キャリア Vol.1051

妻の浮気疑惑でドロ沼離婚したITエンジニアが立ち上げた探偵事務所が話題に! 「超アナログ世界」で開けたキャリア

東京IT探偵

近年は「医療×IT」「農業×IT」など、さまざまな業界でITの活用が進んでいる。

そんな中、「探偵×IT」という異色の組み合わせで注目を集める探偵事務所がある。それが「東京IT探偵」だ。

代表を務めるのは、約20年のエンジニアキャリアを持つ船木さん(仮名)。

本業はフリーランスエンジニアとしてシステム開発案件を請けており、副業として、3年前に探偵事務所を設立。現在はエンジニアと探偵というパラレルキャリアを歩んでいる。

なぜ「普通のエンジニア」だった船木さんは、探偵業という特殊な世界に足を踏み入れたのか。

その背景には、本人の身に起こったある出来事と、探偵業界特有の事情があった。

プロフィール画像
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東京IT探偵 代表 船木さん(仮名)大学の情報通信工学科卒業後、1998年に受託系ソフトウエア開発企業に入社。コンシューマー向けソフトウエアやデバイスドライバ開発に従事。その後、金融系SIerに転職し、金融システムの開発やサーバー及びネットワークの構築・導入に携わる。2000年より個人事業主のとしても活動を始め、Webシステムやソフトウエア開発だけでなく、動画編集やIoT機器開発なども手掛けるように。17年、探偵事務所「東京IT探偵」を設立


妻の浮気疑惑、2年の離婚調停……「あの時、ちゃんと調査しておけば」

――船木さんはエンジニアとして20年以上もキャリアを積み重ねているんですね。

はい。私が新卒で就職したのは、ちょうどインターネットが一般の人に普及し始めた時期でした。

大学で情報通信工学を学んでいたのと、ものづくりが好きだったこともあり、ソフトウエアの開発企業に入社したのがエンジニアとしてのスタートです。

コンシューマー向けのソフトウエアやデバイスドライバの開発に携わった後、SIerに転職してサーバーやネットワーク構築などのインフラ系も経験しました。

現在はフリーランスのエンジニアという立場で、Webシステムやソフトウエア開発などの案件を引き受けています。

――2017年に探偵事務所を設立し、現在はエンジニアと探偵の二足のわらじを履いています。これまでエンジニア一筋だったのに、どうしてまったく畑違いの探偵業をやってみようと?

きっかけは、私自身が離婚を経験したことです(苦笑)

ある日、家に帰ったら妻と子どもの姿が消えていて、後日いきなり離婚調停の呼び出し状が届きました。

しかも妻は、私から家庭内暴力を受けたと主張していたんです。もちろんそんな事実はなく、こちらはまったく身に覚えがない。

当然認めるわけにはいきませんでしたし、事実がないので妻側も証拠を提出できません。結果、裁判がえらく長く続いてしまって……。

ようやく決着が付いたのは、2年以上経ってからでした。

――それは大変でしたね。

何もかもがあまりに突然で思いがけないことだったので、当時の私は終始受け身で裁判を終えてしまいました。でも、よくよく考えてみると妻の行動がどうもおかしいと感じることがあったんです。

そして、「妻の行動をちゃんと調査すれば、もっと納得のいく結果になったのではないか」という後悔が湧いてきました。

もし素行調査を依頼するとしたら、探偵ですよね。それで「どんな調査ができるのだろう?」と思い、興味本位で探偵養成の学校に通ってみることにしたんです。

――学校に!? すごい行動力ですね。

学校で講師や先輩探偵にいろいろと話をきいていくうちに、探偵業界がものすごくアナログな世界なのだと分かってきて。

例えば、調査の記録を手書きで行って、その集計も人力でやっていたりとか。パソコンに詳しい人も少なく、「WordをPDFに変換してメールに添付する方法が分からない」という人もいましたね。

――そんなにアナログなんですね。

さらに、調査料金の課題もありました。そもそも探偵への依頼の7~8割は浮気調査なのですが、浮気調査は対象者を尾行したり、張り込んだりといった泥臭い仕事がメインになります。

手間や時間がかかる案件ほど調査員の人件費も掛かるので、なかなか証拠が押さえられなければ費用はかさむ一方です。

そのため、浮気をされて傷付いている依頼者が、さらに膨大な調査料を払わなければいけないというケースも多く発生していたんです。

そんな現状を知り、「エンジニアとして培った技術を生かして、何かできるのではないか」と考えるようになりました。

IT化を進めて調査に掛かる時間やコストを減らせば、探偵と依頼者の双方の負担を減らせるのではないかと。

それで自ら探偵業を始めようと、2017年に「東京IT探偵」を立ち上げました。

SNSクローリングにドア開閉感知IoTデバイス……。技術力で探偵業務を効率化

――具体的には、探偵業務のどんなところでIT化を進めたのですか。

例えば、SNSのクローリングはその一つです。FacebookやInstagramに投稿された写真やコメントを自動的に集めてレポート化するオリジナルのツールを自分で開発しました。

東京IT探偵
船木さんが開発したSNSの情報収集ツール(写真提供:東京IT探偵)

これでSNS上のデータから対象者の行動パターンや交友関係の情報収集ができます。

私がこのツールを開発したのは、他の探偵がSNSのデータ収集もアナログな手作業でやっていると聞いたからです。

ある探偵事務所では、対象者本人やそれをフォローしている人たちのSNSを数人がかりで自分たちの目で見て調べて、それを紙のレポートにまとめているというんですね。

エンジニアとしては、「いやいや、それは違うだろう」と思うじゃないですか(笑)

――確かに。完全に人力だったわけですね。

ですから、同業の人たちに「ITを使えばこんなに効率化できますよ」とノウハウを広めたいという思いもあって。このツールを開発しました。

あとは、尾行や張り込みの結果をレポート化する際に使う自動化ツールも作りました。

これも他の事務所では、対象者の行動を記録する人と写真を撮影する人の2人がかりで尾行するのがスタンダードです。

さらに、また別の人がそのメモと写真を付き合わせて、「この写真は20時30分、○○レストランだな」などと確認しながらレポートを作成していくことも多いです。

そんな手間と時間のかかることをしなくても、今は写真ファイルにはGPSの位置情報や時間が記録されているのだから、それを活用すればいい。

だからソフトウエアで写真のデータを読み取り、自動的にWordに起こせるツールを作りました。これらの自動化ツールはC#を使えばできるので。

――探偵といえば特殊なカメラや録音機器などを使うイメージがあるのですが、ハードウエアも自作したりするのですか?

人の通過を感知するIoTデバイスを作ったことがあります。

張り込みをするとき、対象者の自宅が細い路地に面していたりすると、そんな狭い場所に探偵が立っていたら明らかに怪しいじゃないですか。

それでArduinoというマイコンにC++でプログラムを書き込んだ小型のデバイスを作りました。

写真までは必要ないけれど、対象者の外出や帰宅時間を把握したいときは、それを利用すれば記録できるので便利です。

機能としてはシンプルですが、意外とこういうものって汎用品にはないんですよ。

出回っている監視カメラはサイズが大きくて目立ち過ぎたり、バッテリーが持たなかったりして、このシチュエーションでは使いづらい。

私が作ったデバイスはフリスクのケースくらいの小ささで、バッテリーが1週間持ちます。

東京IT探偵:IoTデバイス
船木さんが開発したIoTデバイス(写真提供:東京IT探偵)

――エンジニアとしての経験とスキルを存分に発揮していますね。

そうですね。ソフトウエアには長年携わってきましたし、IoTのデバイス開発の案件をもらったこともあるので。

副業ってそういうものだと思うんですよ。本業での経験と目の前にある課題をマッチングして、解決に導く。エンジニアとして培った技術やスキルが探偵業で役立つと達成感があります。

それにエンジニアと探偵って、実は共通点もあるんですよ。エンジニアの仕事をしていると、どうしても障害やトラブルへの対応が多くなりますよね。

その場合、現在起こっている状況から断片的な情報を拾い集め、自分の固定概念は排除して客観的に分析し、一つの結論を導き出していく作業が必要になる。

これはまさに探偵の仕事のプロセスと同じです。

アナログで“超人間くさい”探偵業から学んだこと

――とはいえ、よくご自分で探偵事務所を設立する決心をされましたね。エンジニアを続けながら、副業で事業を立ち上げるのは大変なことだと思うのですが。

これは「どれだけ本気になれるか」の問題だと思います。副業として割り切ってアルバイト程度の感覚で始めたら、仕事に責任感を持たないまま終わってしまう。

副業とはいえ、人から仕事を頂く以上は責任を持ってやるべきだと考えました。

しかも探偵の仕事は、調査依頼に来るお客さまの人生が掛かっています。浮気調査にしても、探偵が証拠を掴めるかどうかでその先の人生が変わってくる。

思い悩んでいる人が頼ってくるのだから、やるなら責任を持ってやりたい。そう思って自分の事務所を設立しました。

探偵業は副業として始めましたが、今ではほぼ24時間体制で臨んでいるので、こちらもエンジニアの仕事同様、僕にとっては本業ですね。

「どうしても今日調査してもらいたい」といった急な案件でも、お客さまが困っているなら極力引き受けるようにしています。

エンジニアの仕事は探偵ほど時間を縛られないので、うまく時間を調整すれば両立は可能です。

東京IT探偵

――探偵業にやりがいを感じるのはどんなときすか?

確実な証拠を掴んで、お客さまにお伝えできるときですね。ご本人にとっては、パートナーや恋人が浮気をしているかどうか、疑っている時間が一番不安なんです。

中には本当に相手が浮気をしていて、辛い結果をお伝えしなくてはいけないこともありますが、たとえ悪い結果でも事実が分かればお客さまは冷静になれる。

「本当のことを知れて気持ちが落ち着きました」とおっしゃる方も多く、そんなときは目の前にいる人のお役に立てたと実感できます。

エンジニアの仕事でもエンドユーザーと直接やりとりする案件はありますが、われわれができるのはあくまでもシステム上や業務上の課題解決です。

一方で、探偵ができるのは人間的な課題解決であり、人の気持ちに訴え掛ける仕事なので、そこは大きな違いですね。

――いわば「最先端のデジタル社会」と「人間的な超アナログ社会」という両極端な二つの世界に身を置いているわけですね。超アナログ社会を嫌だと感じることはないですか?

いえ、むしろアナログの世界を楽しんでいます。20年もエンジニアをやっていると、世の中にアナログ的な部分があることを忘れかけてしまうので。

エンジニアは常に効率化を求められる仕事で、それは自動化やツールの導入で解決できますが、探偵の仕事にはそれが通用しません。

もちろん先ほどお話したようなツールやデバイスを使えば情報収集のプロセスは効率化が可能ですが、探偵業で相手にするのは人間なので、最終的にどう動くかはまったく予想がつかない。

「えっ、人間ってこんなことするの?」という想像を絶するような場面に遭遇したりするわけです。そこが私にとっては面白い。

人間について深く知ることで、忘れかけていた自分のアナログな部分が呼び戻される感覚があります。

東京IT探偵

――これからもエンジニアと探偵の両立を続けていくのですか?

そのつもりです。現時点では、どちらか一本に絞ることは考えていません。

今はまだ探偵よりエンジニアの収入が多いこともありますが、「ITを探偵業に適用する」というコンセプトで事務所をつくったので、エンジニアを辞めてしまったら技術やスキルが時代に追いつかなくなりそうで。

自分で調べて入手できる情報にはどうしても限りがあって、やはりクライアントから依頼される案件の中にこそ新たな気付きや学びがある。だから、現役のエンジニアであり続けることに価値があると考えています。

もともとのきっかけは離婚というマイナスの体験でしたが、おかげで探偵という仕事と出会い、思わぬところで自分のスキルや経験が役立つことを発見できました。

あのまま何もせずに以前と同じ日々を過ごしていたら、ずっと離婚のことばかり考えて完全にメンタルがやられていたと思います。でも、その悔しさや怒りのパワーを探偵業へのモチベーションに変えることができた。

自分を必要としてくれるもう一つの場所を見つけたことで、マイナスの体験を自分の糧にできたんです。

思い切って一歩を踏み出し、探偵の世界に飛び込んで本当に良かった。今は心からそう思っています。

取材・文/塚田有香 企画・編集/川松敬規(編集部)

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