アイキャッチ

「エンジニア社長のジレンマ」とどう付き合ってる?ウノウ、ミクシィを経て起業したヴェッテル山下英孝氏に聞く【連載:30分対談Liveモイめし】

働き方

    『ツイキャス』を運営するモイの代表取締役で、経験豊富なエンジニア赤松洋介氏が、週替わりで旬なスタートアップのエンジニアや起業家を招いて放談する「モイめし」。『ツイキャス』連動企画として、お昼に30分の生放送&その後のフリートークも含めて記事化したコンテンツをお届けします!

    ツイキャス』を運営するモイのエンジニアがホストを務め、週替わりで旬なスタートアップのエンジニアや起業家を招いて放談する「モイめし」。今回のゲストは、ヴェッテル代表取締役の山下英孝氏だ。

    ウノウ、ミクシィといった有名ベンチャー企業を経て、自らヴェッテル立ち上げに至った山下氏。社長業とプログラミングの両立やリクルーティングなど、同じくエンジニア社長である赤松洋介氏とは共通する悩みを多く抱えているようだ。

    プロフィール画像

    ヴェッテル 代表取締役
    山下英孝氏(@weboo

    1976年生まれ。電機メーカー研究所勤務を経てウノウに入社。その後、2008年に世界初のモバイル向けソーシャルアプリプラットフォームである「gumi Platform」の設計開発を行った後、その経験を買われ2009年にミクシィに入社。mixiアプリモバイルの立ち上げを行う。2011年6月末で同社を退社。2011年8月よりヴェッテルの代表取締役CEOとして活動開始

    エンジニアであれば起業のハードルが低い時代

    赤松 山下さんは、もうこの業界が長い方ですね。起業に至るまではどんなお仕事を?

    山下 最初はSI系の会社に入ったんですが、ベンチャーで働きたいとの思いからウノウへ転職しました。その後、1年ほどフリーランスとして活動する中で、まだゲーム会社になる前のgumiを手伝って、ケータイ用SNSでアプリを動かすためのプラットフォームをOpenSocialの仕様を拡張して開発しました。

    ただ、当時は会員が6万人ほどしかいなかったため、プラットフォームのAPIを作ったと言っても、誰もアプリを作ってくれなかった。それで結局、アプリも自分たちで作っていたんです。

    そんな誰もアプリを作ってくれなかったプラットフォームではあったんですが、そのことがきっかけで、同じSNSのミクシィから声を掛けてもらうことができました。それでミクシィへ入社。ほぼ同じ仕様で、mixiアプリのプラットフォームをPerlでイチから書き直しました。

    赤松 あのころのミクシィアプリはすごかったですね。私も登録した人のうちの1人です。

    山下 100社近いサードパーティが参加してくれましたね。しかし、サードパーティのサーバが2社を残して全て落ちるというハプニングもありました(笑)。

    赤松 アプリを作ってくれる人がいなかった当初のgumiの時とは、全く違う世界だったんじゃないですか?

    山下 リリースする時もすごく緊張しましたね。トラフィックが大きいと、ちょっとしたバグであっても影響が大きいので。

    赤松 ウノウ、ミクシィと経て、ベンチャーで働きたいという気持ちが満たされたことで、いよいよ起業となったわけですか?

    山下 もともと「いつか起業したい」と思っていたんです。だからフリーランスの時期も、報酬は少なくてもいいからベンチャーの仕事しかしないと決めていました。実際、その時期に出会った人たちが起業する際に手伝ってくれましたし。

    赤松 そもそもなぜ起業したかったんでしょう?

    山下 昔であれば、会社を作るのには1000万円単位で現金を用意しなければいけなかったですよね? でも今の時代、しかもエンジニアであれば会社を簡単に作れるようになった。サーバを借りるのもクラウドだから簡単だし、そんなにお金は掛からない。必要なのはせいぜい人件費くらい。だったら面白いことをやろう、と。

    赤松 確かにそうですね。で、後々、人件費の重さに気付く、と(笑)。

    山下 それは実感しました(笑)。最初は貯金を切り崩して始めたんですけど、どんどん減っていくので、人件費ってすごいなって。

    狙い通りに注目を集めた最初のサービス『PicoTube』

    赤松 起業した背景にはエンジニアとして何か作りたいという思いがあったんですね。具体的なアイデアはどのようなものだったんですか?

    山下 3つあった中から共同創業者の鈴木健(スマートニュース会長)と相談して決めたのが、『PicoTube』というサービスです。去年閉じてしまったんですが、友人や趣味の合う人たちと、同じYouTubeの動画をリアルタイムで楽しめるというもので、TechCrunchTokyoで優勝したこともあり、資金調達などはスムーズにいきました。ただ、リアルタイムサービスの怖さ、大変さを身にしみて感じることになりましたね。

    赤松 「リアルタイムサービスの怖さ」とは?

    山下 インターネットって、基本は非同期で成り立っていると思っているんです。例えば、2ちゃんねるの掲示板であれば、昨日の書き込みに対して今日コメントしたとしても会話が成立する。ところが、リアルタイムサービスの場合は、たった5分であっても遅れればそこには誰もいないですよね? そこが怖い。だからそれを成立させているツイキャスさんは本当にすごいと思います。

    赤松 人を集めるのは本当に大変ですよ。Twitterはリアルタイムなんとかと言われていましたが、それでもつぶやかれたtweetを実際に見るのは3分後、5分後になるというのが普通です。そうすると配信者は人が集まるのを待たなければならないんですが、誰もいないところで人が来るまでの3分間、配信し続けられる人はなかなかいない。

    だから、最初にライブアプリを出す際には、プッシュ通知のやり方を入念に勉強しました。その後、機能が増えて他の仕様がどんどん複雑化する中でも、通知登録だけが飛び抜けて簡単にできているのは、その名残でもあるんです。

    山下 PicoTubeの場合、長時間滞在してくれる人は相当に時間に余裕のある人に限られるので、コアユーザーは小中学生だったんですよ(笑)。ボカロの曲を流したりして。一般的なWebサービスは夜の10時、11時ごろがピークタイムだと言われますが、PicoTubeは夕方の4時、5時くらいから人が増えていって、夜の9時ごろになると「親が来たから落ちます」とか言っていなくなってしまう(笑)。

    赤松 それはすごい(笑)。うちも通称「ご飯タイム」といって夜の7時くらいにいったん減るんですが、さすがに9時にいなくなるってことはない。でも、実際に自分でサービスを出してみてどうでした?

    山下 とにかく反応があることがうれしかったですね。スルーされるのが一番悲しいので、悪い反応でも反応がもらえること自体がうれしかった。

    赤松 PicoTubeは実際、面白かったですよ。非常にコンセプトの似ているTurntable.fmが流行っていた時期でもありますし。PicoTubeは何を目指していたんでしょう?

    山下 アメーバピグのような感じでアバターやアイテムを売りたかったんですが、そこまで至らずにクローズしてしまったんですよね。

    赤松 話を変えて、そのエンタメ的なサービスは、「エンジニアが起業する」ということとどう絡むんですか?

    山下 会社をやっていくためには最初は注目を浴びて資金調達をしなくてはならないですよね? PicoTubeで10年やっていこうとは最初から思っていませんでした。結果、注目は集めたし、資金調達もできたので、それは良かったと思っています。

    赤松 まずは注目を集めるのが狙いだったんですね。それでも最終的に辞めるという判断に至ったのはなぜですか?

    山下 KPIとしていろいろな値を取っていたんですが、それが伸びなかったのが一番ですね。平均滞在時間は1時間くらいあったものの、母数となる人数が少ないので厳しいと判断しました。当時は海外を強く意識していて、SXSWやGoogle I/Oに出展したりもしていたんです。そのため、デザインは海外の人にお願いしたんですが、結果、アバターが海外ウケ狙いなのか日本人ウケ狙いなのかが中途半端なものになってしまったのも大きかったみたいです。

    エンジニア向け教育サービスを構想中

    次はエンジニア向け教育サービスを構想しているという山下氏(左)

    次はエンジニア向け教育サービスを構想しているという山下氏(左)

    赤松 今はどういった仕事をしているんですか?

    山下 スマホアプリを受託で開発しています。今やっているのは、アパレル企業に依頼されて作った女性向けファッションアプリの『SIGN』というサービス。このスマホアプリとバックエンドを作っています。

    赤松 今後、自社サービスをやっていくお考えはないんですか?

    山下 やっていかないといけないと思っています。今構想しているのは、エンジニアの価値が向上していくようなエンジニア向けの教育サービスです。

    赤松 『Qiita』のような?

    山下 近い……かもしれません。先生が何十人かの生徒に向けて教えるという教育の仕方は何百年前から変わっていないと思うんです。そこはITでもっと変えていける。よく言われることですが、これからの時代は英語とプログラミングスキルが重要になる。

    また、今までの教育は暗記が多かったですが、ググれば出てくる時代にそれは必要ありません。どうやって問題を解いていくか、もっと言えば問題自体を作り出す能力が必要不可欠になる。エンジニアはそれを解決できる立場にいるので、そのエンジニアが勉強するためのサービスをこれから作りたいと思っているんです。まだ企画段階ですが。

    赤松 そういったスキルは、将来エンジニアにならずとも役に立つものですしね。世の中全体がもっとシステム的になればいいのにと自分も思っているんです。

    エンジニアリングが分かるがゆえのもどかしさ

    赤松 エンジニアとして起業してみて、実際どうですか? よく「エンジニアが起業すると全部自分で作ってしまうので小さくなりがち」という指摘もありますが。

    山下 それは思いますね。自分でここまでできるというのが見えてしまうので、冒険しないというところがある気がします。どう作ればいいかが分かる分、他のエンジニアについ意見してしまう。だからいっそ、エンジニアリングが分からない方が幸せなのではないかと感じることも多々ありますよ。

    赤松 とはいっても、自分でもコードを書くのでは?

    山下 もちろん書きますが、スタートアップの場合、コードを最初からきれいに書く必要はないと思っています。必要十分なクオリティさえ出せれば、アウトプットを速くすることの方が優先される。ただ、そうは思っていながらも、エンジニア出身なのでついついコードのきれいさが気になってしまう、という話です。

    赤松 私の場合は逆にそれでチームメンバーを困らせている方なので……(笑)。一方で、最初からちゃんと作るのも必要なのではないかと感じています。

    山下 最初からかっちりと進路が決まっている場合はそれでいいですが、スタートアップは方向修正だらけですからね。

    赤松 起業して最初のバージョンを作るところは大変だけれど、そこが一番楽しい部分だったりはしますよね?

    山下 楽しいですね。今までは仕様ありきで作っていたのが、自分たちの好きなように作れるわけですから。

    赤松 しかし日を追うごとに、そこから経営に時間を取られるようになる。

    山下 それはありますね。DeNAの南場智子さんの話を聞いても、会社が今くらい大きくなるまで、仕事の3割はリクルーティングだったとか。社長はそういう仕事をしないといけないのだと感じています。

    赤松 確かに社長は雑用をこそすべきと思いますね。でもそれ、できました? 結局自分でコードを書いてしまったり……。

    山下 そうなんですよね。やっぱりそれが一番楽しいので(笑)。ただ、人が増えてくるとコードレビューに時間を取られるようにもなってきます。後は、たくさんやりたいことがある中で、どうやって優先順位を付ければいいのかにも頭を悩ませています。モイさんではコードレビューはどうしているんですか?

    赤松 コードレビューは今はちゃんとできていないので、まさにこれから改善しなくてはいけないと思っています。ただ、サービスを成長させていかないといけない側面もいまだに強い。どこまでやるかは判断の難しいところです。

    エンジニアを惹きつけるのは技術か人か

    山下 『ツイキャス』は今の状況になるまでにけっこう時間の掛かったサービスですよね? 今のように流行るのには、どこかにターニングポイントがあったんですか?

    赤松 一番のターニングポイントは増資を決めた時ですかね。それまでは、サービスを譲ろうと思っていたんです。ここはまさに私のエンジニアの起業論にかかわってくる話でもあって、私はエンジニアは社会的に意義のあることをすべきだと思っているんです。人の生活を何%豊かにするとか、サービスを何億人に届けるとか、そういうこと。

    だから、エンタメに振り切ったサービスのままでは続ける意思はなかったんですが、そこから社会的に意義のある方向に持っていけるのではないかという考えに至ったんですよ。それがちょうど2年くらい前。そこからは人を増やして、本気で挑戦を続けているんです(モイのエンジニアを募集している『Wantedly』のページはコチラ)。

    山下 それまでは数人でやっていたんですか?

    赤松 ええ、3人で。2年前の7月に次の1人を採用して、そこからですね。

    山下 エンジニア採用は大変じゃないですか?

    赤松 最近はどうすればいいのか分からないというくらい(笑)。

    山下 本当に分からないですよね。一方ではメルカリという、最近自分の知り合いが次々と吸い込まれている会社もあるわけですが(笑)。

    赤松 あれはすごい。エンジニアは何に惹かれるのでしょう。技術的なものなのか、人同士のつながりなのか……。

    山下 一番は「できるエンジニア」と一緒に働きたいというのがあると思います。

    赤松 「できる」、つまり技術をもっと対外的にアピールしていかないといけないということですかね。

    山下 以前いたウノウという会社では、エンジニアが毎日、日替わりの当番制で技術ブログを書いていました。今でこそ当たり前ですが、当時としてはそれが珍しかった。自分は採用面接も担当していたんですが、ブログを見て応募したという人は本当に多かった。技術発信はすごく大事なように思いますね。

    取材・文/鈴木陸夫(編集部)

    >> 過去の[連載:30分対談Live「モイめし」]一覧はコチラ

    Xをフォローしよう

    この記事をシェア

    RELATED関連記事

    RANKING人気記事ランキング

    JOB BOARD編集部オススメ求人特集





    サイトマップ