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約1カ月間で100件以上の米国企業にヒアリングして気付いた、日米の商習慣の違いとChatWorkの商機【SVで起業する】

働き方

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    ChatWork代表取締役
    山本敏行氏

    1997年中央大学商学部夜間部入学。2000年留学先のロサンゼルスにて実弟と共にEC studioを創業(現・ChatWork)。2004年の法人化以来「社員第一主義」を貫き、労働環境の改善に努めた結果リンクアンドモチベーションが行う組織診断において、2年連続「日本一社員満足度の高い会社」に認定される。現在は自らシリコンバレーに居を移し、『ChatWork』普及に向け奮戦している

    こんにちは。『ChatWork』の山本敏行です。前回に引き続き、アメリカでのChatWorkの活動と、その中で僕自身が気付いたことや感じたことなどを率直に書いてみたいと思います。

    今月初めにはオフィスも移転し、改めてスタートを切った

    今月初めにはオフィスも移転し、改めてスタートを切った

    前回この連載に登場してくれたCOOの井伊も書いていた通り、こちらに来てすぐ出展を決めた『TechCrunch Disrupt SF 2012』でしたが、結果的に僕らがこれから取るべき戦略のヒントになるような、さまざまな気付きが得られる非常に良い経験になりました。

    正直な話、当日を迎えるまでは「こんなのじゃ使えない」とか、「もっとこうじゃなきゃダメだ」とか、けっこう厳しい指摘をされるだろうとある程度覚悟を決めていたんです。が、実際にブースを訪ねてくれた多くの人とのやり取りから得た手応えは、予想以上に前向きなものでした。

    こちらからも積極的にいろいろ質問をぶつけてみたのですが、中でも「『Yammer』や『Chatter』がアメリカでは浸透してるようですが、実際のところはどうですか?」という問いに対する答えの多くが、「なかなかうまく活用できていない」というものだったのは正直驚きました。

    おそらく、こっちの人は『Facebook』にも慣れているだろうし、『Yammer』や『Chatter』を使って社内コラボが盛んなんだろうと思っていたので、僕にとってこの反応は意外と言うほかありません。

    「トップダウンで導入が決まっても、なかなか利用が進んでいない会社も多いみたいだね」。そんな話を何人もの人から聞くと、何とか市場に入り込んでやろうという闘志が湧いてきます。こちらに来るまでは、僕らの目の前に立ちはだかる大きな山の頂がどんな形なのかさえ雲に隠れて見えませんでしたが、ここにきて雲が晴れ、山頂までのルートが見えた。今はそんな感じの心境ですね。

    でも、もちろんこれだけの出来事で『ChatWork』の未来が万事順調だと楽観視しているわけじゃありません。実際、「これからもっと理解を深めなければ」と思えることにも直面したこともありました。

    対面と電話、メールでのコミュニケーションに大きな差が

    イベントが開催された3日間でどれくらいの方とお話ししたかは定かではないのですが、イベントの終了時点でだいたい100枚ほどの名刺がなくなっていました。アメリカでは、こうしたイベントに来られる来場者の方と名刺交換するのは、ある程度話が進んでから行うのが一般的なので、要するに約100社の担当者とそれなりに実りのある会話ができたということになります。

    このイベントに出たことで、先ほど挙げた一般的なユーザーの視点も見えてきましたし、次につながるような人々との出会いや営業用のトークスクリプトも一通り整ったので、やっぱり出てみて良かったと思っているのですが、その一方で「これからもっと理解を深めねばならない」と感じたのは「アメリカ人の気質をどう理解すべきか」という点についてでした。

    例えばアメリカ人は、こちらの意図を汲んで、頼んでいた以上のものを提供してくれる、なんてことは基本的にありません(笑)。実感として、頼んだことを最低限やってもらえたと感じるのは全体の50%ぐらい。

    例えば、家を借りる時にお願いした不動産屋さんなども、直接会って話している時はとても感じの良い人なのに、メールで頼んだことは全然やってくれません。それどころか、返事もくれないことが多かった。

    もちろん全員が全員じゃないですけど、そういうギャップを感じたことはこの1カ月半の間に何度も経験させられています。

    見知らぬ人同士でも道ですれ違う時に挨拶するお国柄なのに、対面でないコミュニケーションだと少し人との間に壁を作る感じがあるんです。あくまで僕の経験則ですが、何か頼みごとをする時は、メールよりも対面か電話の方がかなりの確率でやってくれるような気がします。

    その理由を正確に理解したわけじゃないですが、アメリカ人って、対面で会ってる人には良く見せようとする傾向があるようです。

    先日、風邪をひいて辛そうな井伊と一緒にレストランに入ったことがあったんですが、店員さんから「How are you doing?」って声をかけられた井伊が、ためらわず「Good!」って返事をしていました。それに対して僕が「風邪引いてるのに全然『Good!』ちゃうやん。何で?」と突っ込んだら、「アメリカだと挨拶にそれ以外に答えはないんです」と言って気丈にしていました(笑)。

    今後は、こうした些細なことから導き出した仮説を、もっと製品開発に活かしていく必要がありそうです。

    “釣り場”の特性を学ばなければ、一匹の魚さえ釣ることができない

    最近は、インターンをさせてもらっていた時に知り合った人たちや、イベントで知り合った方々の会社を順次回って、製品の印象について聞いて回っているのですが、かなり詳細に意見をもらえるのでとても参考になっています。

    グラフ

    日本以外の市場は分からないことが多いが、「Just do it」だとFacebookページの「シリコンバレー挑戦日記」にもつづっている

    ある人にデモを見せた時は、「日本人の名前であっても画面上に日本語表示が一切出ないようにしないとベータ版だと思われる」とか、「サインアップ画面の解説が説明調で堅過ぎる。なるべく楽しさを感じられる表現に変えた方が良い」など、具体的かつ実践的なアドバイスがもらえたので、さっそく日本の開発チームと共有して対応を始めています。

    もちろん、プロダクトの微調整だけでなく販売戦略についても、これから少しずつ方向を修正していくつもりです。

    日本だと、弁護士や税理士を生業にされている“士業”(さむらい業)の皆さんやTech系の企業で採用していただいているケースが多いChatWork。アメリカでも同じ層を攻めようと思っていたのですが、こちらの士業の皆さんの働き方はほぼ100%プロジェクトベースの時間給制。

    月額固定で顧問になってもらうことが多い日本とは事情が異なっていたり、またTech系の企業も同様にプロジェクトベースで仕事をするケースが多いため、タスク管理を前提としたコミュニケーションスタイルが好かれることも分かってきました。どうやら日本と同じ戦略や戦術がそのまま刺さることはなさそうです。

    「郷に入っては郷に従え」という言葉もありますが、日本で少しばかり釣りが得意だからといって、アメリカの釣り場の特性を学ばなければ、一匹の魚さえ釣ることができないってことなんだと思います。

    アジアは本当に「熱い」マーケットプレイスなのか?

    「例え釣り上手でも、釣り場が変われば一匹も釣れなくなる」ということは、アジアに視線を向けても同じことが言えます。

    先日、ある方に紹介していただいて『500 Startups』で活躍中のあるインド人の方にお会いしたのですが、その時僕たちの「アメリカで学び、日本で作って、アジアで売る」というプランをお話したところ「アジアはダメだよ、お金にならないから」と一刀両断されました。

    インド人VCの方からの助言により、アジア市場の実態と米国市場を勝ち抜く一筋の光が見えたという

    インド人VCの方からの助言により、アジア市場の実態と米国市場を勝ち抜く一筋の光が見えたという

    シンガポールを拠点にアジア進出を狙っていた僕らにとって、その言葉はとても衝撃的でした。彼は過去にシンガポールの会社で幹部経験がある人物でしたから、その言葉にはとても重みを感じたのも確かです。

    「シンガポールの人口は500万人。マーケットとしては小さ過ぎるし、あそこに先進国のブランチが集まるのは、税金が安いのとお金の出し入れが容易だから。それに社内ツールは本国から強制されるものだから、シンガポール支社から本国の本社へ入り込むのは難しいだろう。アメリカで売ることをもっと考えた方が良いと思う」

    とても参考になるお話でした。が、やはりわたしは現地に行って、実際のところはどうなのか自分の目と耳で確かめなければ気が済まない性分。ただ、「アジアが熱い!」と盲目的だった意識を一度クールダウンさせられたのは、本当に良かったです。

    ちょうど10月24日(※この記事は、10月中旬にご寄稿済み)から始まるシンガポールで開催予定の教育系イベント『MobiLearnAsia2012』への出展が決まっているので、現地の人たちとたっぷり交流し、市場を肌で感じてみたいと思います。

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