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前例も競合もない、世界初の排泄予測デバイス『DFree』――エンジニアリングチームが“0から1を生む”開発で大事にしていること

ITニュース

    世界初の排泄予測デバイス『DFree(ディー・フリー)

    超音波センサーを用いて膀胱の変化をとらえ、排尿タイミングを事前に知らせてくれる小型デバイスだ。

    うまく排泄ができるかどうかは、人の尊厳に関わる重要な問題。だからこそ、「それができずに苦しんでいる人たちの役に立ちたい」と『DFree』の開発者たちは口を揃える。

    だが、排泄予測デバイスの開発は競合製品のない新しい領域。医療機関で使われる残尿測定の機械はあるが、一般の人が家庭で気軽に使えるものではない。常時接続の小型のウェアラブルデバイスで、排尿タイミングを事前に予測するのは『DFree』だけだ。競合他社がいない中、全て手探りで開発を進めていかなければならない状況にある。

    そこで、同社・技術部長の正森良輔さんと、ソフトウェアエンジニアの山本敦さんに、『DFree』開発の裏側と、0から1を生み出す開発に取り組む上で重要なことを聞いた。

    トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社
    技術部長
    正森良輔さん(写真左)

    1983年生まれ。大阪大学工学研究科卒業後、オリンパスメディカルシステムズで内視鏡のレンズ駆動アクチュエータの設計開発、信頼性試験などに従事。その後、青年海外協力隊に参加し、パプアニューギニアの小学校で理科と数学を現地のピジン語を使って教える。2013年にイギリスのサセックス大学へ留学後、トリプル・ダブリュー・ジャパンの立ち上げに参加。『DFree』の開発と量産化を実現した
    ソフトウェアエンジニア
    山本惇さん(写真右)
    学生時代に1年ほど世界を旅した後、Advan Designでフロントエンジニアとしてキャリアをスタート。その後転職して、株式会社Lei Hau'oliに参画し、客先常駐をメインに、人材系のサービスや動画配信サービスなどの開発に取り組む。2018年9月、トリプル・ダブリュー・ジャパンに入社

    高齢者の介護施設だけでなく
    個人利用のニーズも高まっている

    『DFree』は、超音波センサーを用いて膀胱の変化をとらえ、排尿タイミングを事前に知らせてくれる小型デバイスだ。

    ユーザーはこのデバイスを医療用テープとジェルで直接肌に装着。超音波センサーがとらえた膀胱の膨らみの変化などのデータが、Bluetoothを介して『DFree』クラウドにアップロードされる。

    そのデータをスマートデバイスやブラウザ上のアプリケーションで管理することで、排尿タイミングの予測に役立てられるという仕組みだ。『DFree』を導入した介護施設では、介護士が適切なタイミングでトイレへ行くことを促すことができるようになり、高齢者の生活の質が向上したり、紙おむつの利用量が減ったりした例もあるという。

    トリプル・ダブリュー・ジャパンでは、介護施設などの法人向けに加え、2018年7月から個人ユーザー向けの『DFree Personal(ディー・フリー・パーソナル)』の販売も始めた。

    介護施設での利用以外にも、排尿に課題を抱える個人の利用ニーズも高まっているとトリプル・ダブリュー・ジャパンで技術部長を務める正森さんは話す。

    「在宅での介護はもちろんのこと、頻尿や尿漏れで外出に不安を感じるアクティブシニアの方、障害をお持ちのお子さん、脳梗塞などの病後のリハビリに取り組んでいる方、膀胱や子宮がんを克服した後に排泄障がいをお持ちになった方など、さまざまな状況でご利用いただいています」(正森さん)

    エンジニアは「できること」「やりたいこと」にとらわれてはいけない

    「排泄予測」という分野は、トリプル・ダブリュー・ジャパンが独自に切り拓いたブルーオーシャン。競合他社がいない中、機能もデザインも使い心地も、全てゼロベースで考えなければいけない。そんな中で進める開発は、「一筋縄では進まない」と正森さんは話す。

    正森さん自身も、『DFree』で使われている技術にもともと精通していたわけではなかったため、プロダクト開発は医療関係の識者や現場でのヒアリングからスタートした。超音波や医療機器の学会をまわり、協力・監修してもらえる研究者を探し、フィードバックを何度も受けながらプロダクトに反映していったという。

    今でこそ「そこが一番大変だったかも」と笑う正森さんだが、当時はとにかく必死。介護施設の現場でニーズをヒアリングして初めて見えてきた課題も多かった。

    「介護施設にWi-Fiが飛んでいない、ユーザーである高齢者も介護士もガジェット慣れしていないなど、問題は次々と出てきました。また、体に装着して使用するということに対して、苦手意識を持つ高齢者の方も想像以上に多かったです。着け心地をより良くするため、装着系のヘルスケアデバイスも参考にして、自分たちも繰り返し身に着け、試行錯誤を重ねました」(正森さん)

    0から1を生み出す開発で頼りになるのは、あくまで「ニーズ」がどこにあるかだ。正森さんは「エンジニアは一人よがりになってはいけない」と続ける。

    「エンジニアはどうしても、できること、やりたいこと、自分が成長できることに取り組みたくなってしまいます。ですが、『人の役に立つもの』、『使ってもらえるもの』を提供できなければ意味がありません。だからこそ、ユーザーの声を丁寧に拾い、取捨選択しながらプロダクトに反映させていくバランス感覚が重要だと思います」(正森さん)

    ユーザーの声を共有することで、開発チームのモチベーションを上げる

    『DFree』が現場でしっかり活用されるように、iOSアプリの開発を担当する山本さんはUI/UXにこだわりを込めた。

    「普段あまりガジェットを使わない介護士の方や高齢者の方がユーザーになるので、ぱっと見て分かるデザインや使い心地を意識しました。僕らにとって『分かりやすい』ものも、現場の方からすれば『よく分からない』ということはよくあります。だから、ここでも現場のヒアリングを重視し、何度もフィードバックをもらって改善を重ねていきました」(山本さん)

    そうやって行き着いたのが、排尿タイミングや排尿ケアの履歴をグラフで表示させる現在のスタイルだという。

    また、同社では、『DFree』ユーザーの声や反応を共有する「Good Story」と呼ばれる取り組みを行っている。全社で使っているslackに「Good Story」のチャンネルを作り、アメリカやフランスなど海外での事例を含め、『DFree』を使って排尿トラブルが改善できたユーザーからの“喜びの声”を共有しているのだ。

    「エンジニアは普段、ユーザーと直接会う機会がありません。だから、自分たちが開発したプロダクトがどのようにユーザーの役に立っているのか『声』が聞けるといいなと思っていました。『Good Story』の共有があると、モチベーションアップにつながりますし、次の改善にも生かせます」(山本さん)

    今は2020年を目標に、便の排泄を予測するデバイスの開発を急ピッチで進めている。腸は膀胱よりも深部にあるため、超音波で検知するのは尿より格段に難しいそうだ。

    「0から1を生む開発にはさまざまな困難がありますが、僕らは『考え続けること』をやめてはいけないと思っています。小さな検証作業一つとってもその目的は何かしっかり考えながら、意味あるアウトプットにつなげていきたい。それが多くの人の人生を変え、社会全体をより豊かにできると信じています」(正森さん)

    取材・文/石川 香苗子 撮影/赤松洋太

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