性もあるし、他のLLMも続々と出てきている。

もしかしたらAPIを叩くより、自分で作ってしまった方がはるかに低コスト.....なんてことも出てくるでしょう。今後ますます状況は変わると思いますが、今回のハッカソンがそうした議論を含めて考えを深めていくいい機会になったと思います。

まつもとさん

ChatGPTどうこうより、参加者の皆さんの生産性の高さにとにかく驚いたハッカソンでした。全参加チームをほめたたえたい気持ちです。

一方で、もったいないなと思うチームもあったのは事実。特に、アイデアをプレゼンしきれてないチーム。いい作品ができてもアイデアが伝わらないと判断しきれないんです。もし次回開催があるならそのあたりを修正するといいのでは。

高橋さん

生産性と完成度が高くて本当にびっくりしました。ハッカソンってこんなものじゃないんですよ。もっと未完成な作品ばかりで、『一日でつくれるのってこのくらいだよね~』で終わるのが普通です(笑)

また、今回賞をもらえなかったチームには、TwitterのRTでシェアされたら話題になっちゃうようなユニークなサービスも多かった。僕は案外そんなサービスが好みで、使っちゃうケースも多いので、ぜひ継続して開発し続けてほしいなと思います。

矢澤さん

他の審査員のみなさんもおっしゃっていますが、レベルの高いハッカソンでした。とはいえ短時間での開発だったので、皆さん自身の中で『まだまだつくりこめなかったな』と思う点も多かったのではないでしょうか。

ハッカソンはここで終わりますが、ぜひ浮かび上がった課題点をどう改善し、発展させていくのかを考えて、実用レベルに落とし込んでみてほしいなと思います。

ハッカソン開催から約1か月が過ぎ、賞を受賞した2チームはおのおの改善を重ね、ローンチまでこぎつけている(うち1チームは9月にローンチ予定)。

正味、7時間程度の開発時間しかなかった同イベントだが、参加したエンジニアのみなさんが、今後の仕事やキャリアを考える上でヒントとなるような学びを得ていたら、企画運営したエンジニアtype編集部一同、これ以上うれしいことはない。

「技術者のキャリアを考える」エンジニアtypeらしく、今後もエンジニアがワクワクするようなコンテンツやイベントを提供していきたい。

>>『キャリアデザインウィークECDW』のイベントレポート一覧はこちら

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メディアアーティスト
落合陽一

1987年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターセンター長、准教授・JSTCRESTxDiversityプロジェクト研究代表。IPA認定スーパークリエータ/天才プログラマー.ピクシーダスト テクノロジーズ代表取締役. 2017年 - 2019年まで筑波大学学長補佐,2018年より内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査会委員,内閣府「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員及び内閣府ムーンショットアンバサダー,デジタル改革法案WG構成員,2020-2021年度文化庁文化交流使,大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを歴任. 2015年WorldTechnologyAward、2016年PrixArsElectronica、EUよりSTARTSPrizeを受賞。LavalVirtualAwardを2017年まで4年連続5回受賞、2017年スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeadersofTomorrow選出、2019年SXSWCreativeExperienceARROWAwards受賞、2021年MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan ,2021 PMI Future 50、Apollo Magazine 40 UNDER 40 ART and TECHなどをはじめアート分野・テクノロジー分野で受賞多数(Photo (c)中川容邦/KADOKAWA)

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Ruby生みの親・開発者 Rubyアソシエーション理事長
まつもとゆきひろ

1965年生まれ。筑波大学第三学群情報学類卒業。プログラミング言語Rubyの生みの親であり、一般財団法人Rubyアソシエーション理事長。 ZOZOやLinkers、LIGなど複数社で技術顧問などを務めている。オープンソース、エンジニアのコミュニティ形成などを通じて、国内外のエンジニアの能力向上やモチベーションアップなどに貢献している。島根県松江市在住

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AtCoder(株) 代表取締役
高橋直大

1988年生まれ。筑波大学附属駒場中学校・高等学校、慶應義塾大学環境情報学部を経て、慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。 大学院在籍中にMicrosoft主催のプログラミングコンテスト『Imagine Cup 2008』に出場し、アルゴリズム部門で世界3位に入賞した経験を持つ。2012年、大学院在学中に競技プログラミングコンテストを主催するAtCoder社を創業。 現在はレーティングを活かした求人サービスAtCoder Jobsを手掛けるほか、19年には『アルゴリズム技能検定』を開始。2022年にはGoogle主催のプログラミングコンテスト「Google Hash Code 2022」で優勝

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(株)Yazawa Ventures Founder and CEO
矢澤 麻里子

ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・及び個人与信管理モデルの構築などに携わる。 その後、サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立

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