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最低ラインは280万円~USのロボコン『FRC』に日本で初めて挑む高校生集団が、自ら資金集めに奔走するワケ

ITニュース

    「ロボコン」。

    ロボットによる競技会を表すこの言葉、工業系の学生ならずとも一度は耳にしたことがあるだろう。

    高校生を対象としたロボコンにおいて、最高峰とも言われているのが、17カ国、2700チームが登録し、毎年3月~4月にアメリカで開催されている『FRC(First Robotics Competition)』である。

    2015年3月に開催される次回のFRCに、日本のチームとして初めて出場するチームがある。都内の同じ工業系高校に通う高校生たち10人で結成された『Tokyo Technical Samurai』だ。

    そもそも、なぜ今まで日本のチームが出場してこなかったのか。その理由を『Tokyo Technical Samurai』のメンバーである、笠井信宏くん、大塚耀くん、川端唯人くんに聞くと、「理系学生の青春」といったロボコンのイメージとはかなり異なる難しさがあるという。

    (写真左から)2015年の3月のFRCに挑む『Tokyo Technical Samurai』の笠井信宏くん、大塚耀くん、川端唯人くん

    (写真左から)2015年の3月のFRCに挑む『Tokyo Technical Samurai』の笠井信宏くん、大塚耀くん、川端唯人くん

    立ちはだかる「製作期間の短さ」と「資金調達の壁」

    『FIRST』の基本理念を読むことができる『FRC(First Robotics Competition)』の公式サイト(英語)

    『FIRST』の基本理念を読むことができる『FRC(First Robotics Competition)』の公式サイト(英語)

    普段の授業で情報システム分野を専攻する笠井くんはソフトウエアを、機械システム分野を専攻する大塚くんと川端くんはハードウエアを、『Tokyo Technical Samurai』でそれぞれ担当している。チームの中には他にも電気電子分野を専攻する生徒などがおり、ロボット製作に必要な専門技術をチームで補い合っているという。

    しかし、ただ、「作る」だけでは参加できないのがFRC。出場に際しては、とても厳しい制約があると笠井くんは話す。

    「まず1つめはロボット製作のルールです。この大会は競技内容が毎年変わるため、それが決まってからじゃないと製作に取り掛かれないのです。競技内容が決まり、ロボットの基本キットが送られてくるのが大体1月の上旬。そこから3月の競技当日までに、6週間という短期間で120ポンド≒54㎏以内のロボットを製作しなくてはいけません」(笠井くん)

    それ以上に高い壁となって参加者たちに立ちはだかるのは、もろもろの資金を自分たちで集めなければならないということにあると大塚くんは続ける。

    「参加費用だけで日本円にしておおよそ70万円、その他にもロボットの制作費、引率の先生の分も含む交通費、大会期間中の宿泊費などが掛かります。概算ですが、最低でも280万円以上は必要になる計算です。これらのお金はすべて、自分たちで集めたスポンサーからの資金提供で賄わなければならないとルールで決まっているんです」(大塚くん)

    これは、FRCの主催団体『FIRST』の創設者で、セグウェイの開発者としても知られるディーン・ケーメン氏が定めた「若い世代に対して科学技術の教育を行って将来の技術者のリーダーとなれる人材を育成し、また技術力、コミュニケーション能力を習得させ、世界の科学技術を発展させること」という基本理念に則っているのだという。

    「個人がアルバイトや貯金で貯めたお金や、友人たちからカンパされたお金を使うことはできません。企業から資金提供を受けるための交渉力やプレゼン能力も明文化されていない参加条件なんです」(川端くん)

    高校生が初めて体験するビジネスの世界

    同じ高校に通う生徒たちで構成されている『Tokyo Technical Samurai』。保護者の了解を得ているとはいえ、当然ながら資金調達位の交渉はおろか、企業へのテレアポすらしたことがなかった。

    初めて体験する「ビジネス」の世界への驚きを語る川端くん

    初めて体験する「ビジネス」の世界への驚きを語る川端くん

    「そもそも家族や先生以外の大人と話す機会が多くないので、ビジネスで使う敬語や言葉遣いがどういうものなのかよく分からないまま、電話やメールをしていました」(川端くん)

    企業とはメールでアポイントを取ることが多いという彼ら。メール文面のチェックはチーム内でまわし読みして行っているのだという。

    また、資金調達に向けた慣れないプレゼン資料作りにも苦戦している。そのため、企業に向けたプレゼン資料の作成にあたっては、知り合いだったウサギィ代表取締役の町裕太氏ら、社会人に添削を依頼した。

    「何もかも未経験のことばかり。ビジネスとはこんなに大変なのか、と思うことばかりです」(大塚くん)

    しかし、苦難を経たおかげで成長を感じている面もあると彼らは言う。

    掲げた理念は「勝ち続けることで学ぶ量を増やす」こと

    「日本で出場した高校が過去にないので、英語のサイトにしか情報がありません。情報収集のため、必要に駆られてサイトを読み進めるうちに、自然と英語ができるようになって来ました」(大塚くん)

    大塚くんはもともと英語に自信があったというが、すんなりと読み解くのは難しかったという。

    また、この取材中、「先生」という単語がほとんど出てこないことに気付いた。わけを聞くと、完全に有志での活動のため、大会への引率以外はほとんど先生と関わることはないのだという。

    チームのWebサイトを制作した笠井くんは、学校を介さないことでのスピード感を感じているという

    チームのWebサイトを制作した笠井くんは、学校を介さないことでのスピード感を感じているという

    「有志で活動しているため、チームのWebサイトづくりや文言を自由に決められるので、意思決定を含めても進行は早いです。一方で、遅い時間まで学校内で活動することができないなどのネックもあります。スポンサー集めの戦略を考えるミーティングなどは夜遅くまで行いたいのが本音ですが、部室を与えられていないので、他の部室を間借りしたりして転々としています」(笠井くん)

    しかし、彼らはへこたれない。それは大会参加の経験が、きっと自分たちを成長させると信じているからだ。

    「掲げたチームの理念は、『FRCを通じてできるだけ多くのことを学ぶ』です。今までのFRCの傾向を見て、1対1のスポーツを模した勝ち抜き戦の競技になるのではないかと予想しています。その状況の中で学びの量を増やすには、多くの試合を経験するのが最良だと思っています」(川端くん)

    スケルトニクスやSCHAFTなど、ロボコン出身で起業したスタートアップも多い。彼ら3人に将来の夢を聞くと、プログラマーとして起業したい、ロボットを事業化したい、ロケットを打ち上げたいなど、やはり技術を活かした職に就きたいと口をそろえる。

    FRCを経て彼らはどのように成長するのか。現在、不足分の資金を集めている最中だが、そこさえクリアできれば、来年4月には開発の苦労と大会での激戦を経験し、大きくアップデートされた“Tokyo Technical Samurai 2.0”の姿を見ることができるはずだ。

    取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)

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