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20代若手エンジニアの成長を加速させる戦略思考のススメ「技術へのエゴを捨てられるか?」【AppBrew 深澤 雄太】

働き方

    テクノロジーが日々進化する中、エンジニアに求められるスキルは刻一刻と変化し続けている。

    2019年7月6日(土)、30歳未満のエンジニアを対象とした、参加型技術カンファレンス「Battle Conference Under30(BCU30)」が芸能花伝舎にて開催された(主催:株式会社サイバーエージェント)。

    カンファレンスの冒頭を飾る基調講演に登場したのは、コスメクチコミアプリ『LIPS』を手掛けるAppBrew代表の深澤 雄太さん。

    スタートアップの経営者とリードエンジニアという2つの顔を持つ深澤さんは、会場を埋め尽くす平成生まれのU30エンジニアたちを前に何を語ったのか。基調講演の模様を紹介しよう。

    株式会社AppBrew 代表取締役 
    深澤雄太さん

    1994年生まれ。中学時代に独学でプログラミングを習得。東京大学に入学した2013年に、友人らと共に「東大無料塾」を立ち上げた後、大学を休学しfreeeで1年間インターンを経験する。システムの受託開発などを行うフリーランスを経て、16年2月にAppBrewを設立。コスメのコミュニティアプリ『LIPS』を17年1月にリリースし、350万ダウンロード達成。アジアの各分野で活躍中の30歳未満の人材を選出する「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出されている

    技術だけで全ての課題を解決できるほど、プロダクト開発は甘くない

    「社会にインパクトを生み出すプロダクトを生み出すために立ち上げたのがAppBrewです。起業から約1年後にLIPSをリリースしましたが、その道のりは、必ずしも順調ではありませんでした。実はLIPSにたどり着く前に、4つのプロダクトを失敗させているからです

    深澤さんは、創業期の失敗を明かしながら、基調講演のテーマを「技術にまつわる戦略思考」とした理由を語り出した。

    「大学に入学した直後から、フリーランスのエンジニアとしてアプリ開発に必要な技術を一通り身に付けてきたので、技術力にはそれなりに自信がありました。それにもかかわらず、続けて4度も失敗を重ねてしまったわけです。ユーザーニーズをつかみ、プロダクトを育てることがいかに難しいことなのか、身を持って経験しました」

    焦燥感に苛まれながら、採用、マーケティング、資金繰りなど、スタートアップの経営者としての仕事を行いつつ、リードエンジニアとしてコードを書き続ける中で、分かったことがある。それは「技術よりも大事なことがある」ということだ。

    「もちろん優れた技術力を持つことは、プロダクトの優位性を保つ上で重要です。しかし技術だけで全ての課題を解決できるほど、プロダクト開発は甘くはありませんでした。4度の失敗を重ねて気付いたのは、技術を使いこなす戦略思考がプロダクト開発に置いて非常に重要ということでした」

    この経験から、深澤さんは戦略思考はスタートアップ経営者のみならず、プロダクトづくりに関わるエンジニアも身に付けるべきだと思うようになった。

    「経済と技術は社会の発展に必要不可欠な両輪です。技術を社会に実装してこそ経済は発展していくのに、技術のトレンドを理解できている経営者、事業に対して直接的に貢献したいと考えるエンジニアの数は足りていないのが現状です」

    日本はすでに人口減少という縮小局面に入っている。技術を正しく生かす土壌がなければ、国力は先細りする一方だと深澤さんは懸念する。

    「世界を見渡せば、著名なテックカンパニーには、技術的なバックグラウンドを持つ経営者は大勢いますし、経営目線で技術を戦略的に使いこなせるエンジニアも当たり前にいます。技術を生かす土壌がこのまま日本に育たなければ、本当に厳しい状況になってしまうのは言うまでもありません。今日はそんな思いから、講演テーマを『技術にまつわる戦略思考』とさせていただきました」

    特定の技術や機能にこだわるエンジニアのエゴが、正しい判断を妨げる

    深澤さんが定義する「技術にまつわる戦略思考」とは、「技術を戦略的に活用し、事業貢献に結びつけるための方法論」を意味する。重要なのは以下の3ステップを精度高く、かつ継続して行うことだと言う。

    <戦略思考の実践に欠かせない3つのステップ>

    ①目的を定める
    ②解決策を考える=仮説を立てる
    ③結果を検証する

    まず、目的の定め方について深澤さんは「一口に目的といっても人それぞれ。ここではプロダクト開発における目的に限定して話す」とした上で、「世の中(事業・プロダクト)に対して、どれだけのインパクトを与えられるか、具体的な目標を定めることが重要」だと説く。例えば、適切な目的設定の例を3つ挙げる。

    <適切な目的設定の例>

    ・『今年度中に事業部の目標数値に○%貢献する』
    ・『新しい技術を導入してコストを○%削減する』
    ・『○年以内に数百万人規模のユーザーがいるプロダクトになる』

    これらに共通しているのは、達成度合いが数値によって測定可能なことだ。結果の成否が検証しやすければ、課題解決に向けたアクションにも具体性が増す。自ずと目的達成までのスピードも速まるはずだ。

    もし、何を課題に設定すべきか分からなければ「事業やプロダクトにまつわる数字をできるだけ具体的に把握すること」から始めるべきだと深澤さんは諭す。「ユーザーの気持ちは分からなくても、数字を通じて推し量ることはできる」からだ。

    逆にいえば、数字の裏付けがない仮説には、説得力も実行力もないということになる。正しい仮説は、数字と向き合うことによってはじめて浮かび上がってくるものだ。

    <適切な仮説の例>

    ・『直帰率・離脱率を減らせばPVが増えるのではないか』
    ・『課金ポイントの機能にたどり着く人が増やせばユーザー単価が上がるのではないか』
    ・『回遊率を上げれば滞在時間が延びるのではないか』

    「仮説の正しさや誤りを紐解くのが技術の役割です。先ほど戦略思考は目標達成のための方法論だといいましたが、エンジニアが特定の技術や機能にこだわりを持ち過ぎると、正しい判断が下せなくなる恐れがあります。大事なのはエゴを捨て、『解決策として成立しているか』『コストパフォーマンスがいいか』『効果が測定できるか』の3点を重視すること。それを徹底すれば、きっと課題解決につながる仮説設定ができるでしょう」

    優れた戦略思考は、計数感覚と表裏一体の関係にある。判断の根拠は印象ではなく、検証可能な数字に求めるべきなのだ。

    戦略思考が通用しないなら、エンジニア自ら働く環境を選び直すべき

    「戦略思考を身に付ければ、自律的に動けるエンジニアになれるだろうし、エンジニア自らが経営者を目指すことも可能」と深澤さん。しかし「技術への関心はあっても、プロダクトの成長にそこまでコミットしたくない」というエンジニアもいるはずだ。

    深澤さんはそうした考えに理解を示しつつも「社会に対してインパクトを残せない技術は消え去ってしまう。技術を生かしたいのであればなおのこと、技術を使ってプロダクトに貢献することを意識すべき」と説く。

    「それに、プロダクトの背景を理解した上で実装するのと、そうでない場合とでは開発効率に大きな差が出ます。また、仮にプロダクトの方針を決める立場になかったとしても、仮説思考に基づいたコミュニケーションは有効です。チームワークを円滑にし、結果的にプロダクトの品質を高めることにつながるからです」

    とはいえ、戦略思考がどうしても通用しない環境もある。その場合はエンジニア自ら「働く環境を選び直すべき」と深澤さんは続ける。

    「残念ながら、これまで私が申し上げてきた戦略思考が、まったく生かせない環境も存在します。その場合は転職によって、自分の居場所を自分で選び取るしかありません。今の場所が、自ら掲げた目標を達成するのに最適な場所だと思えるかどうかは、エンジニアの成長にとって、とても重要なことです」

    比較的戦略思考を生かしやすい、会社選びのポイントは3つあると深澤さんは言う。

    <会社選びの3つのポイント>

    ①業績が着実に伸びている
    ②技術が事業の根幹に関わっており、エンジニアへの理解がある
    ③会社やプロダクトに関する数値が共有されている

    最低限これらの条件が満たされていれば、詳しい説明もないまま、上司に指示された通りに実装すればいいといった開発環境である可能性は低いだろう。時代に取り残されないエンジニアになるためには、戦略思考を生かしやすい環境選びも大切だ。

    最後に、「経営者目線に基づく戦略思考は、より良いエンジニアライフの糧となる」と深澤さんは講演を締めくくった。未来ある20代の若手エンジニアに、深澤さんの示唆に富んだメッセージはどのように響いたのだろうか。

    取材・文/武田敏則(グレタケ)  画像提供/サイバーエージェント

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