“名刺交換すらしたことない”エンジニアに訪れた転機― 「コードしか書けません」を辞めて私が気付いたこと
エンジニアの喜びは、何と言ってもモノづくりの醍醐味をダイレクトに味わえるところ。けれどそれだけに、エンジニアリング以外はしたくない、と自分の仕事領域に自ら線を引いてしまう人が多いのも事実。特に現場を離れてマネジメントやビジネスサイドにまわることで「自分が直接手を動かす」楽しさを手放してしまうことに拒否感を示すエンジニアは少なくない。
だが、一歩違うフィールドに踏み出してみることで新しい発見を得られるのが仕事の面白さ。そう教えてくれるのが、株式会社ウエディングパークが運営するサイト「Ringraph」事業責任者の大沼夏帆さんだ。
現在、指輪選びの決め手が見つかるクチコミサイト『Ringraph(リングラフ)』の事業責任者を務める大沼さんだが、元々はエンジニア。3年前、まだ立ち上げ段階だった『Ringraph』の責任者を任されるまでは、名刺交換すらしたことがないほど、ビジネスの面では“ビギナー”だったそう。そんな大沼さんが、事業責任者の立場になったことで気付いた、「モノづくり」の醍醐味とは?
※こちらの記事は姉妹サイト『Woman type』の記事から転載しています。
新規事業の責任者に抜擢!
新卒2年目のエンジニアに訪れた一大転機
小さい頃から何かモノをつくるのが大好きだったという大沼さん。小学生時代からパソコンで絵を描くことにハマり、そこから興味は徐々にインターネットへと広がり、自分でHPを作って友達と楽しむように。大学はネットワーク情報学部に在籍し、アプリ開発にも挑戦した。
「この会社を選んだのも、自社サービスに携われることに魅力を感じたから。自分の作ったものを、営業メンバーが売ってきてくれて、その効果やお客さまからの声を、営業越しではあるけれど聞くことができる。そのやりがいに夢中になっていきました」
そんな大沼さんに、新規事業の責任者という大役が舞い込んできたのは、入社2年目のこと。日頃から社内の新規事業コンテストで優れたアイデアを出し、積極的な姿勢を見せていた大沼さんに白羽の矢が立ったわけだ。
「ジュエリー事業ということだけ決まっていて、あとはサイト名もビジネスモデルも詳細は決まっていませんでした。しかも、まだ事業化が正式に決まってはいない段階だったので、動くのは私一人だけ。でも、その時の私はエンジニアで社内にいることが多かったので、名刺交換の経験もない。『まずは事業計画書を作って』と言われても、『事業計画書とは……?』という状態でした」
ジュエリーという切り口で、どんなサイトを作れば、新しい価値を生み出し、ビジネスにつなげられるか。考えた末に浮かんだのが、「クチコミ」というアイデアだった。
「もともと私自身、何かを選ぶときは結構クチコミを頼りにするタイプで。指輪は一生に一度。だったら信頼できるクチコミサイトがあればいいなと考えました」
それも、ただのクチコミサイトではない。スマホ世代らしいプラスアルファのアイデアが光った。
「私たちの世代って文字はあまり読まない人が多い。何かを見るときも、まずはビジュアル重視です。だけど、いろいろ調べても写真メインのクチコミサイトは当時なくて。投稿するには写真は必須。そこにコメントが付くというタイプのクチコミサイトを作ったら、これから結婚を考える私たち世代に受けるんじゃないかと思いました」
慣れないアポ電話に四苦八苦。初の営業活動で感じた自分の課題
だが、アイデアだけでビジネスは成立しない。そのアイデアは果たして市場に受け入れられるのか、実現性の見極めが重要だ。そこで大沼さんが次に取った行動はリサーチ。だが、ここで第一の壁が立ちはだかった。
「クライアントになり得る企業をリストアップしてヒアリングを行うことになったんですけど、そもそもずっとエンジニアだった私はアポ取りの電話をしたことがなくて。電話をかけても、緊張し過ぎて言葉遣いはメチャクチャ。うまく話せなくて自分の未熟さを痛感しました。」
ただでさえまだ正式な事業化も決定していない段階。ヒアリングをさせてくださいと言っても、企業側には今すぐ分かりやすいメリットがあるわけでもない。式場選びのクチコミサイトを運営するウエディングパークにとって、同じブライダルとは言えジュエリー会社は取引がないところがほとんどだった。思ったように物事が進まない現状に、心が折れそうになったことも一度や二度ではなかった。
さらにリサーチの結果、正式に事業化が決定した後も次々と困難が生じた。第二の壁は、営業だ。
「オープンまでの間にいくつかの企業情報を掲載しなければいけなかったのですが、その営業をするのも私の役目でした。それも、すでに世にある商品やサービスを売るんじゃなくて、まだ形として目に見えるものが何もない、効果も先行事例も何も証明できない商品を売らなくちゃいけません。営業経験ゼロの私がやるには、ハードルがとても高かった」
さらに、営業活動の傍ら、パートナーの開発会社と組んでサイトのディレクションも担当。多岐に渡るタスクに目が回る想いがしながらも、周囲の協力を得てサイトオープン。『Ringraph』がスタートを切った。
トレンドに流されるより、自分たちが大事にしたいことを貫く
現在、『Ringraph』のチーム構成は、大沼さんの他にエンジニア、そして営業という体制だ。大沼さんは開発と営業以外のほぼすべての業務を巻き取っている。その分、自ら手を動かしてコードを書くという機会はほとんどなくなった。モノづくりの楽しさを味わう機会が減って、物足りなさを感じているかと思いきや、大沼さんの考えは正反対だ。
「開発の現場にいたときは誰かの考えたものをつくるのが仕事でした。でも、今は考えるのが私の仕事になった。手を動かすことはなくなったけど、その分、ゼロから何かを生み出す面白さを味わえるようになったと思えば、むしろ今まで以上にモノづくりの楽しさを実感できている気がします」
その例として話してくれたのが、昨年12月に行われた『Ringraph』のサイトリニューアルだった。クライアントからのニーズに応えて、サイトのビジネスモデルを予約受付型からHP誘導型に刷新。さらにそのタイミングで、文字の大きさや画像のクオリティーなど、細部まで改めて見直し、より見やすいサイトにシフト。おかげでリニューアル後はPVも増加し、クライアントからも好評を得ていると言う。
「いちエンジニアだった頃と、責任者になった今で一番違うのは、数字や反響に対する意識。エンジニアのときもクライアントの声は受けていましたが、あくまで営業さん越しで、直接聞けるわけじゃない。数字の責任を負っているわけでもなかったので、どこか作ったらそこで私の役割は終わり、というところがありました」
でも、今は違う。大沼さんのいきいきとした目がそう語っている。
「それこそユーザーサポートの仕事もしているので、良い意見も悪い意見も直接聞きますし、PVやUUに対する意識もかなりシビアになった。どうすれば目標の数値に達成できるか。そのための計画を立てるのも楽しいし、もしも未達に終わったら何が敗因だったか分析し、次につなげられる。数値が見えて、それを商品設計に活かせる分、よりモノづくりが面白くなったし、責任が増したことで、サービスや会社に対する思い入れもより深くなりました」
そうして身に付いた新たな武器が、モノをつくる上でのブレない軸を持つことだ。
「Webの世界には、『こうしておいた方が良い』という法則があるんですね。例えばSEOを意識するなら、とにかく文字量は多い方がいいとか。でも、単なるSEO目的で文字量を増やしても誰も読まないし、ユーザーにとって使いにくいサイトになるだけ。世の中の常識を鵜呑みにするんじゃなくて、自分たちはどんなサイトが作りたいのか、その軸をブラさず、本当に必要だと思えるものを見極めること。その力を養えたのは、間違いなく責任者という立場に立ったからだと思います」
目の前に未知の選択が訪れたとき、人はつい「自分には向いていないから」と慣れ親しんだホームに安住しがち。でも、アウェーに突き進むことでしか得られない成長や面白さがあるから、仕事は飽きないのだ。「××しかしたくない」は、まだ見ぬチャンスを手放すNGワード。そう心に刻むと、きっと今よりもっとキャリアの視界も開けるはずだ。
取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)
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