キャリア Vol.1056

エンジニア売り手市場の裏で増加する「スキルミスマッチ転職」とは? AtCoder高橋直大に聞く、不幸なキャリアチェンジを防ぐ術

AtCoder高橋直大さん

テクノロジーを活用したビジネスの広がりとともに、エンジニア獲得に乗り出す企業が増えている。

業界問わず、エンジニアの大量採用を掲げる企業もここ数年目立つようになった。

しかし、その裏では、“スキルミスマッチ”という問題が浮上している。

いずれの企業も「自社に合う人材」を採用しようと試みているが、技術の専門家ではない人事・採用担当者が、候補者となるエンジニアのスキルを正しく評価するのは実際のところ難しい。

書類選考時に、職務経歴書を見て相手を過大評価してしまったり、逆に過小評価してしまったり。現場で期待されるレベルの仕事ができる人なのかを正しく見極められず、採用後に「スキルのミスマッチ」を招いてしまう事態が増えているのだ。

そんな中、競技プログラミングや、『アルゴリズム実技検定』を主催するAtCoder株式会社の代表・高橋直大さんの取り組みが注目されている。

高橋さんは、「ソフトウエア開発スキルの指標化・可視化が、ミスマッチ採用を回避する手立てになるはずだ」と話す。

そこで、高橋さんが競技プログラミングと『アルゴリズム実技検定』を日本でスタートさせた理由や、スキルミスマッチな転職を避けるためにエンジニア自身ができることを聞いた。

プロフィール画像
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AtCoder株式会社 代表取締役 高橋直大さん(@chokudai1988年生まれ。筑波大学附属駒場中学校・高等学校、慶應義塾大学環境情報学部を経て、慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。大学院在籍中にMicrosoft主催のプログラミングコンテスト『Imagine Cup 2008』に出場し、アルゴリズム部門で世界3位に入賞した経験を持つ。2012年、大学院在学中に競技プログラミングコンテストを主催するAtCoder社を創業。現在はレーティングを活かした求人サービスAtCoder Jobsを手掛けるほか、19年には『アルゴリズム技能検定』を開始した


“隠れた才能”を発掘し、優秀なエンジニアと企業をつなぎたい

高橋直大さんが立ち上げた『AtCoder』は、アメリカの『Topcoder』、ロシアの『Codeforces』に次ぐ、日本最大級の競技プログラミングコンテストサイトだ。

国内外に約18万3,000人(日本人は約10万2,000人)の登録者を擁し、毎週開催されるコンテストには、毎回約1万人の参加者が集い、難問に挑んでいる。

「大学時代に、海外の競技プログラミングに参加するようになりました。できれば友人たちと、その面白さや楽しさを共有したかったのですが、英語のハードルが思いの外高かったようで、なかなか参加してもらえませんでした。

そこで、日本語版の競技プログラミングサイトを作ろうと思い立ったのが、創業のきっかけです」

AtCoderのプレイヤー人口の推移
AtCoderユーザー数の推移

2012年のサービス開始から8年。今では、定期的なプログラミングコンテストの開催に加え、参加者の成績に基づいたレーティングによる求人サービス『AtCoder Jobs』も展開している。

「AtCoderの利用者は大学生が中心です。しかし、日頃からプログラミングに親しんでいるコンピューターサイエンスや情報系の学生ばかりではありません。数学や物理を専攻している学生が多いのも特徴です」

数学や物理を学ぶ学生たちは、必ずしもソフトウエア開発に関心が高いわけではない。しかし、海外のIT企業ではプログラミングコンテストで上位入賞者した理系人材をリクルートすることは、当たり前に行われている。

理系人材が持つ数理系の素養や優れたロジック構築力は優秀なSEの素養とも重なるからだ。

「そこで私たちも、SEを採用したいIT企業と理系人材の橋渡しをしようと、『AtCoder Jobs』を立ち上げました」

1からプログラミングできる能力を可視化する『アルゴリズム実技検定』

2019年12月14日より始まった『アルゴリズム実技検定』も、競技プログラミングコンテスト同様、高度IT人材を輩出するための取り組みとしてスタートさせた事業だ。しかし、利用者や可視化されるスキルはそれぞれ異なるという。

「競技プログラミングコンテスト『AtCoder』のレーティングシステムは、受験回数を重ねることによって実力値を適正化する手法を採用。コンテストは毎週土曜日、日曜日の21時から開催しています。所要時間は1回100分程度掛かりますから、現役エンジニアの方にとって繰り返しコンテストに参加するのはハードルが高いのも事実です。

そこで、1回の試験で実力判定を可能にするサービスをつくることにしました。それが『アルゴリズム実技検定』です」

アルゴリズム実技検定は、「アルゴリズムをデザインしコーディングする能力(=1からプログラミングできる能力)」の評価に特化した検定だ。

「実技検定」と称することからも想像される通り、一般的なペーパーテストによって合否を判別する検定とは一線を画す。

「多肢選択式や空欄補充式の試験ではなく、オンラインによる実技試験にしたのは、知識の有無を問う検定と差別化するためであり、付け焼き刃の知識で検定をパスする可能性をなくすためです

第三者に自分の能力値を証明しようと思ったら、目的や守備範囲の異なる検定などと組み合わせるべきだと高橋さんは言う。

「他の検定と同様、『AtCoder』のコンテストや検定も、参加者のスキルの一部を証明するものでしかありません。IPA(情報処理推進機構)が実施する情報処理技術者試験など、定評のある検定と組み合わせることを前提に活用すべきだと思います」

AtCoder オフラインイベント
AtCoderでは、オフラインコンテストも開催している。

エンジニアのスキルが可視化されれば、挑戦できる仕事の幅が広がる

高橋さんは、同社が判定するレーティングや検定のグレードを積極的に活用してほしい層がいると言う。

それは、現在の職場を離れ、新天地での再チャレンジを志すSEたちだ。

「今の職場にいる限りやりたいことができないSEや、これまでとは全く異なる技術分野に挑戦したいSEには、特に活用してほしいと願っています。

なぜなら、私たちが算定したレーティングや検定のグレードによる評価が、過去の業務経験による評価を上回るのではないかと考えるからです」

もちろん、求人企業が応募者の過去の経験を問うことを否定しているのではない。

だが、不本意な状況に置かれているSEが、いくら意欲を持って学び、実力を付け、未経験分野に挑戦しても「業務経験がない」ことを理由に落とされてしまうことは少なくない。

業務経験に代わる、説得力がある指標を提示できれば、この状況を変えられるのではないかというのが高橋さんの主張だ。

「先ほども触れた通り、現在は知識があることを証明する検定はあっても、プログラミング技術全般に通じるスキルや技量を端的に評価する手段は確立されていません。実際には、合否の判定に影響力を持つ責任者の見識に依存しているのが現状です。

アルゴリズムに限定されるとはいえ、私たちが提供する指標は実技に対する評価です。これだけでも、一定のスキルレベルがあることは証明できます。だからこそ積極的に活用してほしいのです」

「この程度のスキルがあるなら、採用する価値がありそうだ」

検定のグレードを見た採用責任者から引き出したいのは、そんな印象だ、と高橋さんは話す。

しかし、その一方で、「客観的な指標さえあれば、ミスマッチ転職が防げるわけではないし、SEを採用する企業も求職者も意識を変える必要がある」と、高橋さんは釘を刺す。

「現実には、採用基準と人事評価、現場が求めるエンジニア像がバラバラで一貫性がなかったり、求職者自身が情報収集を怠っていたりするケースが少なくないからです。

特にSEの皆さんに伝えたいのは、それは“売り手市場”だからといって慢心すべきではないということ。自分の人生にとって何が一番大切なのかをよく考えて、念入りな情報収集に基づいて行動を起こすべきということです」

例えば、もちろん例外はあるが、SIerに所属するSEの主な仕事は、仕様の策定やシステムの設計、プロジェクトマネジメントが中心だ。

であれば、プログラミング技術を極めたい人にとっては、SIerのSEでい続けることが必ずしも最適なキャリアだとは言い難いだろう。

「こうした一定の“常識”すら知らずに仕事を選ぶ人や、自分がやりたいことを明確に意識していないために、誤った選択をする人もいます。これではいくら第三者にスキルレベルを証明できる指標があっても、ミスマッチ転職はなくならないでしょう

高橋さんは、自らのやりたいことをはっきりさせた上で、テックブログや現役エンジニアのSNSアカウントの情報などを手掛かりに、自分が手に入れたいキャリアが実現できそうな企業を探すべきだとアドバイスする。

AtCoderオフラインコンテスト
AtCoderでのオフラインイベントでは、協賛企業のブースも出展している。

「たいていの方は『そんな当たり前のことを』と、思われるでしょう。しかし実際には、手間を惜しみ、何となくで就職先を決めてしまった結果、後悔されている方は少なくありません。

今は転職エントリや著明エンジニアが実践するスキルアップ法など、いくらでも有益な情報が手に入る時代です。しかし、こうした情報を自身のキャリアに役立てるためには、自らの目標を明確化し、そこにマッチする情報を取捨選択していかなければならないと思います」

自らの志向や挑戦したい目標を明らかにし、それを可能にするための条件を正しく知ること。

その上で、自らの実力を証明するための指標を手にすることが、ミスマッチ転職を防ぐ唯一の方法と言えそうだ。

取材・文/取材・文/武田敏則(グレタケ) 企画・編集/川松敬規 画像提供/AtCoder株式会社

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