新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、景気は急速に後退。先行きの見えない世の中で、転職の常識も変わりつつある。
近い未来に、企業のエンジニア採用にはどんな変化が起きるのか。また、転職者が備えておくべきことや、持っておくべき心構えとは――?
企業経営や人材採用の動向に詳しい株式会社キープレイヤーズ代表取締役の高野秀俊さんに、コロナショック時代の「エンジニア転職の疑問」に答えてもらった。
株式会社キープレイヤーズ 代表取締役
高野 秀敏 さん
1999年に株式会社インテリジェンスへ入社。2005年に株式会社キープレイヤーズ(https://keyplayers.jp/)を設立。3000名以上の経営者の相談と、10000名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。また、55社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。キャリアや起業、スタートアップ関連の講演回数100回以上 ◆Twitter:@keyplayers
◆YouTube:高野秀敏のベンチャー転職ch
【疑問1】エンジニアの中途採用は、これから縮小する?
――コロナショックによる景気後退のニュースを耳にするようになりました。今後エンジニアの採用規模は縮小するのでしょうか?
エンジニアに限らず全ての職種に関して言うと、中途採用の規模縮小は避けられないと思います。
全体でどのくらい縮小するのかというと、参考になるのが人材業界の市場規模です。求人数にほぼ比例するこの数値は、リーマンショック時に約40%減少しました。
今回のコロナショックがリーマンショックと同程度の影響になった場合、求人数は6割程度まで縮小することが予想されます。
ただ、エンジニア求人に関しては、今後また劇的に数が減ることはないと考えています。
――なぜですか?
エンジニアは他の職種よりも圧倒的に売り手市場です。コロナショック前と比較して、需要過多の状況は今も変わっていません。
先日、私のSNSでコロナショック後も求人を出しているスタートアップの情報を募ったところ、4月2日時点でも数多くの企業が採用を強化していることが分かりました。
エンジニア採用を止めたら事業の継続が難しくなる企業も多いと思いますし、自社開発か受託開発かで若干の違いはありますが、エンジニア採用の求人がなくなるようなことは基本的には考えられません。
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――自社開発と受託開発では、エンジニアの採用規模は今後どのように変わってくるのでしょうか?
自社開発の場合、自社サービスが堅調なら、採用規模は今までと変わりません。
一方で受託開発の場合は、景気後退の影響で今後BtoBの開発案件が減ることが予想されます。最近まで大手SIerではエンジニアの数を優先して確保する傾向がありましたが、今後は抑制傾向になるでしょう。
【疑問2】会社の業績が悪そうなら、すぐ転職した方がいい?
――最近、大量リストラのニュースを目にすることがあります。自社の経営の調子が悪そうな場合、すぐに転職した方が良いですか?
転職に関しては、基本的にあまり景気に惑わされない方がいいと思います。
自分が「どうなりたいか」イメージをしっかりと持ち、そこから逆算して、今何をすべきかを考えることが大切。転職を決めるときの考え方は、どんな状況においても変わりません。
例えば、リーマンショックの時もそうだったように、一時的に経営不振に陥っても持ち直す企業はいくらでもあります。何となくの危機感から焦って転職してしまうと会社選びも雑になるので、状況が変わったときに後悔する人も多い印象です。
先ほどお話したように、エンジニアの需要は引き続き高いままですし、採用強化をしている企業もたくさんありますから、落ち着いて自分のキャリアを選択してほしいと思います。
とはいえ、会社が倒産してから転職活動を始める場合、生活に困ることもあるでしょう。「会社が潰れそう」というのが感覚的なものではなく、確かな情報なのであれば、転職活動を始めておくのはありだと思います。
――「確かな情報」かどうかは、どう判断すれば?
会社の状況を知るには、IR情報などで財務内容をチェックし、営業利益がどれくらいあるのか確認するのが有効です。
営業利益とは、売上から経費、人件費などを差し引いた金額で、その会社の生産性を表すもの。売上に対して経費や人件費の方が上回る状態が続いていないか、競合他社と比較してみると、今いる会社が健全な経営ができているか確かめられると思います。
ただ、非上場企業の場合は財務内容が公開されていない場合もありますので、経理部門の人に残キャッシュや調達計画を確認するなどして、冷静に判断するようにしてください。
――正社員、契約、派遣など、雇用形態が違っても考え方は同じですか?
転職を決める場合の考え方は同じです。しかし、不景気を理由に業務委託やSES等で働く派遣社員の人数を減らす企業は増えていくでしょう。
特に、スキルが低いエンジニアの場合、コロナショックを口実に契約が打ち切られてしまう可能性もあります。
――自分のスキルが高いか低いかは、どのように判断できますか?
簡単に言うと、周囲からの教育を必要とする状態かどうかが一つの判断軸になります。
報連相(ほうれんそう)がしっかりできて、納期までに開発ができ、品質も安定している。基本的なビジネスパーソンとしてのスキルがあり、開発チームに欠かせないメンバーだと認識されている人なら、そこまで心配する必要はないと思います。
【疑問3】これからは“即戦力”採用の傾向が高まる?
――コロナショック後に、企業が採用したいエンジニア像はどう変化すると思いますか?
今後は即戦力を求める風潮は強まると思います。スキルの低いエンジニアなど、ポテンシャル層を採用できるのは、余力のある企業だけです。
これから不景気が続くことを見越して経営者も脇を締めるはずなので、社内で手厚く教育しなければいけないエンジニアの採用は減るでしょう。
ただ、自社開発の場合は従来から厳選採用を行う企業が多かったので、コロナショック前と大きな差はないと思います。
――自社開発を行うスタートアップへの転職にリスクはありますか?
必ずリスクがあるとは言えませんが、スタートアップの場合は資金調達の計画が順調にいかなくなる可能性があるので、そこは十分な注意が必要です。
スタートアップの資金の出し手には、ベンチャーキャピタルや事業会社(CVC)がありますが、事業会社の場合は自社が儲かっていなければ資金を出せません。そのため、コロナショック後は投資先が今まで以上に絞られる可能性があります。
これまでは順調に資金調達できたスタートアップでも、今後トップラインを伸ばせず、各種KPIを達成できない状況に陥れば、社員に給与が支払えず、事実上倒産する会社も出てきます。
自社開発のスタートアップに転職する場合は、今後の事業の見通しを踏まえて慎重に選ぶようにしてください。
【疑問4】エンジニアが「今」やるべきことは?
――コロナ禍だからこそ、今エンジニアが意識すべきことは何だと思われますか?
今の会社での評価を上げること。そして、自分自身の市場価値を高めることです。
最近はエンジニア採用でレファレンスチェックを活用する企業が増えており、前の職場での活躍が認められていなければ、内定をもらうのも難しい時代になりました。こうした時代に転職できるのは、パフォーマンスが変動せず、ハイスキルでチームに貢献でき、周囲から信頼されるエンジニアです。
転職してスキルアップしたい人は、まずは自分が新たな職場で求められる人材になることが大切です。今の職場で結果を出すことに最優先で取り組んでください。
――急にフルリモートになり、働き方が変わったことでこれまでのような成果が出せずにいる人も多いかもしれませんね。
そうですね。比較的オンライン仕事がしやすいエンジニアの方でも、今回のような事態に戸惑っている人は多いと思います。しかし、コロナショックはしばらく続きそうなので、今後はリモートでも生産性高く働ける人が求められるでしょう。
一般的にリモートワークでは、仕事ができる人とできない人の差が開きます。相手が目の前に座っていれば済む問題も、リモートワークでは会話量が減る分、解決には高いコミュニケーション能力が求められます。
「リモートワークは今だけ」と適当にやり過ごすのではなく、オンラインでも自律的に働くための工夫と努力を重ねていきましょう。
――景気の良し悪しや環境の変化に惑わされず、目の前の仕事にまっすぐ向き合い続けることが、長期的に見て大事ということですね。
そう思います。先ほど申し上げた内容とも重なりますが、景気の良し悪しは、転職する個人にとってはあまり関係ないと思っています。
そもそも、日本全体で求人は何万とあるものです。その「何万」が「何千」になったところで、1人が転職できるのは1社だけ。転職するときに、景気を気にすることが本当に重要でしょうか?
コロナ禍で誰もが不安を抱える状況ではありますが、景気よりも「自分がどうなりたいか」を大切に。エンジニアの皆さんには、冷静な選択をしてほしいと思います。
取材・文/一本麻衣 企画・編集/栗原千明(編集部)
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