仕事にとことん没頭する人生もいいけれど、職場の外にも「夢中」がある人生は、もっといい。「偏愛」がエンジニアの仕事や人生に与えてくれるメリットについて、実践者たちに聞いてみた!
“この仕事は向いていない”と思っていた会社員エンジニアTOMOKINがYouTuberになって得たもの「AIに挑戦できたのはファンのおかげ」
世の中には数多くのYouTuberが現れ、それぞれが突出した得意領域でファンを獲得して活躍している。その中でも、「AIエンジニア×YouTuber」という異色の経歴で、ファンを増やしているのがTOMOKIN(トモキン)さんだ。
日中は大手SIerのAIエンジニアとして、データ分析やコンサルティング、RPA製品の開発などに勤しみ、夜と土日はヒューマンビートボックスや英語を駆使した動画が人気のYouTuberとして活動。チャンネル登録者数は16万人を誇る。
TOMOKINさんによれば、AIエンジニアとYouTuber、このパラレルキャリアが仕事をする上で思わぬ効果をもたらしているのだと言う。「YouTuberの活動が本業に良い影響をもたらした」と語るTOMOKINさんに、職場の外にも「夢中」がある人生は仕事にどんな影響を与えるのか聞いた。
HIKAKINのパクリ疑惑で炎上したことが、
YouTuberを始めるきっかけに
学生時代は法学部に在籍し、全くプログラミングをしたことがなかったというTOMOKINさん。実は就活の時エンジニアを目指したことに、それほど大きな理由はなかったのだと言う。
「僕は根っからの文系で、学生時代はキーボードすら指1本でぽちぽち叩いていたくらいだったんです。そもそもSE(システムエンジニア)が何をする仕事なのかすら分かっていなかったのに、周りに志望する友だちが多かったこともあって、営業かSEなら僕でもできそうだなんて安易な気持ちで選考を受けました」
その結果、就職したのはプライム案件を多数手掛ける大手SIer。初心者ながらも研修や現場での実務を通じて少しずつプログラミングを学びながら、入社1年目からSEとして電力系の大規模基幹システムの開発を担当。3年目にはパートナー企業のメンバーを含めた10人程度のチームマネジメントも任されるようになった。
AIエンジニアに転身したのは、入社から6年ほど経った2017年のこと。英語もAIも全く分からなかったが、アメリカで行われるAI研修の社内公募に志願したことがきっかけだ。
「実際に海外でAIに触れるうち、『AIはこれから急速に世界中に広がる』と可能性を実感しました。多くの時間を費やしてがむしゃらに学んで、現在ではAIエンジニアとしてリサーチやクライアント企業が保有するデータの分析、さらにAIの導入コンサルティングや自社が持つRPA製品の開発などを担当しています」
そんなTOMOKINさんが、AIエンジニアの本業と並行して取り組んでいるのが、YouTuberとしての活動だ。最初に動画をアップしたのは学生の頃。動画を見るためだけに作っておいたアカウントに、何気なく大学の学園祭で撮影したヒューマンビートボックスのライブパフォーマンス動画を1本だけアップしておいたことが、のちにYouTuberを始めるきっかけとなった。
「エンジニアとして慌ただしく生活を送っていた入社1年目のある日、突然YouTubeから大量の通知メールが送られてきたと思ったら、学園祭の動画が炎上していました(苦笑)。名前やボイスパーカッションをやっている点がHIKAKINさんに似ていたため、『パクりだ!』とか、『早く辞めろ!』とか言われてしまったんです。本当はTOMOKINって、子どもの頃からのあだ名なんですけど(笑)」
最初はアカウントを消してしまうことも考えたが、「これをきっかけに、たくさん動画をアップしたらYouTuberとして売れるのでは……?」とTOMOKINさんは逆転の発想をした。
「当時は、未経験からエンジニアとしてキャリアをスタートしたばかりで、思ったように成長ができない自分に自信を失っていた時期です。でも、『何かで突き抜けたい』という漠然とした思いだけはずっとあったので、パクリ疑惑で炎上してしまった時に、『これは何かのチャンスかもしれない』と思えたんですよね」
そうして炎上から数日後、「ヒューマンビートボックス講座」を中心としたYouTuberの活動を本格的に開始。エンジニアとしてこれまでと同じように働きながら、ヒューマンビートボックスを1万時間練習しようと決めて、クオリティーを高めていった。
「何事も1万時間取り組んだら、その道のプロになれるって言いますよね。例えば、ヒューマンビートボックスであれば、ボイスパーカッションや歌などの要素を組み合わせる方法で一つの動画を作っています。まずはボイスパーカッションに100時間取り組んで、それでもうまくいかなかったら今度は歌に100時間取り組んで……と、微調整しながら、最終的に合わせて1万時間やり抜くことを目指してやり続けましたね」
集中してクオリティーを上げる努力が実を結び、現在はYouTubeのチャンネル登録者数は13万人を突破。始めたばかりのTikTokのフォロワー数も15万人を超えて爆速の伸びを記録している。
YouTuberの活動で得た“自分への自信”が、
シリコンバレー駐在に挑戦する契機となった
現在も平日の日中は、新卒入社した大手SIerでAIエンジニアとして働いている。仕事が終わってからが、YouTuberとしての時間だ。
「仕事が終わった19〜20時から動画の制作をはじめて、夜中の12時くらいまで作業していますね。1時には寝て、6時には起きるライフスタイルです。土日はYouTuberとしてさまざまなイベントに出演しています」
多忙を極める中でエンジニアとYouTuberを両立する秘訣は「30分ごとに作業時間を区切ること」なのだそう。
「使える時間に限りがあるので、集中力を保つために、30分間動画を編集したら、次の30分は動画のチェック、次の30分はアイデア出し、と細かく時間を決めて作業しています。そうすることで、だらけることなく取り組めていますね」
今でこそ仕事とYouTuberとしての活動の双方を両立し、それぞれで活躍しているTOMOKINさんだが、「かつては仕事で思い悩んでいたこともあった」と振り返る。
「YouTuberの活動を始める前まで、エンジニアに向いていないと思っていたんです。未経験の新卒社員だったのでプログラミングはできないし、お客さまからの要望もうまくヒアリングできない。『できない、できない』という苦手意識にとらわれて、自信を失っていました」
しかし、YouTuberの活動を始めたことによって思わぬ効果があった。
「YouTuberのコメント欄やツイッターで『いつも応援してます!』って言葉をかけられたり、今YouTubeで使っているアイコンもそうなんですけど、ファンの方が似顔絵を送ってくださったりするようになりました。僕の動画を見てくれる人がこんなにいるんだ、僕も必要とされているんだということが分かって、自信がついたんですよね。YouTuberとしての活動を通じて、“自分への自信”を得られたことが、エンジニアの仕事に良い結果をもたらしていると思います」
おかげで、苦手な業務に直面してネガティブな気持ちになっても、「工夫したらできるかもしれない」とポジティブに考え直せるようになった。英語もAIも全く分からなかったのにも関わらず、アメリカで行われるAI研修の参加者公募に迷わず手を挙げることができたのも、YouTuberの活動を通じて自信を得たからこそ。
最近では、YouTuberとして新たなチャレンジも次々と行っているが、先日のある企画では思い掛けずSEの経験が生きたという。
「生配信をしながら視聴者の要望や好みを汲み取り、ラーメン店とコラボして『TOMOKINラーメン』を開発したんです。店頭に行列ができるほど大ヒットしたんですけど、これって『お客さまの要望を汲み取ってプロダクトや機能に落としていく』という点ではSEの仕事と同じですよね。新卒の頃はヒアリングがうまくできないって悩んでいましたけど、あの時頑張ってよかったです(笑)」
「AIエンジニア×Google認定のYouTuber」
そんな人は多分、世の中に自分しかいない
今、YouTuberの世界は群雄割拠だ。チャンネル登録者数700万人を超えるHIKAKINさんのようにトップYouTuberとして先端を駆け抜ける人もいれば、「会社社長×YouTuber」「お笑い芸人×YouTuber」など他のスキルと掛け合わせてYouTuberになる人もいる。
そんな中でTOMOKINさんが目指すのは、「AIエンジニア×YouTuber」という唯一無二の存在になることだ。
「エンジニアとしての実力だけだと、上には上がいるから、中々希少な存在にはなれません。だからこそ、自分が好きだと思えることを本業以外に見つけて、自分だけの掛け合わせを見つけることが大切。そういう意味で、僕にとってYouTubeは、突き抜けた存在になるための一つの材料です」
「今は、AIとYouTubeを何らかの形で掛け算できないかと方法を模索する、試行錯誤の毎日です。AIエンジニアで、しかもGoogle認定のYouTuberなんて、世の中に多分僕しかいないはず。今後は『AIエンジニア×YouTuber』という希少性を生かして、このポジションで果てしなく突き抜けた存在になりたいと思っています」
炎上をきっかけにYouTuberの活動に目をむけ、そこに夢中になることで失っていた自信を取り戻したTOMOKINさん。仕事がうまくいかない時、ついその仕事のことばかりを考え込んでしまうものだが、それ以外の「楽しくて好きなこと」に目を向けたからこそ、結果的にTOMOKINさんはエンジニアとしても前向きになれた。
「興味や好きを掛け合わせたら、自分にしかできない相乗効果が生まれるもの。仕事もYouTuberも、これからも自分自身がよりワクワクする方向へと楽しみながら進んでいきたいと思っています。何がどうつながるかなんて分からないからこそ、目の前のチャンスに臆せず、これからも挑戦していきたいですね」
取材・文/石川香苗子 撮影/君和田 郁弥(編集部)
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