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データ・サイエンティスト工藤卓哉氏が予測する3年後の日本

働き方

    「日本のインターネットの父」慶應義塾大学教授の村井純氏は、2014年7月11日に開催された『COI-T「感性に基づく個別化循環型社会の創造」シンポジウム』の中で、2030年には1000億個ものデバイスとセンサーがつながる時代が来る、と語った。

    また、シリコンバレーのセンサー関連ベンチャーTSensors Summitによると、2014年現在でも世界に100億個のセンサーが存在しているという。

    12月11日にワイヤ・アンド・ワイヤレスや、日本航空や京都市などと共に、訪日外国人観光客向けビジネスの加速化を目指す『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』プロジェクトを発表したアクセンチュア(プレス情報はこちら)。『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』とは、訪日する外国人がアプリをダウンロードし、利用規約に同意することで、ワイヤ・アンド・ワイヤレスが提供する全国20万か所以上のWi-Fiスポットへの無償接続ができるほか、国内の観光情報、施設情報が配信される。

    アクセンチュアはこのプロジェクトで、人工知能技術などのアナリティクス手法を活用して、プロジェクトに参画する企業や自治体に対して、訪日外国人が、国内をどのルートで移動しているのか、どこの地域に、どの属性の外国人観光客の方が多く訪れているかなどの分析レポートを提供する。

    これによって、参画企業や自治体は、増加する訪日外国人観光客に対して、よりいっそう精度を高めた効果的なプロモーション施策の策定が可能になるのだ。

    アクセンチュアにおいて、『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』で活用されている分析基盤構築の指揮を執った、アクセンチュア アナリティクス 日本統括を務める工藤卓哉氏に、将来、センサー化が進むと世界はどう変わり、私たちには何がもたらされるのかを聞いた。

    人を介さない経済はもっと先

    2014年のホットワードは「人工知能」だったと工藤氏は振り返る。

    「アクセンチュアにも『人工知能は使えるのか』という問い合わせが多数来ており、注目度の高さを感じています。当社も名を連ねる『TRAVEL JAPAN Wi-Fi』では、匿名化されたデータから訪日外国人のユーザー属性情報を推定してレポートを作成する際に、人工知能を活用した分析が欠かせません。今後も、人工知能の重要性は高まってくるでしょう」

    しかし、すぐにすべての分析が人から人工知能に代替できるわけではない、と工藤氏は話す。

    「弊社のクライアントで、すでに人工知能を用いた半自動発注の仕組みを導入している企業があります。この場合、人が介入するのはチューニングの部分だけです。しかし、ある日、その企業の方から完全自動化をできないかと打診がありました」

    工藤氏は精緻に調査した結果、完全自動化を推奨せず、人が介在した方がいいと自信を持って判断した。

    「私はまず、アルゴリズムの分析から行いました。その結果、需要と供給の分布の均衡点をベースに、なるべくロスを少なくする最適化アルゴリズムが組まれていました。これは需要の突発的リスクを考慮した優れたモデルです。

    ともすると、機械学習がすべてを置き換える議論が人気を博していますが、人が介在するリアルビジネスでは、機械だけに判断させると、データポイントの量、質の不足から判断を誤ることがあります。

    私自身で、モンテカルロシミュレーションを実装した発注シミュレーションを行った際に、分散値を考慮してロスを抑えようとするあまり、発注数がゼロに近似していく傾向が見られました。おかしいですよね。これこそ、人間のリスクを踏まえた意思入れが、経営の意思決定に必要になる世界です。情報の非対称性が存在する世界では、常にデータが正しいとは限らない。ごく自然な理論です。

    リスクを知って、リスクを取りにいく、という経営の判断が人工知能にはまだできません。デジタル化が完璧に進んでいない企業以外では、人間の意思決定が必要だという証明ができました」

    「過渡期」の2015年

    2015年は人工知能と人が交わることで何が生まれるかを試す「過渡期」になるのではないかと工藤氏は推測する。

    「例えば現在、各社で開発が進められている自動運転技術では、安全に運転するだけでなく、人間が不快に感じない運転技術をプログラミングしている段階にあります。例えば、急停車や急発進、前方車両を追い抜く時の距離やスピードです。安全上は問題なくても、人が不快に感じる可能性があります。それを回避するために、人間の感情や意思といったものをプログラミングする必要があるのです」

    From jurvetson
    Googleが開発しているドライバーレスカーは、車体上部のセンサーで得た情報から、周囲の状況を判断する

    正確さや作業速度が求められるB2Bとは違い、B2Cで人工知能やロボットが人に代替して活躍するのはもう少し時間が掛かりそうだと工藤氏は話す。

    「3年後は今よりもよりデジタル化が進み、5G通信が普及することには今の1000倍もの通信速度になります。さらに法規制が緩和されれば、街中にセンサーが設置される。このように、膨大なデータが収集されていく世の中で重要になってくるのは『リスク管理』だと思います。

    3年後の日本経済は、個人情報の利用をポジティブに捉えることで発展する

    現在、ビッグデータの使い道は大きく分けて2つに分けられると工藤氏は話す

    「現在のビッグデータの使い道は、売り上げを上げることとコストの効率化を図ることに分けられます。前者はアドテクなど、後者は自動発注などがそれに当てはまります。

    しかし、アドテクのリアルタイム入札の仕組みも、掲出費用のロスを減らすという意味ではリスクヘッジの面もありますよね。これらを突き詰めれば、両方ともリスク管理なのです」

    リスク管理の必要性は企業だけでなく、個々人でも認識されてくると工藤氏は考えている。

    「現在の日本の医療保険料は、病気や怪我のリスクが高い高齢者が保険料も高く、若年層は低くなっていますよね。センサーで個々人の発症率が分析できるようになり、病気に罹りにくい体質だと分かれば、同じ年齢だとしても、保険料が大幅に変わってくるかもしれません」

    しかし、現在、路上に設置されている高解像度のカメラなどは防犯用途に限られており、経済活動には使うことができない。果たしてこれはクリアになるのだろうか。

    個人情報活用の声が高まれば、政府も動かざるを得なくなる、と話す工藤氏

    「生活保護の不正受給の問題など、センサーが普及すれば、その人が本当に働けないのか、いつどこにいたのかなどが分かるようになります。そうすれば、政府がなかなか解決できない問題の抑止力として働くことになるでしょう。

    今は個人情報についてポジティブな文脈で捉える人が少ないですが、将来的には個人情報の利用によって得られる便益に気付く人も多くなるはずです」

    「これからはリスクを制する企業がビジネスを制す」と力強く話す工藤氏。

    「グルコースレベルを涙腺から出る分泌物をセンサーで捕捉して、血糖値をコントロールしようとしているGoogleのスマートコンタクトレンズや、DeNAが提供している遺伝子解析の『MYCODE』も、未病をいかにして発症させず、健常者として健康維持していくかというリスク管理が目的です。これらのビジネスはリスク管理にお金を払うという価値観に基づいています。これからの日本ではこのようなリスク管理を制するサービスモデルを作る企業が劇的に発展していくと思います」

    工藤氏がパネラーで登壇する『JP HACKS』アワードイベントは12/20開催

    工藤氏もパネルディスカッションのパネラーとして登壇する、3年先の世界基準となるプロダクト開発に挑むハッカソン『JP HACKS』のアワードイベントが12月20日、東京大学 本郷キャンパスで開催される。

    全国から学生エンジニアやクリエイターが参加したハッカソンの表彰式や、GunosyやPluto、FiNCなど注目スタートアップ企業の経営陣が参加するパネルディスカッションなど、誰もが楽しめる内容になっている。

    >> スケジュールなど詳しい情報はこちら

    取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)

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