17歳、兵庫のRails女子高専生が東京のベンチャーで働いて知った「プログラミングの意味」
「コードを書くのはすごく楽しいです。でも、何を作りたいかが自分でも分からない。だから、まずは“修業”したいなと」
こう話すのは、現在、兵庫県の明石工業高等専門学校3年生の山下紗苗さん(17歳)。彼女は2年生から3年生になるまでの春休み中、東京の友だちに部屋を間借りしながら、Webベンチャーspice lifeでプログラマーとしてインターンをしていた。
わざわざ地元から東京に出てきたのは、「プログラマー人口の多い街の方が、働きながら勉強会に出たりもしやすいから」。約1カ月の休みをプログラミング漬けの毎日にするという意気込みの表れだ。
インターン期間中は、spice lifeが開発・運営するオリジナルTシャツを制作・購入できるECサービス『TMIX』の管理画面や価格計算機能(Tシャツ制作の原価やプリント代を算出する機能)の開発を担当。同社CTOの五十嵐邦明氏は、「山下さんにも社員と同じように『世に出るコード』を書いてもらった」と話す。
短期インターンにありがちな「職場見学」や「業務の疑似体験」ではなく、本番環境も触りながらサービス開発の経験を積んだ山下さんは、この1カ月で何を学んだのか。
取材を通じて、若い年代からプログラミングを習得することの本当の利点を垣間見た。
チームコーディングを通じて「スキル以外に大切なこと」を学ぶ
インターンのきっかけは、山下さんが高専1年生の時に参加した『Rails Girls Osaka』で五十嵐氏が講師を務めたことにある。その後、2年生になった山下さんが夏休みを利用して都内の別のWebベンチャーでアルバイトをしていたことを知り、五十嵐氏は「spice lifeでもやってみないか?」と声を掛けたという。
五十嵐氏自身も地方の高専(群馬高専)出身で、山下さんが抱えていた悩みに共感できたことが「勧誘」の理由だ。その悩みとは、周りにプログラマー仲間が少ないというものだ。
「高専に通っていても、プログラミングについてアレコレ話ができる友だちはそんなに多くありません。『Code for KOSEN』に参加したり、今年4月30日に開催される『高専カンファレンスlol』の実行委員会に入ったりもしていますが、そういう経験を積んでいく中で『もっと日常的に書きながら学べる環境に身を置きたいな』と思うようになりました。その方が、効率的に学べますし」(山下さん)
その思いを汲んで、spice lifeはあえて社員と同じ業務を任せながら指導することに。「人に使われるコード」を書く経験は、山下さんに独学とは異なる知識をもたらした。
「チームコーディングのやり方はとても勉強になりました。私1人で書いていると、8割くらいの完成度でも『ちゃんと動くし、まぁいいか』となってしまうんですよ(笑)。でも、後々他の人が仕様変更したりすることなんかも意識しながら書くとなると、可読性の良さも考えながらコーディングしなければなりません。これがけっこう大変でした」(山下さん)
インターン期間中、五十嵐氏はこのチームコーディングのやり方についてあえて細かく指導したと言う。プログラミングには、単に「コードを書く」以外のスキルも大切だと考えているからだ。
「サービスを作る上で大切なのは、コーディングスキルより理解力だと思うんですね。これがないと、ユーザーのため、仲間のために何が必要かが分からないまま、独善的なコードを書く人になってしまう。この点についてはいろいろと指導しました」(五十嵐氏)
プログラミングは課題解決の手段。希望の仕事は「人の生活を便利にすること」
興味深いのは、五十嵐氏が行っていた「指導」の中には、他にも英語を学ぶことの大切さのようなコーディング以外の要素がたくさん含まれていたこと。
その理由を五十嵐氏に聞くと、プログラミングは何のためにやるものなのか?という問いへの答えが見えてきた。
「極端な話、山下さんが今後興味を持つ仕事がプログラマーじゃなくてもいいと思っているんです。世の中をよくするための仕事はプログラマー以外にもたくさんあるし、彼女のような若い人たちの可能性を大人が決め付けるのはナンセンス。プログラミングは、世の中をよくする手段の一つですから」(五十嵐氏)
山下さん自身、この「プログラミングは手段の一つ」という点は何となく理解しているようだ。将来について聞くと、とにかく今は「人の生活を便利にすること」に興味があると言う。
「プログラミングは楽しいですし、今後もインターンやアルバイトで開発経験を積んでいきたいと思っています。そのモチベーションは、やっぱり誰かが便利だと思うモノを作りたいというもので。前に毎日の天気や予定を教えてくれる自分用のbotコンシェルジュを作ったんですけど、『こういう機能があったらもっと便利になるなぁ』などと考えている時が一番楽しいんですよ」(山下さん)
高専を卒業後、大学に行くかどうかはまだ決めていないそうだが、将来は「今のところどこかの企業に就職することを考えている」という山下さん。その一方で、プログラマーらしい一面も覗かせる。
「リクルートスーツを来て、形式ばった就職活動をするのは面倒そうだな、と(笑)。できることなら、しっかり手に職を付けて能力を買われて働くのが理想です」(山下さん)
プログラマーの三大美徳の一つである「怠惰」を良い意味で表す話だ。五十嵐氏も、そんな山下さんにこうエールを送る。
「とにかく好きなことを続けてほしいと思っています。プログラミングも、優秀な人は若い時からすごい量のコードを書いていることが多いですが、好きでやっている人は量をこなしているという意識すらないものです。今回一緒に働いてみて、山下さんは(プログラマーとして)お世辞抜きで筋が良いと感じたので、これからも学校外での“修業”をどんどんやってほしいですね」(五十嵐氏)
■ 山下紗苗さんのGitHubアカウント
■ これまでのポートフォリオ
■ 個人ブログ『ようじょのおえかきちょう』
取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/小林 正
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