キャリア Vol.1012

DMM亀山会長が日本の“イノベーションブーム”に物申す「世の中、イノベーターだらけでもダメなんじゃない?」

DMM亀山敬司

TECH INNOVATORS 2020

本特集では、テクノロジーの力で社会課題の解決に取り組む「未来の創り手」たちの仕事にフォーカス。彼らが描くビジョン、挑戦の原動力、エンジニアがイノベーターへの一歩を踏み出すためのヒントを聞いた

動画配信やオンラインゲームに始まり、モノづくりプラットフォーム、サッカークラブ経営、はては水族館に消防車両の開発と、DMMの事業は幅広い。

そのDMMが新たに手掛けるのがエンジニア養成機関の設立だ。2019年11月、フランスのエンジニア養成機関『42』の東京校として一般社団法人『42 Tokyo』を設立することをDMMは発表した。

本家『42』は学費無料で24時間365日オープン。教師から生徒への一方通行の教育ではなく、生徒同士が学び合う「ピア・ラーニング」を取り入れていることで知られる。『42 Tokyo』もこれを踏襲。

現在は4月の開講に向けて「ピシン」と呼ばれる入学試験の真っ最中だという。

DMM会長の亀山敬司さんは10月末のプレス発表会で『42 Tokyo』に5年間で最大50億円を投資すると明言した。

「規模の大小、ジャンル関係なく、未来を感じるビジネスにはひとまず投資」という経営方針を掲げる同社は、『42 Tokyo』にどのような未来を思い描いているのか。

DMM亀山敬司
合同会社DMM.com 会長
亀山敬司さん
19歳でアクセサリー販売の露天商を始める。その後石川に帰郷し、麻雀荘やカフェバーなどさまざまな事業を展開後、80年代後半にレンタルビデオ店を開業。1999年に株式会社デジタルメディアマートを設立(現:DMM.com)。現在は、DMM.comグループの会長として、動画配信、オンラインゲーム、英会話、3Dプリンター、FX、株、仮想通貨、ソーラーパネル、水族館、フットボール、音楽レーベル、アカデミーなど、多岐にわたる事業を展開している。2019年11月に『42 Tokyo』を設立

国内IT人材不足の解消には、いろんな教育があっていい

『42』は、『DMMアカデミー』の生徒がフランスで見つけて来たんだけど、話を聞いて面白いなと思ったんだよね。

先生が一方的に教えるというより、生徒同士で答え合わせをする。みんなが先生になったり生徒になったりして、一つの課題を解決し合うってところが良い。

人に教えている時間が損だと思う人がいるけど、本当は教える方がよっぽど勉強になるんだよ。

俺なんかも人に伝えようと思ったら、言葉の使い方を間違っちゃいけないとググったりするもんね。

今回も「イノベーションって言葉は、この使い方で合ってるかな?」とか(笑)

やっぱりエンジニアも人とのコミュニケーションができないとさ。

いくら技術力があっても、自分だけじゃ大きなものなんてつくれないから。

いろんな人間と関わり合いながら、助け合いながら学んでいく『42』のやり方は、きっと役に立つ。

扱う課題もいろんな企業から提供してもらう実践的なものだから、ずっといまどきのことが勉強できる。

そして、無料だから、やる気さえあれば誰でもチャレンジできるのよ。そんな学校をフランスで見て、「日本にもあったらいいな」と思って始めた感じだね。

DMM亀山敬司

『42 Tokyo』は非営利組織だから、どうやったって儲からないんだけど、こういうカッコイイことをしておけば、「エンジニアの間でちょっとは評判が良くなるかな」っていう打算もあるのよ。

中には「世話になったからうちへ来ようか」って人も出てくるかもしれないしね。

もちろん、すぐの効果はないだろうけど、『42 Tokyo』の卒業生たちがいろんな会社で活躍するようになれば、五年後、十年後には多分良いこともあるんじゃないかな。

日本のIT人材不足については、何万人、何十万人足りないって言われてるくらいだから、間違いなく不足してるんだろうね。

不足しているなら育てるしかないけど、うちは日本全体をどうこうできるほど大きな会社じゃないんでね。

仮にうちが1000人くらいエンジニアを育てたところで、焼け石に水かもね。でも、1万人とか受け入れると会社が潰れちゃうから。

稼いだ利益の5%〜10%くらいならこういうことに使ってもいいかなっていう感じかな。

まあ、自分たちの財布内でやれることをやるだけだね。

五年後くらいに結果として、うちに良いエンジニアが集まったり、卒業生の何割かが寄付してくれたり、スポンサーが付いてくれたりして、『42 Tokyo』がうまく回るようになれば、周りも似たようなことをやり出すかもしれない。

できれば、他の会社にもどんどん真似してもらいたいね(笑)

じゃないと、日本のエンジニア不足は変わらないんじゃないかな。

DMM亀山敬司

一方で、うちには『DMM WEBCAMP』っていう、教師がガッツリ教えて就職あっせんまでする有料のプログラムもある。

そっちは一人一人丁寧に教えてくれるから、『42』のように突き放した感じじゃないのよ。

そこで育った未経験者がプログラマーになって、転職していく人もいっぱいいるね。

俺はプログラマーじゃないんで、日本のエンジニア教育に対して何が課題で、何が足りないとか、実のところはよく分かってないの。

だから、どちらのやり方が正しいとかじゃなくて、有料だったり無料だったり、教えたり教えなかったり、いろいろな方法でやってみて、結果的にうまくいった方が広がっていけばいいと思ってる。

とりあえず、やってみながら考えようって感じだね。

「でかいことがしたいなら、ビジネスも知らないと」

日本だとエンジニア発のイノベーションがなかなか起きないって言われてるけど、優秀なエンジニアはいっぱいいる。

技術力がないっていうより、金儲けを分かってるやつが少ないからじゃないかな。

何かイノベーションを起こそうと思ったら、テクノロジーだけじゃうまくいかない。組織も必要だし、資金繰りも必要になる。

エンジニアでイノベーションが成功してる人、例えばホリエモンとか、メルカリの山田くんとか、そういう人間はやっぱりビジネス的なことも分かってるじゃない。

だから、エンジニアも大きいことをやりたいと思ったら、金儲けのことも分かった方がいい。

パソコンだけに向かってないで、いろんなことを勉強しないと、結果的に何かを生み出すことにはならないと思う。

とはいえ、エンジニアには開発は好きだけど、金儲けに興味が持てないって人も多いよね。

俺は逆にプログラミングに興味が持てなかったから、気持ちはよく分かる(笑)

どうしても人には向き不向きがあるから、そんなときは開発したいエンジニアと、稼ぎたいビジネスマンが組めばいいんだよ。

うちが技術力のある若いベンチャーを買収してるのも、技術はあっても営業とか広告とか財務とかが弱い会社。

そこにお金や人をフォローすることで、技術を世に出そうみたいな話だね。

DMM亀山敬司

『42』を数年前から実施しているフランスでは、大企業に就職する人も多いけど、チームを組んで起業する人も増えてるらしい。

これは教育方法が受動的じゃなく、能動的に学ばせているからなんだと思う。

日本の勉強は一方的に講義を受け身で聞くことが多いよね。自ら問題をつくって学びに行く機会がほとんどない。

だから、問題が与えられないと何を学べばいいのか分からない。

でも、自分でゼロから課題をつくる力がないと、起業もイノベーションもできるはずがないよね。

『42』では、特定のプログラミング言語を身に付けるというより、言語が今後どう変わっていってもいいように、調べながら自学できる体質になってもらおうとしている。

俺なんかの場合も、今まで流行りに合わせて商売を変えてきたから、商品が何になってもやっていけるわけよ。

これはエンジニアでも同じことで、プログラミング言語もシステムもどんどん変わっていく現代では、この「変化に合わせて学ぶ力」ってのは、すごく大切になってくるんじゃないかな。

アイデアだけに価値はない。できるやつはすでに動いてる

俺のところには、たくさんの新規事業アイデアが来るんだけど、投資してみたいと思えるかどうかにはいくつか条件があるんだ。

一つは伸びている、あるいはこれから伸びる業種かどうか。

いまさら「本屋さんをやっていいですか?」って言われても、「そこは伸びないだろう」というのがあるじゃない。

それよりはITとかAIとか宇宙とか、未来しかないって業界の方が良い。

最近だと、消防車や救急車をつくるベンチャーにも投資しているけど、それは消防車に新しいテクノロジーを入れて、もっと性能の良いものをつくりたいってことだったから。

また農業分野でも、中古トラクターが地域ごとでしか売られてないから、全国のデータベースをつくって流通したいって会社が来たときは、すごく面白いと思った。

古い業界でも、IoTやAIやITを絡めることで、新しい価値を生み出すっていうのは未来があるよね。

あとは、市場規模や予算規模が大きすぎて、うちの財布ではライバルに勝てないと思ったもの。これは、やりたくてもやれないかな。

だから、伸びそうで、勝てそうで、社会的に価値のあるもの。あとは自分の懐具合と相談よ。

でも、実際投資するときに一番大事なのは、持ってきたプランがその人に実行できると思えるかどうかだね。

アイデアだけ持ってきて「これすごいでしょ」って言われても、「キミじゃできないだろ」って人はいっぱい来る。

せめて、「プロトタイプをつくってきました」とか、「できるエンジニアを何人か集めてチームを組んでます」くらいの実現性がないと、話が進まないよね。

以前、ある学生に「NDA(守秘義務契約)を結んでからアイデアを話したいです」って言われたことがあってね。

「簡単にパクれるものなら話さない方がいいよ」と、帰したことがある。

アイデアと実行力があって初めて価値があるんだからね。ただのアイデアだけには一銭の価値もないから。

DMM亀山敬司

例えば『DMMかりゆし水族館』とかは、もともと他社で水族館のプランを練ってた人間が、そっちでやれなくなったからと言って持ってきたの。

具体的なプランや実績があって、この人ならやれそうだから投資しようって話だから。

うちは20代の若者がやってるベンチャー企業をいくつか買収しているけど、それも一定以上のトラフィックを集めて社会から必要とされていたり、わずかでも売り上げを立てているものだけだよ。

ちゃんと土台はつくっているけど、ここからさらに大きくしようと思ったら自分たちだけではできないっていうものを買収して、資金を付ける。

そして、必要に応じて社内の営業マンやエンジニアを付けている。

『終活ねっと』なんかはまさにそうだよね。東大生にユーザーを集めることはできても、お坊さんを集めるのは難しい。だったら一緒にやろうってことになる。

だから、小さくとも結果を出して、投資して一緒にやりたいと思われる力を付けないとね。

「自分で動けるだけ動いて、超えるべきものを超えてこい」ってことかな。

DMM亀山敬司

0から1を生み出す人、それを育てる人、両方いないと大きなイノベーションは起きない

就職や転職となると、大手とか「安定企業に行きたい」って人も多いんだろうけど、新しいことに挑戦したり、そのためのスキルを身に付けたいって思うなら、スタートアップとか小さな企業で働いた方がいいだろうね。

大手企業では分業が進んでいるから、イノベーションのスキルはあまり上がらない。

基本はすでにうまくいっている事業があって、その売り上げを5%〜10%上げるのが仕事だからね。

ゼロからのイノベーションっていうより、現状の改善や安定を求められることが多いね。

だからといって、大きな会社に行くのが間違いだって言っているわけじゃない。

エンジニアの場合、大きな企業の大きいシステムを動かしたり、ビックデータを扱うのは、別のやりがいがあるじゃない。

エンジニアの中には、小さくても新しいものをポンポンつくりたい人もいれば、大きなシステムをしっかり動かしたい人もいる。だから、そこは個人の趣向だよね。

うちは新卒で入ってくる人たちを買収したベンチャーに出向させたりもするから、その中で頑張るって選択肢もある。

そこで新しい小さなイノベーションをやったり、本体で大きなプラットフォームを動かしたり、いろいろな経験を行き来して、そんな中で自分に合う能力を育ててほしいと思ってる。

だから、うちのエンジニアには、新しいシステムで1億円の利益を生み出す人もいれば、100億円の事業部のシステムを改善して110億円にする人もいる。

0から1も大切だし、10を100にする仕事も大切。

どちらのタイプもいないと、結局は本当の意味での大きなイノベーションってのはできないと思う。

つまり、世の中がイノベーターだらけでもダメってこと。

フットワークが軽く暴れるやつがいないと新しいものは生まれないけど、一方でそれを育てたり守るやつもいないと、大きくなれないし長くは続かないってことよ。

DMM亀山敬司

変化を止める力がないなら、学ぶしかない

大手に行こうとスタートアップに入ろうと、勉強はし続けないといけない。

スタートアップだと、「今日までにこれつくらないとお金がもらえない」とか、「うまくいけば2倍になるけど、ダメならアウト」みたいな、厳しい世界で毎日やってるから、ある程度の覚悟はあるだろうけど、大手企業の人ももっと危機感を持った方がいいと思う。

エンジニアも自分自身をイノベートすることを続けないと、そのうちAIやロボットに取って代わられるからね。

言われたことだけしかやらないと、ある日突然そのスキルはいらないって言われるかもしれない。

最近、大手で年長者向けのリストラが行われているけど、これは業績が悪化したというより古いスキルが不要になるのを見越してのリストラ。

黒字リストラってやつだね。これは対岸の火事じゃなく、当然エンジニアでも起きることだよ。

大手企業はリストラすることで安定企業のままでいられるかもしれないけど、会社が安定するのと社員が安定するのとは、全然違うってことだね。

DMM亀山敬司

世間ではイノベーションは「いいもの」って前提で語られることが多いけど、俺は必ずしもテクノロジーやイノベーションが人を幸せにするとは思っていないよ。

変化のスピードがあまりに速過ぎると、多くの人はそれに付いていけない。

昔の何倍ものスピードでイノベーションが起きると、若者は流行に振り回され、オヤジは時代遅れになる。

尊厳を持ったまま生涯を逃げ切るのがどんどん難しくなる。

そんなとき、変化に付いてこられない人たちは、テクノロジーやイノベーションを否定したくなるけど、大きな変化の流れは決して止まるもんじゃない。

仮に日本が止めたとしても中国もアメリカも頑張るから、どうしても止まらない。

そんな中でも、もし何かができるとしたら、やっぱりそれは変化に付いて行った力のある者だけ。

だから俺たちは、「時代遅れでいい」と開き直らないで、覚悟を決めて、日々学んで、少しでも力を付けるしかないんだ。

それが「本当の幸せなのか」分からないままにね。

まあ、厄介でしんどいことなんだけど、がんばろうね~!

取材・文/鈴木陸夫 撮影/竹井俊晴 編集/川松敬規(編集部)

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