『Qiita』海野弘成が送る、アウトプットに一歩踏み出す勇気の持ち方「シェアするほどのスキルがないなんて嘆く必要はない」
ブログや『GitHub』などのWebサービスにLT(ライトニングトーク)……。エンジニアがスキルや学びをアウトプットする場所は数多く存在している。近年、自身の開発経験や調べた技術情報を自ら発信するエンジニアが増えているのは間違いない。その一方で、アウトプットをした方がいいとは思うものの、「忙しい」「自信がない」「批判が怖い」といった理由で敬遠しているエンジニアも少なくないだろう。そこで、国内最大級の技術情報共有サービス『Qiita』を運営する海野弘成さんに、アウトプットに一歩踏み出すためのアドバイスを聞いた。
エンジニアとアウトプットの相性がいいのは、オープンソースの文化があるから
『Qiita』はWeb系エンジニアを中心に、勉強熱心な人が集まるサービスです。新しい技術を学んだり、業務上で困っていることを解決しようと検索したりしている人が多くいます。
そもそものQiita開発のきっかけも、友人の一人が「プログラミングを学びたい」と言い出したことだったんです。サービス提供を開始した2011年当時は、プログラミングスクールもなく、プログラミングを学ぶ場所がほとんどありませんでした。「それならオンライン上で技術ノウハウを共有できる場所があればいいのでは?」と考え、Qiitaが生まれました。
ありがたいことに、今では「技術ノウハウを共有する場所=Qiita」と、エンジニアの間で浸透していることを実感しています。Qiitaの浸透が表しているように、自分のノウハウをアウトプットしたいと思う人がエンジニアに多い理由は、オープンソースの文化にあると考えています。オープンソースによっていろいろな人のノウハウが得られるようになり、バグや問題解決を先人の知恵を借りてできるようになりました。だからこそ「知見を共有することで自分も貢献したい」という気持ちが強いのではと思います。
Qiitaでは第三者に向けて発信するわけですが、アウトプットをすることは“自分自身へのメリット”が大きいと僕は思っています。その効果は、大きく3つあると考えています。
アウトプットの効果1:他者の視点によって学びを深めることができる
アウトプットは「他人に対してノウハウや情報を提供する」だけでなく、共有することで「自分の学びを深めていく」ものだと思います。Qiitaであれば人の目に晒す状態にするためには、人が読んで理解できるように、客観的な視点で情報を整理する必要がある。その過程で自分の思考をより深めることができます。
そうしてアウトプットをすると、さまざまな反応があります。「いいね」も「役に立ちました」というような好意的なコメントも、自分のノウハウが認められ、評価された証です。承認欲求が満たされることは、アウトプットを継続する大きなモチベーションになります。
また、時には「こういうやり方もありますよ」といったアドバイスをもらえることもあります。僕自身、Qiitaを立ち上げる前、当時学習していた言語についてブログでアウトプットをした際に、その言語の開発者からコメントでアドバイスをもらえて嬉しかったことがあります。より詳しい人からアドバイスがもらえれば、自分の成長を加速させるきっかけにもなります。
アウトプットの効果2:新たなチャンスを生み出すポートフォリオになる
エンジニアにとってのアウトプットは「自分がどういうエンジニアなのか」という、アイデンティティーの表現につながります。例えば「ブロックチェーンに興味があって勉強している」とインターネット上に書けば、多くの人に自分の関心ごとを伝えられる。つまりは“1対多数の自己紹介”になるわけです。
さらに自分の学びを共有することで、アウトプットがポートフォリオになっていくのは、エンジニア特有の面白さだと思います。Qiitaでアウトプットを続けた結果、雑誌への寄稿や書籍化の機会を得た人もいますが、これはアウトプットがポートフォリオになった良い例だと思います。
どういう記事に関心があって、どのような記事を書いているのか。「どんなエンジニアなのか」を知るために、選考の場でQiitaのアカウント名を聞かれるケースはすでに増えているようですが、今後はQiitaとしても「エンジニアとしてのアイデンティティーを作る場」にしていきたいと思っています。
アウトプットの効果3:エンジニアとしての成長記録になる
自分のエンジニアとしての変化を、視覚化できることも大きなメリットです。その都度学んでいたことをアウトプットしておけば、キャリアの変遷を記録に残しておくことができる。Qiitaのように人目に触れる場所であれば、他者からの視点も記録に残ります。ログを振り返れば過去の経験を生かしやすいですし、成長が目に見えることは自信につながるものです。
自信がない、書き方が分からない、恥ずかしい……
そんなことは気にしなくていい
ただ、アウトプットをした方がいいとは思うものの、さまざまなハードルがあることも分かります。「忙しくて時間が取れない」という人は、仕事をしている限り暇になることはまずないでしょうから、優先順位を高めて時間を捻出するしかありません。Twitterに投稿するくらいであればそんなに時間はかかりませんから、短い文でアウトプットを始めてみて、徐々に習慣付けていくのも有効だと思います。
一方で、「自分のスキルに自信がない」「どう書けばいいか分からない」「不特定多数の人に見せるのが恥ずかしい」など、心理的な要因でアウトプットに尻込みしてしまう人もいると思います。批判を恐れる気持ちがあるのだと思いますが、技術へのリスペクトがあれば大丈夫です。特定の言語やフレームワークを中傷するようなものでなければ、炎上のようなことはまず起こりません。Qiitaでも時にユーザー同士で熱のこもった議論が巻き起こることはありますが、これは技術への真摯な姿勢からくるものであることがほとんど。「共有して終わり」というわけではなく、ユーザー同士で意見を交わし、学びを深める良い例だと思います。
また、同じ記事でも、読み手のスキルレベルによって捉え方は異なります。例えば初心者向けの記事はベテランエンジニアには役に立たないかもしれないけれど、経験が浅いエンジニアにとってはありがたいものですよね。同じ記事でも読み手によって価値は変わるので、「自分のスキルや経験は大したことがないから、他の人の役には立たないだろう」なんて気にしなくていい。自分が少しでも良いと思ったことは、きっと他の誰かにも伝わります。
どうしてもハードルが高く感じてしまうのであれば、まずは人に見せることを考えず、自分の手元でメモとして残していくことをオススメします。慣れないうちは文章で分かりやすく伝えるのは難しいですし、いきなり長文を書き始めると、どうしても手は止まってしまうもの。最初は雑多な数行のメモで構いませんから、まずは記録を残す癖を付けるといいと思います。そうして「この情報は共有する価値がある」と思った際に、人に見せることに踏み切ればいい。一度発信してみれば何かしらの発見があるはずですから、軌道修正しながら繰り返すうちに、慣れていくと思います。
開発が自動化される未来、インプットとアウトプットの重要性は増していく
これまでアウトプットについて話してきましたが、これからの時代、インプットの重要性もより増していくと思います。僕が言うのもどうかと思いますが、Qiitaだけで技術情報を取得することに満足せず、オフラインを含めて積極的に情報を取りにいくような貪欲さが大切です。
なぜかと言うと、今後のエンジニアに必要とされる能力は、必ずしも技術力だけではないからです。例えば『UBER』であれば、「ドライバーのニーズ」「交通事情を考えたうえでの配車」など、さまざまな要素を考慮して開発をする必要があります。ユーザーニーズを組み合わせ、その上で技術的判断ができる人は重宝されるでしょう。そのためには新しい技術や世の中のトレンドを知る必要がありますから、情報をキャッチアップし続けることが必要になります。
どのくらい先になるかは分かりませんが、ソフトウエア開発の自動化も進んでいきます。そうなった時、「どういう目的でどのような技術を使うのか」といった判断はAIで代替できませんから、技術選定ができるエンジニアはより求められるようになるはずです。
そのためには、目的を明確にしたうえでのインプットとアウトプットがより重要になります。「何のためにこの情報を得るのか」「どうして経験をシェアするのか」がはっきりしていれば学びの深さや質も変わっていくもの。インプットとアウトプットを繰り返すことで情報は定着していきますし、思考が整理されれば、技術選定を含め、自分の中の判断基準もはっきりしていきます。
もしかしたら数年後、機械学習によりQiitaのデータを使って自動的にコードをかける未来が来るかもしれません。そうなった時に代替されないエンジニアになるために、日ごろから目的を持ってインプットとアウトプットをしていく重要性は、これまで以上に増していくのではと思っています。
取材・文/君和田 郁弥 編集/天野夏海 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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