キャリアVol.268

なぜ日本交通はアプリもハードも自社で開発するのか?川鍋一朗氏が語る「世界タクシー革命」がスゴい

日本交通の代表取締役社長・川鍋一朗氏

タクシー事業にイノベーションを起こすべく、創業86年の老舗・日本交通が行っているさまざまな取り組みは、弊誌でも過去何度か取り上げてきた。自社専用に作ったものが全国のタクシー会社に広まった『全国タクシー配車』のようなアプリ開発のみならず、システム、ハードウエアまで自社で手掛ける同社は、いまや最先端の“テクノロジー企業”のようだ。

しかし、「うちはソフトウエアの会社でもハードウエアの会社でもない」と同社代表取締役社長・川鍋一朗氏は強調する。

「アプリを開発したのは、選ばれるタクシー会社を目指すため。ソフトウエア、ハードウエア、オペレーションの3つがそろわないと勝負できない時代が来ているんです」

日本のタクシー業界の活性化、さらには世界のタクシーサービスを塗り替える野望を胸に秘める川鍋氏が、弊誌姉妹サイト『@type』主催の『エンジニア適職フェア』(11月1日、東京ドームシティ)で、「モノとソフトの融合」を進める5つの理由を語った。

【1】営業マン不要。大幅なコスト削減を実現できる

タクシーの乗車体験、つまりUXは、「呼ぶ」、「乗る」、「払う」の3つの部分から成っています。「呼ぶ」と「払う」はアプリで格好良くすることができる。でも、最も重要なのは「乗る」ところのオペレーションです。アプリの事業をやればやるほど、その思いを強くしています。

日本交通では、オペレーション改善のために毎日ドライバーに対して覆面のモニタリングチェックを行い、点数化して各事業所へとフィードバックを行っていますが、これは非常にマンパワーが掛かる作業です。

何とかこの労力を小さくしたい。そこで、本来は事故に備えて車外を撮影するドライブレコーダーに注目し、乗務員とお客さまのやり取りを映像でチェックできるように自社開発しました。

自社で開発するメリットの一つは、コストを削減できることです。ドライブレコーダーは、1台購入しようとするとだいたい5万円くらい掛かります。ただ、調べてみると、そのうち3割は営業費と在庫管理費だと分かりました。それを自社で作ると、価格を3万円に抑えることができた。

タクシー会社にはもともと、全国にまたがる横のつながりがあるので、完成したレコーダーの売り先は営業費ゼロで確保できます。ドライブレコーダーも、たびたび行われる会合などで私が直接セールスすれば売れるじゃん、と(笑)。

つまり、アプリやシステム、ハードまで自社で開発するようになったことで、営業マンを1人も雇うことなく「業界のインフラ屋」になることができるわけです。

【2】しがらみなし。機能追加も思うままに

事故が起きたらドライブレコーダーの映像を参照します。しかし従来のものだと、車が事業所に戻ってくるのを待って、中のメディアを取り出してPCに移さなければなりませんでした。

映像データはネット経由で即座に欲しいところですが、タクシーはIP通信ではなく、総務省から割り当てられた専用の無線を使って通信しており、配車の指示もこれで行っています。専用機なので機能を追加したくても、作ったメーカーでしか手を入れられないのです。リクエストしても「3人月、数百万円で」となり、断念せざるを得なくなる。

そこで、通信システムも自分たちで作ることにしました。携帯電話の通信に載ったシステム「タクシーIP配車システム」を日立さんと共同で開発。ようやく数社のクルマに載り始め、現在はどういった形が最もコストを抑えられるのかを検証中です。

ソフトもハードも自分たちで作っているからこそ、自分たちの使いやすいように自由に機能を変えられるようになりました。

【3】すべてが重複せずに融合するシステム

広告用のモニター、さらには通信システムも自社開発
広告用のモニター、さらには通信システムも自社開発

従来のタクシーの車内広告は、ヘッドレストに紙が入っているだけでした。1台1台入れ替えるのが大変だし、夜だとよく見えないという問題もあります。

そこで、搭乗者用モニターも開発して取り付けました。これと通信システムをセットにすれば、「今通過している場所の先にあるレストランの広告を表示する」など新しいビジネス展開も考えられます。

しかし、配車、レコーダーに加えてモニターにも通信が入れば、1台に3つの通信が入ることになる。一つ一つのプロダクトは素晴らしくても、重複していて、一つに融合していないのです。そこで我々は、すべてを自社で作ることで、最終的にタクシー全体の“オールインワンシステム”を作ることを目指しています。

中でもハードルが高いのがタクシーメーターです。法律の縛りがあり、独自で開発するには、技術的というより政治的な難しさがあります。しかし、もともと政治的な動きは我々の得意とするところ。来年10月には自社開発したメーターも完成する予定です。

残すはカード決済機なのですが、この開発についてもすでにパートナー探しを始めており、これができればいよいよ“オールインワン”が実現します。

【4】仮説→検証のサイクルがめちゃくちゃ速い

ただし、自社開発の体制を作っていく過程では、泥臭いリアルな話もたくさんあります。そもそも、今の日本交通にはハードウエアエンジニアが社内にごくわずかしかいません。今も積極採用中です。

開発プロセスだって、スマートなものでは決してない。例えば、今、街を走っている日本交通のタクシーにはスマートフォン用の充電器が付いているのをご存知でしょうか。これはお客さまのリクエストに応えて開発したのですが、いざクルマに取り付けるとなった段階で、USBのスロットの数や、コードはどこに設置すれば使いやすいのかなど、検討することが山ほど出てきました。

ただ付けるだけではダメ。使いやすいと満足してもらって、初めて世の中を変えたことになるからです。

とはいえ、普通のメーカーであれば、新しい製品を現場で検証しようにも、近くのタクシー会社にアポを取って3日後、となる。これでは遅すぎます。その点、我々の最大の武器は本社にあります。ワンフロアに本社の社員とエンジニア全員がいる。私の席からの距離はわずか12メートル。これは私のこだわりです。

さらに、下に降りれば、クルマも、それを運転するドライバーもたくさんいる。我々自身が客であり、物理的に一緒にいるため、仮説→検証のサイクルをものすごく速く回せるのです。

渋谷にあるスタートアップのような、おしゃれなオフィスではないかもしれません。しかし、いち早く答えにたどり着き、世の中にリアルなインパクトを与える上で、これ以上の環境があるでしょうか。

【5】オールインワンで世界を変える

ソフト、ハード、オペレーションの3つがそろったオールインワンのシステムを2018年までに完成させ、世界へ
ソフト、ハード、オペレーションの3つがそろったオールインワンのシステムを2018年までに完成させ、世界へ

オールインワンシステムは2018年1月までには完成させる予定です。2020年の東京オリンピック開催に合わせ、トヨタがタクシー専用車を30年ぶりに出すからです。そこに我々のシステムを丸ごと入れれば、シンプル、かつコストも低い究極のタクシーが完成します。

同時に、全国に6400以上あるタクシー会社をM&Aで再編し、会社としても大きく成長させるつもりです。

実は2年ほど前、シンガポール、ベトナム、ミャンマーなどのタクシー会社から、出資しないかという話がありました。しかし、ギリギリまで検討しましたが、いずれも思いとどまりました。

丸腰で出て行っても、成熟度も文化も違う国ではオペレーションの改善に時間が掛かります。おそらく、当時出資を始めたとして、ドライバーすべてに改善結果が行き渡るのは10年後だったでしょう。

ですが、今回話したオールインワンシステムが完成した上でなら、3年後に始めても同じころにはできると考えています。

日本のタクシーオペレーションは世界一と言われてきました。そこは間違いないと確信していますが、私はソフトウエア、ハードウエア事業と合わせて世界へ行くのが近道だと考えているのです。その準備は着々と進んでいます。

エンジニア目線で見れば、自分が作ったものが世界を変える、リアルな実感と喜びを感じる時がすぐそこまで来ているのです。

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 写真/佐藤健太(編集部)

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