「イケてない奴らを全員救いたい」人生を懸け“大して好きじゃない”VR領域で起業した、根暗20代社長の野望
「“好き”を仕事にしよう」。そんなメッセージが世に溢れている中、「大して好きじゃないこと」で起業した20代社長がいる。VR/ARコンテンツの企画開発を行う、株式会社ActEvolve代表の加藤卓也さんだ。
同社ではVRゲーム『Blitz Freak』やVRライブプラットフォーム『VARK』を手掛けているが、「3D酔いもするし、別にVRやゲームが好きなわけではない」と加藤さん。そんな彼がVR/AR事業での起業に向けて一歩を踏み出した背景には、「イケてないやつを救いたい」という意外なモチベーションがあった。
スポーツチャンバラでアジア王者になっても、世界は変わらなかった
いえ、そんなに好きではないです。
僕がやりたかったのは、「多くの人に影響を与えるサービスづくり」だったんです。さかのぼると、僕は高校で卓球をやっていて、関東大会出場目前レベルの選手でした。でも、よく考えたら関東大会目前ってしょぼいし、その上に行けたとしても、海外の強い選手と戦わなきゃいけない。それは当時の僕には無理だなって思ったんです。
それでもうちょっとニッチで、 僕でも日本一が狙えるスポーツにいこうと思って、大学ではスポーツチャンバラを始めたんです。それで、アジア大会で優勝して。
「虚無だな」と思いました。すごい自信がつくかと思ったけど、そんなこともなく、好きな女の子に好きとも言えない。世界は全然変わらなかったし、相変わらず自分はイケてないままでした。
それがカプコンに行く理由につながるんですけど、スポーツチャンバラって競技人口1万人ぐらいの超マイナースポーツで、アジア大会で優勝した僕を見て感動している人なんて多分10人くらいなんですよ。それで、もっとたくさんの人に影響を及ぼすようなことがしたいと思って、サービスづくりに興味を持ったんです。
うーん……僕、ものすごく根暗なんですよ。普通に生きてはいけるけど、全然幸せじゃなくて。周りを見渡しても、イケてないかわいそうなやつの方が明らかに多いんです。しかもそういう奴は同じようなイケてないやつ同士で固まって、どんどん悪循環に陥っていく。
それなら、広く影響を与えられるようなことをして、世界をひっくり返して、そいつらの方向性を変えられたら、少なくとも幸せな人は増えるじゃないですか。そうやってイケてないやつを救いたいんです。その手段として、まさかイケてるやつらを地球から消すわけにもいかないじゃないですか(笑)。だからサービスづくりをやろうと思ったんです。
ソーシャルゲームがやりたかったんです。当時はガンホーの『パズドラ』が大ヒットしていて、周りが全員やってたんですね。そんなに社会に影響を与えられるものってカッコイイなと思って。ただ、自分が活躍できなければあまり意味がないですから、まだソシャゲ事業が軌道に乗りきっていない会社に行こうと考えました。その方が、若手の自分にもチャンスが来るんじゃないかと思ったんですね。ただ、結果的にソーシャルゲームの仕事には就けなくて、コンシューマーゲームの担当を3年間やっていました。
会社を辞めて起業する以上に「このままで勝てるのか?」が不安だった
起業を考え始めたのは、社会人3年目の終わりぐらいです。ゲーム業界にいると海外のテクノロジーに関するニュースをよく耳にするのですが、これから世界を変える分野は、AI、ブロックチェーン、IoTやドローンなどのハードウェア関連、あとはVR/ARあたりだろうと思ったんですね。
この中で、VRに手を出す会社はなかなか軌道に乗り切れていないと感じていて、「僕がやったら絶対うまくいくのに」と思ったんです。自分のバックグラウンドを活かして良い仲間を集めてお金引っ張って……って考えた時に、VRは相性も良かった。「広く影響を及ぼす」っていう目的を考えたら、そっちに移った方が絶対にいいし、だったら自分でやろうと思って、4年目の夏に起業しました。
不安はなかったですね。
当時の僕にとって一番の不安は、「このままこの会社にいて、俺は世界を変えられるのか?」っていうことだったんです。カプコンの時の同僚は本当に一日中、倒れるまでゲームをしているようなやつら。ゲームが大好きだから、努力を努力と思わないわけです。それだけ好きなやつには、どうやったって勝てないんですよ。
VR市場は、まだ努力とコミットがあれば勝てるフェーズなんです。僕は命を懸けるのが得意で、この市場で僕以上に命を懸けて、努力とコミットをしている人はいないと自負しています。
例えば最近はVR市場に大企業がかなり参入してしますが、そんな中でも、僕たちのような駆け出しのベンチャー企業が元気にVR事業を続けている。やっぱり命の懸け方が違うんです。ベンチャーは倒産とVRの発展を天秤にかけて事業をやっているわけですから。
全てをこの事業に費やすってことですかね。例えば僕の月給は20万円なんですけど、西新宿のオフィスから徒歩2分のところに家を借りていて、家賃15万円なんです。というのも僕の家に3人分の寝具を用意してて、メンバーやインターン生が寝泊まりできるようにしているんですよ。ここは僕の給料から自費なので、マジで金がない(笑)。
でも、20万円のうち15万円を家賃に使うのなんて簡単じゃないですか。これが案外、普通の人はできないんですよ。そういうなんとなく皆がやれないことも含めて、信用やプライドを全部突っ込むのが、命を懸けるってことだと思っています。
たしかに金はなかったですけど、やっぱり不安はなかったですね。ちょっと調べたら、銀行から低利子無担保で500万円借りられることが分かったんで、「じゃあいけるな」って。あとは「君面白いね」みたいなノリで投資してくれる人もいるんですよ。
それに、僕は最初から成功する自信があったんです。市場は大きくて、お金を払う人はいっぱいいるのに、良いコンテンツがない。それならクオリティーが高いものを作れば売れますよね。じゃあそれを作ればいい。だから借金をしたとしても、将来返せると思っていました。なんというか、僕にとっては命を懸けられないことをやっている方が不安なんですよ。
「命を懸けている人」を皆が想像以上に助けてくれる
もっと早くやればよかったです。ゲーム一本作れるようになるまでは続けようって決めていたんですけど、起業してみたら一切関係ないんですよね。クリエーターと経営者では、全く別の筋肉が必要なんで。
想像以上に、「人間は命を懸けた人を助けてくれるぞ」と。皆さん、可能性を感じてくれているんですよね。だから「命はもっと簡単に懸けろ」というのは思います。意外と懸けている人はいないですから。
あとは「サービスの価値は、世に出した時に初めて分かる」ということも、起業して分かったことです。
僕は前職でずっと開発だけやってきていましたが、現場に籠っていると世の中の反応なんて、全然分かんないんですよ。良いものを出せばウケるわけでもないし、僕らとしては満足のいかないクオリティーなのに意外にもウケることもあって。「悶々と作るんじゃなくて、まず世の中に問うてみろ」というのは思うようになりました。
それに、アウトプットには慣れが必要なんです。そういう意味でも、どんどん世に出した方がいい。僕も最初の頃は、ゲームを試してくれている人がつまんなそうだと、普通に傷ついてました(笑)
VRはイケてないやつのためのものなんですよ。現実が楽しいやつは絶対にVRやらないですから。だから僕は、現実世界でイケてないやつをバーチャルの世界に連れていって、そこで活躍させたいです。
そのためにも、今後は業界を盛り上げたい。「新しいプロダクトを出して加藤を倒そう」って業界が盛り上がるなら、僕は嫌われたっていい。人生懸けて、イケてないかわいそうなやつらを幸せにしてあげたい。そこが僕のモチベーションですね。
※この記事は姉妹サイト『20’s type』より転載しています。元記事はこちら
取材・文/天野夏海 撮影/大室倫子(編集部)
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