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独立するか社員でいるべきか、その判断軸とは? ~フリーにこそ問われる「守る仕事」の大切さ【小松俊明】

働き方

    製造業を中心とした採用支援を手掛けるリクルーターズ株式会社・代表で、キャリア関連の著書を多数持つ有名ヘッドハンター小松俊明氏が、各種ニュースの裏側に潜む「技術屋のキャリアへの影響」を深読む。技術関連ニュース以外にも、アナタの未来を左右する情報はこんなにある!

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    東京海洋大学特任教授/グローバル・キャリアコンサルタント
    小松俊明氏(@headhunterjp

    慶應義塾大学法学部を卒業後、住友商事、外資コンサル会社を経て独立。エンジニアの転職事情に詳しい。『35歳からの転職成功マニュアル』、『デキる上司は定時に帰る』ほか著書多数。海外在住12年、国内外で2回の起業を経験した異色の経歴を持つ。現在はリクルーターズ株式会社の代表取締役、オールアバウトの転職ノウハウガイド、厚生労働省指定実施機関による職業責任者講習講師を務める傍ら、東京海洋大学特任教授として理系大学生のキャリア&グローバル教育の研究と教育に取り組む。転職活動コンサルHP

    エンジニアにとって、日々のスキルアップと仕事の先に見えてくるのが、最先端の職人として活躍できる現場の仕事を続けるか、もしくは管理職として教習車の助手席に座るような感覚で仕事をするのかという分かれ道だ。

    20代のうちはいいが、30代になったころから、現場のエンジニアにマルチタスク(複数の役割)を課す会社が増えていく。

    社員は不本意な異動を警戒しつつも、日常的には「報酬と労働量のアンバランス」に悩まされている。そして、好む・好まないにかかわらず、誰もが他者評価にさらされながら、出世競争の現実にも巻き込まれるのだ。

    実際は本人が悩んでいる間もなく、多くのエンジニアが管理職の道に追いやられ、現場の仕事に費やせる時間を失っていくものだ。つまり、サラリーマンにとって自ら現場でハンドルを握れる時間は意外にも残されておらず、「エンジニアの旬は短い」のが現実となっているのかもしれない。

    もちろん、管理職やPMになれば、そこには「マネジメント」という新しい挑戦が待っている。ただし、それが必ずしも燃えるエンジニア魂を満たす仕事とは思えない人もいるのではないか。そもそもマネジメントという、とても人間臭い仕事を得意としないエンジニアも少なくない。

    だからこそ、次のように考える人も一定の割合で出てくるのだろう。

    From clipmomo   ここ1、2年で、日本のビジネスシーンでもノマドワークやコワーキングが定着しつつある

    From clipmomo  ここ1、2年で、日本のビジネスシーンでもノマドワークやコワーキングが定着しつつある

    「日本にも今、フリーエージェント(1つの企業に縛られることなく自由に仕事をする人)の時代が到来している。だからこそエンジニアとして、いつまでも専門性の高い現場の仕事を続けたい」

    「最近ではノマドワーク(いつも決まった場所ではなく、カフェやお客さんのオフィスなどでノートPC、スマートフォンなどを駆使して仕事を進めること)やコワーキングで完結できる仕事も増えているし、いっそのこと……」

    つまり、独立すべきか、社員でいるべきかという悩みだ。

    フリーエージェント社会が日本でも根付き始めて……

    現代の米国の労働市場において、フリーエージェントというカテゴリーの労働層がメジャーな存在であることは、誰もが聞き及んでいることに違いない。その米国でもう10年以上も前のことであるが、ダニエル・ピンクが著書『フリーエージェント社会の到来-「雇われない生き方」は何を変えるか』の中で指摘していたことが、今の日本でもようやく現実化している。

    昨今のソーシャルメディアが(企業で裁量権を持つ)40代以降の日本人ビジネスパーソンにも急速に受け入れられ、仕事のやり方や人脈の作り方に大きな変化が生まれつつあることも、日本のフリーエージェント社会が今後急速に進むことを示唆している。

    この兆しは、実は以前からあったものだ。数年前から『仕事するのにオフィスはいらない』(佐々木俊尚著・2009年刊)やその他メディアで、ノマド(遊牧民)的な働き方へのシフトが指摘されていた。

    これに共感するエンジニアは多かっただろうし、実際独立していようが会社に属したサラリーマンであろうが、いまやノマドワークが日常であると言う職業人の数は飛躍的に伸びているに違いない。

    一方、独立して「フリーランス」、「個人事業主」、「業務委託」、「ひとり事務所」という立ち位置で生計を立てていくことに、不安を覚える人も多いはずだ。会社を辞めてフリーになった知り合いが、うまくいかず再度会社勤めを始めたなどという話を聞くたびに、現実の厳しさを思い知らされる気になるかもしれない。

    とはいえ、他人の失敗例で自分を縛るのもおかしな話だ。まして、そういった負の情報が思考停止まで誘発したとしたら、そもそも自分がそんな職業人生を送ることに一番納得できないのではないか。

    そこで、「独立すべきか、社員でいるべきか」の判断軸を考えるにあたって、一つのポイントになることをわたしなりに提示したいと思う。

    技術力や専門性だけでは、継続的に仕事を「回す」ことはできない

    自分のエンジニアとしての実力に自信を持つことは大切だが、まず気を付けるべきは技術力やスキルがあるだけでは仕事は取れないということである。専門性が高い仕事であればあるほど、その専門性に注目することは否めないが、ビジネスというのは顧客ニーズを満たすことがすべてである。では、顧客とは何を求めているのか。

    それは、提示した金額で、確実に要求したサービスを提供することであり、万が一の不測の事態が起きても、それに対応してくれるだけのアフターフォローをするサービス精神があるか、ということである。

    つまり、フリーエージェントの世界では、能力やスキルは必ずしも顧客にとって「発注する際の決め手」にはならないのだ。

    エンジニアではないものの、わたし自身が2度の起業をしている身として、このアフターフォローの重要性を肌身で感じてきた。これが得意かどうか、または丁寧かどうかで、仕事を「取ってこれる」だけでなく、「回る」ようになるかが決まるのだ。

    フリーエージェントとしての仕事は、契約の内容次第で役割も変わる。エンジニアなら、開発フェーズの仕事だけをやり続ける道もあるだろう。それでも、会社勤めをしていた時のように、誰かが仕事を取ってきたり、後フォローをしてくれるわけではない。「何があってもあの人は任せられる」という信頼を築くためにも、やはり能力やスキルばかりにこだわっていてはダメなのである。

    そいうった意味では、「誰かが取ってきた仕事」がどうしても必要な人やアフターフォローが苦手な人にとっては、会社の存在意義は大きい。別の言い方をすれば、エンジニアとしてトップクラスの能力とスキルを持ち合わせていなくても、顧客を満足させることができるならば、あなたは自分で仕事を取れるわけだ。

    フリーエージェント願望を持つすべてのエンジニアが独立する必要もないだろうが、少なくても「もう会社は必要ない」と思えたとしたら、日々の仕事に対して今よりもっと積極的に取り組めるようになるのではないだろうか。漠とした得体の知れない将来の不安も、いつの間にか消えてなくなり、空もくっきりと青く見えるに違いない。

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