今のスマホ技術は、本当に街全体をクラブに変えられるのか? au 4G LTEのCM製作者に聞いてみた
東京・渋谷駅前のスクランブル交差点。とある若者がスマートフォンの画面をスワイプすると、目の前の巨大ビジョンと手元のスマホ画面がシンクロし、大音量のダンスミュージックが鳴り出す。と同時に、コンビニがゴージャスに光り出し、タクシーがローライダーのようにジャンプする……。
これは昨年12月からオンエアされているKDDIの『au 4G LTE』プロモーションCM、『FULL CONTROL』のひとコマだ。ダフト・パンクの『One More Time』をバックに、夜の渋谷が胸熱なクラブパーティーへと様変わりするTVCM、と言えば思い出す人も多いだろう。
このCMの制作を担当したのは、インタラクション・クリエイティブを得意とするGLIDERや、デザイン/アート/エンジニアリングの三位一体で各種クリエイティブを企画・提供してきたライゾマティクスなどで編成されたチーム。
名だたる企業のプロモーションを手掛けてきた彼らが、auのCMでこうした演出を企画・採用したのは、大容量高速データ通信の魅力を真正面からとらえた結果だったという。
発端は、「4G LTEなら信号や照明をコントロールできる」という会話
「まず、僕らは『au 4G LTE』を“時代を象徴する世紀の発明”としてとらえました。高度成長期に自動車やカラーTVが誕生した時のように、熱狂とともに世間に迎え入れられるテクノロジーと考えたわけです。だからこそ、今まで誰も体験したことがないスマートフォンの使い方を描いてみようと思いました」(GLIDERのクリエイティブ・ディレクター志伯健太郎氏)
そしてたどり着いたのが、「スマートフォンが高速なLTE回線とつながると、ユーザー1人1人が街全体をコントロールできちゃう」という未来予想図だった。
ライゾマティクス代表・齋藤精一氏はこう続ける。
「最初に話していたアイデアは、ある人がスマートフォンをいじっていると、目の前の信号やお店の照明がめまぐるしく点滅し出す、というものでした。4G LTEレベルの大容量データ通信が実現したら、こんな話もあり得るよな、と考えたのです」(齋藤氏)
……ということは、もしかしてあのCMで描かれているシーンは本当に実現可能ってこと?
「はい。法律と予算と権利関係を抜きにすれば、今あるテクノロジーですべて実現可能ですよ」(齋藤氏)
「実現できない世界をCGで表現するようなクリエイティブでは、『驚きを、常識に。』がキャッチコピーのCMにふさわしくないじゃないですか。だから、あのCMに出てくるすべてのシーンは、全部“技術的に実現できる”という裏付けを取って作っています」(志伯氏)
ということで、どうすれば実現できるのか、シーン別に仕組みを聞いてみた。
渋谷をスマホでコントロールする、6つの仕組み
通常、ビジョン側にはサイネージ用のシステムしかないので、Flashが再生可能なPCを別途用意してビジョンに接続します。次に、ビジョンに表示させた二次元バーコードをスマートフォンで撮影するなどして、ビジョン側のPCとユーザーのスマートフォンをリンク。
こうすることで、音や映像のコントロールをスマートフォン側で行うことが可能になります。
まず、街灯と電灯線の間にPC制御できる調光器をかませ、通信回線と接続します。
その上で、サーバ内に用意した制御アプリケーションとスマートフォンでDLした専用のアプリを連携させることで、光量の制御や点滅のパターンを変えられるようになります。
現実にはハイドロ(油圧式車高調整機構)を備えたタクシーは存在しないので、これについては、イチから美術さんにお願いして作ってもらいました(笑)。
通信回線による制御のやり方は街灯と同じですが、こちらは電圧をコントロールできるディマーという装置を使って、車体の油圧シリンダーを制御しています。
コンビニの照明をオン・オフする仕組みは街灯とほぼ一緒。分電盤にコンピュータから制御できる調光器を接続して制御します。また、コンビニ壁面へ映像を投影するプロジェクションマッピング用のシステムについても、システム側のインターフェースとスマートフォン側のアプリケーションを連携させることで、インタラクティブな制御が可能になります。
噴水の水量やLED照明による光色をスマホで調整できる仕組みも、基本的には街頭やタクシーの演出と同じ仕組みでやれます。
水を噴き上げる高さは、制御プログラムでポンプに供給する電圧を変化させることで、自在に変えることが可能です。
ビル内の各部屋に照明を設置するのが大変ですが、これもほかの演出と類似した仕組みで実現可能です。ただ、スマホをシェイクする回数やスピードは人によってさまざま。データをリアルタイムに送信していたのでは処理に遅延をきたす可能性あります。auの4G LTEなら大丈夫でしょうが、3G回線だとギリギリですね。
そのため、スマートフォンに搭載されている加速度センサでカウントしたシェイク回数をいったん端末内にストックしておき、一定時間が経ってから集計用のサーバへデータを送信。それをビルの照明にフィードバックするような非同期処理を前提にしています。
あのCMは「リアルで体験してもらう」のを前提に作られていた!
さて、このCMのYouTube動画には「これ実際にやりたい!」、「このアプリ欲しい!」などのコメントが多数載っているが、その願いをかなえるイベント『FULL CONTROL TOKYO』が1月29日に開催される。
抽選で選ばれた参加者は、CMにも出てくる専用アプリ『ODOROKI』をスマホでDLしてイベント会場に行くと、映像で描かれていた世界観をリアルに体感できるのだ(編集部注:応募受付はすでに終了/会場はシークレットだがUst中継で視聴&イベント参加が可能)。
聞くと、このCMは企画当初から「ユーザーに体験してもらうことを前提に作っていた」(齋藤氏)という。
デジタル化が進む現代社会は、TVが本当の意味でマスメッセージを担っていた時代と違って、例えば同世代より「20代と60代の嗜好が近い人」の方が共感し合えるという時代だ。世代や性別だけでユーザーをターゲティングするCMでは、メッセージを訴求するのも難しい。
「なので、今回のキャンペーンはWebやアプリという『デジタル』をハブに、リーチに強い『CM』、そして参加者に強い印象を残す『イベント』という3つどもえのインテグレーテッド・キャンペーンとして企画していきました」(志伯氏)
あのCMをリアル体験イベントとして成立させるためには、数百~数千人というユーザーが一斉にアクセスしても落ちないバックエンドを構築したり、仕様が異なるiPhoneとAndroid端末の両方で支障なく楽しめるようなアプリ設計が必要になる。
そこで、ライゾマティクスとGLIDER以外にも、バックエンドシステムの設計ではマウントポジション、デザインやインターフェース設計はDELTROなど、「技術とアート」の両面に精通したクリエイティブ集団に協力してもらったそうだ。
「通信の遅延回避のためにパケット処理を小さくしたり、端末ごとにバラつきのある処理をできるだけ同期させる工夫など、CMとほんど同じ世界を体験していただけるように相当工夫しています」(齋藤氏)
驚くことはまだある。イベント会場では、上に説明したような複数の制御系統をたった1台のPCでリアルタイムにコントロールするという。この事実一つをとっても、技術力の高さは推して知るべしと言ったところだ。
「もちろんバックアップはありますが、1台のPCで会場の参加者とネット上から参加するであろう未知数のユーザーに対し、CMに描いたもの以上のことを体験してもらおうと思っています。それがどんなものか、ぜひストリーミング中継で確かめてほしいですね」(齋藤氏)
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)
RELATED関連記事
RANKING人気記事ランキング
NEW!
ITエンジニア転職2025予測!事業貢献しないならSESに行くべき?二者択一が迫られる一年に
NEW!
ドワンゴ川上量生は“人と競う”を避けてきた?「20代エンジニアは、自分が無双できる会社を選んだもん勝ち」
NEW!
ひろゆきが今20代なら「部下を悪者にする上司がいる会社は選ばない」
縦割り排除、役職者を半分に…激動の2年で「全く違う会社に生まれ変わった」日本初のエンジニア採用の裏にあった悲願
AWS認定資格10種類を一覧で解説! 難易度や費用、おすすめの学習方法も
JOB BOARD編集部オススメ求人特集
タグ