SEの「次」を考える~PL・PM以外の未来とは?
「従来型のSIerはいずれ淘汰される」。そんな言葉が叫ばれるようになって久しい。その予言はいまだ実現されていないが、クラウドやIoTなどの技術革新や、時代に適応していこうとするSI各社の取り組みによって、徐々にだが確実に変化は起きている。それに伴い、SEのキャリアにも多様な道が生まれ始めた。この特集では、その新しい流れを汲みながら、SEの「次」を考えていく。
SEの「次」を考える~PL・PM以外の未来とは?
「従来型のSIerはいずれ淘汰される」。そんな言葉が叫ばれるようになって久しい。その予言はいまだ実現されていないが、クラウドやIoTなどの技術革新や、時代に適応していこうとするSI各社の取り組みによって、徐々にだが確実に変化は起きている。それに伴い、SEのキャリアにも多様な道が生まれ始めた。この特集では、その新しい流れを汲みながら、SEの「次」を考えていく。
SEのキャリアパスとしては従来、PL→PMと進んでいくのが「常識」とされてきた。だが技術、採用動向の変化などにより、画一的だったキャリアパスは徐々に変化を見せてきている。
転職サイト『@type』が4月16日に開催したエンジニア転職フェアでは、「SEの未来戦略」と題した無料セミナーを行った。
SEから自社サービス開発やITコンサルティングの世界、企業のIT部門へと転身を遂げた3人をパネリストに迎え、SEからの転身で成功するためのポイントを聞いた。
≪登壇者≫
・株式会社アカツキ
CTO 田中勇輔氏
・フューチャーアーキテクト株式会社
執行役員 金融ビジネス本部 松本野歩氏
・ジュピターショップチャンネル株式会社
IT本部 プロジェクト推進部 プロジェクト推進1グループ長 宮崎晋平氏
3人のディスカッションでは、以下のポイントが浮かび上がった。
【1】技術に対して真摯に、好奇心を持って学んできたか
【2】課題解決に向けてこだわり抜いた経験があるか
【3】事業貢献のために理想を正しく諦められるか
それぞれの詳細を説明しよう。
SEからの転身で活躍できる人の特徴として、アカツキの田中氏がまず挙げたのは、「技術に対して真摯に、好奇心を持って取り組んでいる」ことだ。
田中氏がCTOを務めるアカツキは、『サウザンドメモリーズ』などのヒット作で知られるモバイルゲームの開発会社。田中氏によれば社員の約4割が元SEで、前職でもゲーム開発をしていたという人は全体の15%程度に過ぎない。
自身も3年半前まではSIerに勤めていたという田中氏は、SE業務と自社サービス開発業務の違いを以下のように表現する。
「SEが目指すのが『誰かの要求』の実現であるのに対し、自社サービスのエンジニアが実現するのは、自ら思い描いた『未来』や『妄想』です。その違いは、最初に要件定義をしっかり固めてから設計するウオーターフォールか、まずは鉄砲を打ってみて、当たったら初めて大砲に持ち替えるアジャイルか、という開発プロセスの違いとして表れます」
しかし、続けて田中氏は「開発プロセスは違っても、根幹にある技術は変わらない」と強調する。
「集合論を知らなければ良いデータベース設計はできないし、C#を知らなければゲームの高度なチューニングはできない。問われるのは技術に対して真摯に取り組み、好奇心を持って学んできたか。それは自社サービスだろうとSIだろうと変わらないのではないか、というのが僕の考えです」
CTOという立場になった今、採用面接でもこの点を重視して質問するという。
「例えばRubyをやってきたという人に対してであれば、『最近読んだGem(ライブラリ)のソースコードで気になったものはありますか?』と尋ねます。こうした質問に対する答えから、その人の技術に対する好奇心や知識の深さをあぶり出していくのです」
アカツキの中途採用情報
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もっとも、SE時代から管理ツールをRuby on Railsで作るといった経験をし、技術に関しては一定の自信を持っていた田中氏自身も、転職直後は求められる開発スピードや品質の圧倒的な違いに、戸惑うことが多かったそうだ。
アカツキへの入社後2カ月ほどは必死についていく生活が続いたが、周りに優秀な人が多い環境だったため、その人たちをベンチマークすることで、次第に必要なレベルに習熟していけたとのこと。
こうした経験から、転職先を選ぶ上では「一緒に仕事をする人がどんな人たちかが非常に重要ではないか」とも話していた。
続いてSEからコンサルタントに転身した松本氏の話を紹介しよう。
同氏は中堅のソフトウエアハウスでプログラマーやアーキテクトとしてキャリアを積んだ後、2008年にITコンサルティングのフューチャーアーキテクトに転職。コンサルタントとして経験を積み、現在は、金融ビジネス本部の中でも銀行をクライアントとするグループのリーダーの1人として、100人規模のメンバーをまとめている。
メンバーの9割が元SEというチームをまとめる松本氏が、SEからコンサルタントへの転身でポイントとして挙げたのは、「自分の仕事にプライドとビジョンを持って取り組んでいる」ことだ。
SIの仕事は田中氏も述べていた通り、基本的にはクライアントからの要求の実現だ。だが、そんな中でも自分の仕事にプライドを持ち、自分なりのビジョンやこだわりを持って取り組んでいることが重要と松本氏は説く。
「ひとくちにコンサルティングといっても、その業務領域やスタイルはさまざまあります。その中で当社が目指すのは、クライアントの要求をベースにそれを整形していく、といったものではありません。時には、その業界の門外漢だからこそゼロベースで問題を見直し、時にはクライアントとぶつかってでも、より良い成果を出して納得してもらうというのが我々の仕事です」
そのため、要件定義や仕様書にひたすらしたがって開発する、という働き方を続けていきたいエンジニアにはマッチしない可能性が高い。
「逆に、課題を解決することにこだわりを持って仕事をしていたSEには、胸を張って代表作と言えるような仕事が少なからずあるはず。そういう点を、中途採用でも重要視しています」
松本氏は採用面接の場でこの点を見極めるために、「自分が過去に携わった代表作品を3つ挙げてください」といった具体的な質問をするそうだ。
フューチャーアーキテクトの中途採用情報
技術力で経営の最適解を導くコンサルタント募集
このように話す松本氏も、田中氏同様、転職してから新しい仕事に慣れるまでには、それなりの時間を要したようだ。
それは技術レベルの問題というよりは、コンサルタントとして必要な
(1) 技術知識の「幅」
(2) ITがビジネス全体に寄与するように業務を調整する能力
(3) 自分の言葉で説得力を持って説明できる発言力
といったものを身に付けるのに、約3年かかったから。転職して、実際に働いてみて初めて、必要性を実感するスキルも少なからずあるということだ。
最後に、事業会社のIT部門で働く社内SEに転身したジュピターショップチャンネル宮崎氏の経験談を紹介しよう。
ジュピターショップチャンネルは、24時間365日生放送のTV番組などを通じた通信販売を行う事業会社。小売だけでなく、何を、いつ、どうやって売れば良いのかを企画し、実際に購入者に届けるまでをワンストップで行うビジネスだ。
エンジニアの業務は、通販番組の番組表や受注を取るシステム、商品を届けるための伝票を作るシステムなどの独自アプリケーション開発、高負荷に耐え得るインフラ環境の保守運営など、多岐に及ぶ。宮崎氏はここで、アプリ開発とインフラ開発の2つのチームを統括する立場にある。
宮崎氏は、有用な人材像を「エンジニアとしての理想や妄想を、正しく諦められる人」と言い切る。その主張は一見、「好奇心」や「ビジョン」を活躍の条件に挙げた他の2人とは異なる立場のようにも見えるが、真意はそうではない。
「弊社が行っているのは小売業なので、多岐に及ぶ業務はすべて、あくまで会社の利益を最大化することが目的です。システム開発に携わってきた人にはしばしば、システムとしての理想を追求したがる傾向がありますが、どんなに優れたシステムでも、結果として使われなければ意味がない。究極の理想は『最低限(のシステム)で最高の成果を生み出すこと』なんです」
当然、宮崎氏はエンジニアとしての理想を捨てろと主張しているのではない。
「理想を正しく諦められるのは、前提として正しく理想を描ける人だけです。100%が見据えられない人には、70%は描けない。会社にはさまざまな部署があり、システムのことを理解していない人もたくさんいますが、ただそういう人たちの要望どおりにシステム構築をするのでは、開発者としての名折れでもあります」
理想は持っていなければ始まらない。ただし、描いた理想が「エンジニアとしての」理想で終わってしまっていたら意味がない、というのが宮崎氏の真意ではないだろうか。
宮崎氏は「社内のさまざまな立場にいる人たちと積極的に話す機会を持ち、そうした人たちが何を考えているのかを正しく理解していくこと」が、事業に貢献する社内SEとして成長していく一助になる、とも話していた。
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見てきたように、SEから異なる立場へと転身すれば当然、それ以前とは異なるスキルも求められるようになる。
技術の質とともに幅を広げることが求められるケースがあれば、技術職以外の人を巻き込む調整力や発言力が必要になるケースもある。時には理想を実現すること以上に、現実と折り合いを付けることが重要になるかもしれない。
しかし3者の話から分かったのは、そうしたスキルを身に付けるのには、先駆者たちもそれぞれ、それなりの時間を要しているということだ。逆に言えば、新たな世界に飛び込んだ後でも、取り組み方次第で十分に身に付くものと言えるだろう。
むしろ成否の差を分けるのは、技術や業務に対する主体的で積極的な関わり方ができているかどうか。それはSEとして受託開発をしている中でも変わらない、というのが3者の共通の見解で、その意味ではSEからの転身後に他の世界で活躍できるかどうかは、転身前にある程度決まっているとさえ言えるのかもしれない。
最後に、各社のキャリアパスに関する考え方について。アカツキでは便宜上、一つの技術領域を深掘りするスペシャリスト、事業全体にコミットするアーキテクト、組織作りを担うエンジニアリングマネジャーといった3つの道を設けているが、「キャリアパス自体は社員の数だけ作ることができる」と田中氏は言う。
フューチャーアーキテクトにおけるコンサルティングもそのあり方はさまざまで、中には一次産業の問題解決のために最新の機械学習やIoT技術を突き詰めている専門家もいるそうだ。
ジュピターチャンネルには、最終的にコールセンターや物流を担う部署に転身した例もあるという。
キャリアパスが「人の数だけある」のであれば、それは決して誰かが引いたレールをなぞるようなものではないはずだ。仕事である以上、自分のやりたいことだけをやっている人というのは稀だろうが、システムやプロダクトに対して自分なりの理想を持たない人が活躍できないのと同様に、どんなキャリアを歩んでいきたいかについても、「(自分にとっての)100%が見据えられない人には、70%は描けない」のではないだろうか。
田中氏は「それこそ従来型のキャリアパスだって、その人が本当に望んでいるのであれば、言われているほど悪くないと思いますよ」とも付け加えていた。
取材・文/鈴木陸夫 撮影/編集部
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