デジタルツインとは? シミュレーションとの違いやできること、活用事例を解説
AIやIoTなどの技術が注目されるとともに、「デジタルツイン」という言葉もよく耳にするようになりました。
デジタルツインとは、収集したデータをもとに現実世界を仮想世界に再現する技術で、近年製造業や都市開発などを中心に導入が加速しています。この記事ではデジタルツインの概要からメリット、用途、実際の企業での活用事例まで詳しく解説します。
目次
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、物理空間(現実世界)を仮想空間に再現する技術です。ツイン(双子)という言葉が表すように、AIやIoT、VR、ARなどの最新技術を駆使して物理空間にある情報を収集し、構造や状況を仮想空間にそのまま双子のように再現します。この物理空間をリアルに再現した仮想空間で、高度なモニタリングやシミュレーションなどを実現できる技術です。
デジタルツインとシミュレーションの違い
デジタルツインはシミュレーション技術の一つですが、従来のシミュレーション技術との違いは物理空間の変化をリアルタイムで仮想空間へ反映できる点です。IoTによって収集されたデータはクラウド上のサーバーにリアルタイムで送信され、AIが分析・処理することで物理空間に生じた細かな事象も把握できます。これによりデジタルツインは、物理空間の将来の変化までもシミュレーションすることを可能にしているのです。
また実際に本物に似せた空間を作り実験を行う従来のシミュレーション技術と異なり、仮想空間では費用や規模といった制限にとらわれることもありません。これまでよりもさまざまなシミュレーションを実施しやすくなり、新たなサービス開発やビジネスモデルの発見につながります。
デジタルツインとメタバースの違い
近年よく耳にするメタバースも、仮想空間を利用するためデジタルツインと混同しやすいかもしれません。
メタバースとは人々がさまざまなコミュニケーションや経済活動を行うことを目的とした仮想空間のことです。一方でデジタルツインの目的は現実世界では難しい高度なシミュレーションを行うことであるため、この点で大きな違いがあります。
デジタルツインでは現実世界を忠実に再現するのに対し、メタバースには現実世界に実在するもの・しないものが混在します。またメタバースでは、通常デジタルツインでは用いないアバターを利用することも特徴です。
デジタルツインが注目される理由
デジタルツインの概念自体は1960年代から存在しており、意外なほどにその歴史は古いです。近年特に注目され導入が拡大している理由は、AIやIoTなどの技術が飛躍的に発展したことにあります。これらの技術によって物理空間の解像度・再現度が劇的に向上し、実用化が進みました。
また、多くの企業が推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)においては、膨大なデータの効果的な活用方法が課題となっています。デジタルツインは膨大なデータを収集・分析することで仮想空間への物理空間の再現・シミュレーションを行うため、新たなデータ活用方法としても注目を集めているのです。
デジタルツインのメリット
デジタルツインを導入することで得られる具体的なメリットについて見ていきましょう。
生産性の向上
デジタルツインは、リードタイムを短縮して生産性を向上させるために役立ちます。例えばリアルタイムで作業員の稼働状況や負荷などのデータを収集して分析することで、最適な人員配置やスケジュールなどをシミュレーションすることが可能です。また、繁忙期などの需要変化に応じたシミュレーションも効果的でしょう。
品質の向上
デジタルツインでは物理的な制限がないため、仮想空間で何度も製品の試作を繰り返すことが可能です。これまでよりも細かな欠陥や改善点を発見しやすくなり、品質の向上につながるでしょう。また生産ラインの稼働状況なども含めてシミュレーションすることで、生産時のリスクも低減します。
コストダウン
製品の試作を仮想空間で行うことは、物理空間で行う場合に比べてコストを抑えられます。またシミュレーションにより業務プロセスを最適化することで、時間や人員、費用などのコストも大幅に削減できるでしょう。
設備保全
これまで生産設備などにトラブルが発生した際は、現場からのレポートなどをもとに原因を調査して解決していました。しかしデジタルツインを導入すれば、リアルタイムでトラブルを検知できるため、よりスムーズに原因究明と解決ができます。また稼働状況などのデータを分析してシミュレーションすることにより、今後発生しそうなトラブルを事前に予測してアラートを出すといった予防保全も可能です。
アフターサービスの充実
出荷した製品にセンサーを取り付けてデジタルツインで使用状況をリアルタイムで確認できれば、バッテリーや部品などの消耗状況を把握して最適なタイミングでアフターサービスを提供できます。また実際の使用状況のデータは、今後の商品開発やマーケティング施策にも活かせるでしょう。
デジタルツインの用途
デジタルツインの技術はどのように活用できるのでしょうか。一例ですが、業界別にデジタルツインの用途を解説します。
製造業
製造業は現在もっともデジタルツインの導入が進んでいる業界の一つです。
まず新製品開発時の試作を仮想空間で行うことで、コストやリスクを大幅に抑えます。また工場の生産ラインをシミュレーションすることで、適切な人員配置やスケジュール設定を行いリードタイムを短縮します。さらに稼働状況をモニタリングすることで、トラブル発生時にも迅速に対応したり、トラブルを事前に予測したりすることが可能です。
建設業
建設業ではデジタルツインが品質向上やリスク低減のために活用されています。仮想空間では物理空間に比べて、建物の設計や施行のシミュレーションをさまざまなパターンで数多く行うことができるからです。また施工計画をシミュレーションしたり、進捗データを分析したりすることにより業務の効率化も実現します。
医療業
医療機器のモニタリングや病院業務のオペレーション改善をはじめ、患者一人一人に合わせた医療サービスを提供するためにも役立ちます。継続的に生体データや生活データを収集して一人一人に対するモデルを作成し、そこに疾病や現症を再現することで、どのような治療が有効かシミュレーション可能です。これまでよりも最適な治療計画を立てられるようになるでしょう。
農業
農業においてもデジタルツインは生産性向上のために役立ちます。土壌や温度、農作物の生育状況などのデータをセンサーやカメラで収集し、デジタルツイン上で農作物に与える外部環境の影響をシミュレーションできます。この結果に基づいて農作物を植える時期や生育方法を判断し、収穫量の向上につなげることが可能です。またシミュレーションにより病害虫や気候変動リスクを把握し、適切な対策を行うこともできます。
都市開発
都市開発にもデジタルツインを活用できます。環境や人流、交通量などを含めた都市全体を仮想空間に再現してシミュレーションを行うことで、交通渋滞の解消や人流・物流の最適化、災害対策などさまざまな都市問題を解決するヒントになるでしょう。
デジタルツインを支える技術
次に、デジタルツインを実現するために活用される技術について解説します。
IoT
IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノがインターネットと接続して通信を行う技術です。デジタルツインではセンサーなどのIoT技術によって物理空間のデータを収集し、インターネットを介して仮想空間を構築します。
AI
AI(Artificial Intelligence)は、人間の知能を人工的に再現する技術です。デジタルツインでは膨大なデータを分析するために活用されます。近年のAIの発展により、デジタルツインでの高精度な分析や将来予測を可能にしています。
5G
5G(5th Generation)はこれまでの移動通信システムに比べて、大容量のデータを超高速・超低遅延で送受信できる技術です。デジタルツインはリアルタイムで仮想空間へデータを反映するため、5Gが必要不可欠といえます。
AR・VR
VR(Virtual Reality)は仮想空間を現実世界のように見せる技術で、AR(Augmented Reality)は現実世界にデジタル情報を加えて拡張する技術です。デジタルツインは、これらの技術を応用することで、仮想空間を現実味を持って体験できるようにしています。
CAE
CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータで製品の設計や開発などのシミュレーションを行うシステムです。デジタルツインでは仮想空間でのシミュレーションにCAEを用います。
デジタルツインの活用事例
ここからは、実際にデジタルツインを活用している企業の事例を紹介します。
MaaS実現にデジタルツインを活用(デンソー)
自動車メーカーのデンソーは、MaaS(Mobility as a Service=すべての交通手段による移動を一つのサービスとしてシームレスにつなぐ概念、またはそのサービスのこと)を実現するための技術としてデジタルツインを掲げています。
仮想の都市空間に都市内のすべてのモビリティを再現し、環境情報や移動需要、運転⼿の健康状態などのデータを瞬時に解析します。この情報をもとに適切なサービス提供を行うことが目的です。
出典:DENSO MaaS IoTでクルマがつながる。ヒトとモノの移動がかわる。 | イノベーション | DENSO – 株式会社デンソー / Crafting the Core /
デジタルツインで安心安全な街づくりを支援(富士通・Hexagon)
公共安全ソリューションを提供する米Hexagon Safety, Infrastructure & Geospatial divisionと総合ITベンダーの富士通は、デジタルツイン技術を活用して自然災害や交通事故の被害を予測するユースケースを開発しました。
両社はそれぞれがもつサービスを活用して、デジタルツイン上で事前に災害の脅威やそれに対応するための対策の効果を検証し、最適な施策を探索します。例えば洪水予測モデルと降水量データから高度な洪水シミュレーションを行うことで、災害拠点病院のインフラ被害予測や災害対応計画の策定などを支援することが可能です。ほかにも医療、金融、流通などの各業界の課題を予測できます。
出典:Hexagonと富士通、自然災害や交通事故から人々を守り、安心安全な街づくりを支援するデジタルツインを活用したユースケースを開発 : 富士通
ITエンジニアがデジタルツインに携わるには
総務省によると、世界のデジタルツインの市場規模は2020年の2,830億円から、2025年には3兆9,142億円にまで成長すると予測されています。現在では製造業や建設業での導入が目立ちますが、今後はあらゆる業界に導入が広がり当たり前に使われる技術となっていくでしょう。
そのため、デジタルツインを活用したシステムやプラットフォームの開発需要が高まることが予測できます。ITエンジニアがデジタルツインに関連する仕事に携わりたい場合は、本記事で紹介したデジタルツインを支える技術を習得すべきです。特にIoTの知見は重要といえます。ほかにもデータ処理・分析を行うスキルも求められるでしょう。
さまざまな業界へ可能性の広がるデジタルツインに注目しよう
デジタルツインは物理空間を仮想空間に再現する技術で、高度なモニタリングやシミュレーションなどを実現します。製造業や建設業を中心に導入が進んでいますが、あらゆる業界に活用できるため今後さらに拡大していくでしょう。
同時にデジタルツインに知見のあるエンジニアの需要も高まっています。デジタルツインに少しでも興味や可能性を感じる方は、ぜひIoTやAIなどのデジタルツインを支える技術を積極的に習得してみてはいかがでしょうか。
文/江副杏菜
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