エンジニアとデザイナーの“意思疎通”がうまくいかない問題の解決法
近年、Webサービスの成功には優れたUI/UXデザインが不可欠となっている。そのため、エンジニアにもその領域の知見が求められるようになってきたが、実際は「UI/UXはデザイナーが考える」というスタイルが定着している企業が多く、エンジニアがユーザー体験を考えられる機会が少ないのが現状だ。
だからこそ、サービス開発の現場では、エンジニアとデザイナーの協業が必要となるが、お互いの意思疎通がうまくいかず、スムーズに開発が進まないケースも多いのではないだろうか。
株式会社サイバーエージェントで働く谷拓樹さんは、まだ国内では希少な存在のUXエンジニアだ。現在は、同社のエンジニアリング組織とデザイナー組織をつなぐ役割を担うが、幾多のプロジェクトを手掛けてきた中で、エンジニアとデザイナーの意思疎通がうまくいかない様子を数々目にしてきたという。
そんな谷さんに、サービス開発の現場で起こるエンジニアとデザイナーの行き違いはどうすれば防げるのかを聞いた。
サービス開発に欠かせない「デザインの共通言語」
そもそも、サービス開発の現場でエンジニアとデザイナーの意思疎通がうまくいかない理由は何だろうか。
「まず、分業化されている開発体制の場合、エンジニアとデザイナーで『ゴール』の考え方が違うことがあります。この場合よくあるのは、エンジニアにとってのゴールは『きれいな設計でシステムが正常に動くこと』、デザイナーにとってのゴールは『デザイン(絵)を作り、それが正しく表示されていること』。それぞれが自分のゴールだけに向かおうとすると、一方の目指すものや美学と衝突してしまうために、開発過程で行き違いが起きてしまうことは多いと思います」
このような事態を防ぐために必要なのは、エンジニアとデザイナーの間で「共通言語を持つこと」だと谷さんは言う。
「お互いにとって美学を持っているということ自体は、決して悪いことではないです。しかし、我々が一番目を向けなければいけないのは、あくまでユーザーです。エンジニアとデザイナーのどちらかが負債を背負うのかという議論ではなく、プロダクトにとって最適なUXを実現するために、必要なことは何かを考えないといけません。そのための共通認識と言語化が必要です。例えば、その一つに『デザインの原則』があります。
デザインの原則とは、エンジニアとデザイナーの間で持つべき共通のデザイン指標を言語化したものです。言い換えれば、何がプロダクトの価値か、誰に伝えるためのデザインか、という基準のこと。企業やチームがプロダクトに込めたい思想や、エンジニアとデザイナーが使用する共通言語などを決めていくと、UI/UX開発現場での両者の行き違いが減っていくはずです」
実際、AirbnbやUberをはじめとする世界のテックカンパニーも、企業やプロダクトごとにデザインの原則を定めた上で、自社サービスの開発をしていると言う。
例えば、Facebook社のデザイン原則は、「ユニバーサル」「一貫性」「使いやすさ」など1つの単語でシンプルに表現されている。ただ、こうした抽象的な表現だけでは作り手によって認識のズレが生じてしまうため、各プロジェクト単位では、さらに具体的なデザインの原則を決めていく。
何のためのサービス開発か、デザイナーと認識を揃えよう
今でこそエンジニアとデザイナーをつなぐポジションでサービス開発を行う谷さんだが、過去には、デザイナーとのコミュニケーションがうまくいかず、新規サービスの開発で悩んだ経験がある。
「プロダクトの開発過程でデザイナーと議論をしていた時、『じゃあ、一旦これで』という言葉で、デザインの仕様を何となく決めてしまったことがありました。その後もお互い丁寧に合意をとらないまま開発を進めてしまったので、目的に合わないUI/UXが出来上がり、リリース直前に複数の修正が重なってしまって。結果的に、サービスのリリース時期を延期することになったんです」
しかし、「この失敗から学んだことは、多かった」と谷さんは続ける。
「この時の失敗で、デザイナーとエンジニアが協業する際に最も大事にすべきことが分かった気がしました。それは、何のために開発をするのか、最初に課題を明らかにしておく必要があったということです。『一旦これで』という『点』で解決しようとするのではなく、課題を『線』で捉える大切さを学びましたね」
UI/UXを開発する時には、そこに必ず「解決するべき課題」がある。Webサービスを事例にするならば、「ユーザーのコンバージョンを増やしたい」、「サイト内の回遊率を上げたい」、「サイト上での滞在時間を長くしたい」など、課題の種類はさまざまだ。またそれらはユーザーが求める価値やストーリーが背景にあって成立するものだからこそ、どんな課題を解決するためのUI/UX開発なのか、エンジニアとデザイナーの双方が認識を合わせることができなければ、建設的な議論も進まない。
また、エンジニアとデザイナーが共通の課題意識を持つ上でも有効なのが、デザインの原則を両者で一緒に決めていくプロセスも大切になると谷さんは言う。
「デザイン原則を決めるときには、必ず『何のためのデザインか』という目的を話し合うことになります。ですから、新しいサービスづくりの開発現場では、開発と並行してデザインの原則を話し合う機会を設けることをお勧めします。最初から100%のクオリティを求めるのではなく、少しずつ始められれば意味のあるものになります」
建設的な議論は“お互いをよく理解すること”から生まれる
では、開発の目的を整理し、デザインの原則をエンジニアとデザイナーで決めることができれば、両者の意思疎通は100%うまくいくようになるのだろうか?
答えは残念ながらNOだ。谷さんは、「エンジニアとデザイナーがお互いの仕事をよく理解しようとしなければ、いくらデザインの原則を決めようとしても、建設的な議論が進まない」と話す。
「エンジニアがデザイナーの仕事に興味を持つことは、コミュニケーションを円滑に進めるための前提条件。彼らがどんな思いでデザインをしているのか、大事にしたいと思っていることは何なのか、デザイナーと実際にコミュニケーションを取るようにしてください」
デザイナーにデザインの意図を確認するときの注意点は、「ダメ出し」と捉えられない言い方を心掛けることだ。
「デザインが原則にそぐわないと感じたとしても、はじめから否定的に接するとデザイナーも構えてしまいます。なぜそのデザインなのかという意図を聞き入れ、エンジニアリングの側面からの代案を提示し、議論することが必要です。その上で必要であれば原則を変えるアプローチもできます」
サービス開発の現場では、デザイナーもエンジニアも、ユーザーの心理や行動を理解することに最大限の意識を払う。しかし、一緒に働くチームメンバーへの理解と共感も、蔑ろにしてはいけないものだ。
改めて人間関係構築の基本に立ち返ってみると、“うまく意思疎通ができない問題”解決の糸口が見つかるはず。まずはそこから、優れたサービス開発ができる環境はつくられていくのではないだろうか。
取材・文/君和田郁弥 撮影/赤松洋太
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