盛り上がる「LifeTech」普及のカギは安全性と使い勝手の融合~FiNC×エムスリー×メドレーの3社に聞く
Appleが今年3月22日に行った新製品発表会ではiPhoneの最新モデル『iPhone SE』が話題をさらったが、もう一つ、見逃せない発表があったのをご存知だろうか。かねてより同社が注力してきたヘルスケア分野についての発表だ。
ヘルスケア向けオープンソースフレームワーク『CareKit』の発表と、各種医療検査をiPhoneアプリで行えるソフトウエアフレームワーク『ResearchKit』のアップデートが示すのは、人々の健康管理や予防医療に「身近な」テクノロジーが介在し始めたということ。日本でも昨年、 ネットを介して離れた場所の医師が患者が診察できる遠隔診療が事実上解禁されるなど、この領域の技術革新が脚光を集めている。
では、一般的なWeb・アプリサービスの開発とは縁遠く感じるLifeTechの世界で求められるエンジニアとは、どのような専門性を持つ人なのか。それを説明するイベントが、3月23日に東京・有楽町で行われた。
『LifeTech – meetup for engineer #01』と題するこのイベントでは、ヘルスケア領域でサービスを展開しているFiNC・エムスリー・メドレーの3社が、それぞれ開発するサービスの概要や自社の開発環境を披露した。
そこで明らかになった共通項は、各社が取り組む開発において「データの安全運用」と「使い勝手の向上」が命題になっているということだった。
Docker活用やテスト文化の普及etc.サービスの安全性を高める多様な取り組み
まず、データの安全運用の重要性については、FiNCの取締役CTOである南野充則氏がこう語る。
「僕らが提供している『FiNCダイエット家庭教師』や法人向けウェルネス経営サポートサービス『FiNCプラス』は、個人情報の中でも非常に機密度の高い情報を扱っている。遺伝子検査や血液検査、健康診断などのデータを元にサービスを展開している以上、それらをどのように安全に管理・運用するかは事業の生命線になる」
イベントに参加した3社ともに、各種のデータを駆使してサービスの利便性や新規性を高める工夫をしながら、「安全なデータ運用」についての施策も開発フローに組み込んでいると話していた。
その一例として多くの話が出ていたのが、コンテナ型仮想化技術Dockerの利用についてだ。FiNCのSRE Development Managerである鈴木健二氏やメドレー開発部の石井大地氏は、Docker活用の理由をこう述べた。
「FiNCでは、社内で個人情報を統括するサーバを作って暗号化し、入出力はサービスに必要なデータだけできるようにあらかじめ分析しておくなど、データ管理に非常に腐心している。それぞれのプロダクトをマイクロサービスで運用しているのも、その方がセキュアなサービスづくりに向いているから。その際、Dockerだとコンテナごと移せばサーバにデータを残して作業するようなこともなくなるので、とても重宝している」(FiNC鈴木氏)
また、メドレーでオンライン通院システム『CLINICS(クリニクス)』の開発に当たった平木聡氏もこう語っていた。
「このサービスは予約から診療、支払いまでをワンストップで行う遠隔診療プラットフォームで、プロダクトとしては“攻めている”部類に入ると思うが、サーバサイドはRails+MongoDB+Herokuで構成するなど技術的にオーソドックスなものを使っている。理由は、その方が何かあった時の対応がすばやくできるからだ」(平木氏)
その他にも、インテグレーションテストの徹底(FiNCの大谷真史氏は「センシティブなデータを取り扱うサービスということもあって『テストがないと成立しない』開発プロセスを確立してる」と語った)なども含めて、各社が技術的・仕組み的に工夫していることが分かった。
主にフロント開発で技術的なチャレンジを行う理由は採用面にもある
だが、主にバックエンドの開発についてミッションクリティカルな部分を強調していた各社は、ことフロント開発では技術的にチャレンジングな取り組みを行っていると話す。
これは、LifeTechが「新しく生まれた領域」だけに、ユーザーに受け入れられる入り口としての機能やUIの使いやすさなどが求められるため、と考えられる。
例えばエムスリーで医師向けの医薬情報アプリ『MR君』を開発している長澤太郎氏は、Android Javaで行っていたAndroidアプリ開発をKotlinに移行したことで、「ラムダ式が使えてnull安全の仕組みもあり、データクラスを使えばユーザークラスを書くのもスピーディになるというメリットを享受できるようになった」と話す。
『CLINICS』開発について語ったメドレー平木氏も、フロントは高速なMVCフレームワークのMithril.jsや次世代JavaScriptと目されるES2015を使って開発していると明かす。「Mithril.jsは薄いけどフルスタックで、ES2015は詳しいコーディングルールを決めなくても書きやすいのでチーム開発に向いている」と言う。
こういった技術的なトライを重視するのは、使い勝手の向上につなげることのみならず、エンジニア採用における特徴を生み出すためでもある。
事実、この日登壇したエンジニアたちの中でも、メドレー取締役CTOの平山宗介氏は元リブセンス出身で、同社の平木氏は元ゲーム開発エンジニア、FiNCの鈴木健二氏は元DeNA~ベンチャーCTO経験者と、BtoC(またはBtoBtoC)のWeb・アプリ開発で経験を積んできた人が多かった。
こういった領域の経験を持つエンジニアが、LifeTechの世界で使い勝手の良さを“発明”していくことも、普及のカギになるということだろう。
イベントの冒頭で、エムスリー執行役員CTOのBrian Hooper氏は「LifeTechは社会的意義の大きいもの。ゲーム開発をやっているような人たちにもぜひこの世界に飛び込んできてほしい」と語っていた。 ミッションクリティカルと先進性の融合は、昨今盛り上がりを見せるFinTech然り、今後イノベーティブなサービスを作っていく上でのキーワードになりそうだ。
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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