日本初! “AI×おやつ”のサブスク『スナックミー』が、口コミの力で業界の“パイオニア”になれたワケ
今、明治やカルビーといった圧倒的な大手企業のひしめくお菓子業界で、とあるサービスが頭角を現し始めている。AIを活用した“おやつ”のサービス、『スナックミー』だ。
スナックミーは、体に優しく食べても罪悪感のない、“ギルトフリー”のおやつを、ユーザーの味覚に合わせて8種類ピックアップし、2週間に一度、もしくは1カ月に一度のペースで届けてくれるサブスクリプション(定額制)サービス。
1回のお届け料は税込み1,980円、つまりおやつ1種類におよそ250円を払う計算になる。コンビニのお菓子と比較すると高価な印象だが、2016年のサービスリリースからほぼ“口コミだけで”着実にユーザー数を伸ばし、今では毎月10%ずつ利用者が増えているのだという。
CTOの三好隼人さんによると、スナックミーのユーザーの多くは20代~30代の女性で、特に小さな子どものいるママの愛用者が目立つそう。しかしこのサービス、もともとはコンサルティング業界、旅行業界、建築業界と、お菓子業界とは全く関係のない業界にいた3人の男性たちの手によって生まれたというのだ。
では、彼らはどうやってママたちの心をくすぐるサービスを考案し、「おやつのサブスクリプションサービス」として業界初の地位を確立したのだろう。そんな疑問を、三好さんにぶつけてみた。
ターゲットは「自分自身」。“ペルソナ”にはないリアルな欲求を突き詰めた
「スナックミーは、代表の服部が『子どもに“食べさせたい”と思えるお菓子が近くにない』と悩んでいたところから始まりました。
創業当時、服部のお子さんはまだ小さくて。お菓子をねだられるけど、コンビニで売っている商品のほとんどは保存料や添加物が含まれていて、気軽に食べさせられない。週末に個人商店やデパートに行けば無添加のお菓子を買うことができるけど、それでは手軽さがない。当時は国内にこうした悩みを解消できるサービスがなく、『だったら自分たちで作ろう』ということになったんです」
「お菓子業界」とひとくくりにするとレッドオーシャンに思えるが、当時、彼らの求める「安心して食べられるお菓子を手軽に手に入れることができるサービス」は国内に存在していなかった。一方で、海外では当時すでに体にやさしいおやつが自宅に定期的に届く『NATUREBOX』(アメリカ)や『GRAZE』(イギリス) が流行の兆しを見せていたこともあり、国内にもそうしたニーズがある確信を持つことができたという。
といっても当然、スナックミーはただ海外事例を真似してできたわけではなく、国内のユーザーにおやつを届けるために考案された独自のサービスだ。企画開発にあたっては、まず「自分たちの悩みを深堀りすること」から始めた。
「新しいサービスを作るときはよく『ペルソナを考えよう』と言いますが、ペルソナってあくまで想像に過ぎないですよね。だから僕たちは、僕らが本当に欲しいと思えるサービスを突き詰めることにしました。同じようなことに悩んでいる人はきっと何百人、何千人といるはずですから。
例えば『子どもに安心して食べさせられる』以外にも、『自分自身が罪悪感を抱かずに食べられること』は大事なポイントでした。僕らはもともと全員お菓子を食べることが大好きなのですが、コンビニのスナックではどうしても健康面が気になって、頻繁には食べられなかったので(笑)
あと、もう一つ大切にしていたのは“ワクワク感”です。僕らはお菓子を“モノ”、おやつを“体験”という表現で切り分けていて、箱を開けたときにただ予想通りのお菓子が並んでいるだけではなく、『見たことないけど美味しそう!』とか『一番好きなおやつが入ってる!』といった“ココロを満たすおやつ体験”を届けられたらなと。そういった軸で話し合いを重ねました」
その結果、スナックミーのコンセプトが、「体に優しく食べても罪悪感のない、“ギルトフリー”のおやつ」と「ユーザーとおやつのマッチング」の2つに固まった。それからは提供するおやつのラインナップを決め、ユーザーのリアクションを探りながらサービスをブラッシュアップしていくことになる。
「使いやすさ」はアクションを促す第一歩
次に注力したのは、システム周りを整えること。オンライン型のサブスクリプションサービスとなれば当然ながら、決済機能や管理画面などのシステムは必須の上、サービスの特性上、ユーザーの評価を蓄積・分析する機能や、ユーザーの好みとおやつの相性をマッチングするAIの構築も必要だった。
しかし三好さんは、スナックミーを創業するほんの1年半まで、プログラミング経験はゼロ。最低限の機能は開発できたものの、AI開発どころかUI/UXの配慮もなかなか理想までには至らなかったと、当時を振り返る。
「スタート当初は本当に日々綱渡り状態で、使いやすさやデザインにこだわる余裕もなく『必要な時に、必要な機能を最短で作る』という感覚でした。決済機能ができたら、商品がユーザーに届くまでに管理画面や評価機能、ダッシュボードを作って……というように、ユーザーと並走して開発を進めていましたね。
ユーザーとおやつのマッチングや各BOXに入れる商品の選定、注文番号の管理などは、今でこそAIでほぼ自動で行っていますが、最初は全て手作業で行っていたんですよ」
ユーザー数が数十名程度だったころは、おやつを仕分ける作業も1時間程度でできていた。しかし100名を超えてきたあたりで手作業に限界が出てきたため、サービスのローンチから半年後には、AIを使ったおやつの自動マッチングシステムが、運用面でも必要になってきたという。
「とはいえ当時はPython未経験だったので、学びながら手探りで進めるしかなくて。精度も今よりかなり低かったですね。一つ一つのおやつに付いたユーザー評価を基に、『ドライパインが好きなユーザーは素焼きアーモンドが好きそうだ』みたいな相関を出すようにしていたのですが、新商品のリリースの際はユーザー評価が付いていないから、相関がうまく出てこずに『どうしよう……』みたいなことがよくありました(笑)」
創業からしばらくは「最低限の機能を最短で、できる範囲で作ること」で日々を乗り越えていたものの、「せめてユーザーページを整えたい」という葛藤も抱いていたという。そんな中2017年1月にフロントエンジニアの女性が入社したことをきっかけに、サービス全体の「使いやすさ」を飛躍的に向上させることができたのだそう。
「人手が足りなかったことはもちろん、ユーザーに近い感覚を持ったフロントエンドエンジニアを欲していたのですが、たまたま僕らがベンチマークしていたアメリカのおやつ定期便サービス『NATUREBOX』に勤めていたフロントエンドエンジニアの女性が入社してくれることになって。
彼女には小さなお子さんがいて、日本に帰国してから『NATUREBOX』のように、自分の子どもに安心して食べさせられるおやつのサービスを展開する企業を探していたところ、スナックミーを見つけてくれたんです。技術力はもちろん、プロダクトを深く理解・共感し、かつターゲットの目線も持っているエンジニアが加わったことで、フロント部分を一気にテコ入れすることができました」
フロントエンドエンジニアの女性には、2カ月間でサイトを丸々リニューアルしてもらったそうだ。簡素だったビジュアルが綺麗に整ったのはもちろんのこと、最も大きかったのは「サイトとして成立するようになったことだった」と三好さん。
「リニューアル後、一番感動したのは『どの機能がどこにあるか』が分かるようになったこと。実際、ユーザーから『使いやすくなった!』という反響も大きかったですね。それからさらに昨年10月にもサイトリニューアルを行って。今回はデザイナーも加わったことで、全体の統一感やUIUXを大幅に向上させることができました。
リニューアル後に調査したら、驚くことにユーザーのおやつに対する評価やリクエストの回答率が10%ほど増加していたんですよ。スナックミーのサービス満足度は『いかにしてユーザーの反応を得るか』に懸かっているので、『使いやすい』のはもちろん、『使いたくなる』仕様を整えることの大切さを改めて実感しましたね」
シェアしたくなるほどの“ワクワク体験”をサービス全体で設計すること
三好さんによると、スナックミーはリリースから約1年間、広告を一切打っていなかったのだという。昨年ごろから広告やメディア露出にも力を入れ始めているが、それまではほぼ「口コミ」だけで着実にユーザー数を伸ばし続けてきたそうだ。
「初めは『大手にアイデアを真似されたら終わる』と怯えてひっそりやっていた、というのもあったのですが(笑)。もう一つは、代表の服部が『広告を打たなくても伸びるプロダクトは、最終的にずっと伸びていくはずだ』という考えを持っていて。変にPRをし過ぎると、サービス自体が良いものであるかのように錯覚してしまうリスクもあるので、最初はインスタ投稿だけに注力していました。
それでもサービスを伸ばせてこれたのは、多くのママさんユーザーが、届いたBOXやおやつをインスタやツイッターで投稿してくれたから。SNSの口コミを通じて徐々にユーザーの輪が広がっていった感覚がありましたね」
では、スナックミーのユーザーはなぜ自発的に口コミを投稿してくれるのだろう? その理由は、創業当初から大切にしている“ココロを満たすおやつ体験”にあるという。
「僕らは創業時から変わらず、『おやつを通じてワクワクを届けたい』という思いを抱いて、サービス全体を練り上げてきました。
毎月デザインの違うかわいらしいBOXが手元に届き、開けてみたら見た目も楽しくおいしそうなおやつが8種類も入っている。それに、自社開発で味にもこだわったおやつを罪悪感を感じずに食べることができる。おやつの評価を登録したり、リクエストを送ったりすれば次回はもっと素敵なおやつが届くかもしれない・・・・・・。
そんなふうに、“ワクワク体験”をつなぐことで心を満たすことができたからこそ、ユーザーも自発的に口コミを発信してくれるのだと思います」
サービスのブラッシュアップにおいては、「ユーザー評価が高い部分」に特に注力したそうだ。
「ファンを増やすために大切なのは、『サービスを評価してくれているユーザーが、そのサービスの中で特に好きだと感じている部分を伸ばすこと』だと考えているので、比較的満足度の高い方にインタビューをさせていただくなどしながら改善を重ねてきました。だからこそ、日本のママたちの心をくすぐるポイントを抑えることができたのではないでしょうか」
最初はたった3人で始めたスナックミー。現在は社員数17名、エンジニアチームは5名に増えた。社員一丸となって、ユーザーのワクワク感をもっと高められるよう、日々試行錯誤している。特に、三好さんは「AIの精度をより高めることでもっとワクワクを届けたい」と意気込む。
「AIによるおやつのマッチングについては、たくさんのユーザーから満足の声が寄せられてはいるものの、僕個人としては精度に対する満足度はまだ20%ぐらいなんですよ。
AIの精度を上げることができれば、『自力では気付かなかった“好きなおやつ”』との出会いを提供することができるかもしれないし、一つ一つのおやつだけではなく、8種類のおやつの組み合わせに対する満足度も上げることができるかもしれない。さらに、季節や時期による受発注予測が正確にできれば、余剰在庫を減らすことにもつながります。
テクノロジーで実現できることはまだまだたくさんあるし、それによってユーザーだけでなく、社員やその周辺にいる人の満足度も上げることができるはず。これからもベンチャーマインドを忘れず試行錯誤を重ねながら、より多くの方に『ココロを満たすおやつ体験』を届けていければと思っています」
取材・文/石川香苗子 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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