「皆で決める」がいいとは限らない――日本人マネジャーに決定的に欠けている「決断」のスキル【麻野耕司×広木大地】
2019年5月9日(木)、組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を提供している株式会社リンクアンドモチベーション(東京・銀座)にて『THE TEAM』×『エンジニアリング組織論への招待』コラボイベントが開催された。
本イベントの講演に登壇したのは、『THE TEAM ~5つの法則~』(幻冬舎)著者の麻野耕司さんと、『エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』(技術評論社)著者の広木大地さん。モデレーターは株式会社レクター代表取締役の松岡剛志さんが務めた。
組織づくりに絶対解はないが最適解はある
イベント当日、会場には約150名が集まった。事前に参加表明をした人は定員の1.6倍を超える250名以上。チーム運営や、エンジニアリング組織のマネジメントに課題を抱えている人の多さが伺われる。
講演が始まる際にモデレーターの松岡さんが参加者に属性を問い掛けると、約7割の人が「現在、何らかの形でチームマネジメントに関わる仕事をしている」と回答。それを受けて、麻野さんは『THE TEAM ~5つの法則~』に記されている“良いチームづくり”のための「A(Aim:目標設定)・B(Boarding:人員選定)・C(Communication:意思疎通)・D(Decision:意思決定)・E(Engagement:共感創造)」の5つの法則のうち、「Boarding(人員選定)」「Aim(目標設定)」「Decision(意思決定)」3つの法則について詳しく解説した。
講演の冒頭、「Boarding(人員選定)」の法則で使用されたスライドがこちらだ。
数々ある組織づくりのためのテクニックの詳細は同書に譲るが、ポイントは「自らが所属する組織のタイプに適した、チームづくりの法則を採用することにある」と麻野さん。
環境の変化度合いと、人材の連携度合いの二軸で組織タイプを分類したときに、自身が所属する組織がどの型に当てはまるのかをまずは確認をしてみよう。
そして今回、エンジニアtype編集部では、本講演の中でも参加者からの反響が特に大きかった『Dの法則』(Decision:意思決定)のセッション内容を、麻野さん、広木さん、松岡さんの会話形式で紹介する。
多数決を無意識に採用していないか?
リンクアンドモチベーション 麻野さん(以下、麻野):実は、経営層の方からも一番反響をいただいたのが、『Dの法則』(Decision:意思決定)のパートだったんです。
レクター松岡さん(以下、松岡):経営層は、役割の大半が意思決定になりますからね。意思決定をする際には、そもそもどこがポイントになりますか?
麻野:まず、どうやって意思決定をするのか、その方法を決めてしまうことが大事ですね。
松岡:というと?
麻野:意思決定には3つの方法があります。1つ目が「独裁」。チームの中の誰か一人が独裁的に意思決定をする方法で、要は、トップダウンで決めるやり方です。
2つ目は「多数決」。チーム全員の意思を確認し、多数の賛同を得た案を採用する方法です。
そして、3つ目が「合議」。チーム全員で話し合いをして、皆が一致する意見を採用します。
レクター広木さん(以下、広木):トップダウンの意思決定は、メンバーから嫌がられることも多いですよね。そういう理由で、「多数決」や「合議」形式を採用しているリーダーが結構多いんじゃないでしょうか。
麻野:そうなんです。「合議」形式の意思決定は、メンバーが関与するので最も納得感が高いんです。しかし、皆で話し合って決めるから、最も時間がかかってしまう。
一方で、誰かが1人で決める「独裁」形式の意思決定は、スピードを担保できます。メンバーの納得感は低くなるかもしれませんが、世の中の変化のスピードが早い時代には、より素早い決断が求められるので、良い面もあります。
広木:それぞれの意思決定方法のメリット、デメリットを理解した上で、自分の組織に適したものを選ぶことが重要だと。
麻野:その通りです。ただ、よくあるのが、リーダーはスピード重視で意思決定したいから独裁的になりがちだけど、メンバーがそれをよく思っていないケース。逆に、何も決めない上司にメンバーがイライラしているケースもありますね。
松岡:確かにエンジニアリングチームでもよく見る光景ですね。リーダーとメンバーで自分たちの採用した意思決定の形が共有されていないパターンですね。
麻野:不協和音を起こさないためにも、自分たちのチームはどの意思決定の方法を採用するのか、最初に決めてしまうことが大事です。
先ほど広木さんも仰いましたが、私たちはつい合議とか多数決のやり方を無意識に採用してしまいがちです。なぜなら、幼い頃から何か喧嘩や揉め事があれば、「皆で話し合って決めなさい」という風に言われてきましたからね。また、世界の歴史は、「血統によって決まった王様から、国民が意思決定権を取り戻していく」という民主化のプロセスを経てきている。「合議、多数決がいい」という先入観は、皆一様に持っているものなんです。
松岡:ただ、それがいいとは限らない、と。確かに人のいい優しい人がエンジニアのマネジャーになりがちで、そういう人は最初に話し合いを重視しすぎるということはあるあると言っていいかもしれません。
麻野:はい。組織によっては、ですけどね。繰り返しになりますが、最近はビジネス環境の変化も非常に早くなっていますから、意思決定に時間をかけてしまうのは経営上のリスクです。トップダウン=悪と決め付けずに、一度そのメリットを考えてみる必要があると思いますね。
ちなみに、ソフトバンクやファーストリテイリングでは、孫正義さんや柳井正さんというオーナー経営者がトップダウンでスピーディーに意思決定していることでも有名です。これは、とても象徴的な事例ではないでしょうか。
広木:一方で、組織が大きくなっているのに、かつてうまく言ったトップダウンのやり方に固執してしまうことがあります。そうすると、リーダーの意思決定する量が増え過ぎてしまって、逆に意思決定のスピードが下がってしまうことがあるように思います。
環境変化についていくためには、組織の拡大に合わせて、リーダーが他の誰かに仕事を任せ、デリゲーション(権限委譲)する能力も大切ですね。
ファーストチェス理論で、意思決定のスピードを上げろ
広木:意思決定のスピードを上げつつ、チームの納得感も上げたいというのが多くの人の理想だと思いますが、スピードと納得感は常にトレードオフの関係で、両立ってできないんですかね?
麻野:実は、そうとは限りません。トップダウンでうまくいくチームには特徴があって、それは、リーダーがチームの状況をよく理解しているということ。メンバーに尊敬されるリーダーが、最適な決断を最適なタイミングで下せれば、納得感は生まれます。
広木:なるほど。でも、マネジャーであっても意思決定が怖くてできない人って実は多いですよね。どうすれば意思決定を下せる人になれるんでしょうね。
麻野:これはもう、トレーニングを積んでいくしかないですね。世の中には多くのマネジャー研修がありますが、意思決定に関するトレーニングはあまりない。意識的にそういうものを探して、参加してみるのも一つの手だと思います。
後は、「時間をかけて考えれば良い決断ができる」と考えるのは辞めることですね。
松岡:それはどういうことですか?
麻野:例えば、ソフトバンクの孫さんは「ファーストチェス理論」を、意思決定するときに採用しているそうです。ファーストチェス理論とは、チェスにおいて「5秒で考えた手」と「30分かけて考えた手」は、実際のところ86%が同じ手なので、できる限り5秒以内に打ったほうが良いという考え方。
「正しい意思決定をしよう」と考えると、どうしても時間をかけ過ぎてしまいますが、決定権を持つ代表者に求められるのはスピードです。間違ってもいいから、すぐに答えを出す訓練も積むべきでしょうね。
広木:失敗を恐れず経験を積むしかないっていうところもありますね。意思決定の数が増えれば増えるほど、マネジャーは成長していくんだと思います。
麻野:まとめますが、最初に手をつけるべきは、組織の型にあった意思決定の方法を決めること。そして、どの方法を採用したとしても、リーダーとなる人物は「決める」ことを恐れないこと。
意思決定に対する適切なスタンスをチームメンバー全員で共有することにより、決断の精度は飛躍的に向上します。そのとき、皆さんのチームや組織はまた一つ成長しているはずです。
取材・文/君和田 郁弥(編集部) 撮影/栗原千明(編集部)
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