本連載では、圓窓代表・澤円氏が、エンジニアとして“楽しい未来”を築いていくための秘訣をTech分野のニュースとともにお届けしていきます
サービスをうまく機能させるには? エンジニアは“測る仕組み”を意識せよ【連載:澤円】
株式会社圓窓 代表取締役
澤 円(@madoka510)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手テクノロジー企業に転職、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。琉球大学客員教授。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。
著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『あたりまえを疑え。―自己実現できる働き方のヒントー』(セブン&アイ出版)※11月末発売予定
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皆さんこんにちは、澤です。
エンジニアtypeの読者の皆さんは、きっとスマホを毎日使っていますよね。今ではさまざまなアプリがリリースされ、画面を何度かタップするだけで、買い物ができたり食事が届いたり車が迎えに来たりします。
皆さんは、スマホなしの生活って想像できますか?
でも、スマホが世の中に現れてからまだ10年そこそこ。アプリの歴史も同じくらいですね。いつでもどこでもサービスを受けられる、本当に素敵な世の中になりました。
当然、素敵なサービスの裏側には、「作る人」と「運用する人」が存在します。
そして、そういった人々に目が向けられるのは「サービスがうまく機能している時」ではなく「トラブルが起きた時」「品質が下がった時」と相場が決まっています。
最近、ネットで話題になったトラブル事例としては、『Uber Eats』で配達された食事の中身が偏ってしまっていたとか、遅配して受け取り拒否をしたらそのまま敷地内に捨ててあった、なんていうものがネットに上がっていましたね。
サービスを提供しているのであれば、当然顧客の求める要求に応える義務が発生しますし、それができない企業はビジネスが立ちいかなくなっても同情されないでしょう。
だからこそ、優秀なエンジニアによってサービスを構築する必要があり、かつ安心して任せられる人を従業員として雇う必要があるのです。
今あるサービスの価格と質は適正か。多くの人たちが現状に目を向けるべき
日本は、基本的に「職業倫理が高い」と言われますが、私はちょっと違う感覚で受け止めています。
日本人は自分が顧客になったときに「相手は自分の要求を絶対に受け入れるべき」というマインドになりやすいと思っています。
そして、「自分が顧客である間は、自分に絶対に服従しなくてはならない」とまで思う人も少なくありません。
また、サービス提供者側も過剰なまでに顧客を大事にします。
牛丼チェーンなど単価が安い飲食店でも、店員さんは「いらっしゃいませ」と迎えてくれて「ありがとうございました」と送り出してくれます。お客さんに対しては丁寧な言葉で接し、「滅私の気持ちで臨むこと」こそが仕事であると定義されているように思います。
また、日本の異常なまでの「安い=善」という考え方も危険だと思っています。もちろん、価格が安いことは世界中で受け入れられやすい価値観であることは間違いありません。
ただ、「適正ではない安さ」を顧客が求めることや、それに無理に応えようとしてビジネス全体にひずみを生むことは、誰も幸せにはならないと思います。
ちなみに、最近私が見た記事で納得感があったのはこちら。
>>【なぜ「働かない大国」ドイツの社会はまわるのか 住んで分かった日本との大きな違い】
この記事の最後に書かれている「迷惑と不便を許容しあう土壌がなければ、ドイツ式の導入は難しい」という部分が、日本の状況を見事に言い当てていると感じました。
「日本は」「ドイツは」と書いてしまうと、主語が大きすぎて「日本『disり』か」と感じる人が出てくるかもしれませんが、私は日本をけなしたいわけではありません。
あくまでも現状を認識するための言語化として、大きく括っているだけです。
日本人全員がそうだとか、日本企業は全部こうだというわけではなく、「多くの人たちが現状に目を向ける意識が大事である」とお伝えしたいだけです。
その前提で続けていきましょう。
いいサービスを生み出すためには、共通言語となる「定数」が重要
日本では、エンジニアが生み出すさまざまなサービスに対する期待値はやたら高い割に、プロジェクトの依頼者が「自分は素人だ」と言って仕様やデザインに関しては丸投げし、その一方で価格をなるべく抑えようとする。挙句の果てにリリース後のサポートについても「トラブルが出たから無償で直せ」と平気で要求してきたりします。
これでは、いいサービス開発なんてできませんよね。
日本で働くエンジニアとしては、どのようにこうした状況と向き合えばいいのでしょうか。
経営層にITを理解している人が少ない状況は、残念ながらすぐには改善されそうにありません。
それならば、「ITが分からない人と合意しやすい状態」をつくり出すしかありません。そのために最も効果的な武器が「数字」です。
全てを「数字」で判断できるように最初からデザインし、主観的な意見が出にくい状態をつくってしまえば良いのです。
そのためには、前提となる「定数」をつくる必要があります。平時の開発担当エンジニアの人数や単価、上限の労働時間などを「定数」で表すのです。
これを「変数」で定義することを許してしまうと、「気合で頑張れ」なんてことが起こってしまうからです。
トラブルの際には、総力戦で対応しなくてはならない場面もあると思いますが、そうではない時期は必ず余裕のある数字の下で働けるようにしておく必要があります。
そして、「ツールで済ませられる仕事は全てツールを利用する」「時間の掛かる作業は自動化の方法を考える」という思考パターンを習慣付けしておくことが大事です。
そうでないと、ついつい伝家の宝刀「運用でカバー」が出現してしまいます。「運用でカバー」は、あらゆるビジネスの場面で“恐怖のフレーズ”になるリスクを秘めています。
どうすれば自動化できるかを考えるのが、エンジニアの腕の見せ所。この時にも数字が武器になります。
「どのくらい工数が削減できるのか」「圧縮できるコストはいくらか」
このような数値が示せれば、ITが分からない人にも納得感が増します。
作るのも支えるのも人。エンジニアは「誰もが理解できる状態」を心掛けよう
「満足度」という主観的なものであっても数値化することには価値があります。
例えば、アンケートを定期的に取るなどして、数値化していくことで「自分たちの活動が正しい方向に向かっているかどうか」を測ることができます。
これは、定期的&継続的&長期的に行っていく必要があります。
今まで行われていないなら、「これから長期間続けていく」ことを前提に運用モデルを考えるといいでしょう。
世の中には、社員のコミットメントレベルを測るためのアンケート事例がたくさんあるので、ちょっと調べてみてください。
ちなみに、このような仕組み化と特に相性がいいのは、割と長くビジネスを続けている中小企業だと思います。
すでにビジネスの仕組み化ができているので、“測る仕組み”を付け加えて可視化を進めることがしやすいからです。
ビジネスがまだ立ち上がりきっていないスタートアップ企業の場合であれば、まずはひたすら必死に頑張って開発をしまくるというフェーズもあるでしょう。
正直、アーリーフェーズのスタートアップ企業は、ブラック企業そのものの働き方になりがちです。
でも、起業というのは少なからずそんな側面もあります。どこかネジの飛んだ人間でなければ、起業で成功はできないようです。
とにかく知力・体力が続く限り開発に取り組むのも必要なことですし、それがむしろビジネスへのコミットメントレベルを高めてくれたりもします。
スタートアップでもし数値化や可視化が必要になるとすれば、「自分たちのビジネスとマーケットの関係性」だと思います。
そこを「自分たちの思い込み」だけでデザインしてしまうと、結局マーケットに受け入れられないという悲劇につながりかねないからです。
どんなビジネスも、どんなエンジニアリングも作っているのは人であり、支えるのも人。
また、あらゆるサービスは人の生活を豊かにするためにデザインされるものであると私は考えています。
人を中心に考えるとき、「誰もが理解できる状態」をいかに作るかが重要です。
そのために、エンジニアはあらゆることを「人が分かりやすいように」デザインする習慣付けをした方が良いでしょう。
セブン&アイ出版さんから、私の三冊目となる本が発売されました。「あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント」というタイトルです。
本連載の重要なテーマの一つでもある「働き方」を徹底的に掘り下げてみました。
ぜひお手に取ってみて下さいね。
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