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誤解だらけの「グローバル化」では企業も社員ももう勝てない【小松俊明】

働き方

    製造業を中心とした採用支援を手掛けるリクルーターズ株式会社・代表で、キャリア関連の著書を多数持つ有名ヘッドハンター小松俊明氏が、各種ニュースの裏側に潜む「技術屋のキャリアへの影響」を深読む。技術関連ニュース以外にも、アナタの未来を左右する情報はこんなにある!

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    東京海洋大学特任教授/グローバル・キャリアコンサルタント
    小松俊明

    慶應義塾大学法学部を卒業後、住友商事、外資コンサル会社を経て独立。エンジニアの転職事情に詳しい。『転職の青本』、『デキる部下は報告しない』ほか著書多数。海外在住12年、国内外で2回の起業を経験した異色の経歴を持つ。現在はリクルーターズ株式会社の代表取締役を務める傍ら、東京海洋大学特任教授として博士人材のキャリア開発に取り組む

    エンジニアは、どこの国でも最もグローバル化の進んだ人種である。何と言っても、「テクノロジー」という世界共通言語を持っているのだから。

    最近は業種を問わず、多国籍な環境で開発に臨むシーンが増えているが…

    最近は業種を問わず、多国籍な環境で開発に臨むシーンが増えているが…

    国民性や企業カルチャー? そんなものは関係ない。ブロークン・イングリッシュも結構。開発やモノづくりの現場において、知りたい「テクノロジー」の話になれば、誰だって電子辞書を片手に持ち、時に通訳を引き連れてでも、相手に食い下がって何とかその新しいテクノロジーを理解しようとする。

    日本人が苦手とする異文化コミュニケーションも、「テクノロジーへの強い探究心」があれば、容易にその壁を越えられる。日本人はグローバル人材ではないなんて、誰が言っているのだろうか!

    一方、日本にはアンチ・グローバル(グローバル化という概念を本能的に拒絶することを本コラムでは「何の悪意もなく」そう命名してみた)な習慣が存在しているような気がしてならない。

    「グローバル人材を持ち上げる記事」がネットを賑やかすと、その一方でネットでは「グローバルとか言っても、ローカルで活躍できない奴はダメじゃないか」というような、少し種類の違う議論に話がすり変えられた挙げ句、グローバル談義からは目を遠ざけようとする風潮があるようだ。

    海外や外国人が嫌いなケースばかりではないだろう。行き過ぎた愛国主義と言うわけでもあるまい。日本にはいまだに英語への苦手意識を持つ人は確かに多いが、それだけでアンチ・グローバルと呼ぶつもりは筆者にも毛頭ない。それよりもむしろ、世の中に大きな変化が起きている事実を受け入れたくないという心理が、アンチ・グローバルの正体かもしれず、もしそうであればかなり厄介な相手である。

    そもそもグローバルvsローカルという対比が間違っている

    例えば、日本には「グローバル人材」と「ローカル人材」という対比をする風潮がある。その挙げ句、なぜか「グローバル経験」を持つものは特別視され、「日本語が弱い」、「日本の価値観とは違う」という結論にされることがある。

    「英語よりも日本語が大切だ」、「日本は世界で一番安全」、「日本は住みやすい国」というのだが、そんなことは言うまでもないことである。グローバル人材は、日本を捨てた人たちではないし、海外かぶれでもないのだ。

    ちなみに、中国人ビジネスマンの多くは、軽く3、4カ国語を話す人が多い。日本人の中で英語が得意な人に対して「母国語の日本語が弱い」と決めつけるのも、有能な中国人を前にしてずいぶん偏った見方である。たった2カ国語ができたところで、世界のビジネスマンを前にして、何の自慢にもならないからだ。

    そのわりに、日本人は英語を話せる人のことを陰で「英語屋」と呼び、その価値を下げようともくろむ動きは決して少なくない。そもそも「ローカル人材」なんていう言葉自体がおかしな分類であり、やはりそれもこれも「グローバル人材」という言葉が独り歩きしているためではないだろうか。

    言うまでもないことだが、ここ数年、多くの企業がグローバル人材の育成を急いでいるのは、単なる流行り廃りの問題ではない。今、急にグローバル人材がもてはやされているわけでもない。日本企業や日本人ビジネスマンの多くが、世界のグローバル化のスピードに追いつかず、これまで先送りしていたツケを一気に払わせられているというのが現実であり、さすがに多くの企業の現場において、もう「待ったなし」というだけのことではなかろうか。

    ユニクロ、東芝…企業が喧伝する「グローバル化」とは何なのか?

    日本企業に「間違ったグローバル化」が流布しているのは、国際化を推進する企業トップにも一因が

    日本企業に「間違ったグローバル化」が流布しているのは、国際化を推進する企業トップにも一因が

    一方で、今の日本における「グローバル人材」育成の議論に問題がないわけではない。日本を代表する大手企業であっても、自社が目指す具体的な「グローバル人材」像を明確化できていない会社が目立つからだ。

    ただやみくもに企業がグローバル人材を育成したいというメッセージを送り続けても、正直、会社としてその「目標とする具体像」が定かでないのなら、何を会社として、そして社員個人として目指すべきなのかは闇に包まれたままだ。

    ユニクロが銀座店を6カ国語で対応できるように外国人スタッフを増強したというニュースがあった。東芝は、本年度の新入社員の1割を外国人社員にしたという。グローバル化への取り組みが具体化することは歓迎したいが、ユニクロや東芝の社員が目指すグローバル人材像が何であるのか、そちらにもっと世の中の関心はないだろうか。

    両社ともにグローバル化を標榜する日本の代表的な大手企業であるからこそ、何かほかの会社が参考とできるような「日本人のグローバル人材像」をもっと明確に示してほしいと思う。

    世界に目を向けると、多くのグローバル企業の経営者が、一様にして同じメッセージを発信している。要は国籍、人種、言語、性別、年齢などに関係なく、相手との意思疎通が取れ、信頼関係を築けること。独創的で戦略的な仕事ができるプロであること。グローバル人材に求められているのは、おおむね、このようなことである。日本人だろうがアメリカ人だろうが、イラン人だろうが、ベトナム人だろうが、関係ない話である。

    日本人の特殊性を何度外国人に訴えたところで、ほとんどの外国人は理解を示そうとしない。日本のビジネスの現場では、このことが繰り返されている。グローバル企業の最先端で働く外資系企業の日本人ビジネスパーソンですら、同じ轍を何度も踏んでしまっている。

    英語の前に意識すべきは「自らの思うグローバル人材像」

    最後に、社内の共通語を英語とすると宣言した楽天の話を紹介し、日本企業の直面するグローバル化のあり方について、その課題をまとめておきたい。楽天では、時間とともに社内のあらゆる場面で英語が優先的に使われるようになっているそうだが、最も大事な部分、つまり「なぜ英語を共通言語とするのか」について、同社は何度もその目的をメディアに発信し続けてきたように思う。

    第一に「海外展開に対応する」ということである。事業が文字通りグローバル化する中で、英語を使った方が、より多くの社員や顧客に対応できるという効率性の問題という。第二に、「ローカル人材をグローバル人材にする」という。つまり、国内だけで活躍できる社員はいらないという意思表示である。第三に、「より優秀な人材をグローバル規模で獲得するため」という。確かに英語が共通言語ならば、それも理にかなっているだろう。

    日本企業、そして日本人ビジネスマンは、これを聞いて何を思うだろうか。楽天のようなスピードと荒療治で、一気に会社をグローバル化に舵をきれる企業ばかりではないだろうが、あなた個人はどうだろうか。日々仕事が忙しく、苦手で面倒な語学の勉強など、やはりやる気にはならないだろうか。

    「日本人のグローバル人材像」、もっと具体的には「自社のグローバル人材像」、「自らの思うところのグローバル人材像」、まずはここをはっきりと打ち出し、具体的なステップを踏んでグローバル化を実現しないことには、もう小手先のグローバル化対応をしているだけでは、会社も社員もグローバル競争の中で、本当にもたないかもしれない。

    日本人がグローバル化を否定したり目をそむけても、またローカル回帰やローカル人材を美化したところで、日本は世界のグローバル化の波にすでに思い切り飲まれてしまっている。新しい水で泳ぐ方法を見つけた方が、早く楽になれるというものである。

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