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日本の製造業は総崩れ!? 日本メーカー、エンジニアの今後はどうなる?【小松俊明】

働き方

    製造業を中心とした採用支援を手掛けるリクルーターズ株式会社・代表で、キャリア関連の著書を多数持つ有名ヘッドハンター小松俊明氏が、各種ニュースの裏側に潜む「技術屋のキャリアへの影響」を深読む。技術関連ニュース以外にも、アナタの未来を左右する情報はこんなにある!

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    東京海洋大学特任教授/グローバル・キャリアコンサルタント
    小松俊明

    慶應義塾大学法学部を卒業後、住友商事、外資コンサル会社を経て独立。エンジニアの転職事情に詳しい。『転職の青本』、『デキる部下は報告しない』ほか著書多数。海外在住12年、国内外で2回の起業を経験した異色の経歴を持つ。現在はリクルーターズ株式会社の代表取締役を務める傍ら、東京海洋大学特任教授として博士人材のキャリア開発に取り組む

    純損失5200億円。これは日本を代表する電機メーカーであるソニーの2012年3月期連結決算の数字である。過去最大の赤字に転落し、実に4年連続で赤字を続けているそうだ。

    2012年度決算では、ソニーをはじめ大手メーカーが軒並み大幅赤字の発表

    2012年度決算では、ソニーをはじめ大手メーカーが軒並み大幅赤字の発表

    損失ならパナソニックも負けていない。主力のテレビ事業が不振であった影響で、こちらも実に約7800億円の赤字だそうだ。あまりにも金額が大きすぎて、正直ピンとこない人が多いことだろう。こんなに大きな損失を出しても、会社が存続できていることからして、理解することは難しい。

    悲惨な数字は、別の切り口からも伝わってくる。NECは約1000億円の赤字を出すことになったそうだが、その対策としてグループ全体で国内外の1万人をリストラすることを発表している。こうした日本を代表する各社の成績に、凍りついている人も多いのではないか。特に、こうした日本のメーカーを現場で支えているエンジニアのモチベーションは、本当に大丈夫だろうか。

    そうした中、追い打ちをかけるように、さらにショッキングなニュースが業界を駆け巡った。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループが、テレビなどの液晶事業で有名なシャープの筆頭株主になったというニュースである。実質的には、日本を代表する電機メーカーの一角が、ついに外資に買収されたと言ってもいい。

    勤め先の苦境でも、「能動的に」転職市場に出ない若手たち

    こうしたニュースが続くと、いつも湧き起こってくるのは、「日本メーカーの優秀なエンジニアが海外メーカーに流出してしまうのではないか」という心配である。業績不振な中、削られるのは決まって人件費と研究開発費であり、特にエンジニアの仕事の現場には大きなとばっちりがくることは明白。

    となれば、優秀なエンジニアであればあるほど、より開発環境が良い、業績好調の韓国企業や欧米企業で働くことを希望するのではないかとの心配であろう。

    結論から言うことにしよう。おそらくその心配は、杞憂に終わるように思う。これは前向きな理由からそう言っているのではない。むしろ、日本のエンジニアのキャリアは、今、かつてないほどの危機的な状況に瀕しているのかもしれない。

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    もう少し詳しく話そう。

    要するに、日本メーカーの優秀なエンジニアと目される人たちが、もし海外メーカーに流出するようなことが起きるとしたら、それはある意味、日本のエンジニアが世界でも通用するという証でもあり、それは喜ばしいことと考えるべきことなのである。

    グローバル企業の中で自分の知見と技術を活かし、最先端の開発に携わることで事業の発展に貢献できるとしたら、日本はその優秀なエンジニアを世界に誇れることにもなる。

    しかし、前述の日本を代表する電機メーカー各社の現場に、果たしてそれだけの覚悟と能力を持つエンジニアがどれほどいるのだろうか。

    もちろんたくさんいてほしい。しかし、実際にこうした業績不振の大手企業から、優秀なエンジニア人材がそれほど多く転職市場に飛び出してこないのも現実である。反面、転職市場にあふれているその多くが中高年であり、かつ残念なことではあるが、ほとんどが自主退職ではなく、リストラなどにより会社都合退職の人ばかりである。つまり、積極的な転職というわけではなく、やむを得ず転職活動をしているのである。

    今、海外メーカーに「修行に出る」のがプラスに転じることも

    話を前述の電機メーカーの話に戻そう。ある会社の現場のエンジニアが、何とも現状をうまくとらえた発言をしていた。その一つをご紹介しよう。

    「大企業病にどっぷりとつかっているため、業績不振とはいっても、現場には危機感がない。また、良くも悪くも、何でも関係者すべてで物事を共有してから決定する文化だから、事業のスピードが遅い。このような状況下で、グローバル競争に勝てる気がしない」

    これが多くの日本メーカーにおける現場の実感なのだろうか。

    エンジニアの見識と技術、それは会社をまたいで持ち運びができるだけのポータブル・キャリアでなければならないのではないか。さらに言えば、世界の共通言語となり得る「技術」を武器にできる職業の代表格がエンジニアであるという自負を持つならば、たかが英語ごときができないという理由で、グローバル企業への転職に二の足を踏んでいて、本当にそれで良いのだろうか。

    英語ができないから海外で働けない(外資で働けない)と言うのでは、せっかく身に付けた「見識や技術」が泣いていないだろうか。世界のどの国にしても、エンジニアという職業に従事している者こそが、まさに最もグローバル人材に近いところにいるはず。

    日本メーカーの優秀なエンジニアが、(少なくても現時点では)皮肉にも海外メーカーに流出することなど起きないと言ったわたしの見識が大きな誤解であり、日本の優秀な頭脳が海外メーカーに大量に流出したのち、そこで揉まれて大きく成長した姿で、また日本メーカーに戻ってきてくれるような未来が来るとしたら、筆者としては、心から喜んで自分の前言を撤回したいものである。

    毎年大きな赤字を作るような沈没しかかった”日本丸”に乗り続け、エンジニアという専門家としての自己研さんを停滞させてしまっているとしたら、あなたは本当にそれで平気なのだろうか。それでも本当に最新技術を売りにしたエンジニアと言えるのだろうか。

    日本メーカーのエンジニアは、不景気で会社が業績不振な今こそ、業績好調な海外メーカーに修行に出る時期が来ているのかもしれない。日本を離れることも恐れないでほしい。他流試合をたくさん経験して、いずれはたくましく育った姿で、また日本に、そして日本メーカーにも戻ってくればいいのだ。かく言う筆者も、技術職ではないが海外での起業を経て日本に戻ってきた一人である。

    失敗を恐れることはない。個人のキャリアというのは、本来そうやって大きく育てていくものなのだから。

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