キャリア Vol.70

ヤフーに事業売却したコミュニティファクトリー松本龍祐に聞く、スマホアプリ「アジア展開」成功のカギ

株式会社コミュニティファクトリー 代表取締役 松本龍祐氏

株式会社コミュニティファクトリー 代表取締役 松本龍祐氏

1981年生まれ。中央大学在学中より出版系ベンチャーの立ち上げやカフェ経営などを行う。 2004年より中国企業のSNS立ち上げに参画、2006年にコミュニティ企画・運営に特化したコミュニティファクトリーを設立。2009年以降はソーシャルアプリ開発に特化し、写真をデコってシェアできるスマートフォンアプリ『DECOPIC』が世界的にヒット。2012年9月にヤフー株式会社へ会社を売却、100%子会社化されることになり話題となる

「爆速」でスマートフォン対応を進めるヤフーが、先週9月11日、コミュニティファクトリーを買収したと発表した。コミュニティファクトリーは、2006年に創業後、何度かのピボット(事業転換)を経て、アジアを中心に全世界700万DLを記録する女性向けスマホカメラアプリ『DECOPIC』で成功した優良スタートアップだ。

なぜこのタイミングでの買収となったのか、そしてヤフーが魅力に感じたとされる「アジア向けサービス」でコミュニティファクトリーが成功を収めた要因はどこにあったのか。

くしくも9月26日、「スマートフォンを通じたスタートアップの世界展開」をテーマに開催される起業家・志望者向けカンファレンス『YVS MEETUP』に登壇予定のコミュニティファクトリー代表・松本龍祐氏に、これまでの事業展開と今後の展望を聞いた。

「アプリ市場は今が過渡期。だから今のうち体制を固めておきたかった」

―― まずお聞きしたいのが、ヤフーによる全株式取得というビッグニュースについてです。これまでの経緯についてお話いただけますか。

今年の前半から、スマートフォン領域での次の事業展開のことを考え、資金調達を検討していました。その際にいくつかの会社さまとお話させていただく中で、ヤフー社とお話する機会がありまして、方向性などなど、すぐに意気投合しました。

その後、両者で検討を進める中で、今回の子会社化のお話につながりました。

ヤフーとの「異例な形」での子会社化について、経緯を語る松本氏
ヤフーとの「異例な形」での子会社化について、経緯を語る松本氏

―― 今後、経営体制の変更やオフィス移転のご予定は?

今回は、体制もオフィスもまったくこのままでやっていく予定です。

―― 珍しいケースですね。では、子会社化しても、今まで通りにビジネス展開をされるわけですか?

そうです。コミュニティファクトリーの強みでもある「女性向け」、「ソーシャルマーケティング」といった点を、純粋に評価していただいたのが”協業”のきっかけでしたから。

逆にわたしたちは、ポータルとしてのヤフーさんの集客力はもちろん、エンジニア同士の交流などをきっかけにして、さらにコミュニティファクトリーとしての事業の土台を固めていければと期待しています。

これはわたし個人の意見ですが、スマホ向けアプリの世界は今が過渡期で、ここ1~2年で大きく変化していくと思っています。ですから、今この時期に大きなリソースを活用し、スマートフォン領域で勝ちたい、圧倒的な実績を残したい、と思っていたことが、子会社になった一番の理由です。

過去のサービス失敗で見つけた、事業転換のきっかけと光明

―― 過渡期にあるアプリマーケットをサバイブしていくため、先に手を打ったということですね。その判断軸となった考えを教えてください。

App StoreもGoogle Playも、1~2年の間に多様化、健全化が急速に進んでいって、やがて収益モデルがきちんと確立されると思っています。こういう状況下で、アプリを提供しているスタートアップが選択し得る方向は2つに1つだと思ったんですね。

1つは人をたくさん採用し、人員を大量投下して最初から大きなマーケットシェアを狙っていく方向。つまり”規模の経済”です。ソーシャルゲームの勝ち組企業なんかは、こっちの方向に進んでいます。

もう1つは、メンバーもチームも少数精鋭で徹底的にモノづくりにこだわって、一人一人のユーザーニーズにきちんと応えていく方向です。僕らは『DECOPIC』をはじめ、今手掛けているアプリを磨き上げて、こっちのスタンスで勝負していきたいと考えています。

それには事業基盤が固まらないと難しい面があるので、ヤフーさんの子会社になるという選択をしました。

「写真をデコってシェアできる」というコンセプトがアジア各国の女の子たちに支持された『DECOPIC』
「写真をデコってシェアできる」というコンセプトがアジア各国の女の子たちに支持された『DECOPIC』

―― コミュニティファクトリーといえば『DECOPIC』というくらい、東南アジアを中心に700万DL超えのこのアプリがクローズアップされます。ただ、『DECOPIC』で現在の地位を確立するまでは、さまざまな試行錯誤がありましたよね。過去のピボットのジャッジポイントは何だったのですか?

昨年9月にスマホ向けアプリへと事業をシフトさせるまでには、かなり時間を掛けて検討をしていました。直近はソーシャルゲームを中心に事業展開をしていたのですが、競合他社に比べて結果を出すことができず、そのために組織拡大もできず、さらに差がつく、という悪循環に陥っていました。

そこで、まだ未知の領域ではあるけれど、確実にユーザーが拡大していくだろうスマートフォン分野に先行して投資することで、活路を見出すことにしました。

昨年『DECOPIC』をはじめとした写真加工系や、女性向けのサービスに事業の舵を切ったのには、『DECOPIC』の元になったカメラアプリの開発・提供がターニングポイントになっています。よくある写真共有アプリ+写真をデコれる、といったサービスで、あまりダウンロードされなかったのですが(苦笑)、海外からのユーザーが8割を占めていました。

この体験がきっかけで、スマホ領域で勝つヒントを得ることができたんです。

「カワイイ」で一点突破&スモールチームを徹底して価値を最大化

―― そのヒントとは?

日本はもちろん、アジアでは「カワイイ」というキーワードが圧倒的にウケるという確信です。

実際に中国の上海や韓国のソウル、シンガポールなどへ行ってリサーチしましたけど、日本語がしゃべれなくても「カワイイ」という言葉は知っていたり、日本のファッション雑誌が一番売れていたりという状況を見て、これはイケるはずという手応えを感じました。

『DECOPIC』はいわゆる”プリクラのアプリ化”ですが、これもリサーチした結果、確信を持って開発に着手しました。

アジアの国や地域では、場所によって日本のプリクラマシンがそのまま設置されているくらい、人気があるんですよ。マシンがそのままだから、ユーザーはわざわざ100円硬貨に両替しなくちゃならないし、表示や指示も日本語のままなんです。にもかかわらず、すごい人気を博していて、「これがスマホでできれば、みんな喜んで使ってくれるだろう」と。

―― コミュニティファクトリーの黎明期にヒットしたのは、mixi向けアプリ『みんなでケンテイ』でしたよね。この成功体験があったのに、あえて「女の子」にターゲットを絞ったアプリを提供するのに、怖さはなかったのですか?

『DECOPIC』は、『みんなでケンテイ』のように男女共に楽しめるアプリとはスタンスが違うので、確かに開発前は悩みもしました。完全に女性、それも「女の子」向けのアプリにシフトしたわけですから、「ユーザーの半分を最初から捨ててしまうのか?」って。

From Jon Åslund  カラオケなどと同じく、日本の『Purikura』は海外でも知られる存在。「カワイイ」文化の普遍性を物語る
From Jon Åslund カラオケなどと同じく、日本の『Purikura』は海外でも知られる存在。「カワイイ」文化の普遍性を物語る

でも、さきほどお話した「カワイイ」文化への熱狂的な支持を信じて、一点突破して価値を最大化する方向にシフトさせたんです。

―― その判断の甲斐あって、『DECOPIC』は女の子向けの徹底した作り込みで好評を博しています。

ありがとうございます。とことん「カワイイ」にこだわっているのが、僕らの自負です。デコアイテム一つ一つへのこだわりは絶対他社に負けないだろうと思っています。ホントにカワイイ(笑)。

それに、UIにもこだわっています。われわれのユーザーは決してスマートフォンに詳しい人ばかりではありません。説明を見なくてもちゃんと使えるようなUIを目指しています。そうやってユーザーからの意見や要望にはとことん応えていくことが、結果として700万DL超えにつながったと思っています。

ちなみに、当社では一つのアプリについて開発担当が1人か2人なんですね。『DECOPIC』に関しても、Android版とiOS版でそれぞれエンジニアが2人ずつ。少数精鋭で開発することで、常に気軽な話し合いを重ねながら機能開発をスピーディーにできるというのが理由です。

うちの開発スピードについてはヤフーさんにもご評価いただいているので、今後もさらに強みとして伸ばしていきたいですね。

―― 「爆速」ヤフーが認めた爆速ということですね。

そうかもしれません。一つのアプリ開発チームに5人も6人もジョインするようになると、「じゃあ仕様書を作ってガントチャートを確認して……」と手間が増えてしまいます。スマホアプリくらいの開発規模ならば、2~3名程度の方がソースコードの管理も楽ですし、効率的に開発が進められる気がします。

海外でも通用するアプリのヒントは各国のランキングを見れば分かる

―― 今でこそ『DECOPIC』は日本のみならずアジア各国でシェアを獲得していますが、コミュニティファクトリーとしては最初から海外マーケットを意識していたんですか?

スマホ向けのアプリ開発を手掛けようと決めた時点で、最初から海外のユーザーをターゲットにしてきました。というのも、スマホのプラットフォームってもともと日本と世界との壁を超えているじゃないですか。極端なことを言えば、良いアプリさえ開発できれば1人でも世界を舞台にビジネスができる。

これまでの日本を引っ張ってきた家電製品なり自動車だったら、どこかの商社と組んで海外へ売り込みにいって販売網を構築して……と莫大なヒト・モノ・カネが必要だったと思いますが、スマホアプリならどれも必要ない。

だからわたしは、スマートフォンが今後の日本企業にとっての「パブリッシング・プラットフォーム」になっていくと思っています。

―― そこで伺いたいのは、世界で認められる「良いサービス」の条件とは何かということです。例に挙がった家電や自動車しかり、日本のユーザーが考える「良さ」と、アジア市場での「良さ」は異なる場合もあると思いますが。

おっしゃる通りですね。世界を相手に勝負するには、自分たちなりに「良いモノ」を再定義することが大事だと思います。

例えばサムスンがこれだけ世界中でシェア拡大に成功した背景には、世界各国・各地域の量販店で徹底したマーケティングを行ってきたことと、それを製品に反映させるために大規模なデザインセンターを設けたという理由があります。

家電だったらそれだけ莫大な費用を掛けて実現しなければいけないことを、スマホアプリだったらPCが1台あれば実現できます。世界中のApp StoreやGoogle Playのランキングをチェックすれば良いだけですから。

たいていの人は、日本のアプリDLランキングはウォッチしていても、海外のランキングまではチェックしていません。iPhoneアプリのランキングは見ているけど、Androidマーケットはチェックしていなかったりする。そういったリサーチを地道に継続し続けることで、見えてくる商機もあるんです。

例えば、当社はAndroid向けに限定した『piqUp』という写真保存アプリを提供していますが、これは各国のランキングをウォッチしていく中で構想を思い付いて、開発に乗り出しました。

Androidのスマホって、メールで送られてきた写真も自分で撮った写真もまったく関係なく保存されて、使い勝手が悪いんですよね。それを時系列に表示して整理できるアプリはないんだろうかとGoogle Playを調べてみたら、ほとんどないということが分かった。

―― つまり、iPhoneでは簡単にできるけれど、Androidではできないところに目をつけた。

そうです。そこで『piqUp』を今年初めにリリースして、現在(9月中旬)までで50万DL超なので、そこそこ好調だと思っています。

ヤフーとのシナジーで、世界中のスマホ女子に愛されるサービスを

―― 「良いサービス」とは、各国・各地域のランキングをウォッチし続けることで得る気付きと、ユーザーが求めているモノは何か? を探し続ける習慣が生むという好例ですね。

非エンジニアながら技術面にも精通する松本氏。「自分が事業判断のボトルネックにならないように、流行の技術情報は常にチェックしている」という
非エンジニアながら技術面にも精通する松本氏。「自分が事業判断のボトルネックにならないように、流行の技術情報は常にチェックしている」という

はい。『DECOPIC』に関しても、今もブラッシュアップを続けていますが、その一例として、文字=フォントを各国の言語でかわいく表示できるようにこだわっています。

これをアジアの各地域に対応させ続けると、データ量が多くなってなかなか大変なんですね。そこで、サーバ側で負荷分散させるバックアップ体制が必要になるのですが、技術的にどうクリアするかを考えた結果、うちではサービス提供範囲の中継地点となる台湾にサーバを置いて、必要な処理を行うようにしています。

『DECOPIC』は、どの国・地域の人たちにも同じように使えて、同じように楽しんでほしいっていうのが基本ですから、そこから絶対にブレないようにするためには手段を選ばない。そういうポリシーが、開発体制やチームの小ささ、インターフェースの細かなこだわりにつながっているような気がします。

―― 最後に、コミュニティファクトリーとしての今後の展望をお聞かせください。

スマホ向けアプリを主力事業にとシフトした時からあまり変わりませんが、以前、居酒屋なんかへ飲みに行くと、近くの席の大学生が『みんなでケンテイ』を使って盛り上がっているのを目撃してすごくうれしかった経験があります。日本の中で800万人くらいの方々に使ってもらえると、そんな経験がいっぱいできる。

これが世界だったら、1億人くらいに使ってもらわなきゃいけないと思うんです。自分たちがこだわって作ったサービスを、アジア、世界へ広げて、あらゆる人たちが使って、楽しんでもらうというのがわれわれのビジョンです。

世界のどこのカフェにいっても、女の子のスマホを覗いたら自分たちが作ったサービスが入っていたら、と思ったらワクワクしますよね(笑)。

今後は世界中のスマホ女子にコミュニティファクトリーのサービスを使ってもらうのを目標に、新しい一歩を踏み出したいと思います。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正

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