あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りして紹介していく。
あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team
エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りして紹介していく。
2016年3月3日、『FinTech企業で働くには? 金融vsテックのカルチャー』と題したイベントが、東京の汐留で開催された。
このイベントでは、クラウドクレジット、お金のデザイン、freee、LiquidというFinTech企業4社を集め、その業界の現状ややりがい、人材採用についてのパネルディスカッションが行われた。
日本におけるFinTechはまだ黎明期。成功のためのノウハウ・知見がまだ確立されていない状態ともいえる。もちろん、人材採用に関しても同様だろう。
同イベントの中で、今、自社に必要な人材像について「お客さんに使いやすいサービス・体験を実現するエンジニア」と話したのは、2016年2月にロボアドバイザーによる資産運用サービス『THEO』をリリースしたお金のデザインの梶田岳志氏。
そんな彼らはどのようなチームでサービスをスタートさせ、その結果、どんな人材を必要としているのか。
梶田氏を含む『THEO』の開発チームに、同社の現状を踏まえどのようなチーム構成が理想なのかを聞くと、ゼロイチの事業に必要な人物像が浮かび上がってきた。
同社開発リーダーの佐藤由紀さんによると、社内ではまだ4人と小さいチームながら、できる限り自社開発にこだわっている。
「『THEO』の開発は、UI/UX設計、ディレクションを梶田が、Webインフラや裏側の基幹システムのカスタマイズ・開発を私と他2名が担当というチーム構成です。投資のアルゴリズムというサービスの根幹部分は自社内で作り、勘定システムや顧客情報管理システムはSIerのパッケージを元にカスタマイズして使っているのが現状です」(佐藤さん)
FinTechの中でもユーザーのお金を直接扱う『THEO』のようなサービスにおいて、特徴的かつ困難なことは、ミッションクリティカル性の担保が求められることだ。当然、高いレベルの信頼性、安全性も求められ、サービス運用においてもミスが許されないという性質を持つ。
金融業界の歴史を振り返ると、これまでにも「技術」は取り入れられてきた。そして、そのミッションクリティカル性の担保の難しさから、システム部分は外部のSIerに任せることが多く、「自社で作る」という文化はあまり育ってこなかったという事実がある。
そのため、FinTechのサービスにおいても金融に関する部分を大手金融機関などの他社に任せる企業も少なくない。ただし、将来的にはその部分を自社で開発することが至上命題となるだろう。
なぜなら、自社内で開発することで、早く、妥協せず、良いものを作り出すことができ、それがFinTechが注目を集める理由のひとつでもあるからだ。
そしてその流れは『THEO』にとっても他人事ではない。
「現在SIerのパッケージを使っている部分も、社内で開発する計画を進めています。その際求められるのは柔軟で芯のあるエンジニアです。『絶対にこの技術を使いたい』と技術に固執するのではなく、さまざまな技術の良しあしをフラットに考えられる柔軟性があり、『これを実現するにはこの技術を使うのが最も良い』と判断できる芯のある人。万が一何かがあった時にもさまざまな選択肢から最善の解をいかに早く判断できるかが重要ですから」(佐藤さん)
また、FinTechサービスの自社開発で重要なのは、金融サービスであるがゆえのミッションクリティカル性だけではない。FinTechそのものが一般的に普及しているとはまだ言えないため、そのユーザビリティも高い水準が求められる。そして、そのためにはそれを実現できる人材も必要になってくるだろう。
「Webサービス開発経験があるエンジニア。特に、ユーザーが自覚しない欲求や願望を探り、形にしてきた経験のあるエンジニアが活躍できると思います。多くのユーザーにとって具体的なイメージを持ちづらい金融という分野だからこそ、ユーザーにとって魅力的な体験をつくれるエンジニアがなおさら求められるのです」(梶田氏)
しかし、それらのようなスキルはあくまで必要条件である、と二人は話す。
「本当に必要な存在は、ベストなプロダクトはなにかを探るために、異なる分野のプロフェッショナルと粘り強くコミュニケーションを続けられる人」(梶田氏)
彼らがそう話すのには、彼らが考える「イノベーティブなサービスを生むための条件」に理由があった。
「シリコンバレーに本拠を構えるデザインコンサルタント会社のIDEOによれば、イノベーティブなプロダクトは【実行可能性】、【事業実現性】、【魅力】の3つすべてが満たされた時に産まれます。魅力的で事業としても成立するプロダクトを思いついたとしても、技術的に実行不可能であれば形になりません。また、技術的な困難を乗り越えて作られたプロダクトであっても、魅力的でなかったり事業的に実現が見込めなければ、これも形になりません」(梶田氏)
この3つを満たすために、それぞれのプロフェッショナルが必要だと彼らは考えている。
では、単純にチーム内にそれぞれのプロフェッショナルがいれば、イノベーションは起きるのか。彼らの答えは「ノー」だ。
「それぞれの分野でプロフェッショナルとして力を発揮する人の中には、細かい説明をしても違う分野の人には理解してもらえないだろうと思い、無意識に他分野の人を遠ざけてしまう人もいます。そういう状況では、少なからず相互理解において難しい面があるのです。しかし、それでは良いものは生まれません」(佐藤さん)
専門性が高い分野であればあるほど、その分野間で飛び交う会話もまた専門性が高くなりがち。すると、心のどこかで「よく理解していないけど、専門家の彼が言うのだからきっと大丈夫なのだろう」と折り合いをつけてしまう可能性もある。
しかし、チームでイノベーティブなプロダクトを作るためには、専門家の言葉を鵜呑みにする、またその逆に、自分の主張を押し通すだけというのも、是ではないと佐藤さんは言う。
「私たちの強みは、金融だけでなくWebやシステム開発など、さまざまな分野の専門家が交わったチームであるということです。私たちは、ユーザーにとって新しい、魅力的な金融サービスを作りたい。そのために、1人1人の専門家だけでは思い付かないアイデアや、およそ解決できないような課題の解決策を、たくさんの専門家が話し合うことで見つけ出していくしかないと考えています。専門外の事を理解しようと粘り、得られた理解に自らの専門性を重ねた意見を、今度は発信する必要があるのです」(佐藤さん)
また、FinTechという“未開の地”だからこそ求められる人材もいるという。
「金融出身者が中心のチームだと、まず、Web的な専門性を根付かせる必要があります。技術リソースとしてだけではなく、『自立・分散・協調』や『漸進的改善』といった文化、価値観をチーム内に浸透させることができるような、発信力の強いエンジニアも必要だと思います」(梶田氏)
ゼロイチのプロダクトを作る上で技術力はもちろん重要。しかし、さらに重要なのはただの技術者としての能力だけではなく、自ら情報を発信していける「発信力」があるかどうかなのだ。
取材・文/佐藤健太(編集部) 撮影/竹井俊晴
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