キャリア Vol.911

スマホゲーム配信者数日本一の『Mirrativ』から学ぶ、ユーザーの「共感」を生み出すプロダクト開発【ミラティブCEO 赤川隼一×CTO 夏 澄彦】

『SHOWROOM』や『17 Media』などを始めとしたライブ配信サービスが盛り上がりを見せている中、2019年2月時点で配信者数100万人を突破し、右肩あがりで成長を続けているサービスがある。スマホゲーム配信者数日本一のライブ配信アプリ『Mirrativ(ミラティブ)』だ。

スマホ一つで誰でも簡単にゲーム実況ができる

Mirrativは運営元である株式会社ミラティブのCEO・赤川隼一さんが、前職のDeNA在籍時に新規事業として2015年に立ち上げたサービス。2018年2月にMBOで独立し、2019年2月には、35億円の資金調達を発表したことでも話題に。今最も注目を集める企業の一つだ。

「体験の共有から生まれる共感コミュニケーション」を重視しているというMirrativ。CEOの赤川さんと立ち上げ期からMirrativの開発に携わるCTOの夏澄彦さんに、「共感」を生み出すプロダクト開発の秘密を聞いた。

赤川準一さん 夏 澄彦さん
株式会社ミラティブ代表取締役CEO
赤川隼一さん(写真右)

1983年生まれ。2006年、DeNAに新卒入社。広告営業部署、広告出稿/PR業務経験、サービス企画を経て、ヤフー株式会社との提携で新サービス『Yahoo! Mobage』立ち上げ、11年6月まで同事業責任者。11年5月、DeNA Seoul立ち上げ後、12年、28歳でDeNA史上最年少執行役員となる。以後、執行役員社長室長として海外事業、プラットフォーム戦略、ゲーム開発を担当。15年8月、プロデューサーとしてMirrativをリリース。18年2月、Mirrativ事業承継の受け皿となるエモモ(現ミラティブ)を創業し現職に就任
株式会社ミラティブCTO
夏 澄彦さん(写真左)

1991年生まれ。大学3年からプログラミングに取り組む。大学時代にはWantedly最初期からのインターン経験を経て、2015年DeNAに入社。50人超の同期内で新卒MVPを受賞。Mirrativプロジェクトの初期メンバーとして、サーバ・iOS・Android・Webなどの開発全般に携わり、2017年よりリードエンジニア、エモモ(現ミラティブ)を共同創業しCTO就任

「友だちの家でドラクエをやってる感じ」をスマホ上で再現したかった

Mirrativの提供を開始した2015年当時、既にPCでのゲーム実況動画の配信は人気だったものの、配信のハードルが高く挫折する人は少なくなかった。Mirrativはそこに目をつけ、それまで特別な機材を必要としていたゲーム実況を、スマホ1台で誰でも簡単に楽しめることを可能にした。

株式会社ミラティブ代表取締役CEO 赤川隼一さん

「YouTube上の動画視聴の約15%がゲーム実況で占められるくらい身近になっても、多くのユーザーは視聴者のままでした。なぜなら、ゲーム実況をやりたくても、配信には高スペックなパソコンや専用機材が欠かせず、設定も複雑で面倒だったからです。『もしスマホ一つで簡単に配信ができたら配信者が増えるのではないか?』。そんな発想からMirrativの開発が始まりました」(赤川さん)

とはいえ、単なる配信ツールとして開発をしたわけではない。重きを置いたのは「配信者と視聴者のコミュニケーション」だと赤川さんは振り返る。

「Mirrativのキーコンセプトは当時から一貫して『友だちの家でドラクエをやってる感じ』をスマホ上で再現すること。僕がまだ幼かった1990年代は、放課後の集合場所といえばゲーム機とテレビがあるお茶の間か子供部屋でした。それを2010年代にアップデートするとスマホが集合場所になるわけです」(赤川さん)

そういう意味では、ユーザーがゲームを通じてつながることができるソーシャルゲーム以前から、ゲームは元々ソーシャルなものだと赤川さんは捉えている。

「1人用のゲームであっても誰かと会話をしながらプレイした方が楽しいですし、ボスキャラを倒したり、最終ステージをクリアしたりしたら、誰かと話したくなるじゃないですか。そういう意味でそもそもゲームはソーシャルなもの。Mirrativは人間の『感情をわかりあいたい』という欲求を簡単に叶えられるコミュニケーションサービス。複雑な設定が必要だったゲーム実況の配信をスマホから簡単にできる、“体験の共有”のショートカットを実現しています」(赤川さん)

Mirrativはゲームという「体験」そのものをソーシャル化するサービスゆえ、ゲームコンテンツと競合しない。限られた可処分時間をゲームコンテンツと奪い合うのではなく、むしろゲームのプレイ時間を増やす方向に作用していると赤川さんは説明する。

「スマホ画面を共有することで、今まで個人の中に閉じていたゲーム体験が、多くの人と同じ時間を共有するコミュニケーションに変わるわけです。気の合う友人や共通の趣味を持つ仲間と話していると、つい時間を忘れて長話しをしてしまうように、Mirrativには、ゲームコンテンツの滞在時間を長くする効果があります」(赤川さん)

株式会社ミラティブ代表取締役CEO 赤川隼一さん
簡単に配信ができるサービスだからこそ、視聴者のうち20%もの人が自身もライブ配信を経験している

「実際、Mirrativのユーザー1人あたりの1日の平均配信時間、平均視聴時間はいずれも約100分とかなり長いですが、滞在時間が伸びているのはユーザー間で多くの共感が生まれているからこそ。『私もそのゲームが好き』『プレーを教えたい』というような、ユーザー同士の『わかりあいたい』という感情をつなげて、少しでも多くの共感を生み出すことはMirrativが目指す一つの姿でもあります」(赤川さん)

DeNA時代から赤川さんと共にMirrativの開発に携わってきたCTOの夏さんも、「体験の共有から生まれる共感」こそが、Mirrativの存在を際立たせていると考えている。

株式会社ミラティブCTO 夏 澄彦さん

「赤川が言ったように、Mirrativが他の配信サービスと趣を異にしているのは、体験の共有から生まれる共感コミュニケーションに重きを置いている点にあります。ネットワーク上のコミュニケーションは、テキストの共有に始まり、画像、動画、ライブストリーミング、そして体験の共有へと広がりました。Mirrativなら、ゲームという共通の趣味を持った見知らぬ人と出会い、友達にもなれる。ユーザーの皆さんはこうしたMirrativから生まれる共感に魅力を感じてくださっているのだと思います」(夏さん)

ユーザー同士の共感を生むには、開発するメンバー同士が分かり合わなければならない

物理的にハードルが高かったゲーム実況を、スマホ1台で誰でも簡単に実現できるようにしたMirrativ。ユーザーの心を掴めた理由には、マーケットインな発想とプロダクトアウトの発想、両方のバランスの良さがあった。

株式会社ミラティブCEO 赤川隼一さん

「コンシューマゲーム機やPCゲーム向けにライブストリーミング配信サービスを手掛けていた『Twitch』が、2014年に約1000億円でAmazonに買収されたのを見て、ゲーム実況の未来が明るいと感じた人は、僕だけではなかったはずです。この流れがやがてスマホゲームに波及するのは誰の目にも明らか。だからこそ開発に着手したわけです」(赤川さん)

最小のタップ数で配信できることにこだわってきたのも、スマホからの配信ありきで考えれば当然の選択だった。しかし、「こうしたマーケットイン的な発想だけではユーザーの気持ちを掴むには十分ではなかっただろう」と赤川さんは言う。

「僕は音楽オタクを自称する高校生だったんですが、当時加入していたパソコン通信サービスで、年上の大人たちから知らない音楽を教えてもらい、音楽に関する知識や交友関係が大きく広がりました。ミラティブで『わかりあう願いをつなごう』をミッションに掲げているのも、僕自身が同じ趣味を持つ人との出会いを通じて人生が広がった経験が元になっていますし、僕の原体験がMirrativに反映されているのは間違いありません。個人的な趣味といえばその通りだと思います(笑)」(赤川さん)

Mirrativが目指すのは、自宅でもなく学校や職場でもない、第三の居場所。心理的安全性が保障された「サードプレイス」だ。

「例えば、会社で何か上手くいかないことがあったり学校で趣味の合う友人がいなかったりしても、ゲームなどのお互いが好きなことをきっかけに友達ができて、共通の話題で盛り上がれる。Mirrativがそんな場所になっていければいいなと思っています」(赤川さん)

顔出しをせずに自分を表現できるよう開発された、アバター機能『エモモ』も心理的安全性を保障するための機能だと言えるだろう。また、「ユーザーの行動を観察した上でニーズに応えていく機能開発を重視しているのも、Mirrativが愛されている要因の1つ」だと夏さんは分析する。

株式会社ミラティブCTO 夏 澄彦さん

「Mirrativの強みの1つに、ユーザーが配信・視聴している様子を見ながら、開発を検討できることが挙げられます。例えば、アバターでカラオケ配信ができる『エモカラ』は、ユーザー同士でのど自慢大会や弾き語りをしているのを見て、実現した機能です」(夏さん)

▲「あなたは、誰にでもなれる」をキーコンセプトに、誰でもスマホ1台でバーチャルYouTuberのように配信ができる機能『エモモ』を、2018年8月より提供開始。アバター機能『エモモ』を通じて、生まれ持った容姿や現実世界での人生の歴史にとらわれない、個人の能力や才能・可能性の解放を目指している

機能開発の全ては、ユーザーに「友だちの家でドラクエをやっている感じ」を体感してもらうためだ。また、ユーザー同士の“わかりあい”を実現する機能を開発すると同時に、チーム内での意思疎通も大切にしていると夏さんは言う。

「正社員、副業、業務委託を問わず、Mirrativの開発に参加してくれているエンジニアには、同じ情報、データ、実現したいユーザーストーリーを共有しています。ユーザー同士の感情をつなぐためには、私たち自身がわかりあう必要があると考えているからです」(夏さん)

赤川さんも「人間同士、わかりあうことが難しいからこそ、体験の共有による共感にこだわりたい」と続ける。

「ミラティブは性善説を前提にした組織で動いています。”性善説経営”がうまくいっている理由の一つに、開発に携わるメンバーがミラティブのミッションに共感していて考えのベクトルが揃っていることがあると思います。エンジニア全員が自らの役割を理解し自律的に働いているのも、どこかでMirrativの魅力に繋がっているのかもしれませんね」(赤川さん)

「心理的安全性」を担保して共感を生むことが、世界をより良くする第一歩になる

Mirrativのように多くの共感を生み出すサービス開発をする上で最も大切な視点とは何だろうか。赤川さんは再び「心理的安全性の重要性」について語る。

「何かを好きだと宣言した時に『私も!』『だよね!』という共感の声から生まれる喜びが僕はすごく大事だと思っています。ただ、人の好きなものや興味関心は多種多様ですよね。例えば、あまり人気のないゲームキャラクターのことが好きな人もいるわけですが、『そんなキャラ好きなの?』って否定されてしまったら、そこから共感は生まれません。だからこそ、自分の気持ちを安心して言える場所であることが重要なんです」(赤川さん)

株式会社ミラティブCEO 赤川隼一さん

「心理的安全性はサービス設計の際にも重視していて、配信者に向けた『言い訳』を用意しています。例えば、ゲームランクが高い人に配信をお願いした場合、本当は配信してもいいなと思っていても『ドヤるのが恥ずかしい』と敬遠されることがあるのですが、『配信するとアイテムがもらえる』という理由があれば、『本当は配信なんてしたくないけど、プレゼントが欲しいから配信するわ』って言えるじゃないですか。つまり、配信の心理的なハードルを下げることができるんです」(赤川さん)

心理的安全性を担保した場を用意すると共に考えなければならないのは、「ユーザーストーリーを確立させること」と夏さんは続ける。

株式会社ミラティブCTO 夏 澄彦さん

「ユーザーストーリーを確立させるためには、独りよがりにならず、技術にこだわりすぎないこと。どんなユーザーの体験価値を生み出したいのか、徹底的に考え尽くしながら、市場に展開し、定量・定性の両面で分析し、改善し続ける姿勢が大切だと思います。開発した機能がユーザにどう使われているのか・どう思われているのかを、配信を通して直接見れることもMirrativの大きな特徴の1つと言えます」(夏さん)

同時に、市場の変化を見逃さないバランス感覚も大切と赤川さん。

「これから5Gの登場によって、さまざまなサービスがアバターを介してVRやARとつながっていくのはおそらく間違いないでしょう。しかもクラウド経由でフレームレート60fps、4K品質のゲームコンテンツが配信できる『Google Stadia』が2019年末に登場すると予告されるなど、ここ数年でゲームを軸にエンタメ業界は大きく変わろうとしています。もちろんMirrativは、そのど真ん中を狙っていくつもりです。GAFAも本気で狙ってるこの領域で戦えるのはとても楽しいですし、大きなやりがいも感じています」(赤川さん)

オランダの調査会社Newzooによると、世界のゲーム市場は2019年には1500億ドルを超えると見込まれている。日本発のMirrativが世界を狙える可能性は十分にあるだろう。

株式会社ミラティブCEO 赤川隼一×CTO 夏 澄彦

「今後、あらゆるサービスは機能面で差別化を図るのが難しくなり、プロダクトのストーリーにユーザーの『共感』が求められるようになります。サービス提供側はユーザーと向き合い続ける覚悟を持たなければなりません。ミラティブは『わかりあう願いをつなごう』をミッションに掲げていますが、『わかりあう』は人類に残された最も難題なテーマのひとつ。僕は孤独・自殺や紛争などの問題の原因もここにあると思っています。わかりあうために必要なのが共感ですから、さまざまな人が共通の趣味を通じて共感し、つながっていくことが、世界をより良くする第一歩になるはず。そこにMirrativはゲーム実況でアプローチをしていきたいと思っています」(赤川さん)

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/赤松洋太

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