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Viibarの新CTO松岡剛志氏が実践する、コード以外で会社を変える方法「家族のように仲間を考える」

スキル

    ミクシィの元CTO松岡剛志氏が、クラウド型の動画制作プラットフォーム『Viibar』のCTOに就任――。そんなニュースが今年4月に流れた。

    同氏は2001年に新卒でヤフーに入社後、2007年にミクシィへ転職。取締役CTOを務め、2014年6月に退任。それから約7カ月におよぶ世界一周旅行に旅立っていた。その充電期間を終え、たどり着いた先は、これまでのキャリアで最小の企業規模となる目黒のスタートアップだった。

    「家族のように仲間を考える」Viibarの新CTO松岡剛志氏が実践する、コード以外で会社を変える方法

    Viibarは2013年の設立で、現在の社員数は30名というフェーズの企業だ。2015年4月時点で登録しているプロのクリエイターが2000人を越えるなど、動画制作に特化したクラウドソーシングサービスとしてクリエイターの新たなエコシステムを作るべく事業を展開している。

    動画制作・映像制作のクラウドソーシング『Viibar』

    動画制作・映像制作のクラウドソーシング『Viibar』

    そんなスタートアップの新CTOに就任した現在の仕事を聞いてみると、「最近は組織全体の把握とか、カーペットをひっくり返して配線のチェックなどをしていました」と、開発とは程遠い答えが返ってきた。

    その言動に秘められていたのは、ヤフー、ミクシィ時代から変わらない「家族視点」という、組織と人への思いだ。

    建築を学んだ学生が未経験からエンジニアとなり、チームの全体最適を実現するために取り組んできた思考に迫る。

    Viibarを選んだ理由は「終電を逃しそうになった」から

    ―― 世界一周旅行、お帰りなさい。まずは、Viibarを新しい場所に選んだ経緯についてお教えください。

    帰国後、いろいろな会社や人と会うところから、新天地探しが始まりました。それまでにお声掛けいただいていたエージェントの方や企業の方、さまざまですね。

    個人的には、僕がヤフー、ミクシィに入ったころと同じ100人くらいの会社がいいかな? と思っていました。過去の経験から、僕のパフォーマンスを出しやすいはずだと。そこそこ大きくなった会社をベースに探していたのが実情です。

    ですが、途中から「一度経験した規模にもう一度ジョインすることは退屈感があるかもしれない」と考え始めたんです。そんなタイミングで知人から「ViibarがCTOを探している」ということを聞きました。

    それで一度話を聞いてみようと上坂(代表取締役の上坂優太氏)と小栗(取締役の小栗幹生氏)に会ったのが、最初のきっかけですね。

    で、直接会ってみて、「イイかもなぁ」と思いました。

    ―― どのあたりがイイと感じたんですか?

    本当にいろんな人と会っている中で、Viibarには特に2つ好印象を受けました。

    1つは、お客さんと組織、両方に対して、ピュアな感じがあったんです。本当に真摯に事業と向き合っている。次に、「仕事のミーティング、全体会議、取締役会などすべてのことを見せてほしい」と依頼した時にも、忙しい中で積極的に手配してくれました。

    僕はきちんとパフォーマンスを出すために、すべてを把握しておかないとダメなタイプ。その気持ちを汲み取り、オープンに取り組んでくれたことに共感しました。最後まで、僕をCTOとして迎え入れたいという軸ではなく、Viibarに合うのか否か? という考え方で接してくれた。

    そこで、僕としては「彼らを男にしたい」そんな気持ちが芽生えるようになりました。

    まぁ、2人と最初にご飯を食べた時、5年振りくらいに終電を逃しそうになるくらい話が盛り上がったんですね。これってお酒をセーブしている僕の中では、かなりレアなことなんです。その時点から意識していたのは確かです。

    帰国後いくつかあったオファーの中から、最後はフィーリングで再就職先を選んだ松岡氏

    帰国後いくつかあったオファーの中から、最後はフィーリングで再就職先を選んだ松岡氏

    ―― ViibarのCTOとして、松岡さんに求められたものって何だったんですか?

    僕の得意な仕事は、エンジニアリングチームを「組織化」すること。

    ですが、Viibarの開発陣はすでに、DeNAやグリー、フリークアウトなどいろいろな会社で開発経験を積んだエンジニアたちが集まって、モダンなモノづくりをしていました。コードはGitHub、インフラはChefで管理され、レビューし合う文化があり、CIも整っていました。

    ですので、僕への注文は将来を見越して「ブースト」する役割だと言えます。組織を拡大する上で、どうすれはいいのか? 技術によるコアコンピタンスをどう作るのか? という課題を解決するポジションですね。

    今のViibarには、エンジニアがモノを作る環境が整っています。ただし、会社の方向性や組織全体の方向性と同じベクトルを向いているのか? 全体最適になっているか? という点には課題を感じました。

    エンジニアチーム、組織全体、事業。それぞれにとってのフィット感については、まだやることがたくさんある。そこを頑張りたいです。

    “ボンボン”のままで会社を大きくしないために

    ―― 組織全体の最適に必要なものについて松岡さんはどうお考えですか?

    理想は自分の領分について高いスキルを持っていて、人として自立しているということ。関係する部署すべてに理解があり、相手のことを思いやって行動ができるという状況をゴールイメージとして描いています。

    そこにたどり着くための方法はさまざまです。人それぞれのやり方があるでしょう。

    コミュニケーションの総量を上げるためにオフィスにゲーム機を設置するかもしれないし、卓球台を置くかもしれない。頻繁に合宿を行うのもいいかもしれません。また、KPIツリーを細かく設計して、逐一説明することも手かもしれませんね。

    組織というよりも人。誰が何を考えているのかを浸透させることで、組織全体の最適を図ることができると考えています。そのためには、学ぶことを奨励する雰囲気づくりが重要。それは、技術を磨くことだけではありません。

    ミクシィ在籍時に登壇してもらった弊誌主催のトークセッションでも、CTOの役割を「変化に柔軟に適応する組織づくり」と答えていた(写真右)

    ミクシィ在籍時に登壇してもらった弊誌主催のトークセッションでも、CTOの役割を「変化に柔軟に適応する組織づくり」と答えていた(写真右)

    ベンチャーという環境で事業を育てながら、仲間が増えていく。つまり、会社が大人になっていくわけじゃないですか? その時に大切なのは、全員の意思決定の量を増やすこと。

    ですので、僕が「働かない」ことが一番いいんですけどね(笑)。

    ―― では、ミクシィのCTO時代に松岡さんが組織を拡大する上で行ったことで、Viibarでも取り組んだことを教えてください。

    当たり前ですが、エンジニア全員と1on1で面談をして、今何をしていて、今後何をしたいのかを理解することです。

    個人の意識を把握した上で、組織と個人をマッピングする。会社の事業戦略を頭に入れた上で、これからの成長に必要な技術要素や技術的なイベント(言語のバージョンアップなど)を並べてみて、そのタイミングと個人の考え・技量をマッチングさせるんです。

    スキルが不足している場合は、伸ばすように取り組みますし、社内のリソースが不足している場合は、プラスαのため採用も必要でしょう。そうした全体最適を考えていました。

    そこで大事なことの1つに、危機的なイベントを全て回避してはいけないということがあります。

    ―― なぜですか?

    会社も個人も失敗を学ばないまま、大人になってしまうためです。

    致命傷にならない程度に危機を経験し、みんなでそれを乗り越えていく方が、将来的には好影響があると思っています。

    誰かが引いたレールの上を走るだけですと、危機に対して鈍感な会社になる。個人も同じですよね。つまり、“ボンボン”のまま大人になってしまうのを避けなければならない。

    ―― 現状はそういったロードマップを描くことが中心なのですか?

    いえ、直近でやってる仕事は多種多様ですよ。例えばウチは社内システム回りの専任者が不在だったため、無線LANの状態とか、ネットワークの設計なんかも見ていました。クラウド型の動画制作プラットフォームであるViibarにとって、ネットワーク環境は事業上とても重要ですから。つい先日も、カーペットをひっくり返して、配線を見たりしていました。

    サービスのソースコードに関しては、クオリティーの高いエンジニアがモダンに作っているため、今はその点に力を注ぐ必要はない。僕はCTOとして、他にやるべきことをやるという判断です。

    CTOって、好みで動くポジションじゃないと思っていて。技術による経営課題の解決こそが仕事ですから。

    「コードでトップエンジニアに勝てないエンジニア」の生き方

    開発環境や手法以上にチームマネジメントに力点を置いて話す松岡氏が、エンジニアからマネジャーに“脱皮”したきっかけとは?

    開発環境や手法以上にチームマネジメントに力点を置いて話す松岡氏が、エンジニアからマネジャーに“脱皮”したきっかけとは?

    ―― 松岡さんが、組織と個人を考える上で今の考えに至った理由を教えてください。

    僕は新卒の時に、就職活動が全然上手くいってなかった人間なんです。大学の専攻は建築関係でしたので、エンジニアになると決めて、就職活動をしてもやっぱり未経験には厳しい状況でした。ちょうど就職氷河期でしたしね。

    そんな中、運良くヤフーで最終面接まで進むことができたんです。ちなみに、内定が出たのはヤフーだけ。

    最終面接で何名かの役員と面接した時に、当時のCEOだった井上さん(井上雅博氏)が僕の顔を見てこう言ったんです。「彼は人相がいいから、大丈夫でしょう」と。それも、僕が面接の質問を答える前の段階で。

    そうした面接を経て、ヤフーに内定が決まりました。僕にとっては奇跡のような体験です。

    正直に言うと僕って、それまでの人生で他人から高い評価を得たことってあんまりなかったんですよ。だから、この時初めて「会社はイイもんだなぁ」と感じたんです。

    ―― キャリアのスタートする時点で、ご恩と奉公のような考えをお持ちになったということですね。

    今の時代にフィットしているのか? と言われると、ちょっと違うと思いますので、人にオススメはしませんけどね(笑)。

    ただ、会社に居る時間って長いじゃないですか? 最短で8時間。60歳まで働くとすると、単純計算で人生の10~15%は仕事の時間になるわけです。

    その15%を過ごす場所を愛することができなければ、人生を損してしまうじゃないですか。15%って、とても大きな数字です。今されているお仕事で、コストが最初から15%増えている状態だったらと想像していただくと、その大きさが伝わると思います。

    僕は人生の15%を効率的に楽しく過ごしたい。その際、組織を「家族」のように考えると、変なエネルギーもストレスもないじゃないですか。

    ―― 確かに。

    ミクシィのCTOに任命されたくらいのタイミングで、川邊さん(ヤフー取締役副社長の川邊健太郎氏)に人との接し方を相談したことがありました。

    川邊さんは僕よりも1つ上の視座を持っていて。「松岡、すべての人に対して、自分の彼女と接するように接するんだ」と言っていました。こうした助言にも影響を受けながら、考え方が育まれてきたのかもしれません。

    自分の長所を活かして生きた方が価値がある

    ―― 技術力を高めたいから転職をする、技術力で転職先を選ぶというエンジニアは多いと思いますが、松岡さんはそうした考え方ではない?

    ヤフーからミクシィに転職したころは、そういう意識もありましたよ。当時はコードをガリガリ書いていましたので。ただ、CTOとして、経営に携わった時に考え方が変わった、と言ってもいいかもしれませんね。組織を作るって面白いなと。

    技術は今でも好きですが、組織を作る方が今は面白いというフェーズなのかもしれません。

    まだまだエンジニアとして負けない! という気持ちもありつつ、一方で各社のエースエンジニアと対等に渡り合うのは厳しいとも感じています。しばらくプロダクトのコードを書く仕事から離れていましたし。

    だから、僕は自分の長所である「組織の成長を担うポジション」にいた方が、日本のGDPも上がると思うんですよ。

    ―― では、最後にViibarで目指すビジョンをお教えください。

    まぁ、当たり前のことをやるということしか言えません。

    僕は仕事や会社を選ぶ際に、家族のメタファーを引き合いに出すんです。過去に在籍していた会社でチームメンバーと接する時も、「自分の子供に接するつもりで」という視点で働いていました。

    僕は人間がデキてないので、気を付けないとすぐ良くない行動を取りがちで(笑)。でも、家族だと思って接すれば見方や捉え方が変わるし、家族のためにやることに、理由や理屈は存在しませんよね。

    困っていたら助ける。父親が必要ならば、父になるし、母がいないのであれば、母親になる。そういう考え方で仕事をしてきました。

    一般論でいう、ベンチャーで働く人のモチベーションとは違うベクトルかもしれませんが、僕はViibarを良い家族そして、大家族にしたい。これが僕の目標です。

    ―― 貴重なお話をありがとうございました!
    プロフィール画像

    株式会社レクター 代表取締役
    松岡 剛志さん(@matsutakegohan1)

    Yahoo! Japan新卒第一期生エンジニアとして、複数プロダクトやセキュリティに関わる。 ミクシィでは複数のプロダクトを作成の後、取締役CTO兼人事部長。その後B2Bスタートアップ1社を経て、株式会社レクターを創業

    取材/伊藤健吾 文/川野優希(ともに編集部) 撮影/竹井俊晴

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