家入一真が絶賛するCAMPFIRE26歳CTOの横顔「プロダクト作りが好きだから、僕は『完結型エンジニア』を目指す」
2019年8月、姉妹媒体『20’s type』で株式会社CAMPFIREの代表取締役CEO、家入一真さんを取材した。
家入さんといえば22歳で現・GMOペパボを創業するなど言わずと知れた実業家。そんな彼が取材中、「すごく面白い奴がいてね」と紹介してくれたのが、同社CTOの中川峰志さんだ。
中川さんは2019年の2月に26歳という若さでCAMPFIREのCTOに着任。話を伺うと、幼少期からスポーツに打ち込み始め、トライアスロンの全国大会で入賞するなど体育会系な一面も持ちつつ、大学時代にはGoogleでインターン、個人でもサービスを10個以上リリースするなどエンジニアリングへの愛も強烈らしい。
家入さんの心を射止めた中川さんとは一体どんな人物なのか。また、どうやってこの若さでCTOとして経営に携わる実力を身に付けたのか。中川さんのキャリアヒストリーを聞いた。
時間感覚を失うほど、プログラミングが楽しかった
「昔から負けず嫌いな性格ということもあり、個人競技は『絶対ゴールするぞ』『1秒でもタイムを更新してやる』という意欲が湧き上がってくるんです」と、スポーツ愛を語る彼が同じくらい愛しているもの。それが「ものづくり」だ。
研究者だった父親の影響を受け、小学生にして自作PCを作った経験もあるという中川さんが本格的にエンジニアの世界に足を踏み入れたのは大学1年生の時。所属していたトライアスロン部がちょうど休み期間中で暇を持て余していたところ、友人に勧められて何気なく始めてみたのがきっかけだ。
「初めは一緒にプログラミングをやっていた友人に負けたくないっていう動機だったんですが、だんだんと『もっとつくりたい、もっとやりたい』という気持ちが湧いてきました。トライアスロンでは自分を追い込み過ぎて練習中に失神したこともあるんですが、それに比べたら僕にとってプログラミングは疲れませんし、とにかく楽しくて。だから何時間、何十時間でもぶっ通しで続けていましたね」
スポーツで体幹を鍛えたおかげなのか、「どんなに長く座っていても腰が痛くなったことがないんですよ」と涼しい顔で笑う彼だが、実際にほぼ「椅子の上で生活している」ような時期があった。
「プログラミングを始めて数カ月ほど経った頃、友達が所属していた学生ベンチャーに関わることになり、そこでプロダクトをひたすら作っていました。おかげで約3カ月くらいで一通りのことができるようになりましたね。
当時は『周りのエンジニアたちと肩を並べて作る』ということが楽しかったので没頭し過ぎて、家に帰らずフロアに椅子を並べて寝たり、バイトをする時間が惜しくて貧乏生活をしたりしていましたけど(笑)。この頃にプロダクト作りに本気で向き合ったからこそ、スピーディーにいろいろなスキルを身に付けることができたんだと思っています」
1日中コーディングをしていたこともあれば、部の活動が再開してからは、「朝にトライアスロンの練習をして日中はプログラミング、夜にまたトライアスロン」という生活をしていた時期もある。本人は「つらくなかった」と話すが、相当の時間と労力を費やしてプログラミングに打ち込んでいた。
そこまでして目指したかったものは何なのかを問うと、「僕、『完結型』の人間になりたいんですよね」という答えが返ってきた。
企画から仕様設計、開発、インフラ設定までのすべてを自分で賄えるような人材になることができれば、自然と人から「こういうサービスを作ってほしい」と頼ってもらえるようになる。そうすればもっと多くのプロダクト作り携わることができるという考えだ。さらに最終的にはその能力を生かし、自分自身がプロダクトオーナーとなって、さまざまな人にプロダクト届けたい。当時からそんなことを考えていたという。
そしてそれからは、「完結型のエンジニア」になるために必要なスキルを一つ一つ積み上げ始めていった。
「経験」と「趣味」の積み重ねで多方面のスキルを獲得
まずは企画力やエンジニアリング力を磨くために、個人で10個ほどサービスを作った。その中の一つ、さまざまな書籍の“最初の一文”を紹介する『本の書き出し』というサービスが大ヒット。『Webフォントデザインアワード2013』のグランプリを受賞した。
他にも、Googleで3カ月間のインターンシップに挑戦。同僚のほとんどが外国人で、ほぼすべての業務が英語で行われているGoogleでは、フロントエンドの技術力や英語でのコミュニケーション力を磨いた。
「GoogleではPR用のWebサイトやブラウザゲームのパフォーマンスチューニング、社内で使うJavaScriptのライブラリ整備を担当していました。英語で企画したりプレゼンをするのはとてつもなくハードでしたし、Googleの開発ルールでは最初に仕様をきっちり詰めてドキュメントに落とし込んでからプロダクトを作り始めるので、これも大変で。でもこうした経験を学生のうちに積むことができたのは本当に貴重でしたし、特にここで培った『ドキュメントでまとめる』という力は、かなり今に生きています」
「企画力」を磨く上では、自身の“趣味”が役に立っているそうだ。実は中川さんは冒頭に挙げたスポーツ以外にも、サバイバルゲームや漫画、絵を描くことなど、非常に幅広い趣味を持っている。
「漫画だったら『とんがり帽子のアトリエ』や『ダンジョン飯』などのファンタジーものが好きですね。あと、『交響詩篇エウレカセブン』というアニメも大好きです。あとは友人たちと同人誌を作ってコミケで売ったことがあって。有名サークルの人に『どういう本を作ったんですか』と取材をしてみたり、『アニメーターは給料が安いって言うけど本当なのか』みたいなことを調査したりして、それを雑誌にまとめたんです。
昔からいろんなことに興味を持って手を出してきたし、気になることは徹底的に調べる、すぐやってみるっていう癖も付いていたから、そういう経験が企画の糧にもなっていると思います。あとは、“身近な人の悩み”がヒントになることも多いですね」
プロダクトの企画には果てのないアイデア出しや常人にはないクリエーティビティーが必要なのかと思いきや、“企画の種”は意外と身近なところに落ちていることもあるようだ。
「家入が日ごろから『誰かに手紙を書くようにプロダクトを作れ』って言うんですけど、この考え方がすごく素敵だなと思っていて。実際、『身近な誰かの困りごとを解決するためにはどんなプロダクトにすればいいか、その人にどんな体験やメッセージを届けるべきか』という観点で企画をすると、結果的にすごく温かいプロダクトができると思うんです。だから、人の悩みにはなるべくアンテナを張るようにしています」
こうして多方面のスキルを高め、もっとプログラミングに打ち込むためにと大学を休学。最終的に中退し、フリーランスや複数社を経験した中川さんだが、「チームで仕事をすることで、プロダクトをグロースさせるスキルを身に付けたい」と考え、今はCAMPFIREに所属している。
「give&take」より、「give&give&give」がモットー
現在はCTOとしてエンジニアチームを束ねている中川さん。彼が最も注力しているのは、「チームづくり」だそう。
「CAMPFIREには僕のように、プロダクト作りが好きなエンジニアが集まっています。そういう人たちが個人ではなく、わざわざ会社に属する理由は、『一人ではできないプロダクト作り』がしたいから。僕はそんなエンジニアたちが快適に働けるチームを整えることで、結果的にCAMPFIREのプロダクトをより良くしたいと考えているんです」
中でも力を入れているのが採用活動だ。CAMPFIREはユーザーを第一に考えている会社だからこそ、エンジニアリングスキルを極めたり、最新技術を追うことが難しいという側面もある。採用時にこうしたニーズのマッチングができていないと、メンバー同士の矢印がバラバラな方向を向いてしまい、チーム一丸となることが難しくなってしまう。
そこで中川さんは、エンジニアの面接時に必ずあることを聞くようにしているという。それが、「5年後、どうなっていたいか」という問いだ。
「スキルアップや技術のミスマッチもそうですが、転職の目的として『給料UP』を第一の目的とする人も増えているように感じます。もちろんそれもいいと思うのですが、組織が目指す方向と目線が揃っていなければ、チームの足を乱すことにつながってしまいます。CAMPFIREではプロダクトの改善に対して貪欲な人を採用したいので、数年後のビジョンを聞くことで、『その人は今どの方向性を目指しているのか、それはCAMPFIREと同じ方を向いているのか』ということは必ず探るようにしています」
では、中川さん自身は5年後に一体どうなっていたいのだろう。
「『完結型エンジニア』を目指すのはもちろんのこと、周りのメンバーにビジョンやミッションをしっかり伝えて、“人の心に火を点せる”CTOになりたいですね。それからゆくゆくは自分がオーナーになって、世の中に貢献するプロダクトを作りたいと思っています」
今、会社の制度や組織づくりに力を入れているのも、自分がいずれプロダクトオーナーになった時に何でもできるようになっていたいから。だから、時にSlackで飛んでくる家入さんの「無茶ぶりDM」にも、動じない。
「家入から『こんなプロダクト作って!』といきなりDMが届くことがたまにあって。そしたら大体、1週間以内でプロトタイプを作るようにしています。送った時にはすでに家入が飽きちゃっている、なんてことも多いんですけど(笑)、そのオーダーを通じて僕は家入のマーケット感覚を学ぶことができるし、単純にプロダクトを作ることが楽しいので、それはそれでまあ良いかなって思います」
そう考えるのは、中川さんがCAMPFIREのバリューの一つ「give&give&giveの精神でいよう。パスを回すものにこそ、パスは回ってくる」という言葉に強く共感しているからでもある。
「家入がよく『give & takeじゃなくて、ずっと与え続けたらきっとすごくいいことがあるよ』って言うんです。その考え方自体が好きだし、僕自身も過去にいろんな人に助けてもらった経験があるから。
例えば『TECH::CAMP』を運営しているdivの真子さん(真子就有さん)には、何か悩んだりしたときにいつも相談に乗ってもらっていました。フリーランス時代には仕事を紹介してもらったり、転職を考えたときにキャリアの棚卸しをしてもらったり……。そんなことをしても真子さんにメリットはないはずなのに、ことあるごとに気に掛けてくれて。僕もそんな風に、『与え続けられる人』でありたいと思うようになったんです」
20代前半でキャリアの軸をつくり、人の優しさと温かさに触れた。それが中川さんのエンジニア人生をつくる大きな柱となっている。
家入さんの「与え続けたらきっとすごくいいことがあるよ」という言葉通り、無茶ぶりDMのやり取りをきっかけにして、サービスがリリースにつながった例もある。ユーザーインタビューツール、『hibana』がそのうちの一つだ。中川さんはこうして日々プロダクトを作り続け、いずれ自らがプロダクトオーナーになるための視点を学びながら、一段一段『完結型エンジニア』への階段を上がっている。
取材・文/石川香苗子 撮影/河西ことみ(編集部)
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