TechトレンドVol.715

40兆円を超えるテクノロジー未開の市場・InsurTechに秘められた可能性【iChain株式会社】

【特集】X-Techのイノベーターたち

様々な産業がテクノロジー活用に乗り出したことで世に浸透した「○○Tech」という言葉。次から次へと誕生する新たなマーケットの動向全てをキャッチするのは、多忙なビジネスパーソンにとって容易なことではありません。
そこで、各領域で存在感を放つ企業に直撃取材を実施!気になる市場の現状と、各社が見据える未来の話。そして、注目市場で活躍するエンジニアに求められる素養について解き明かしていきます。

この1~2年で急速に注目を集め、多くのスタートアップ企業がサービス展開を開始したFinTech。金融×テクノロジーを示してはいるものの、日本におけるFinTechはBankTech(銀行業×テクノロジー)とも言えるような領域で進歩を遂げてきた。これまで、同じく金融業界であるはずの「保険」は、どこか置き去りにされている印象だった。

しかし、その状況も変わろうとしている。保険×テクノロジーであるInsurTechの領域で、一際存在感を放つスタートアップ企業。それが今回紹介するiChain株式会社だ。

iChain

iChain株式会社 代表取締役 CEO 加藤裕之氏(写真右)
大学卒業後、大手化学素材メーカーに入社。1992年にネットワーク機器メーカーのアライドテレシスに転職し、同社の上場に貢献。営業部門の統括マネージャーに就任した。2002年、ネットワークの監視システムをコア事業とするアイビーシーを設立。15年にはマザーズ上場(翌16年、東証一部へ市場変更)を果たす。その後、グループ子会社としてiBeed(現iChain)を設立した
iChain株式会社 取締役 COO 後藤康成氏(写真中央)
日立製作所系のエンジニアリング会社などでプログラマーとして活躍した後、シリコンバレーのスタートアップで開発マネージャーに就任。2000年からはネットエイジ(現ユナイテッド)にてCTO等の要職を歴任した。05年に設立したフィードパス社の事業売却を機にYahoo! JAPANに参画し、海外事業推進リーダーやY! mobileの事業起ち上げ等を担当。18年、iChainに参画
iChain株式会社 取締役 ファウンダー 上野雄司氏(写真左)
大学卒業後、戦略系コンサルティング会社に入社。コンサルタントとして大手保険会社等の業務改革支援などを務めた後、2011年にクラウド・コンサルティングのアピリオへ転じ、大手企業のクラウド案件等に従事。その後、パソナテキーラでSalesforceユーザー企業へのソリューション提供を担当。17年にiBeed(現iChain)へ参画

保険大国・日本でInsurTechが成長しなかった理由

――後藤さんの連載を読んで驚いたのですが、日本の保険業界の市場規模って、とんでもなく巨大なんですね

後藤 独自調査の結果ですが、現状の市場規模は42兆円以上あるのではないでしょうか。国内で保険事業を営む生命保険会社、損害保険会社、少額短期保険会社188社の保険料を合算した結果なのですが、共済や日本郵政という大手事業者の金額を含めていないにも関わらずこの規模感です。

加藤 加入者の数値を見ても、生命保険の契約数は1億6000万件を超えています(2016年)し、損保の新規契約数も1億3000万件以上(17年)。加入率の高さから見ても、日本がいかに保険大国なのかがわかりますよね。

上野 問題は、日本人はみんな保険に対する興味・関心を持っていて、加入率だって高いのに、「自分が入っている保険の内容を把握しきれていない」「保険を見直したいけれど、自分に合ったプランがわからない」という声が多いという実状があることです。

iChain

加藤 そうした課題を解決するためにも、テクノロジーの活用は避けては通れない。ですが、そのためには先に改善すべきポイントは多々ありました。保険業界は、メインフレームがいまだに主流だったりしますからね。この状況を変えていかないと、最新のテクノロジーを活用することも叶いません。

――こんなにも巨大な市場の技術面が、旧態依然なのはなぜでしょうか?

加藤 個々の保険会社によって独自の問題点もあるとは思いますが、生命保険に関しては、非常に長命な商品を提供していることが影響しているのではないでしょうか。

――「非常に長命な商品」というと?

上野 20代で生命保険に加入した場合、多くの加入者はその保険を50年、60年という長い間保有します。保険会社も、加入者のデータを延々と保守・運用しなければならないため、基幹システムやデータ保持の手法を容易に変更できないのです。しかも、先ほど示したように加入者数も膨大ですから、大量のデータ移行にも細心の注意が必要になります。

加藤 加えて、保険業界では昔からM&Aが盛んに行われ、企業同士の合併が相次いできたため、システム統合やデータ保守の局面が複雑にパッチワーク化しているケースも多い。システムを刷新したくても、なかなか踏み切れないのです。

「このままではいけない」という強い意識が、保険業界を変革へと突き動かした

――FinTechが盛り上がりを見せても、保険業界がなかなかその波に乗れていないように見えたのは、こうした事情があったからなんですね

後藤 その点、アメリカの保険業界は非常に先進的です。日本とアメリカでは社会保険事情に大きな違いがあることが関連します。

日本には昔から国民皆保険が行き届いていますが、アメリカは違います。国民は自ら積極的に動いて、自分の収入に見合う保険会社や商品を選択しなければ、必要な保障が得られません。そのため、日本人以上に厳しい目で保険を見極めていますし、そうなれば保険を提供する企業側も、商品の差別化に力を入れていくことになりますよね。

上野 例えば、アメリカではレモネード社、オスカー社などが新興保険として注目を浴びていますが、そうした企業は最新の技術をどんどん導入しています。他にも顔写真を読み込むだけでその人の保険料を判定できる仕組みを持つ企業や、自動車事故の映像からAIが保障の内容を算定するサービスを提供する企業も登場しているようです。

――日本の保険業界とは大きく違いますね。

上野 とはいえ、この1~2年の間に、日本国内の大手保険会社も斬新なサービスや取り組みを展開するようになってきたんですよ。損害保険ではIoTデバイスで入手したデータを保険に活かしていく取り組みを始めましたし、生命保険会社でも、「健康増進」に応じて保険料が変動する特典付きの新しい発想の保険商品等が発売されています。

加藤 「このままではいけない」という変革への強い意識が、業界の大手企業に芽生えてきた証拠だと思います。

日本では保険証書を紙で保管することがまだまだ一般的ですが、東日本大震災が起きた時、多くの被災者がその保険証券を失いました。保険会社としても、保障を実現して復興に貢献したいのに、保険契約者や受取人が保険状況を確認できない状況であったために保険金の支払いなどに多大な労力を必要としたと聞きます。

さまざまな事情から技術面の遅れを抱えてはいましたが、そもそも保険業界には、その事業の性質上、社会貢献に強い情熱と志を持った人が多数集まっているというのも事実。より良い世界を実現するために、やはりテクノロジーの活用を推進していく必要があるのです。

――FinTechでは早期段階からマネーフォワードなどのスタートアップ・ベンチャーが注目されていましたよね。InsurTechでは既存の保険会社などの大手が率先して動き出しているということでしょうか?

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上野 おっしゃる通り、日本のFinTech領域は、スタートアップなどの新興サードパーティーが、技術や発想の新しさでメガバンクや金融庁を巻き込み、大きな波を生みました。一方InsurTech領域は、既存の大手保険会社が先行するかたちでムーブメントを起こそうとしています。

しかしながら、マネーフォワード的なサードパーティーが、InsurTech領域には必要だと我々は考えています。私たちiChainのように、今まで保険業界にタッチしてこなかったスタートアップが次々に現れ、大手保険会社との連携も行いつつ、変革の波を膨らませていくはずだと考えています。

後藤 スタートアップがInsurTech領域に注目していくべき理由は、三つあると思います。

一つ目は、今まで手つかずだった保険業界には、ゼロイチで新規事業を生み出せる余地が豊富にあること。二つ目は、FinTech領域でも活用が見込まれているブロックチェーンや分散台帳技術(DLT)が、20年前にJavaが登場したのと同等の将来性を秘めていること。そして三つ目は、加入者の人生をより良くしていく「保険」そのものに、変革の可能性が満ちていることです。

実は、この三つを強く意識したからこそ、私自身、iChainへの参画を決意しました。前職までの経歴でFinTechやHRTechに携わってきたのは、こうしたX-Techの可能性を信じていたからなのですが、その中でも特にInsurTechには突出した将来性を感じたのです。

ブロックチェーンなどの先端技術が切り開く、新市場の可能性

――iChainが生まれた経緯と、現在の事業について教えてください。

加藤 iChainの親会社であるアイビーシーでは、3年ほど前から、次世代の変革につながる先端技術を模索していましたが、その中でもブロックチェーンや分散台帳技術に大きなビジネスチャンスを感じていました。

多様な技術関係者と交流したり、ジョイントベンチャーを仕掛けながら、知見を蓄積していく中で出会ったのが、コンサルタントとして保険業界に精通してきた上野でした。それまで、どの業界の大手企業に話を持っていっても、具現性の乏しい実証実験の話で終わっていましたが、上野は現在のiChainそのものを示唆するようなビジネスモデルを即座に絵に描いてくれたんです。その実現性の高さと、インパクトの大きさから、一気にInsurTechへと舵を切り、今のiChainへとつながりました。

上野 現状の日本の保険事情で核となるのが、保険証券の存在です。契約内容や保障内容のすべてが記載され、保険料や保険金のやりとりの記録もそこに反映されるわけですが、契約者はそれを紙で受け取り、管理しています。

冒頭で示したように日本は保険大国です。大部分の人が何らかの保険に加入し、多くの人が複数の保険に入っているにも関わらず、それをアナログに管理する他なかった。場合によっては高額なお金が絡む契約書類ですから、「デジタルで一括管理を」といっても、高度なセキュリティが求められます。これも先ほど申し上げた通り、保険会社を取り巻く特異なシステム環境の制限により、人を介したアナログなやりとりでしか保険を扱えない状況に長年陥っていたわけです。

ところが、現代のブロックチェーンや分散台帳技術を用いれば、この問題を解決できる。そう考えて、加藤と一緒にInsurTechを展開することを決め、生まれたのが『iChain 保険ウォレット』でした。

後藤 インターネット技術の強みは、データをコピーして自由に活用できる点にありますが、ブロックチェーンはその逆方向の技術として強みを持っています。サービス提供側がこの技術を活用することにより、利用者は秘匿性の高い個人情報をスマホなどのデジタルデバイス上で安心して管理できるようになるのです。

上野 FinTechムーブメントを牽引したベンチャーは、家計簿ソフトを提供することで、一般生活者に対して家計をパーソナル・マネジメントするプラットフォームを提供しました。『iChain 保険ウォレット』は保険を軸としてパーソナル・リスク・マネジメントを実現するプラットフォームです。

マネーフォワード等がFinTech領域にもたらしている良い影響が、もう一つあります。銀行との連携を通じて、人々の資産管理をデジタル化し、変革を起こそうとしている点です。私たちも、同様の動きをInsurTech領域で実現し始めています。そのベースになるのが『iChain Base』と名付けたBtoBの保険業務プラットフォームです。

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後藤 ブロックチェーンで個人情報を守りながら、契約者のデータと保険会社のシステムとをつなぎ、給付金や保険金の自動支払サービス(スマートコントラクト)や不正請求をAI技術で検知していくような機能の実現を考えています。

加藤 『iChain 保険ウォレット』 と『iChain Base』を進化させ、積極的に既存の保険会社と連携し、新しいサービスを創り出していく。それがiChainの当面の目標です。「自身が加入している保険の保障内容を把握できていない」とか「給付金を受け取ろうとしても、手続きが複雑でわかりにくい」といった、日本ならではの保険にまつわる問題点を解決したいと考えています。

――最後に、これからInsurTech領域に携わろうと考えているエンジニアに向けて、メッセージをお願いします。

上野 先ほど後藤が指摘したように、InsurTech領域には「これから変えていけるもの」が無限にあります。現状で40兆円を超えている巨大市場が、今後どんどん変革していくでしょう。高齢化も進む中、「今までの保険とは一線を画した新しいパーソナル・リスク・マネジメント」のあり方を考えていく必要がある。本当にビジネスチャンスが豊富な領域なんです。

iChainでは、ブロックチェーンをはじめ、実に多様な技術を用いています。革新的な技術だけでなく、一見レガシーにも見える技術も含めて活用していくことが、InsurTech領域では必要です。見方を変えれば、既存のSIやネットワーク領域で活躍してきた技術者が力を発揮できるシーンも豊富だということ。これから始まる大きな変革に、ぜひ参入してほしいですね。

後藤 InsurTech領域では、多様な技術が使われます。ブロックチェーンはその要素技術の一つでしかありませんが、先ほど言いました通り、かつてのJavaプラットフォームがそうだったように、この先20年以上の長期的スパンの中で、劇的に発展していくと確信しています。現状、どの領域よりもこの技術が有効に活用できるのが、InsurTechなのだということを知ってほしいですね。

アプリのレイヤーではコンシューマーと向き合い、プラットフォームのレイヤーでは数多くの保険事業のプレイヤーと向き合っていく必要があります。大いなる可能性を秘めたフィールドで、テックリードとしてプロジェクトを推進していきたい、という志の持ち主にとっては、もってこいだと思いますよ。

加藤
 単に「エンジニアとして成功したい」というだけでなく、最近では「技術で社会貢献がしたい」というエンジニアがどんどん増えています。保険の領域は、人々の生命や暮らしに直結するフィールドですから、ここで成果を上げていけば、ダイレクトに世の中の役に立てる。私たちもそうした思いで取り組んでいますし、今後多くのエンジニアがInsurTech領域に集まってくれることを、強く願っています。

取材・文/森川直樹 撮影/赤松洋太

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