EMの役割、成果、キャリアの正解って?
現職EMたちのリアルやるべきことの多さに比例して、悩みも増えがちなEM。にも関わらず、参考になる打ち手やお手本になるロールモデルがまだまだ少ないのが現状だ。そこで本特集では、複数名の現職EMにインタビュー。所属する開発組織の規模や成長フェーズ、扱うプロダクトによって、その役割も千差万別な現職EMのリアルを紹介。EMはどんな役割を担い、どのように成果を出しているのか。また、'EMその後”のキャリアをどう見据えているのか。そんな実態に迫ってみた。
EMの役割、成果、キャリアの正解って?
現職EMたちのリアルやるべきことの多さに比例して、悩みも増えがちなEM。にも関わらず、参考になる打ち手やお手本になるロールモデルがまだまだ少ないのが現状だ。そこで本特集では、複数名の現職EMにインタビュー。所属する開発組織の規模や成長フェーズ、扱うプロダクトによって、その役割も千差万別な現職EMのリアルを紹介。EMはどんな役割を担い、どのように成果を出しているのか。また、'EMその後”のキャリアをどう見据えているのか。そんな実態に迫ってみた。
EM(エンジニアリングマネジャー)はどのようなミッションのもと、どんな役割を担っていけば良いのか。
企業規模も、背負うミッションもさまざまなEMの声を聞いてきた本連載。その最終回を飾るのは、自然言語処理、画像認識、機械学習/深層学習技術などのAIソリューション及びAI SaaSを展開するPKSHA Technologyだ。
同社でEMを務める三好良和さんは「自分自身が大事にしている業務は採用業務」と話す。その真意とは? 三好さんが感じているEM職のやりがいとともに話を聞いた。
PKSHA Technology
エンジニアリングマネージャー
三好良和さん
情報系の大学院を修了後、ヤフーに入社。6年間、映像配信サービスのフロントエンド開発を担当。その後、ソーシャルゲーム会社で開発運用を担当し、フロントエンドからバックエンド、SREやエンジニアマネージャーまで幅広く経験。2020年にPKSHAグループにジョインし、AI SaaSプロダクト群のエンジニアリングマネージャーを担当
ーーはじめに、三好さんが所属している組織の概要を教えてください。
私が所属しているAI SaaS開発本部は、大きく分けると「PKSHA Chatbot」「PKSHA AI ヘルプデスク for Microsoft Teams」「PKSHA Voicebot」の3つのプロダクトがあり、それぞれ組織編成が異なります。
私はPKSHA AI ヘルプデスク for Microsoft TeamsとPKSHA VoicebotのEM担当をしていますが、AI SaaS開発本部には新機能開発などの0→1を担当する1,2名のチームが2つ、安定してプロダクトを保守運用しつつ、成長させていく5,6名のチームが3つある感じですね。
ーーPKSHA Technologyでは2019年に初めてEM職を設けたそうですね。
はい。EMを配置するまでは「CTO対エンジニア複数」でしたが、エンジニアの人数が30名を超えたあたりで組織構成を変えようとなりました。
EM制度が導入されたのは、一人一人のエンジニアに、適切な粒度と頻度でサポートに入る必要性があったからです。
ただ、EM職を担える人数が多くはないこともあり、現在は私を含む3人のEMが複数のプロダクトを横断的に見ています。
ーーEM制度導入から現在に至るまで、EMの役割にも変化はありましたか。
最初は今よりもEMの担う範囲が広く、テックリードの領域である技術選定などもEMが担当していました。ただ、現在はピープルマネジメントと組織マネジメントが中心になっています。
というのも、当社ではプロダクトごとに採用している技術と必要なドメイン知識がかなり違うので、プロダクトが大きくなってくるとEM一人では十分に見きれないことから、チーム状況に合わせてテックリードを配置しています。
結果、状況は改善し、技術面に関してより解像度の高いディスカッションや指針、迅速な決断ができるようになりました。
プロダクトに実装する機能や提供する形の決定は、各チームに置かれたプロダクトマネージャーに委ねられています。
私たちのように複数のプロダクトを一人のEMが見なければならない状況においては、適切な役割分担が、EMやチームの生産性を高める上でのポイントになると思います。
ーー現在のPKSHA TechnologyにおけるEMのミッションは?
「チームのアウトプットの最大化」がEMのミッションです。そのためにするべきこととして重要なのは、大きく三つ。一つ目は技術者の採用、二つ目はエンジニアのエンゲージメント維持向上、三つ目はプロダクト品質の向上です。
採用に関しては年間の採用目標があり、人事と協力して到達を目指しています。
エンゲージメント向上に関しては、社員のエンゲージメントを測定するサーベイが定期的に実施されているので、その数値を参考にしながらEMが中心となってプロダクトマネジャーやテックリードとともに施策を検討しています。
プロダクト品質の向上については、できるだけ事故や不具合の影響を限定できるような技術への変更をテックリードやSREと相談しながら導入したり、開発プロセス上にテストの自動化を含むQAプロセスを組み込むことで、プロダクトの可用性を高め、メンバーが事故対応に多くの時間が取られることがないことを目標にしています。
ーー現在はピープルマネジメント中心ということですが、採用業務にも積極的に関わっているのですね。
はい。人事はリード獲得のためのマーケティング施策を、EMはJD(Job Description)の作成、採用基準の策定やスカウトメール文面の検討から送付判断、面談や面接の実施を行っています。採用広報のためのコンテンツ制作などは、人事とEMが協力して行っています。
優秀なエンジニアを1名採用できるだけでプロダクトやチームが大きく成長・前進することが往々にしてあるので、「採用」はEMの役割の中でもかなりレバレッジが効く貢献であり、重要な業務だと考えています。
そして、採用したエンジニアを育て、エンゲージメントを高めていくところまで含めてEMが担当。育成については、PKSHAはグレード制を採用していてグレード毎に期待する役割や要件、責任をGithub上で明文化しているため、それをベースに次のグレードに向けて期待することを本人とすり合わせ、チャレンジしてもらうことで成長を促しています。
ーーエンゲージメント関連施策はサーベイをもとに柔軟に検討しているとのことですが、なぜそのような方法を取っているのでしょうか?
エンゲージメントの度合いは決して一定しているものではなく、短期間で上下し得るものだからです。
実は以前、私のせいでこの数値が大幅に下がってしまったことがありました。本来であればEMである私が経営の意図を咀嚼して自分の言葉でメンバーに伝えるべきところ、当時はその役割をうまく果たせなかったのです。
この経験を通じて、高いエンゲージメントを保つためにはEMが経営ともメンバーともしっかりとコミュニケーションを取り相互に理解しあうことに努めることも改めて大切だと学びました。
同時に会社のバリューを社内に浸透させる重要性も実感しました。当社では毎週月曜日に朝会があるのですが、マネジャーが10分ほど自分の個人的な経験を踏まえた仕事論や考えを会社のバリューと絡めて全社員に向けて発表しています。
私は前回、リーダークラスの人材に求められる思考法をテーマに話しました。朝会は、会社のバリューやマネジメントの考え方をメンバーに伝える上で効果的な機会になっていると思います。
ーーちなみに、エンゲージメント向上施策としてはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
例えば、長く在籍しているメンバーだと、同じことの繰り返しでマンネリ化するケースも多いので新しいことにチャレンジしてもらう取り組みを意識的に導入してみたり、勉強会を開いてエンジニア同士での交流を促したり、他のプロダクトや事業部に移り全く新しいことにチャレンジするといったことも比較的柔軟にしています。
やっぱり新しい知識や経験を適宜取り入れることが、エンゲージメントやモチベーションアップに繋がっていくと思います。
ーーEMとしてどのような瞬間にやりがいを感じますか?
先述したように、当社のEMは採用プロセスに深く関わっているので、採用した方が社内で活躍しているのを見るととてもうれしく感じます。
たった一人の入社がきっかけで開発のボトルネックが解消されたり、プロダクトの質が大幅に向上したりするので、これからも各チームにとって必要なエンジニアをたくさん採用してプロダクトの成果につなげていきたいですね。
その他には、開発プロセスの改善に成功したときもやりがいを感じます。以前担当していたChatbotのプロダクトでは、毎週新しい機能をリリースしていたのですが、1週間の中で開発とテストを繰り返すスケジュールだったので、QAに過度な負担がかかっていました。
そこで私は、開発とテストのサイクルを2週間ごとにし、一つの機能のテスト中に開発チームが別の機能の開発に取り組めるようにスケジュールを組み直しました。するとQAの負担が大幅に緩和されただけでなく、QAのフィードバックをテスト期間中に修正することもやりやすくなり、プロダクトの品質向上につなげることができたのです。
このように組織横断的に動けるEMならではの価値を発揮しやすい業務には、積極的に取り組むようにしています。
ーーEMというポジションに対して抱いている課題はありますか?
リーダー層の人材育成をどのように行うかという点ですね。
当社では複数の領域にジェネラルかつ高いレベルで対応できるエンジニアが活躍しており、今後はマネジメント人材を確保する観点からも、そのような人材を増やすことが求められています。
そこでEMとしては、見込みのあるエンジニアにはマネジメントに挑戦する機会を積極的に与えるようにしています。まずは3、4人の少人数のチームから任せることからスタート。そこで適性を判断しています。
エンジニアの中にはスペシャリストを希望する人もいますが、マネジメント業務の得意不得意は一度は経験してみなければ分かりませんから、機会は幅広く提供しているんです。
その結果、マネジメント業務へ興味を持つ人もいれば、やはりスペシャリストとしてのキャリアを追求したいという人もいるので、その後のキャリアについてはエンジニアの意向を優先しています。
ーーEMを経験すると、その後どのようなキャリアパスを描けるようになるでしょうか。
EMを束ねるマネジャーや、VPoEなどが展望できると思います。私自身は組織横断の取り組みを今後も続けていきたいと考えているので、プロダクトや会社横断で技術的な支援をしていくCCoEのような役割にチャレンジできると会社にとっても自分にとっても良さそうだと考えています。
ーーEMは組織全体をより良い方向に導くスキルを磨けるポジションと言えそうですね。
そうですね。EMを経験すると、一つの課題に対して幅広い解決策を検討できるようになります。視座が高まり、視野も広くなるのは間違いありません。
「将来は全社的な施策に関わりたい」「組織横断的な働きがしたい」と考えている方にとって、EMの経験は必ずプラスに働くと思います。
取材・文/一本麻衣 写真/PKSHA Technology提供 編集/玉城智子(編集部)
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