初日のレポート>>年収2千万円超え人材も。いま“企業がどうしても欲しい”PdM像を【土屋尚史・杉浦正明・丸山貴宏・及川卓也】が徹底討論!『PMC2019』レポート
“打率”の高いプロダクトチームを社内でつくり上げるためにーーDeNAの事例に学ぶ、チームづくりの極意 【PMC2019レポート】
11月12日(火)~13日(水)の2日間にわたって、プロダクトマネジメント業務に携わる人々が集まり、共に学ぶ一大イベント『プロダクトマネージャーカンファレンス』が開催された。
創造性や先進性に富んだものづくりを行う上で、他社の最新事情や取り組みを知ることは非常に重要だ。そこで本記事では2日目に行われたセッションの中から、『打席に立ち続けられるプロダクトチームを作ろう』について紹介しよう。
スピーカーは株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA) オートモーティブ事業部、プロダクトマネジメント部の部長、黒澤隆由さん。彼はプロダクトマネジメント部の立ち上げに携わり、自らも次世代タクシー配車アプリ『MOV』のプロダクトマネージャーを務めている。
ITを活用しさまざまな領域の事業を展開しているDeNAではどのような視点でプロダクトチームづくりを行っているのか。また、ビジネスを取り巻く環境や、会社、事業のフェーズが移り変わる中で、“高い打率”でアウトプットし続けられるプロダクトチームをつくるためには一体何が必要なのか。プロダクトマネジメント部の立ち上げや、取り組みのリアルを語ってくれた。
あらゆる環境下で“高い打率”を実現するチームの二つの条件
「『事業の成功には優れたプロダクトの提供が必要不可欠』というのは、誰もが共通認識を持っていることだと思います。ただ、これって言うほど簡単ではありません。なぜならビジネスを取り巻く環境は常に変化していますし、どんなに考え、工夫して作り上げたプロダクトであっても、ユーザーがこちらの想定通りに使ってくれるとは限りませんから。
それに、会社や事業のフェーズ、もっと言えばプロダクトのフェーズもその時々で変わります。例えばプロダクトの立ち上げフェーズと、成熟して細かな改善を早いサイクルで回すフェーズでも求められることに違いがありますよね。また、一つのプロダクトの中であっても異なる機能やアプローチが必要になることも。
プロダクトチームにはこれら全ての瞬間で『優れたプロダクトの提供』が求められ続けるわけですが、常に成功させ続けることは難しい。重要なのは、『いかにプロダクトチーム全体で”高い打率”(=成功確立)をキープし、打席に立ち続けることができるか』なのです」
黒澤さんはまず始めにそう話す。では一体どうすれば、「さまざまな変化や多様なプロダクトに柔軟に対応できる、“打率”の高いプロダクトチーム」をつくることができるのだろう。DeNA プロダクトマネジメント部では、明確に定めているチーム構成の条件が二つあるという。
「われわれが重要視しているのは、『専門性と多様性』です。まず専門性について。ゼネラリストばかりが集うチームからは、当然ですが強いプロダクトは生まれません。これは今の日本の課題であるとも言えるでしょう」
黒澤さんが言うゼネラリストとは、プロダクトマネージャー(以下、PdM)的な動きも、プロジェクトマネージャー(以下、PM)的な動きもでき、設計についてもそれなりに分かるというような、いわば何でも80点以上でこなせる人材のことを指す。しかし、そうしたゼネラリストだけが集まってつくったプロダクトは、所詮80点の壁を超えることはできない。だからこそ、一点に突き抜ける“専門性”を持った人材がチームに欠かせないのだという。
「一方、変化に柔軟に対応するためには“多様性”も必要です。近年、業界や企業によっては特定の分野に長けたスペシャリストばかりを集めた組織が増えていますよね。そういう組織が必要なことはあるものの、そのような企業の方と話すとみんな同じように“変化に対応することの難しさ”を口にされます」
そのような背景から黒澤さんは、強いプロダクトを作るための“専門性”だけではなく、変化に対応しうる“多様性”をも兼ね備えたチームをつくることが重要だと考えた。
明確な“業務の切り分け”が「妥協を生まないチーム」をつくる
黒澤さんが率いる「プロダクトマネジメント部」の構成にも、「専門性×多様性」の視点は生かされている。
「プロダクトマネジメント部には、PdMだけに留まらず、UXデザイナーやリサーチャー、データアナリスト、PMなども在籍しています。多様な役割を持つ全メンバーが各々の分野でスペシャリティーを発揮し、協働することによって、より強いプロダクトを作り上げることを目的としているのです」
このようなチーム構成には二つの大きなメリットが存在するという。一つは「プロダクトを牽引するPdMに壁打ち相手ができる」こと。
「PdMは、どんなものを作るかを考えて判断をするポジションではあるものの、自分の思いや考えだけで突っ走ってしまうと大抵失敗に終わります。成功のためには“客観的なインプット”が欠かせませんから、いつでもUXリサーチャーやデータアナリストの視点を借りて、『これが本当に正しいのか?』ということを壁打ちしながら進められるような体制を取っています」
そしてもう一つは、「PdMとPMの“業務の切り分け”が明確にできる」こと。「何を、なぜつくるのか」を定義するのがPdMで、「それをいつまでに、どうやって実現するか」に責任を持つのがPM。両者には明確な違いがあるにも関わらず、「役割を混同してしまっている組織は少なくない」と黒澤さんは指摘する。
「この二つのポジションの切り分けが曖昧だと、どうしても“プロダクトへの妥協”が生まれてしまいます。 例えばPdMが現場に入り込みすぎてしまうと、『プロダクトにとってはA案がベストだけど、B案の方がエンジニアがつくりやすいだろう』といった思考に、PMがエンジニアのマネジメントも並行して行うと、「エンジニアに無理をさせないようにスケジュールを組もう」といった発想になってしまう。『新しい価値を素早く提供すること』を第一としている当社にとって、現場がこのような妥協案を選んでしまうのは大きなリスクなのです」
優秀なPdMを育てるためにDeNAが行っている三つのこと
プロダクトマネジメント部の構成の工夫は分かったが、もう一つ気になるのは「そもそも優秀なPdMをどのように育成しているのか」という点だ。DeNAではこれについて、三つの段階を踏んで取り組んできたという。
「まず、PdMに求められる役割や責任を定義し、明文化しました。当社のPdMに求められることは非常にシンプルで、『プロダクトマネジメントをすることで目標を達成(事業貢献)する』ということ。これに尽きます」
その上で、「そもそもプロダクトマネジメントをするとはどういうことか」を明確にし、PdMの役割を大きく以下の三つに定義した。
・プロダクトの価値を明確にする
・価値を伴ったプロダクトを作る
・プロダクトを狙った市場に届ける
さらに、PdMに求められる責任や姿勢についての要素を、『DeNA Product Management Philosophy』として7項目にまとめたという。
次に取り組んだのが、黒澤さんが率いるプロダクトマネジメント部の創設だ。
「どんなプロダクト作りにおいても、必ず“PdM的な立ち回り”をする人がいるはずです。つまり、『PdMがいないものづくりは存在しない』。このことを会社全体で改めて認識した上で、『ならば、強いプロダクトを生み出すためにはPdMを“専門職”として強化する必要がある』と考えました。そのためにはPdMを正しく評価・育成する場が必要ですから、『じゃあ、部をつくろう』という結論に至ったわけです」
これに対してプロダクトマネジメント部が大切にしているのが、以下の四つだ。
取り組み
1.スペシャリストとの協働
あらゆる分野のスペシャリストが部に在籍することによって、PdMが悩んだタイミングで必要な知見を持ったメンバーに相談することができる。いろいろな視点や気付きを得ることは、速いスピードでの成長につながる
2.個々の強みを伸ばし、パフォーマンスできる機会の提供
PdMにはあらゆるスキルが求められるが、全てをパーフェクトにできる人はほぼ存在しない。だからこそ“弱み”を伸ばすのではなく、それぞれが今持っている“強み”を生かしながら成長できる機会、活躍の場を提供している
3.失敗できる環境の提供
失敗から学べることは非常に多いため、組織で“失敗のデザイン”に注力している。具体的には、プロトタイプをもとにユーザーインタビューを実施する、いろいろなメンバーからプロダクトに対する意見をもらうなどの機会を積極的に提供することで、「自分の思い込みが間違っていた」ことに早めの段階で気付けるよう取り組んでいる
4.フィードバックの徹底
プロダクトマネジメント部に所属する全メンバーとの 1on1 を週1ペースで実施。本人の行動やアウトプットがPdMに求められる『DeNA Product Management Philosophy』に沿っているのか、フィードバックを徹底している
そして最後に行ったのが、「どんなPdMがいるのか、社内で理解する」ということ。
「具体的には『DeNA Product Management Philosophy』と照らし合わせた上で、全てのPdMのキャラクターを明確にし、リスト化しています。これを各プロダクトのPrincipal PdMや、組織開発/HRマネージャーが集うMTGで用いて、 『このメンバーにはどんなポテンシャルがあるのか、この事業にはどんなアサインメントが良いのか』ということをバイネームで議論。これによってプロダクトとPdMのマッチングを実現し、“強みを伸ばす”機会の提供にも結び付けています」
DeNAではこれら三つの取り組みを経て、PdMを強化してきた。ただでさえ人材不足の昨今、優秀なPdMを外部から採用するのは容易ではない。まずは、自社の環境を整備することによって、社内の優秀なタレントを育成することに踏み切ったわけだ。そしてこうした環境整備がいずれ、優秀なPdMを外部から募るための足掛かりにもつながることを狙っている。
今回のセッション内容の多くは、個人がすぐに真似できることではないかもしれない。しかし「より良いプロダクトを生み出すチームづくり」を考える上で、ヒントとなるエッセンスはたくさんあったのではないだろうか。
現在PdMである、もしくは将来PdMを目指しているという方はもちろん、これから「自身の関わるプロダクトの“打率”を上げたい」と考えているエンジニアは、自分やチームのあり方について、この記事を参考にしながらぜひ一度振り返ってみてほしい。
取材・執筆・撮影/河西ことみ(編集部)
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