転職Vol.349

勝つことが全てではないハッカソンで勝つために必要な3つのこと~『Open Hack Day Japan 3』優勝チームに聞く

作品に使用したカメラ「OLYMPUS AIR A01」を囲む『Open Hack Day Japan 3』優勝チーム「立体逓信団」のメンバー。左から鈴木雄太氏、酒井篤史氏、坂本竜基氏、西紗記子さん

作品に使用したカメラ「OLYMPUS AIR A01」を囲む『Open Hack Day Japan 3』優勝チーム「立体逓信団」のメンバー。左から鈴木雄太氏、酒井篤史氏、坂本竜基氏、西紗記子さん

去る3月7、8日、300人以上のエンジニアやクリエイターが参加して行われる国内最大級のハッカソンとしておなじみの『Open Hack Day Japan 3』が、Yahoo! JAPAN主催で開催された。

24時間ぶっ通しの過酷な開発、持ち時間わずか90秒の“爆速”プレゼンの末に最優秀賞に輝いたのは、上位入賞の常連チーム「立体逓信団」の『露光代理店』という作品だった。

立体逓信団は、Yahoo! JAPANで先端技術の研究を行っている坂本竜基氏を中心に、社内外の技術者ら6人で構成されたチーム。参加をYahoo! JAPAN社員に絞った開発イベント『Hack Day』では優勝経験があり、過去2回の『Open Hack Day』でも入賞を果たしている。

「日常の業務から離れ、自由な発想で、好きな技術を使って開発に取り組む」がコンセプトの『Hack Day』であるから、もちろん勝つことが全てというわけではない。しかし、そんな中でも「常勝」であり続けることには、他チームにはない何かが隠されているはずである。

常勝チームの常勝たるゆえんはどこにあるのか。優勝メンバーへのインタビューから浮かび上がったのは、「時間配分」、「開発手法」、「プレゼン」の3つのポイントだった。

ポイント1:4倍のマージンをとったスケジューリング

人の多いスケートリンクのような場所でも……
人の多いスケートリンクのような場所でも……

今回最優秀賞に輝いた作品『露光代理店』は、観光地などで風景を撮影する際に映り込んでしまう関係のない人たちを、写真の中から丸ごと消してしまえるというAndroidアプリ。

統計的処理により、簡単に無人の写真が撮れる(提供:立体逓信団)
統計的処理により、簡単に無人の写真が撮れる(提供:立体逓信団)

連続撮影した10~20枚ほどの写真から止まっているものと動いているものを自動で解析し、動いているものの部分を背景と思わしき画像で埋めることで、目的の被写体のみを残した写真を作るというものだ。

アイデアの出発点は、無人の東京の風景を写した写真家・中野正貴氏の作品『Tokyo Nobody』。坂本氏は、画像処理の技術を使うことで同様の写真が簡単に撮れるのではないかと考えた。

「写真からいらない人を消すのには、減光フィルターを使って長時間露光する方法もありますが、それだと完璧に消すことはできず、人の影が残ってしまう。現実から物体を差し引いていくDiminished Realityと呼ばれる技術の一種を使えば、これを完全に消せるのではないかというのが着想です」(坂本氏)

坂本氏はこの『Hack Day』を、諸々の理由で研究テーマから外れたアイデアを試す場として位置付けている。そうしたアイデアがいくつかある中で今回、『露光代理店』を選んだ最大の理由は、24時間での実現可能性を重視したためだ。

「その際のポイントは、当初必要だろうと思った4倍のマージンをとって所要時間を計算したことです。普段の研究活動においてもそうですが、何をするにも自分で思っている4倍は掛かるというのが、僕の経験則から導き出された結論だからです」(坂本氏)

立体逓信団は実際、かなりゆったりしたスケジュールで24時間を過ごしていた。徹夜で開発を続けるチームもある中で、1日目の午後10時には完成のメドをつけ、一部のメンバーを除いて全員帰宅。再集合したのは翌日の午前7時で、そこからの時間はもっぱら、プレゼン資料作りに費やした。

後述するが、立体逓信団はプレゼンの入念な準備がハッカソンの勝敗を分ける重要な要素であると考えている。そこに多くの時間を割くことができたのは一重に、余裕をもって開発作業を終えていたから。それでいて、完成した作品はすぐにでも商品化できる完成度として、高い評価を受けた。

ポイント2:サンプルプログラムを利用して簡単に作る

OLYMPUS AIRをコントロールするSDKで新しいアプリを開発するなど、新たな写真価値を追求するオープンプラットフォーム「OPC Hack & Make Project」
OLYMPUS AIRをコントロールするSDKで新しいアプリを開発するなど、新たな写真価値を追求するオープンプラットフォーム「OPC Hack & Make Project

ハッカソンが始まったのは7日の正午。集合してすぐにアイデアがメンバーに共有された。この時点では理論こそあったもののテストは一切しておらず、イメージ通りに動くか、どの程度画像が崩れずに完成するかは不明だった。

そのため、坂本氏ら2名はまず、理論通りに動くかどうかを試すプログラムを組む作業に着手。並行して、坂本氏と同様にYahoo! JAPANで先端技術を研究している鈴木雄太氏が、そのプログラムを組込む予定のAndroidアプリの開発を進めた。

鈴木氏は同時に、提供素材であるオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR A01」との接続部分を開発する役割も担った。このカメラは開発当日も未発売で、この日初めて手渡された。初めて扱うものをどう手際よく開発するかというのが、鈴木氏に課せられたミッションだった。

「僕だけは坂本さんから事前にある程度のアイデアを共有されていたので、公開されていたSDKから、どういったことができるかをあらかじめ想像していました。本業ではアプリ開発を担当しているので、接続部分の開発でバグになりやすい箇所に、あたりを付けておいたのも役に立ちました」(鈴木氏)

7日午後10時、坂本氏らが組んだプログラムは結果として、一発で期待通りに作動。そこから1人残ってAndroidアプリを完成まで持っていった鈴木氏の作業も、8日午前0時ごろには完了した。

「ゼロから作るのは時間的に無理なので、公開されているサンプルプログラムをいかに活用するかがポイントでした。とにかく完成まで持っていくことが最優先だったので、なるべく簡単に作れるようにということに気を使ったのが良かったと思います」(鈴木氏)

ポイント3:プレゼン資料から逆算して必要な要素を集める

プレゼンには4時間をかけて入念に準備(提供:Yahoo! JAPAN)
プレゼンには4時間をかけて入念に準備(提供:Yahoo! JAPAN)

Yahoo! JAPANで企画職として働く酒井篤史氏と新入社員の西紗記子さんは、主に写真サンプルの撮影を担当した。六本木の交差点やスケートリンクなど、人が多く、インパクトの強い写真が撮れそうなロケ地を選定し、自らモデルになって撮影を重ねた。

日が落ちてしまってからでは撮影はできないから、ある意味で開発チーム以上にタイトなスケジュール。「最終的なプレゼン資料から逆算して、必要なパーツを想像しながら動くことを心掛けました」(酒井氏)

プレゼンを重視し、準備に非常に多くの時間を割いたのは、このチームが採った戦略の大きな特徴の一つだ。

作品発表会後半にはデモの時間も設けられていたとはいえ、審査員と一般客の多くは、でき上がったプロダクト以上に、プレゼンの内容を見て評価を下すもの。確かに、ハッカソンの勝敗を決めるのはプレゼンであると言っても過言ではない。

特に、90秒という“爆速”で進む『Open Hack Day Japan』のプレゼンでは、一度かんだら全てがおしまい。そのため、プレゼンを担当した西さんは坂本氏とともに、言いやすい言葉、聞き取りやすい言葉を選んでスクリプトを作りつつ、それに沿ってしゃべる……という作業を、実に4時間にわたって繰り返した。

ちなみに、西さんは『Open Hack Day Japan 2』でもプレゼンを担当しており、立体逓信団「勝利の方程式」のクローザーであるといえる。

ハッカソンとは、研究活動の縮図である

以上のポイントから受ける印象は、立体逓信団の戦略は非常に現実的で堅実なものであるということだ。そのことを指して坂本氏は、「ハッカソンは研究活動の縮図である」と言う。

「何を作るにしても締め切りというものは必ずあり、満足できるまで作れることというのは、ほとんどありません。その中でどこまでやれるかを考えるというのは、まさにハッカソンと研究活動の共通したポイントです。

そして、あらゆる研究には、本質的にすごいかすごくないかというところとは別に、世間に分かってもらえるかどうかという問題がある。ハッカソンも同じで、開発にかかる工数を厳密に算出し、プレゼンの準備に多くの労力と時間を割いているのはそのためです。そうした要素が凝縮されているからこそ、ハッカソンは面白い」(坂本氏)

もちろん、普段の仕事では試せないテーマや技術、製品を扱えるのはハッカソンの大きな魅力であり、実際、『Open Hack Day Japan』では受賞作品以外にも、さまざまな奇抜なアイデアが生まれている。そこでは子供のような柔軟な発想が賛美される。

しかし一方には、そうした場に現実的な戦略を徹底して持ち込み、勝利を追求する立体逓信団のようなチームも多くいる。こうしたさまざまな形の「情熱」が入り乱れているからこそ、ハッカソンはかくも面白いのだろう。

取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)

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