新卒入社12年目のエンジニアと採用責任者に聞く“1社で長く働く”意義。「市場価値を上げることに社歴や転職回数は関係ない」
昨今、短期スパンで転職を重ねるエンジニアの姿が目立つようになってきた。
そんな中で、「自分も転職した方がいいのだろうか」と悩む若手エンジニアも多いだろう。
エンジニアは空前の売り手市場、転職するのも当たり前。そんな今だからこそ、「1社で長く働くこと」の意味を改めて考えてみたい。
そこで「実力主義型終身雇用」を提唱し、新しい終身雇用の形を実現しようとしているサイバーエージェントを取材。
同社では社歴にかかわらず実力者を厚遇し、優秀な社員が長期にわたって働き続けられる環境を目指している。
お話を伺ったのは、サイバーエージェント 取締役(技術開発管轄)の長瀬慶重さんと、新卒入社12年目を迎える現場エンジニアの原一成さん。
採用責任者と現場エンジニアのそれぞれの立場から、「1社で長く働く」ことのメリットやデメリット、そして自分に合ったキャリアを選ぶポイントを語ってもらった。
「どこで働くか」より「どういうキャリアを築くか」が重視される時代
原さん(以下、敬称略):結構いますね。自分は2008年入社で現在12年目ですが、エンジニアの同期は8名残っています。これだけのエンジニアが10年以上1社で働き続けているというのは、業界でも多い方かもしれません。
長瀬さん(以下、敬称略):特に若手の事例にはなりますが、教育の変化は一つの要因としてあるかもしれません。
最近は大学でITを学ぶ人も増えていますし、小中学生でもプログラミングを勉強する時代です。今の20代はITスキルが高い状態で社会に出てきているわけです。
昔は「最初の3年間は勉強させてもらおう」といった感覚で長く働くことを選ぶ人が多かったですが、ITスキルの高い若手エンジニアたちは「どういうキャリアを築いていくか」を考えて、動く余裕があるのかなと。
原:本気で考えたことはないですね。自分の能力を今一番発揮できるのはこの会社だと思っています。事業領域に加え、会社の環境やチームの雰囲気が自分に合っているというカルチャーフィットも、長く働いている要因の一つだと思います。
「1社で長く働く」メリットとデメリットとは?
長瀬:安心感を持って仕事ができることですね。会社の考え方や組織、人とマッチした環境で働けると、心理的なストレスが少ないので、集中力が高まり成果も上げやすくなります。
原:それはありますね。あとは、システムの知っている部分が増え、社内のいろんな分野の人と仕事をした経験も積み重なっていくので、「あのシステムをこう動かしたらこうなるな」とか、「あの人だったらどう考えるだろう」といったシミュレーションができるようになります。そうすると、俯瞰した視点から、早く仕事を進められるようになるんです。
原:はい。想像力が働いて、より総合的に考えられるようになります。あとは、過去の仕事を通じて自分に信頼が積み重なるので、社内でも話を聞いてもらいやすく、新しく何かを始めやすいメリットもあります。
長瀬:もし事業が一つしかないなど、エンジニアに限られた機会しか与えられない会社の場合は、キャリアに対する停滞感が出てくることはあるでしょうね。
原:そうですね。当社の場合、子会社も多いですし、展開している事業もたくさんありますので、自分も一つの会社にいながらいろんなパターンの仕事を経験してきました。システムの一部分をつくるところからスタートして、大規模な開発も手掛けたり。プロダクトマネジメントをやりつつも、専門領域に戻ってきたり。
幸運にも会社の成長と合わせて、転職することなく、これまでの知識や信頼が積み重なった状態で新しいチャレンジができたのは、よかったと思います。
長瀬:あとは、関わる人の幅を広げにくいというのも1社で長く働くデメリットと言えるかもしれません。ストレスのない関係性の中で仕事ができるのはベストですけど、実際、新しい環境を求めて転職する人はいますから。
原:ただ、1社にいるからといって人間関係が固定されるということはなく、本人次第で外部とのつながりはいくらでも持てると思います。自分も社外のコミュニティーに所属していますし、転職者と積極的に接点を持つことで刺激を受けることも多いです。
自分で道をつくっていける人が「1社で長く働く」に向いている
原:会社と自分の関係性を理解して、主体的に物事を考えられるタイプの人だと思います。
特に実力主義の会社で長く働くことを考える場合、役割を与えられるのを待っているだけでは、キャリアアップはあまり望めないでしょう。ですから、自分でキャリアビジョンを考えて、道をつくっていける人の方が1社で長く働くことに向いていると思います。
一方で転職をする場合は、一般的には必要とされているポジションに応募する形になるので、始めのうちは会社に求められることに応じる必要もあるのではないでしょうか。
長瀬:ただし、自分で道をつくるのは難しいというのも事実。社員と1on1をすると感じるのですが、自分のキャリアビジョンを「何年後にどうなりたい」と解像度高く語れる人は限られています。そういうビジョンがなければ、自分が次に何をすべきかを導くこともできません。何となくで転職してしまうくらいなら、キャリアビジョンが固まるまで今の会社にいた方がいいでしょうね。
原:年功序列ではない会社に入ることは大前提として、成長企業である方がいいと思います。会社と一緒に自分も成長していけるので。
長瀬:それは一番大事なことです。斜陽産業に入ってしまった瞬間、あらゆるキャリアの選択肢が狭くなってしまいます。当社代表の藤田も言っていることですが、成長分野を見誤らないことは重要です。
原:あとは、話を聞いてくれる会社であることも大事ですね。入社してすぐに会社と対等に話すのは難しいかもしれませんが、どこかで発言権を持てる余地があることは、1社で主体的にキャリアを築いていく上で特に大事なことだと思います。
原:自分が就職活動をした時には、面接官の態度で探れると感じました。サイバーエージェントの面接は意見交換をしているような感覚でしたが、対等でないと感じる会社さんもありました。今はそういう面接をする会社は少ないのかもしれませんが、見極める上での一つのポイントだと思います。
長瀬:長く働くのであれば、なおさら「社員の話を聞く会社か」ということは大事でしょう。
本人の同意を前提に異動を決めるとか、各部署で公募をする制度があるとか。例えば当社の場合は、先輩エンジニアが半年に入社1~3年目のエンジニアの話を聞く『ジンジニア』という制度もあります。会社と本人の“ズレ”をできるだけ無くすために、話を聞く機会をとにかく増やしているんです。そうした制度の有無も含めて、判断材料になると思いますね。
「1社で長く働く」が全員に向いているわけではない
原:自分自身をアップデートし続けることが大切です。つい今までのパターンでやろうとしがちなところでも、あえて新しい方法を試してみたり。若手のトレーナーになって、今流行っていることを学ぶ機会にしたり。自分の場合は、「ちょっと上の挑戦」を意識しています。
原:同時に、外部のコミュニティーに所属するなど、自分の価値を公平に見る工夫も必要だと思います。自分の市場価値は外の世界に行かないと分からないし、社歴が長くなるにつれて、今いる会社からの評価は、世間からの評価に比べるとどうしても甘くなりがちですから。
長瀬:その通りで、1社で長く働くことが全員に向いているわけではありません。明確なキャリアデザインがあって、ポジティブな動機で転職を重ねるのであれば、1社で長く働くよりも早く、すごいキャリアを築けるかもしれませんよね。
原:この業界のこのスキルを身に付けたいとか、特定の人と働きたいなどの明確な目的がある場合には、転職を重ねるのは理にかなっていると思います。1社で長く働くにしろ、短期スパンで転職を重ねるにしろ、目的を明確にすることによって、自分に合ったキャリアを選択できるのではないでしょうか。
ただ、たとえ明確な目的があったとしても、1社に腰を据えるのと転職を重ねるのと、どちらが適しているかをキャリアの序盤で見極めるのは難しいものです。入った会社が自分に合うかは運の要素もありますし、迷ったら周囲の人に相談してみるのがいいと思います。できれば内部・外部、先輩・後輩問わず、異なる意見を聞いてみましょう。客観的なアドバイスを得られると思います。
長瀬:「市場価値の高いエンジニア」を目指す上で、1社で長く働くのと、転職を重ねるのと、どちらが良いというものではありません。転職を繰り返さずとも、原のように本を出版したり、テックカンファレンス に登壇したりと、業界から注目されるエンジニアになることだってできます。
結局のところ、1社にいても転職を繰り返しても、先々のキャリアを明確に描ける人が活躍できるのは間違いありません。
今は会社がエンジニアを選ぶのではなく、エンジニアが会社を選ぶ時代。勤続年数や転職回数を気にするよりも、「その会社が自分の価値観や目的に合うのか」を見極めることが最も大切なのではないでしょうか。
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 企画・編集/天野夏海・川松敬規(編集部)
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