Twitterクライアント『モバツイ』開発者であり、2012年11月に想創社(version2)を設立した有名エンジニア・えふしん氏が、変化の激しいネットベンチャーやWeb業界の中で生き残っていくエンジニアの特徴を独自の視点で分析
「プロダクトマネジャー」と「職人的開発者」という2つのキャリアパス【連載:えふしん】
えふしんのWebサービスサバイバル術
藤川真一(えふしん)氏
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後しばらくフリーランスエンジニアとして活躍し、2012年11月6日に想創社(version2)設立
BASEでエンジニア、デザイナーを募集するにあたって、Webにかかわる専門職の人は、どういう職業的モチベーションで働くのだろうか、ということを改めて考えている。
その中で、エンジニアのキャリアパスについて、2つの方向性で考えるべきではないかと思った。それは、
【1】コンピュータをより深く知ることを優先し、品質を高めていく職人タイプ
【2】人をより深く知ることを優先し、サービスに反映するプロダクトマネジャータイプ
である。
なお、念のため書いておくが、これは設計も開発もできるソフトウエアエンジニアのキャリアパスの話なので、ご注意を。日経に書いてあるプログラマーの定義とは全然違う。
「プログラマーはシステムを規定した「詳細設計書」をプログラム言語に置き換える専門家を指し、システム設計を担うシステムエンジニア(SE)とは区別される」
■基幹システム プログラマー不要 富士通がソフト、開発費4割減 より抜粋
2つのキャリアパスについて
この2つのパターンについて、僕が考える定義をまとめたいと思う。あくまでも「僕個人の考え」としてとらえてもらえるとうれしい。
まず、職人タイプは、コンピュータやソフトウエアの深い仕組みを追求するタイプだ。
プロプライエタリからオープンソース時代になって、可能性が花開いた。理想的なペルソナとしては、技術的な課題に対してPHPやフレームワーク、MySQLなどのソースコードをしっかり追いかける。リソースマネジメントやベンチマークを重視し、スケーラブルで、安心、安全なサービスを実現するスキルを持っている人だ。コンピュータの真理を目指すタイプと言えるだろう。
オープンソースにコミットし、Hackerと呼ばれる人は、ここに該当しているケースが多い。自分の強い技術的興味を元に成果物やブログで情報をアウトプットし、GitHubを通じてブランディングに成功している人が多いのではないかと思う。
この役割は、近年とても注目されており、76世代のWeb系技術者がアラフォーを迎えるにあたって、35歳定年説のアンチテーゼとして注目されてきた。理系的に言うとサイエンス追求型の働き方と言えるのではないだろうか。
それに対して、プロダクトマネジャータイプは、職人のように技術そのものを深掘りするよりは、幅広い視点で見ることが優先される。極論すると、ソフトウエア技術は実現の手段と割り切る傾向がある。
このサービスを人がどう思うか、サービスがどう使われるかを大切にする。成果物の品質向上のために、マーケティングの本や心理学の本を読む。この時間を費やす分、職人タイプに比べるとコードを深掘りしている時間が少ない。こちらはエンジニアリング(工学的)な働き方と言えると思う。
従来のプロダクトマネジャーというと、もっとビジネス寄りの肩書きで、開発力がない人がついていた印象が強いが、今はそんなことはない。例えばGoogleのプロダクトマネジャーは、そもそもコンピュータサイエンスの学位を持った人がなっているケースが多いそうだ。相当の高給を得ている立場だとも聞く。
なぜ、高給になるかと言うと、その人がいなければ売上が下がる可能性があって、それなら相応の配分をした方が合理的だという考え方があるそうだ。
ここに挙げた2つの考え方は、1人のエンジニアに共存し得る概念であり、両方で成果を出せる人をWeb時代のスーパープログラマーと言っても過言ではないだろう。
しかし、何も両方を志向しなくても、それぞれのスペシャリストとして、高いプロ意識と自信を持てるようになることが何より重要だと考える。
スタートアップにおけるプロダクトマネジャーの重要性
特にスタートアップにおいては、CEO自身がサービスのプロデューサーであることが多いため、CEOのフィロソフィーを実装に落としこんでいく過程で、エンジニアのリーダークラスが、直接プロダクトマネジメントの役割を担当することが重要と考える。
単純に考えても、エンジニアチームを掌握でき、マーケティング担当などと協働し製品を伸ばすことも考えられるエンジニアがいるスタートアップは強いに決まっている。
逆に、ビジネス文脈と技術の文脈とを相互に翻訳し理解するのに苦労するチームは、その分だけスピードが遅くなる。
また、かつてのモノづくりの文脈では、開発とビジネスは切り離されていた。つまり営業の論理でモノを売ることができて、製品性とは比較表の○×を埋めることだった。だからプロダクトマネジャーは、技術者ではなくてよかったのではないだろうか。
しかし、Webサービスにおいては、提供するサービスそのものがビジネスなので、「良いモノ」を作るというよりは、「より効果が高いもの」が求められる。○×表を埋めることよりも、たった1つの他社に負けない商品性こそ重要になった。
これを日常的に守り抜き、研ぎ澄ませていくにあたって、のんびり役割を切り分けている余裕はない。ソースコード1行1行がサービスのクオリティに直結するからだ。
現状、プロダクトマネジャータイプのエンジニアは、組織の中の縁の下の力持ちであり、なかなか、その存在がヒーローとして注目されることはなかなかないようだ。本来は「サービスや製品を成功に導けるエンジニア」として重宝されるべきで、Webサービス毎に最低1人以上いることが望ましいし、成功したサービスには必ず、そういう役割がいるハズだ。
そういう立場の人が、もっと前に出てきて注目されるべきである。
なお、会社としては、どちらか片方が重宝されるのではダメで、プロダクトマネジャータイプ、職人タイプの両方のベクトルを目指す人材が組織になっていることを理想とする。
なぜこのような分類ができるのか
このような分類でキャリアパスを設定することを期待できるのは、「Web開発」が、人間の生活に影響を与えられる、すごく面白い仕事だからである。
Webも含めて多くのITシステムにおいて、「要求仕様にしたがって、一定の時間内に数字や文字を読み書き、出力し、転送、保存する」というのが、ソースコードが実現していることだと思う。
が、その結果実現されるデータ処理や、UIや情報の出力が、エンタメ性であったり、生活の利便性向上だったり、お金の流れを作ったりと、ユーザーの人生への寄与度がダイレクトなのがWebという情報産業の面白いところだ。
だからこそ「右から左に情報を処理する」のではなく、「その情報の流れがどう人の気持ちに影響するか?」ということに価値を見出し、詳細にこだわり、実装に落とすべくチームを盛り上げられるリーダーシップこそが、製品の価値を実現するところに直結する。
それこそが、プロダクトマネジャータイプのWebエンジニアの大切な仕事といえる。
最後に。2つのキャリアパスは「混ぜるな危険」だと思う
よく開発言語の話をブログに書いていると、「技術なんて、目的を実現できればそれでいいんだよ」という一見もっともなコメントをいただくことがあるが、職人型タイプについて語っている時に、プロダクトマネジャー型の論理を持ち込むと、話が混乱してしまうことがある。
つまり、この両者の理想を切り分けた上で、それぞれの理想形を目指す必要があると思う。そういうことも含めて、今回整理してみた。
会社の評価制度や教育制度においても、35歳定年説のようなネガティブな話ではなく、エンジニアがエンジニアらしく生きていけるキャリアパスを設定することが重要だと考える。
その1つの分類として、職人タイプの道と、プロダクトマネジャータイプの道をそれぞれ設定してみるのはどうだろうか。個人としても、会社としても。
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