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“AI活用日本一”を目指すZOZOテクノロジーズの戦略ーー「分からなくても挑戦」して5年後の後悔を防ぐ【金山裕樹】

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    2019年5月23日、ZOZOテクノロジーズが、“AIを搭載したコーディネート提案サービス”『コーデ相談 by WEAR』の提供を開始した。

    Amazonの音声アシスタント『Amazon Alexa』に対応しており、ZOZOグループが運営するファッションコーディネートアプリ『WEAR』上のコーディネートが検索できる。さらに、AIがユーザーの好みを学習し、使うごとに最適な提案をしてくれる新サービスだ。

    「『コーデ相談 by WEAR』を足掛かりとし、今後さらにグループ内でのAI活用を強化していく」と、ZOZOテクノロジーズの代表取締役、金山裕樹さんは意気込む。

    これまで、ファッション業界にあらゆるイノベーションを起こし続けてきたZOZOグループは、AI活用の風土を会社に根付かせるために何に取り組んでいるのだろうか。

    金山さん

    ZOZOテクノロジーズ 代表取締役CINO(Chief Innovation Officer)
    金山裕樹さん

    ファッションアプリ「IQON」(アイコン)を運営するVASILYを創業後、2017年10月に「ZOZOTOWN」 を運営する株式会社ZOZO(旧スタートトゥデイ)に売却。技術開発を担うZOZOテクノロジーズのイノベーション担当代表取締役として、ZOZO研究所の発足・運営をはじめとするR&Dと新規事業の創造を行っている

    どこよりも早く挑戦し、数年後のトップシェアを目指す

    「『コーデ相談 by WEAR』は、“イノベーションのジレンマ”を生まないために、挑戦の意を込めて開発に踏み切ったサービスです」

    “イノベーションのジレンマ”とは、「既存顧客へのサービスに注力し、その他の小さなマーケットを軽視した結果、新興企業に市場を奪われる」といった、大企業が陥りがちな失敗のこと。

    ZOZOは過去に『ZOZOフリマ』というサービスをリリースから1年半で終了しているが、その時まさに、イノベーションのジレンマを経験したのだという。『ZOZOフリマ』への資源投資が遅れ、『メルカリ』や楽天が運営する『フリル』などにマーケットシェアを奪われてしまったのだ。

    「あの時、『ZOZOフリマ』をいち早く始めていれば、今のフリマ市場をZOZOが独占していたかもしれなかった。素早く決断できなかったことが、悔やまれます。だからこそ、同じ過ちは二度と繰り返したくないんです」

    そこで今回、“どこよりも早く”始めたのが、音声によるコーディネート提案サービスというわけだ。

    スマートスピーカーは、国内ではあまり浸透していないものの、アメリカでは既に世帯普及率4割以上(2018年時点)となっており、日本でも今後ますますの普及が見込まれている。だからこそ、「もう遅い」と言われる前にサービス開発をスタートし、ユーザーの獲得とノウハウを積み、「5年後の後悔を防ぎたい」と金山さん。

    金山さん

    先行者利益の重要性を説く金山さん

    「『コーデ相談 by WEAR』の開発では、まずユーザーさんの利用シーンを想定しました。CMなどでも分かる通り、スマートスピーカーは両手がふさがっていたり、忙しくて手が離せないというシーンで重宝されます。これを踏まえた結果、『コーデ相談 by WEAR』では、“バタバタしがちなお出掛け前の服選びをサポートする”という価値を提供したいと考えました」

    さらに、金山さんは「音声ユーザーインターフェース(VUI)」にも大きな可能性を感じているという。

    「声を使えば、タイピングする手間が無くなるし、入力スピードも圧倒的に速くなる。忙しい現代人にとって『速さ』は正義ですから、5年後、10年後には、VUIの活用がさらに進むはずです。普及の可能性が大いにある以上、『VUIなんて、まだほとんどの人が使ってないから』と軽んじてはいけないと思っています」

    『コーデ相談 by WEAR』には、まだ改善の余地も多いと金山さんは言う。ユーザーがどんな体験をするのか、検索キーワードやクエリは何なのか、起動時間はいつなのか、データの集積と分析を重ね、サービスをアップデートしていく予定だ。

    202X年、「日本一AI活用が進んでいる企業」になるためにやったこと・やるべきこと

    『コーデ相談 by WEAR』のリリースから1カ月半が経った今、同社が想定した通りの成果を得られているそうだ。だが、「初回に使ったときの、強烈な感動体験はまだない」と金山さんの評価は厳しい。

    「初回の強烈な感動体験が、その後の習慣的な利用につながると考えています。例えば、初めて行ったラーメン屋で『何だこれは!』って声を上げたくなるほどおいしければ、また通うと思うんですけど、『まぁまぁだな』くらいの印象の店には結局ほとんど行かないじゃないですか。それと同じですね」

    金山さん

    また、同サービスに限らず、「初回の鮮烈な体験」と「利用の習慣化」を促すために今後欠かせないのがAIの活用だ。

    「『コーデ相談 by WEAR』に限らず、ZOZOグループでは今後全てのサービスでAIを導入していくつもりです。これも先ほどの話と同様に、『まだAIをうまく使えないから、使わない』と判断するのは無しにしたい。無理をしてでも使って、ナレッジを溜めていく必要があると考えています」

    「これは、あくまで僕個人の考えですが」と金山さんは付け加え、今後「AIを活用しない機能やサービスは1つたりともリリースすべきではない」と断言する。

    こうした考えのもと、2019年4月に金山さんを含む同社の経営陣が社内に立ち上げたのが「AI・プロジェクト推進部」という組織だ。AI・プロジェクト推進部では、202X年までに、『ZOZOグループが、日本で一番AIを活用している企業』になることを目標に掲げ、学習・挑戦・展開・発信という4つの取り組みを推進している。

    “学習”の面では、AI活用のケーススタディーとして、他社事例を学ぶ勉強会を月に一度開催。今後は外部講師なども招き、成功・失敗事例を学んでいく形にするという。

    「今後は、エンジニアをはじめとする社員一人一人が、小さなことからでもAIの活用に“挑戦”できる環境を用意し、そのチャレンジをさらにスケールアップして“展開”していく方法をともに考え、経験値をテックブログなどで“発信”するのがAI・プロジェクト推進部のミッションです」

    金山さん

    AIはあくまで“手段”。使いこなす秘訣は、「顧客志向」と「行動主義」

    今後、全てのサービスでAI活用を進めていくと語った金山さんだが、そんな中でエンジニアに求めることは何なのだろうか。

    「今すぐ超優秀なAIエンジニアになってくれ、なんてことは求めていません。それよりも大事なのは、ユーザーさんが抱える課題の本質を見極め、どの技術で、どう解決するのかを決められる人になること。AI技術が発達すれば問題解決の方法はさらに広がりますから、その中で最適な手段を見つけることこそが重要になると思うんです」

    また、誰もがある程度の情報をネットなどを通じて得られるようになった今、知識を持っているだけでは何の価値にもならない。「自ら行動し、手を動かし、それに対してどう感じたか、自分なりのインサイトを持って次の手を提案できるエンジニアがAI時代には必要とされるはずです」と金山さんは続ける。

    「僕はこれを『陳健一の炒飯理論』と呼んでいるんですが、中華の達人のレシピってネットで調べれば出てくるんだけど、それを見て試したところで達人と同じ味の炒飯は作れないじゃないですか。『レシピ通りに作ったのに、全然違うな』ってなるのが普通です。この違いは何かっていうと、やっぱり、その人にしかない経験と、ものづくりに込められた文脈なんですよね」

    金山さん

    例え話に中華が多めの金山さん

    顧客志向と、行動主義。それに加えて「これが一番重要かもしれない」と言って金山さんが挙げたのは、「折れない心」だ。

    「要は、レジリエンスですね。逆境をしなやかに受け止めたり、かわしたりする力とでも言うんでしょうか。エンジニアが新しい技術を使って何かに挑戦しようとすると、必ず反対意見が出ますし、失敗も経験することになります。そういう時に、『やっぱりダメだ』と諦めたり折れたりせずに、自分の信念を貫けるかどうか。そこがすごく大切なんですよ」

    金山さん

    「僕は白黒はっきりつけるタイプなんで、ダメって分かったらすぐ切り捨てるタイプですけどね」

    AIにレコメンドされたものを買い、AIが描く道筋を無意識に辿っている人間は、「既にAIに支配されているも同然なのではないか」と金山さん。

    「ここまで、AIを活用する側としてどうするかという話をしてきましたが、実際、僕らはもうAIに支配される側にいると思うんです。基本的にAIは人間よりも高度な知能を持ったものになっていきますから、その流れでAIが新たな価値を生み出せるようになり始めている現在、人間が人間のために新しいものを生み出せる時間はもう少ないのかもしれない。ですから、僕自身も、時間を無駄にせず、いろいろなものを生み出すことに挑戦していきたい。

    エンジニアの皆さんも、価値をつくる側にいることができるタイムリミットが近づいているということを意識して、ものづくりに向き合ってみてはいかがでしょうか。きっと、今とは違う何かを生み出すことができるはずです」

    取材・文/上野真理子 撮影/桑原美樹

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