「ギークな女子会」ファシリテーター
べにぢょさん (@lovecall)
『ギークなお姉さんは好きですか』や『べにぢょのらぶこーる』などのブログで、プログラマーやエンジニアたちから注目を集める女性ブロガー。インターネットと宝塚とおいしいワインが大好き。詳しいプロフィールはコチラを参照
「エンジニアLoveなお姉さん」べにぢょさんが、第一線で活躍する女性エンジニアのON・OFFのホンネに迫るこのコーナー。今回は、「起業」「Android」「コミュニティー活動」など数多くの共通項を持つ2人の女性プログラマーが登場。なぜ彼女たちは「コードを書き続ける仕事」を選んだのか? そのきっかけは意外なところに……
「ギークな女子会」ファシリテーター
べにぢょさん (@lovecall)
『ギークなお姉さんは好きですか』や『べにぢょのらぶこーる』などのブログで、プログラマーやエンジニアたちから注目を集める女性ブロガー。インターネットと宝塚とおいしいワインが大好き。詳しいプロフィールはコチラを参照
株式会社鳥人間 プログラマ
郷田まり子さん (@MaripoGoda)
東京大学工学部・建築学科を卒業。設計事務所を経て現職に。人工衛星ウォッチング支援アプリ 『ToriSat』の開発者としても知られる。著作には『ジオモバイルプログラミング』(共著)『facebookアプリケーション開発ガイド』(単著)がある
株式会社ウフィカ 代表取締役総長
あんざいゆきさん (@yanzm)
東京工業大学を卒業。2011年にスマートフォン向けアプリ開発のウフィカを創業。経営の傍ら、Android女子部の副部長を務めるなど、コミュニティー活動にも積極的に携わる。Android関連の著作も多数。最新著は『Android UI Cookbook for 4.0 ICSアプリ開発術』
べにぢょ 今日はお集まりいただきありがとうございます。わたしと郷田さんは、2009年の『LLTV(Lightweight Language Television)』っていうイベントでお会いしているんですが、お2方にご面識は?
あんざい ちゃんとお話するのは初めてですが、イベントとかで何度かお会いしてますよね。
郷田 そうですね。3~4回ぐらいですか? でも、前からあんざいさんとゆっくりお話してみたかったんですよ。
べにぢょ お話してみたかった理由は? やっぱりAndroidですか?
郷田 はい、あんざいさんはAndroidの超エキスパートで、わたしもAndroid関連の開発をしているので。わたしはいろんな分野に手を出している感じなので(笑)、そこに大きな違いはありますが。
べにぢょ あんざいさんがAndroidにかかわるようになったのは、いつごろだったんですか?
あんざい 学生のころですね。それまでずっとauケータイを使っていて、乗り換えると通信料も高くなりそうだし、iPhoneへの乗り換えはヤダなと(笑)。そしたら、2009年のGoogleさんのイベントでAndroidデバイスがタダでもらえて。それが、Androidに触り始めたきっかけです。
郷田 GDD Phoneですよね、その時のイベントで配られたの。
あんざい そうそう。グーグルさんの「端末配ればみんなやるんでしょ?」戦略に、まんまとハマった一人なんです(笑)。
郷田 確かに、「タダでもらえるなら、ちょっとHackすっか?」みたいな気にはなりますよね。
べにぢょ さすがギークなお2方(笑)。ところで、お2人は学生時代、何を勉強されてたんですか?
郷田 わたしは建築学です。その一環で、構造計算なんかも勉強してました。
あんざい へー、建築だったんですか。カッコいい。わたしは天文学でしたね。
べにぢょ それもマニアックですね。ではまず、郷田さんがプログラマーになったきっかけを教えてください。
郷田 当時は安藤忠雄みたいなオシャレな建築デザイナーになりたくって、いわゆるアトリエ系と呼ばれる建築設計事務所に入ったんですけど、たまたまその会社が、建物の構造をWeb上でチェックするためのCADと構造計算ソフトを併せたようなアプリを開発していまして、そのチームに配属されることになったんです。
べにぢょ じゃあ、最初からプログラマーを目指してたわけじゃないと。
郷田 えぇ。「あれ? なんかわたし、このままじゃプログラマーになっちゃう。ヤバイどうしよう」って思っているうちに、本当にプログラマーになっちゃいました(笑)。
一同 爆笑
郷田 でも、入社してしばらくすると、景気の落ち込みで少しずつ本業の建築設計も少なくなってきたんですね。このままだとわたし自身も経済的にも厳しくなるので、社長に直談判して「会社のプロジェクトを継続しながら、よそさまの仕事も請け負っていいですか?」と。言ってみれば出稼ぎです。
べにぢょ そんなことがあったんですか。
郷田 で、その発注先の中に、今の鳥人間の社長もいたんです。彼はWindows用のスタンドアローンアプリ開発を個人で受けてくれる人を探していて、数ある仕事の一つとしてわたしが請けたんですよ。その後、九段下の中華料理に連れて行かれた時に、「今度独立するから一緒にやらないか」と。酔った勢いでOKしちゃいました。
あんざい すごい展開(笑)。鳥人間って名前もユニークですよね。
郷田 社長があの『鳥人間コンテスト』の出場者で、手作り飛行機を作っていたからこの社名(笑)。社長は、思いついたら何でも作っちゃおうみたいな、そういうマインドがある根っからのギークなんですよ。わたしもそういうタイプなので、意気投合したんですね。
べにぢょ あんざいさんも起業していらっしゃるじゃないですか。何で起業しようと?
あんざい 実はわたし、起業の前に1年間だけ会社員やってたんです。その会社は大学院の時からのバイト先で、学生時代に2年ほど働いていたんですね。で、就活が面倒で、そのまま入社しまして。辞めて今の会社を作ったのは、入社して丸1年経った後でした。
べにぢょ 前職は何をやる会社だったんですか?
あんざい PS3の『Cell』プロセッサを使った並列処理用のコードを最適化する会社にいました。従業員は100人くらいで、『Cell』や『CUDA』でコードを書く案件もあって、仕事自体は面白かったんです。が、半年でWindowsソフトの受託開発チームに異動になりまして。もし、あのまま並列処理コードを書き続けられたら、辞めなかったかもしれないですね。
べにぢょ じゃあ、辞めたのは異動のせい?
あんざい その案件がウォーターフォール型の開発スタイルで、がっちりドキュメントを書いたり、最終的なユーザーさんの意見を直接聞けない仕組みが、性に合わなかったんですよ。Androidアプリの開発だと、マーケットに出せばユーザーさんから直接メールが来たりするし、改善すれば感謝されるじゃないですか。
郷田 あ、それはわたしもすごく感じます。ユーザーさんの要望に応えたり、不具合を直したりした時に、すぐに「ありがとうございました」ってメッセージが返ってくるような環境って、作り手としてすごい幸せなんですよね。
べにぢょ その感覚は分かるなぁ。やったことに感謝してもらえると、仕事のモチベーションも上がりますもんね。
郷田 大規模開発だとユーザーさんとのつながりが持てないって話ではないんですが、やはり組織が大きくなると、お客さんの声が届きづらくなるのは確かですよ。営業、PM、プログラマーの間だけで、伝言ゲームをしているような状況に陥ってしまいがちなんです。
べにぢょ 最近でこそスタートアップが増えてますけど、あんざいさんも郷田さんも、前の会社を辞めて起業するまでに、不安だったり悩んだりされなかったんですか?
あんざい わたしは全然(笑)。実は入社した年の秋には、もう辞めるつもりでしたから。
べにぢょ あはは。たくましい。
あんざい でも、さすがにすぐ辞めるのはどうかと思い直して、最低1年は働いてみようと。退職する最終的なトリガーは、入社からちょうど1年後の4月1日、朝礼で社長の訓示を改めて聞いて「やっぱりビジョンに共感できないなぁ」と思ったことですね。それで、会社にはその日のうちに「辞めます」と伝えました。
郷田 決断が早い(笑)。
べにぢょ ご自分の会社では、どんなビジョンを掲げているんですか?
あんざい まだかっちり決まったものではないですが、中にいる人にとって、やりたいと思えることがちゃんとできる会社でありたいとは思っています。個人のスキルや価値が会社のベースになっていて、個人でもチームでも力を発揮きるような組織、ですかね。
郷田 ソロ活動でも食べていける人たちが、あえて一緒にバンドを組むみたいな感じ?
あんざい あ、そうです! グーグルの「20%ルール」ってあったじゃないですか。うちの会社、それを上回る「60%ルール」みたいな感じですから(笑)。みんなが好きなことを追求してるうちに、仕事になっていくというか。
べにぢょ さっき郷田さんは「最初はプログラマーの仕事に抵抗があった」っておっしゃっていましたが、お2方とも、プログラミングで食べていこうと思った決定打って何なんですか?
郷田 当時は建築家になりたかったのに、名刺に「SE」って書いてあって、「えーっ」っていう思いがあったんですよ(笑)。これまで建築を勉強してきたのにって。
べにぢょ それでも、プログラミングを続けた理由は?
郷田 結局、コードを書く仕事が性格に合ってたんだと思います。作ったものをすぐ世の中に出せるし、たとえ文無しになってもPC1台あれば一発逆転できるっていうところも、いいなって思っているんですけど。
べにぢょ あんざいさんはいかがですか?
あんざい 中学校のころはゲームプログラマーになりたかったんですよね。わたし、飽きっぽい性格なんですけど、「なんでゲームだったら続けられるのか」と子どもながら関心を持っていて。今で言うところのゲーミフィケーションってやつですね。でも、わたしも就職するころ、「プログラマー」って名乗るのに躊躇があった気がします。
べにぢょ これまた郷田さんと一緒(笑)。何でですか?
あんざい 何というか、プログラマーって「エンジニアより下の人」という気がしてたというか。名刺にプログラマーって書いてると、肩書き的に「何かちっちゃいな」と(笑)。
郷田 そんなあんざいさんも、今じゃ名うてのプログラマーじゃないですか。
あんざい 高専から東工大の物理学科に編入して、天文学をやるようになってからはじめて、研究者よりこっちの世界の方か合っているのかなと思ったのが、職業としてのプログラマーを意識したきっかけです。天文学の世界では、衛星から取ったデータを解析するのにプログラミングが必須なんですが、それが思いのほか楽しかったんですね。
べにぢょ 最初は乗り気じゃなかったけど、やってみたら楽しくって、いつのまにか超深掘りしちゃってたってパターンなんですね。夢中になれることを続けているうちに、キャリアにつながったというか。
あんざい これはわたしの持論なんですが、やりたいことからいったん離れてみて、それでもやりたいと思えることこそ、仕事にすべきことだって思っているんです。途中で受託開発に嫌気が差した時もあったけど、今もAndroidを通じてプログラミングをしているってことは、自分に合っている仕事なんだと思います。
郷田 わたしもそうなんですが、一周回って「プログラマーってカッコいいじゃん」って思えるようになったタイプじゃないですか、お互い。
べにぢょ 前にこの連載で、Yuguiさんが「小さい時に家電製品を分解してみるのは普通」っておっしゃっていたんですけど、もしかしてお2人も……?
郷田 あ! わたし、あんまり家電製品を分解するもんだから、親にネジ回しを隠されたりしてました(笑)。
あんざい わたしも祖父が電気屋さんだったので、家電製品の中身とか、モノの仕組みを見るのに自然と興味を持つようになってましたね。
べにぢょ やっぱり! そういう志向をお持ちだから、プログラミングにもハマッたんでしょうね。
べにぢょ あと、今日はこれもぜひ伺ってみたかったんですが、お2方ともプログラマーとして、勉強会やコミュニティーなどで外に向かって積極的にアウトプットされていますよね。なぜそういう活動を始めようと?
郷田 積極的に外に出るようにしているのは、組織の中にこもり続けていると、どうしてもその組織固有のBadノウハウに染まってしまう気がしたから。自分の「手ぐせ」って、気付かないものじゃないですか。
べにぢょ 職人っぽい考え方(笑)。でもその考え方、腕を磨くためには大事ですよね。
あんざい 視野の広いエンジニアになりたいっていう思いはわたしも強いかなぁ。小さな会社でやっているから、なおさら外に勉強の機会を求めるようになったのかもしれません。
べにぢょ それに本もお書きにもなっている。ただでさえ忙しそうなのに、掛ける労力に対しての報酬が見合わないと思うことってないですか?
郷田 あんざいさんは、見合ってます?
あんざい いや、まったく(笑)。
郷田 ですよねー(笑)。
べにぢょ では、どうしてご執筆を? ”名刺代わり”みたいな部分もあるんですか?
郷田 もちろんそれもありますが、どんなに得意なことを書くにしても、何も見ずに思いのままに書けるわけじゃないんですよ。その過程でたくさん勉強するから。
あんざい それが自分のためになっているって感じですよね。だからわたしの場合、「このテーマで本を書いても、得るものが少ないなぁ」と思うと、執筆を頼まれてもお断りすることがありますね。結果的に、入門書というより、中級者向けの本が多くなっちゃうんです。
べにぢょ そうやってお2方とも「自分の名前」で仕事しているわけですが、ネットをはじめ、いろんなところに自分をさらすのって、怖くなかったですか?
郷田 最初から怖さがなかったといえばウソになりますが、いろんなところに自分を出すことで、外部から予測不可能な刺激がやって来るわけじゃないですか。それって、学んだり、新しい気付きを得るのに、とても大事だと思うんです。
あんざい そうそう。わたしも、メリットの方が大きいかなぁ。
郷田 「外にあるカオス」に触れるのって、仕事に飽きないためのコツだと思うんですよ。
べにぢょ お2方とも、仕事やキャリア面だけじゃなく、考え方にもたくさん共通項があるんですね。今回、その一つでもあるコミュニティー活動や、最近増えている女子部のお話を詳しく伺いませんでしたので、お2方の将来プランも含めて次回ぜひうかがわせてください。
郷田 はい、ぜひ!
あんざい ぜひ!
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太
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