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伊藤穰一&石井裕「成功するサービスほど変化する。必要なのは想定外を許容する風土」【MIT Media Lab講演レポ】

働き方

    「地図を求めるのではなく、コンパスを求める。それが僕のイメージです」

    伊藤穰一氏(左)と石井裕氏(右)

    伊藤穰一氏(左)と石井裕氏(右)

    2012年1月17日、東京・汐留の電通ホールで「The Power of Open, Scaling the Eco System」をテーマにしたMIT Media Lab @Tokyo 2012が開かれた。

    同イベントには、MIT Media Lab(以下、メディアラボ)所長の伊藤穰一氏や副所長の石井裕氏をはじめ、メディアラボに席を置く多くのキーパーソンが来日。電通ホールはさながら「ワンデーメディアラボ」と化した。

    冒頭の言葉は、同イベントのイントロダクションで伊藤氏が話した内容の抜粋だ。伊藤氏は何を意図して、「地図よりコンパスが大事」と発言したのか。

    伊藤氏と石井氏の講演内容をかいつまんで紹介しつつ、彼らが見据えるテクノロジーのあるべき未来像と、そこから読み取れるエンジニアへの示唆を探ってみよう。

    重要な事件はいつも想定外。精緻なプランよりもアジャイルな体制を

    John Seely Brown

    上の写真はJohn Seely Brown。Xerox PARCの創業者だ。インターネットを駆使したネットワーク時代のあり方として、伊藤氏は「The Power of Pull(引っ張る力)」という彼の言葉を引用する。

    「『The Power of Pull』というのは、必要な時にネットワークからリソースを引っぱってくる力のこと。インターネットの時代である今、探している情報がどこにあるかが分かることが重要です。

    どれだけ頭に知識を蓄積できるかよりも、探しているものの探し方、学び方、どういう人に聞けば良いかといったコラボレーションスキルの方が大切なんです。

    資金集めに関しても同じで、お金が必要になったら投資家から集めればいい。お金を一杯抱えて「これ、どうしようか」といってもうまくいかない。こうした哲学は、非常にインターネット的だと思います。

    今回の震災だとか、ファイナンシャルマーケットのいろいろなことだとか、ほとんどの世の中の重要な事件というのは想定外。想定されていたとしても企画通りに物事は進まない。

    従来は企画を立て、それに沿って行動するのが普通でしたが、今や、発生してから行動するのでも遅いことはなくて、むしろその方がアジャイルなシステムができるんです」

    従来のウォーターフォール型(中央管理型)ソフトウエア開発の場合、中央管理型の人たちは起こっていることをすべて把握できなければ安心しない。

    だが、インターネット型の人は違う。自分の周りの面倒を見ていれば何とかうまくいくのだ。ここで冒頭のセリフにつながる。コンパスとは、つまり「指針」だ。どの方向に向かっているのかさえ分かっていれば、全体像が見えている必要はない。この考えにぴったりフィットする開発手法が、先にも出てきた「アジャイル」である。

    「とりあえず作ってみる」ことが重要。議論はモデルを見ながらやれ

    「(Webサービスをつくる上で)アジャイルというのはとても重要で、『こういう企画で投資家からお金を集めて成功しよう!』としていたら絶対に失敗する。

    事実、ほとんどの成功している会社(サービス)は、最初の企画と最終的に成功した企画がまったく違うものになっています。

    必要なのは「想定外」を許容する風土です。

    今までの中央管理型というものは、あらゆるすべてのリスク、あらゆる可能性を設計して作っていくものでした。

    一方、アジャイルの場合は、とりあえず作ってやりながら考える。この発想はメディアラボの哲学にちょっと似ていて、
    あんまり一生懸命考えて企画し過ぎるのではなく、まずはやってみようというもの。これはインターネットの遺伝子だと言えます」

    メディアラボに”DEMO or DIE”の文化が根付いているのは、共同設立者であるニコラス・ネグロポンテ氏が建築学科出身だったことが大きいと伊藤氏は言う。

    建築家の場合、設計者は学者のようにまず議論するのではなく、コンピュータを使ってCADでモデルを作り、そのモデルを見ながら議論するからだ。

    とはいえ、アジャイルで開発を進めたすべてのサービスが成功するわけではない。では、サービスを成功させられる人とそうでない人の違いは何か? その答えのヒントは、講演の終盤、伊藤氏が語ったメッセージに隠されている。

    「僕が好きな言葉に「Serendipity(セレンディピティー)」という言葉があります。

    これは普通、偶然性と訳されるのだけど、それ以上に『何となくうまい方向に偶然が起きる』という意味がある。

    そのSerendipityをものにできる人とできない人の違いは、企画に対して下を向いている人と、常に周りを見ている人との違いだと思うんですね」

    技術革新とはコラボレーションである。必要なのはビジョンだ

    石井氏

    伊藤氏の後に登壇した石井氏。講演の主題は「変革とビジョン」だ。

    「わたしは、メタファーはクリエイターにとって重要な”Jumping board”だと考えています」と話す通り、スピーチにはさまざまな比喩が織り込まれていた。

    「情報は“流水”です。流れる水と同じように、同じところへ向かおうとする。情報は共有されたがっていて、再編集されたがっている。再発信されたがっていて、共有されたがっています。

    にもかかわらず、情報を固定しようとする会社はたくさんありますが、長続きはしないでしょう。流れる水を無理にせき止めようとすれば、ダムは決壊してしまいます」

    そんな「流れる水=情報」を扱い、イノベーションを起こそうとする時、重要なのはビジョンを持つことだと石井氏は強調する。

    「流れる情報の中、明確なビジョンを持つことの重要性を考えた時、わたしの脳裏にはいつも葛飾北斎の描いた富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」が浮かびます。

    荒れ狂う波の中、決して動くことなく鎮座している富士山の様子が、あふれる情報の中でもブレない理念を象徴しているように思えるのです」

    では、なぜぶれない理念が重要なのか? 石井氏が例に挙げるのは、メディアラボの特徴の一つである「コラボレーション」だ。

    「『技術革新とはコラボレーションであり、最もオープンな環境のもと、アイデアを交換して一緒に物事を構築することだ』と、われわれメディアラボは考えています。

    個々人が持つ、分野や専門の垣根を越えることができてはじめて、ルネッサンス的な思考が生み出すことが可能になります。

    アート、デザイン、サイエンス、これらをコラボレートするためには、指針としてのビジョン――プリンシプルと言ってもいいですね」

    取材・文・撮影/桜井 祐(編集部)

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